第3話 資源フィールド
リムと以蔵から本土の状況を聞いた翌朝。
俺達は出発の準備をしていた。
昨晩は恋人達と以蔵達から得た情報を元に今後どうしていくか話し合った。
こう言う異世界に来た時の定番であるハンター組合に入るかについては、組合は大して入るメリットも無く本当にハンター同士の互助組織でしか無いので加入は見送る事にした。
門は別に誰でも入れるらしいし、出る時に全員検問を受けるのは変わらないので俺達は独自にやろうと言う事になった。
それならグリ子達を連れてとっとと攻略しようと言う話になったが、今俺達が攻略してしまうと連合国にそのフィールドを取られてしまうし、日本が単国で攻略できると知ったらアメリカは決して連合から脱退させてくれないだろう。そうなると俺達は利用されるだけとなる。
そうならないようにする為には先ず連合から日本を脱退させなければならないので、どこかで俺達の力を示して政府を説得しないといけない。日本政府に関しては治安の事を聞いて政府も腐ってるのかなと思ったら、総理自ら資源フィールドで狩りをしていて街の人間には評判がいいらしい。パフォーマンスだとしても戦えるってだけで食糧不足の世の中じゃ印象は良いんだろうな。
そして軍もしっかり国民の為に戦っており、どうやら腐ってるのは特別警察だけのようだ。いくら方舟でステータスが上がった犯罪者に対応する為とは言え、警察に強権を与えるならそれをしっかり監視する組織が機能してなきゃ駄目なんだよな。その特別警察を監視する役目の軍が方舟の攻略に忙しくあまり機能してないんじゃな……こんな世の中じゃ仕方ないんだろうけどさ。
そんなこんなで結局力を示すには資源フィールドで狩りまくるしかないよねって事になり、皆で門へと行く事になった。
「ダーリン準備できたわよー!」
「光魔王軍準備完了しました! 」
「光魔忍軍準備が整いましてございます 」
「みんなクオンに乗ったようだな。よしっ! それじゃあ行くぞ! 『転移』 」
俺は昨夜蘭に転移で連れていってもらった勝手知ったる横浜の埠頭へとクオンごと転移をした。
世界が違うと知っている場所でも転移できないのは不便だけど仕方ない。もちろんクオンはただの大岩に見えるよう幻術を掛けているし、今回連れて行くシルフィとセルシアにサキュバス10名とダークエルフ15名も日本人に見えるようにしてある。残りはマリー達と拠点の防衛をしてもらう為に残した。グリ子達も軍を刺激するから留守番してもらう事にした。グリ子達は日本政府と協力関係を結べるようになるまでは出番が無さそうだ。
「よしっ! みんな降りろ! クオンはここでじっとしてろ! 呼んだら来い! 」
クォォン
「それでダーリン、門があるのは東京の霞ヶ関と代々木公園でしょ? 霞ヶ関は政府関係者しか使えないらしいから代々木に向かうとして、ここから歩くの? 車は7人乗りだから全員乗れないわよ? 」
「そこは準備してある。まあ見ててよ」
そう言って俺はアイテムボックスから改造した漆黒のハマーと、牽引して引っ張って行く積載量700kgのマルチカーゴを取り出した。ハマーは俺とガンゾによる改造でボディにはミスリルを錬金魔法で融合させ、その外側に上位黒竜の鱗を溶接した。内側の内装は同じく黒竜の革をホビット達に張ってもらい、俺が魔結晶を複数埋め込み三重の上位結界を張れるようにした。そして後部座席は全て取っ払い、屋根を開閉式にして中型の魔導テントを展開できるようにした。この魔導テントは出入口が前と後ろにあるので運転席からも中に入れるし、有線電話をテント内と繋いでいるので会話も可能だ。また、フロントガラスなどは外から魔蟲系の透明な翅を貼り付けてから硬化の魔法で強化した。タイヤは技術的な問題で弄れなかったが、かなり頑丈な物を取り付けた。結界があるから大丈夫だと思う。
「あーなるほどね。ドラゴンホテルみたいにしたのね。これならみんな乗れるわね」
「一瞬後ろの牽引トレーラーのカーゴの中に詰め込むのかと思ったわ。テントで安心したわ」
「シルフィそれは流石に無いわよ。でも光希、車は目立ちませんか? 」
「それがそうでも無いみたいなんだよね。軍も乗ってるし、数は少ないけどハンターも乗ってるらしいんだ。資源フィールドで得た食糧とか素材と燃料を交換してくれるらしいよ? 」
「なるほどそういう事ですか。確か連合国で砂漠フィールドを攻略済みでしたね。それなら石油も手に入りますね」
「沖縄位の広さの砂漠を二つ攻略しただけらしいから、どれだけ埋蔵量があるかわかんないけどね。砂漠は難易度が高くてどの国も苦戦してるらしいね」
各都市にある門から資源フィールドに入ると、
それぞれ難易度が低い順に草原、森、山岳、海、砂漠の門があって、門の先のフィールドには世界中の攻略目的の人が一つのフィールドに集まるようになってるそうだ。そしてそのフィールドが攻略されると全員が外に出され、3日後に次の全く同じフィールドに入れるらしい。それを各種のフィールドで30回繰り返すと、次に
つまりそれぞれ60フィールドある草原と森と山岳と海と砂漠を攻略したら方舟は定員となる。
人類が一つとなって一致団結して攻略に挑めば数十年で攻略できそうな気がするけど、争い合いながらじゃ何百年掛かっても無理じゃないか? フィールドタイプのダンジョンと違ってボスの発生条件もキツイしな。
勇気と力を示せか……
創造神は人間が一致団結すると思っているのか? それとも人間をまとめる世界の王を誕生させようとしている? その為に人間を方舟で争わせて一番優秀な者達が一番多く残るようにこの方舟を蠱毒の壺のようにしているのか?わからないが後者の可能性が高い気がする……
ちなみに小世界を攻略して手に入るのは沖縄位の大きさの土地らしい。草原の場合は全部開墾して何人分の食糧が作れるんだろう? 人も住まわせるなら完全農家にしたとして100万人分くらいかな? そうすると四国だと1000万人はいけそうだな。だとしたら四国くらいの大きさのフィールドを4つで日本人は飢えなくて済むな。文明を維持し人口を元に戻して都市を築くなら10個位は必要かもしれないが、そこまではアマテラス様は望んでいなかったから、中世界を4つずつも取れば依頼達成でいいだろう。
「砂漠のフィールドダンジョンは入った事が無いから分からないけど、地中からサンドワームが攻撃して来るって聞いたわ。砂漠に慣れてないと厳しそうね」
「探知魔法や耳の良い獣人を連れて行けばそうそう奇襲は受けないけどな。人間のみだと魔法が無いと厳しいかな。科学の発展は止まってるだろうしな。さて、テントは展開したからみんな中に入ってくれ。蘭達は交代で助手席な」
俺がそう言うとリムや以蔵達は後部ドアから次々とテントの中に入り、恋人達とセルシアはジャンケンをしていた。どうやら一番は凛のようだ。
「ダーリンさあ行くわよ! なんかフロントのアニマルガードが竜の鱗で黒光りしていてとても凶悪そうだけど、乗ってたらわからないわね。ゴブリンなんて跳ね飛ばして進むわよ! 」
「何でも跳ねてたら結界の耐久が減るからね。アニマルガードだけは頑丈に作って結界の外に出したんだ。車が走れるところなら初級や中級ダンジョンレベルの資源フィールド程度、外に出て戦う必要も無いかもね」
「あははは。連れて来たみんなはドロップ回収班て事ね。でも長い距離を回収しに歩くのは大変そうだから降りて戦った方がいいわよ」
「ははは、確かにそうだね。ドロップ回収忘れてたよ。それじゃあ行こうか、出発! 」
「しゅっぱーつ! 」
まあ車はドロップ品を乗せるための物だから、草原フィールド以外では乗る機会は少ないだろうな。この世界でアイテムポーチを手に入れるには、資源フィールドと小世界に現れる亜種系の魔物か小世界のボスを倒すと手に入る事があるらしい。魔法書もそんな感じで手に入るみたいだ。なのでそれなりに数は出回っているそうなんだけど、新顔がいきなり持ってるのも目立つからしばらくは牽引しているカーゴに入れる事にした。出口で検問していると言う特別警察に目を付けられてもめんどくさいしね。
そして走ること1時間ほどで目的地である代々木公園に到着した。途中軍のトラックとすれ違ったが特に呼び止められる事も無く、人や車がいない道をひたすら走っていた。今助手席には凛からシルフィそして蘭へと変わった所だ。
目の前にある公園はもう公園では無く、道路が敷かれ国営らしきショップがいくつも建ち並んでいた。そして資源フィールドへと繋がっている門は、高さは10m程だが横幅は倍ほどありそうで中央に分離帯が敷かれていた。左側が門に入る人用で右側が出る人用のようで、ひっきりなしに人や車両が出入りしていた。
俺は周囲の人や車両を眺めながら、車両用の道路をゆっくり走って門に向かった。
何というか痩せてる人が多いな。高校生くらいの子の集団もいたし女性も沢山いた。女性の多くは着ている物も汚れていて髪も荒れていた。水は政府の努力のお陰で確保できていると聞いたけど、燃料が貴重だからお風呂なんてなかなか入れないんだろうな。石鹸すら貴重品なのかも知れない。
配給は戦えない人にあるもので戦える人には無いと聞いた。こうして国民総出で20年戦って来たんだろうか……
「主様……あんな子供まで……」
「ああ、子供は助けてやりたいな」
「はい……子供には何の罪もありませんから」
「そうだな。こんな世界にしたのは大人の責任だからな」
俺達の横をまだ10歳から12歳位の子供の集団が歩いていた。皆その痩せ細った身体を汚れた服で包み、手作りの槍を手に持って目だけがギラギラしていた。
こんなに年端もいかない子まで戦っているのか?
子供はそんな目をしたら駄目なんだよ。子供は無邪気に笑ってそこら中を駆け回っていなきゃ駄目なんだ……子供にこんな目をさせるこの世界はクソだ!
俺と蘭はやり切れない思いを胸に門を潜るのだった。
門の先は太陽に照らされ明るかった。この辺はフィールド系のダンジョンと全く同じに思える。違うのは俺達が潜って来た門の他に3つの門が隣に並んでおり、その出口側には人と車両が列を作って検問待ちをしていた。恐らく北海道と関西と四国の門だろう。あちらこちらで怒鳴り合う声が聞こえていてとても騒がしかった。この資源フィールドには他国の者はいない。どういう訳か日本にある門から来れる専用フィールドのようだ。この辺が神様の慈悲なのかも知れないな。マッチポンプだけど。
そして資源フィールドは左側が草原となっていて、右側は森で正面が山岳地帯となっていた。海は無いらしい。あの山岳地帯の入口に小世界への門があるのだと以蔵が言っていたので、先ずはそちらに向かおうとしたが蘭がさっきから俺をジッと見ている。
「わかったよ。少し先で待つよ」
「はい! 」
「いいさ、今日は下見のつもりで来たからな」
「うふふ。主様ありがとうございます」
蘭はさっきの子供の集団が心配らしい。俺は恐らく彼等の装備から草原に行くと思い、草原の方向へ車を走らせて待つ事にした。
そしてしばらくすると先ほどの子供達の集団がこちらへと歩いて来た。この先の人の少ない方へ向かっているようだ。20人位はいるな、保護者もいないし孤児かなにかだろうか?
俺と蘭は車を降り、俺達の事など気にも止めず前を通り過ぎる子供達に声を掛けた。
「よう、そんな痩せ細った身体とボロボロの装備で魔物と戦うのか? 」
「……ほっといてくれ」
「お前らにはまだ無理だ。体力を付けてから出直して来い! 」
「ほっといてくれって言ってんだろ! 俺達みたいな孤児は戦わなきゃ飢えて死ぬんだ! 」
「その歳ならまだ配給があるだろう? なんで飢えるんだ? 」
「…………心配してくてるのはわかった。でもほっといてくれ」
俺が子供達に声を掛けると一番先頭にいた12~3歳位の男の子が反応した。どうやらこの子達は孤児のようだ。配給が月に一度あると聞いていたが行き渡ってないのか? こんな都心に近い場所で?
それを聞こうとしたら心配されている事がわかったのか、先程より声のトーンを落としつつも拒絶の返事が来た。他の子達は悔しそうな顔をしている。これは何か理由がありそうだな。
「そうか……呼び止めて悪かったな」
「いや……」
俺がそう言うと少年は首を振り、そして前を向いて歩き出した。
いっちょまえに戦士の顔をしやがって……
「主様……」
「戦う覚悟を決めた人間を引き留める事は出来ない……後ろからそっと付いて行こう」
「はい! うふふ、やっぱり蘭の主様です」
どう見ても戦闘の初心者だからな。今日が初めての可能性もある。
俺と蘭は車に乗り込み皆に経緯を説明し、車に幻術を掛けゆっくりと子供達に気付かれない距離を保って後を付いていった。
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