第14話 計画







ロットネスト島に居座る正統オーストラリアの部隊を降伏させ、スーを港に、エメラと岩竜とグリフォンをパース市を囲む壁の外に待機させた俺たちは街の入口へと向かった。


街の入口には大量の竜を見て顔を青ざめさせた防衛隊員たちがいたが、キャロルの案内で防衛隊の車両に乗って俺と恋人たちとヤンは市庁舎へと向かっていた。

サキュバスとダークエルフたちは、パース市に潜伏していた者たちのアジトに先に行かせた。


どうも潜伏していたサキュバスたちは、街の東側のスラム街を牛耳っていたマフィアの幹部を皆殺しにして組織を乗っ取ったようだ。

確かに街が北と南に分かれそれぞれ別の繁華街を形成している特殊なこの街で、そのどちらからも情報を収集しようとするなら裏の仕事をしている者たちを使った方が効率的だ。

それにこのスラム街にある南北を隔てている塀は壊されており、スラムの住人のみ行き来が自由らしい。

しかしその乗っ取った組織の名前が『ナイトメア』とか……夢魔ってそのままじゃねえか。

まあ普段は幻術で翼と角と尻尾は隠しているらしいから、バレはしないだろうけどな。


パース市はざっと東西に4km、南北に2kmの面積でうちの家の敷地の2倍ちょっとかな? 渋谷区の半分といったら余計わかりにくいか。

そして東側と南側は海へと繋がっているスワン川に囲まれており、港に行くのにもダーリントン鉱床に行くのにも船で移動する。車で川の向こう側に行く際には車両を載せることのできる渡し船みたいなもので行くか、西の門を出ると南に向かって川の上を通る大きな橋があるのでそれを渡って行くらしい。


街の北と西には10m近い高さの分厚いコンクリートの壁が街を覆っている。川が曲がりくねっているからその分壁で囲む面積は狭いが、それでも3km近くは続いている。41年前にダンジョンが出現してから多くの人を犠牲にしつつも、最初は瓦礫や車を積み重ねて魔物を防ぎ少しずつ壁を作っていったそうだ。

これは正統オーストラリアとクイーンズランド都市連合が分裂する前の、まだ大オーストラリア連邦を名乗っていた時に国家事業として一定以上の規模の都市に作ったらしい。

もとは二千万人しかいない国だからな。日本のようにダンジョンを壁で囲む余裕は無かったんだろう。滅ばなかっただけよく戦ったと思うよ。


こんな感じで街の南にある市庁舎にトラックに運ばれ狭い道を徐行で進みながら、俺たちはキャロルの説明を聞いていた。

しかし建物が凄い密集しているな。正直この狭い街に30万人とかどうやって住んでるんだと思ったが、40年以上前に建てられた商業ビルを住居にしたり、少しでも土地があればそこに市がアパートを建てたりとで無理矢理住んでるようだ。川の上に船を浮かべて住んでる人もいるらしい。


人が密集しているのでトイレなどの汚水には気を付けているらしいし、川から水を引けるので生活用水には困らないようだが、外の風景を見るとどの住人も痩せており顔が暗い。子供なんてまだ一人も見掛けていない。治安があんまり良くないんだろうな。


国が分裂してからは一般市民はずっと配給制らしいから、繁華街で身体を売って働く以外にはお腹いっぱい食べることもできないのだろう。正統オーストラリアやクイーンズランド都市連合を通してしか食糧や医薬品は手に入らないらしいから、市も財政がかなり厳しいみたいだ。この2勢力に中間マージンをがっつり抜かれてるからだろうな。生命線を握られてるんだ。文句は言えないよな。そりゃ独立したくもなるよ。


そう言えば日本からの密輸で助かっているとも言ってたな。確か皇グループから物を買ってるんだっけ? 凛の祖父の誠さんと市長が知り合いだとか言ってたな。ロットネスト島の港の管理を皇グループに任せるから、今後は会いやすくなるだろう。


俺がそんなことを考えていると、白い5階建の建物の前でトラックが止まった。

どうやらここが市庁舎のようだ。

俺とヤンと恋人たちはトラックを降り、建物の中に入り階段で5階まで上がっていった。

エレベーターはあるのだが、この街の発電施設は採掘される石炭による火力と風力と水力らしく、とてもじゃないが電気の余裕はないらしい。

今後日本と直接貿易をするようになれば、魔石式発電施設がすぐできるだろう。


そして5階の市長室と書かれたドアを開けると、スーツに着替えたテイラー市長と防衛隊にいた隊長らしき男が待ち構えていた。


「ようこそLight mareの皆さん。改めて自己紹介させていただきます。私がこのパースの街の市長を務めさせていただいておりますハワード・ウォルター・テイラーです。この度は街の危機と私と兵士たちを救っていただきありがとうございますした」


「私は防衛隊隊長を務めさせていただいておりますジョン・マーティンと申します。飛竜から街を救っていただきありがとうございました。また、市長と部下たちをも救っていただき感謝の念が絶えません」


「依頼を遂行するついでだ。依頼主に死なれては無駄足になるからな。もうに二度と前線には出るなよ? あんたが死んだら俺たちはこの街から手を引くからな」


俺はそう言ってキャロルに勧められた応接ソファに座った。そして続いて蘭が俺の左側で凛と夏海が右側に座り、キャロルは市長の隣に立ちヤンは俺の背後で立っている。相変わらずの忠誠心だよ。


「面目ありません。街の長として、子を持つ親として軽率な行動でした。二度と街の者やキャロルに心配を掛けないと誓います」


「お義父さん……」


「わかればいいさ。変なのが市長になってもめんどくさいからな。街が豊かになるまで馬車馬の如く働いてもらうから覚悟しておいてくれ」


さんざん投資した後に変な奴が市長になって、約束を破りでもしたらお仕置きしにくるのも面倒だしな。


「街が豊かに……はい! この街が豊かになり皆が笑って過ごせるようになるのなら、寿命がくるその日まで働き続けます! 」


「まあそう簡単には死ねると思わないことだな。まあそれより座ってくれ」


「失礼します」


「さて、今後のことを説明するから流れだけ聞いておいてくれ。まず市長には各国に独立をする旨の書簡を出してもらう。日本とアメリカは後ろ盾になるのは確定しているから心配する必要はない」


「そ、そこまでお話を通していただいているのですか!? ありがとうございます。これで独立は確実にできます」


「正統オーストラリアもクイーンズランド都市連合も、今後どの国とも貿易ができなくなるからな。今後パース市はこのオーストラリア大陸の窓口となる」


「パース市が大陸の窓口に……ですか? 」


「ああ、今日からダーリントン鉱床はパース市で独占する。そしてほかの2勢力の生命線を今後はこのパース市が握ることになる。今までと逆だな。精々仕返ししてやれ」


これからは採掘すればした分だけパース市の利益となる。これが当たり前なんだ。今までがおかしかっただけなんだよな。しかし今までよく同胞から搾取できたよな。属国扱い……いや、この街の人たちの生活レベルを見たら奴隷扱いに等しいよな。


「正統オーストラリアとクイーンズランドの生命線、つまり貿易をパース市で握るということですか? し、しかしそんなことが……」


「できるさ。明日からその正統オーストラリアもクイーンズランドも世界から孤立するからな」


「こ、孤立……あの大都市群が? しかし彼らも多くの鉱床を持っています。それを狙う国が新たに現れると思うのですが……」


確かにダーリントンほどではないが、レアメタルだけではなく鉄鉱石も石炭も採掘される。日本とアメリカにソヴェートが手を引けば、新たにそれを狙う国は多いだろう。


「この大陸は魔物だらけだ。つまり貿易は海から船でとなる。船は港がないと停泊できないよな? 重い鉱物を運ぶなら尚更だ。そして魔物がいるおかげてそうそう港は増やせない」


「ま、まさか!? 港を? た、確かにそれならば他国に輸送はできなくなりますが、それでは各都市が採掘した鉱物はいったいどうなるのでしょうか? どこにも輸出できなくなる上に輸入もできなくなりますので、どの都市の市民も飢えて死んでしまいます」


「大丈夫だ。俺に考えがある」


俺はそう言って市長にこれからの計画を話した。これは恋人たちにも話していなかったから皆が驚いていた。ヤンは身体にやる気を漲らせ目に力が入り、凛は儲け話に目を輝かせて大喜びしていた。

もうね、これは確実に儲かる。マッチポンプだとか鬼畜だとかなんとか色々言われるだろうが、俺に言わせてみればダイヤや石油の価格を上げるために採掘量を調整している奴らの方がよほど悪どいと思うんだよね。


これで正統オーストラリアもクイーンズランドもLight mareには逆らえなくなる。トップの頭をすげ替えて、今までのような贅沢ができないようにすることでお仕置きとするかね。


正統オーストラリアとクイーンズランド都市連合には、今後俺の作ったアイテムを悪用しようとする国が現れないように見せしめになってもらうつもりだ。





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