第2話 初陣




《 なっ!? な、な、何者だ! なぜここにいる! どこから入ってきた! サキュバスども! なにをしている! 殺せ! 》


《 なにを固まっているのだ! 我が眷属たちよ! 侵入者だ! 女以外は排除しろ! 》


《 あ……ああ……あれは……あの男と獣人は……まさか……まさか…… 》



俺は謁見の間の上座で騒いでいる魔族たちの顔が遠くて見えにくいので鑑定してみた。



アジム


種族:デビル種


体力:A


魔力:S


物攻撃:A


魔攻撃:S


物防御:A


魔防御:S


素早さ:A


器用さ:S


魔法:上級闇魔法

種族魔法: 魂縛(下位の者の魂を支配する)






サタールム・デュラム


種族:吸血鬼


体力:S


魔力:SS


物攻撃:A


魔攻撃:S


物防御:A


魔防御:S


素早さ:S


器用さ:S


魔法:上級闇魔法

種族魔法:超再生、蝙蝠化、吸血、魅了、闇術(ダーススピア、バインド、ダークエッジ、ダークカッター)


備考:伯爵






バガス


種族:アバドン種


体力:SS


魔力:B


物攻撃:SS


魔攻撃:B


物防御:S


魔防御:A


素早さ:S


器用さ:B



種族魔法:再生、剛力、


備考:アバドンの王







「ぶっ! わははははは! マジか! ここでお前らに会うのか! 」


俺は鑑定の結果に耐えきれず一人で大爆笑していた。


「ダーリン突然どうしたのよ? あの豪華な椅子の前で立ってる魔族を知ってるの? 」


「ああ、それはもうよく知ってる奴らだ。あの真ん中にいる吸血鬼は横浜上級ダンジョンのなんちゃってボスだった奴だ。その右隣のあのデビルは女神の島にいたエロデビルだ。最後の奴はアバドン種ってほら、そこにいる馬の頭と背に蝙蝠の翼が生えてるゴツイ奴らと同じ種族の奴だ。コイツは四天王の側近にいたやつで、俺が四天王の1人を倒した時に自分の命と引き換えに部下の命を助けて欲しいって命乞いしてきた奴だ」


「ええ!? あの吸血鬼なの!? 」


「あの時の吸血鬼が……それに女神の島の砦にいたあのデビルも……確かにこの2人はこの世界から来た魔族ではなかったですね」


「つまり横浜ダンジョンにいた吸血鬼と、女神の島を占拠していたデビルの並行世界の同一人物がここにいるってことなのね。凄い偶然というか……神がかってるわね」


そうそう、神がかりの面白さだ。漫画とかなら最終回に全員集合って場面だ。あれ死んだはずの敵とかもいたりするからな。


「でもあたしはこの世界にいないんだよな? 旦那さまの記憶にないんだし」


「セルちゃん……この世界のダークエルフと竜人族は、何度も滅ぶ寸前までいったことがありますから」


「あ〜あたしのいたとこもそうだった。そっか、あたしの先祖がいなきゃあたしもいないしな」


やっとセルシアも並行世界のことを理解してきたみたいだ。ずいぶん時間が掛かったが。

しかし凄い偶然だ。あの時の魔族が、しかもなんか偉い地位にいる。確かにステータスは前より上がっている。吸血鬼なんか男爵から伯爵になってるしな。四天王には遠く及ばないが。


「アジムが? あの男が……」


「ええー!? あのエロジムがいるの!? んん〜あっ! ホントだ! あのゲスい顔はアジムだ! 」


「あらあら……私とお姉様たちを無理やり手篭めにしようとしたあのクズが生きてるのですか……」


うおっ! リムたちが怖い! 配下のサキュバスからも怒気が……確か無理やり魔法で隷属させられてセクハラされてたって言ってたな。配下の子が手篭めにされるのを邪魔して殴られたこともあるとか……

並行世界の奴のやったことだからここにいる本人にその記憶はないんだが、面白いから放置しておこう。


とりあえずあの馬頭の配下以外は問答無用っぽいから相手してやるか。


俺はアジムたちの顔が見える程度まで近付き声を掛けた。


「おお〜、ずいぶんと懐かしい顔ぶれだな。バガス、その反応は俺を覚えてるんだろ? 」


「あ……や、やはりお前は……あの時の……なぜまだ生きて…………」


「バガス! なんだ! あの男がなんだというのだ! チッ! なぜ鑑定ができない! なぜだ! おのれ! 眷属ども! 早く始末しろ! 」


「バガス! 知ってるのかあの人族とエルフを! なぜあの人族はサキュバスと一緒にいるのだ! バガス! なにを固まっているんだ! おいっ! クソッ! お前たち何をしている! お前たちの同胞が人族と一緒にいるのだぞ! 裏切り者を始末しろ! 」


「サ、サタール! アジム! やめろ! 手を出すな! 」


「相変わらず馬鹿な魔族だな。まあその方が都合がいいがな。バガス、お前の配下にも襲わせていいんだぞ? 」


「…………我らは手を出さぬ」


「賢い男だな。まあいいか」


俺は相変わらずそのガチムキの筋肉ダルマのような肉体に、傷だらけの馬の頭という見た目に似合わず賢いバガスを放っておくことにした。そして先ほどからあっちこちから飛んでくる闇魔法を、全てレジストしながら皆がいる方に振り返った。


「リム! アジムとその配下を無力化しろ! こいつらは利用価値があるから殺すな。それからリム、お前の夢を叶えてやる」


「え? ……あ……も、もしや……光魔王様……は、ハッ! 仰せのままに! 」


「以蔵! 吸血鬼どもと遊んでやれ! 」


「はっ! お任せください! 」


「蘭は入口付近にいる雑魚と応援部隊が入ってくるのを阻止しろ。大事な兵隊だ、殺すなよ? 」


「はい! うふふ、主様の狙いが蘭はわかってしまいました」


楽しそうだな。まあ今回はリムと蘭の夢を叶えてやるさ。


「凛と夏海は思い出のサタールとかいう吸血鬼伯爵の相手を。大丈夫だ。2人ならもう余裕で勝てる相手だ」


夏海は方舟にいた一年間、頻繁に圧倒的格上の俺と模擬戦をしていた。

凛も方舟の大世界のボスを何度も討伐している。なにより常に魔法の練習を欠かさない努力家だ。

常に強者と戦い努力し続けてきたこの2人が、強者のいないこんなヌルい世界でランクだけ上げた奴に負けるわけがない。


「わかったわ! あの時は何もできなかったけど、今なら勝てそう。お姉ちゃんやるわよ! 」


「ええ、あの時光希に倒し方を教わったから大丈夫よ。白雷に持ち替えて戦うわ」


凛は自分の成長を測るいい機会だと思ったようだな。

夏海は魔鉄製の刀からミスリル製の刀に持ち替えて、アイテムポーチとバッグから聖水を取り出して数を確認している。経験豊富なSランク2人と俺が渡した最高の装備と魔法。

もう既に吸血鬼の悲鳴が既に聞こえてきそうだ。


「セルシアは空からみんなの援護を。馬頭の配下は動かないと思うが、もしも動いたら遠慮なく叩き潰せ。アイツらは魔法は使えない。物理オンリー脳筋種族だ」


「わかった! あたしがみんなを守ってやる! 」


「マリーは負傷者が出た時に回収してくれ。結界を張るのを忘れるなよ? 」


「了解しました。マスター」


マリーたちは視野が広い上に素早く動けるから、乱戦時に負傷者の回収をさせることにした。

俺の魔道具でガッチガチに防御を固めてるから大丈夫だろう。


「シルフィはここでドワーフとホビットたちを守っていてくれ」


「はぁ……私もコウが何をしようとしてるのかわかったわ。世界を救った勇者様がやる事とは思えないわよ」


「ははは、俺はこの世界じゃ光の悪魔って人族から呼ばれてたからな。今さら体面なんて気にしないさ。憧れの勇者様じゃなくて幻滅したか? 」


「ぜーんぜん! 私の一族を殺した人族には最大の恐怖を与えてやりたいわ。それにコウはノブナガとは違うもの。罪もない人を殺めたりしないわ。だから変わらず私の理想の勇者様はコウだけよ。そうね……世界を救った勇者様が、時を経て愛するエルフと共にその世界に戻ってきた。しかしその変わり果てた世界に絶望して……いいわね。こういうのはオリジナリティがあっていいわ! 勇者とエルフの新たな物語として出版社に持ち込むネタになるわ! 」


「そ、そうか……」


シルフィがファンタジー小説を書きたいと言ってたのは本気だったのか……エルフがファンタジー小説書くとか……売れそうだな。


俺は皆に指示を終え、魔法を撃ちながら向かってくる魔族に対し、武器を構えて待ち構えている仲間たちに号令を掛けた。


「光魔王軍のデビュー戦だ! 本当の魔王軍の力をこのダンジョンの無いヌルい世界でのさばっている魔族どもに見せつけてやれ! 圧倒的な武力で蹂躙しろ! 」


『『『『『 オオオオオオ! 』』』』』


俺の号令とともに、ダークエルフたちやサキュバスやインキュバスたちは結界から飛び出していった。

ダークエルフはミスリル製の小刀を構えながら闇の精霊魔法を放ち、サキュバスたちはミスリルの穂先の付いた槍を手に空中へと舞い上がっていった。


蘭は懐かしさからか久々に赤い艶やかな柄の花魁の衣装に身を包み、入口へ転移で向かってさっそくオーガやオークなどの雑兵を扇で薙ぎ払っていた。

セルシアはすぐに翼を広げ空中に飛び上がり、紫音と桜のあとをついていっている。

この部屋は異空間で天井が異常に高いからな。セルシアとサキュバスたちは力を十分に発揮できるだろう。


リム三姉妹はアジムのもとに猛スピードで向かっていっている。その顔には嫌悪感が滲み出ている。あの時はアッサリ俺が殺しちゃったからな。ここまで憎んでるなら、今度あの時のアジムを創造して殺させてやろうかな。


凛と夏海は転移で一気に吸血鬼のサタールの間合いに入っていき、凛がさっそく氷河期を放ち夏海が突っ込んでいっていた。サタールは驚いてるな。やはりここじゃ弱いやつばかり相手にしてたんだろうな。


そして俺の背後のガンゾにドグにイスラにニーチェは、さっそくスクロールを取り出して魔法を放っている。

ほかのホビットたちも慣れたもんだ。方舟でさんざん撃ったからな。


大量のスクロールの雷矢や炎槍を受けて崩れ落ちる吸血鬼たちが、魔法が飛んできた方向を見て驚愕の表情を浮かべている。わかるよ。撃ったのはホビットたちだからな。プライドの高い吸血鬼からしたらショックだよな。ホビットに負けるんだぜ?


俺はここは大丈夫だと思ってバガスの前に転移した。

周囲では凛と夏海が絶賛戦闘中だ。


「よう、お仲間を助けなくていいのか? 」


「勝てぬ相手とは戦わぬ。配下を死なせたくないのでな。なぜ今頃ここに? 」



《 な、なんだこいつらは! 強い! ぐっ! 調子に乗るなっ!『ダークスピア』 なっ!? なぜ魔法が弾かれる! 》


《 炎と氷の魔女の力を思い知りなさい!紋章『転移』 『炎槍』20連! 》


《 て、転移魔法だと!? で、デタラメな! 『ダークエッジ』 『ダークエッジ』なっ!? ま、曲がっただと! 》


《 私がいるのを忘れてるぞ! 白雷よ……『雷鳥』! 多田流抜刀術『五月雨』! 》


《 ぐぎゃああああ! ぐっ……速い……ハッ!? と、溶けて……ミスリルの剣か!? 》


《 ほらほら! じゃんじゃん行くわよ! 『豪炎』 『氷河期』 》



「……人族が調子に乗ってエルフや獣人を狩ってるからな。リアラに呼ばれてくることになった」


「人族が? 」


「なんだ? 知らないのか? 」


「大陸の情報は入って来ぬ。暴嵐竜がいるのでな」


「……それは俺の乗っていた竜のことか? 」


「勇者が命令したのではなかったのか? このヴェール大陸から我々魔族を一歩も出すなと」


えー、そんなこと言ってないんですけど。何してんだよドラ娘……


お? リムたちも着いたみたいだ。



《 アジム!ここであったが百年目! 貴様に受けた屈辱を晴らさせてもらうぞ! 》


《 抵抗できないことをいい事にボクのお尻撫で回したのを覚えてるんだからね! 》


《 私を寝所に無理やり引き込もうとしたことを忘れませんわ。助けてくれたリム姉様を殴ったことも! 》


《 な、なにを言ってるのだ貴様らは! 俺はお前たちのことなんか知らん! 妄想だ! 言い掛かりだ! 》


《 問答無用! 喜べ! 聖魔人の力をその身に受けれる事をな! 『麻痺眼』『闇刃』10連斬! 》


《 いっくよー! 『幻術』やあっ! 》


《 串刺しにして差し上げますわ『影忍』 ハッ! 》


《 せ、聖魔人だと!? 馬鹿な! そんな伝説の……ハガッ? な……からだぎゃ……はひゃっ! あがああああ! こ、こりは聖……属せ……い 》


うわ〜圧倒的だな。リムたちは攻撃に聖属性を乗せられるようになったからな。

しかしアジムはどの世界のやつでもやられキャラ感ハンパないな。



「勇者よ……」


「ん? 」


「もう勘弁してもらえぬだろうか。力の差があり過ぎる。配下の者全員が結界を張れるなど勝負にならぬ。それにほとんどの者がミスリルの、それも相当な腕を持つドワーフが作った武器を持っている。我々の持つ武具では防げぬ」


「殺しはしないさ。それにしても劣化したな。昔の魔王軍の装備は最高級だったのにな」


俺は謁見の間で戦うダークエルフとサキュバスたちの戦いを見てそう返した。

魔族の装備は殆どが昔の魔王軍が使っていた装備を再利用しているものだ。しかし整備不良が目立つ。明らかに打ち直さないといけない剣や槍がそのまま使われている。

当然ダークエルフにより武具が切断されていっている。ステータスも上、強者との戦闘経験も上、装備も上で結界の魔道具持ちじゃ勝負にならないのは当然だな。


「ダンジョンが無くなれば資源も無くなる。暴嵐竜がいるゆえ人族の国に奪いにもいけぬ。我ら魔族は誇りを捨て畑仕事で食い繋いでいる有様よ」


「そ、そうか……魔族が畑仕事をか……」


うちのペットがすまんな。



《 ぎゃああああ! や、やめろ! 聖水をなぜ持っている! どうやって暴嵐竜の目を盗んでこの大陸に! ぎゃああああ! しょ、消滅する……やめろー! 》


《 あっ! 蝙蝠になって逃げる気ね!無駄よ! 『氷河期』 》


《 聖水の力は凄いですね。しかしこれでもまだ再生するのですか……光希に聖水では完全に消滅はしないと聞いてましたが、恐るべき吸血鬼の能力。では聖水に漬けたらどうなるのか…… 》


《 な、なんだその樽は!? ま、まさかそれは全て……あ、あり得ない! そんな量の聖水など見たことがない! あり得ない! や、やめろーーーー! 》


うわ〜、夏海は興味を持つととことんやるな。


「勇者……一応仲間なのでな」


「お、おう……凛! 夏海! リムもストップだ! 」


「「「ハッ! 」」」


「あら? もう終わりみたいね。動いたらこの樽の聖水ぶっかけるわよ? 」


「残念です。しかし驚異の再生能力でした。その生命力に敬意を表します」


俺が止めるとリムたちは急所を外してポーションを掛けながら滅多刺しにしていた手を止め、凛と夏海はサタールを樽の中に入れようとしていた手を止めた。


エグイ……吸血鬼は聖水だけじゃ完全消滅はしないと前に教えてはいたが、それにしてもエグイ。

アジムも……あれはまあいいか。


広場ではとっくに勝負が付いており、ダークエルフたちとサキュバスたちが、闇魔法と精霊魔法で倒した魔族たちを縛り上げているところだった。

こちらは負傷した者は皆無のようだ。


しかしよえー。うちはほとんどがAランク以上とはいえ、こっちの5倍以上いてさらに死なないよう手加減されてこれかよ。


こんな弱いの使い物になるのかな。ハリボテにしか使えなさそうだな……


俺は転移早々に計画が崩れそうだと少し不安になりながらも、予定していた通り行動するのだった。





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