第1話 魔王城
「リム、報告してくれ」
「ハッ! 光魔王軍親衛隊 25名、光魔忍軍 80名、ドワーフ3名、ホビット4名、光魔王様お側付きのマリーほか5名。揃いましてにございます」
「ご苦労さん、これよりアトラン及びムーアン大陸で迫害をされている者たちを救いに行く! 各人泉の周りを囲め! 」
「「「ハッ! 」」」
「「「はっ! 」」」
「コウ、急ぎましょう! 」
「主様」
「わかってる」
シルフィも蘭も昨日からずっと落ち着かない。予定より出発が遅れたからな。
姪や幼馴染があっちにいるんだ。気持ちはわかる。
だがこれから行く世界は、俺たちの知る世界とはだいぶ変わってしまっているとリアラが言っていた。ダンジョンが無くなり大地の魔力が減少しているなら、きっと食糧に困っているはずだ。俺は人族の民から略奪するつもりはないからな。
だから昨日リアラと話し終えたあと、食糧の調達を動ける者たち全員に命じた。もっと時間があればよかったんだが、こちらの世界の一日がアトランでの半年とか聞いたらゆっくりもしてられない。
そして装備と素材と魔石と食糧を午前中まで掛けてギリギリまで集めた。俺も昨日は方舟世界まで行ってありったけの素材と食糧を回収してきた。
急ぐ俺に光一がなんか法衣をまとって文句を言って来たが、そんなものは無視して夏美に協力してもらった。その時にロシアと南アメリカが賃料の支払いが遅れてると言うから、光一たちに貸した竜に乗って取り立てに行ってきた。山一つ吹き飛ばして貸しているフィールドを開放するぞと言ったら多めに支払ってくれたよ。
隣で夏美がドン引きしていたが、滞納なんて一度でも許せば舐められて払われなくなるもんだ。それを見た他の国も追従する。しっかり光一の尻を叩いて取り立てるように言っておいたさ。
方舟では既に日本とアメリカがミスリルの採掘にまで乗り出していて、いくらか回収できた。黒鉄だけかと思っていた俺には嬉しい誤算だった。そしてできるだけ多くの鉱石と魔石と食糧を回収して戻ってきたわけだ。
別れ際に法衣姿の光一がまだ何か叫んでいて、なぜかシスター姿のお袋に取り押さえられていたけどな。
お袋なにしてんだよ。
ああそうそう。俺たちが方舟に行った時にちょっと訓練してやった新宿の施設の子供たちがさ、光一たちが運営している孤児院兼Light mare社員育成施設に移ってきてたんだ。俺と光一の違いがわかるみたいで、にいちゃんにいちゃんって可愛かったな。食糧回収に行ったのに持ってたお菓子をありったけバラ撒いてきてしまった。
みんな肉付きも良くなって清潔になって、遊園地やアスレチック施設から俺がパクってきた遊具で一生懸命遊んでたよ。まあ大人になるまでは毎日好きなだけ遊んで楽しめばいいさ。大人になったらブラックなうちの会社でこき使ってやるからな。
こうしてLight mareの総力をもって動いたが、魔石をかき集めたり食糧を買いに行った企業側の都合もあり今日の午前中いっぱいまで掛かってしまったというわけだ。
これは仕方ない。ダンジョンが無く現地で魔石を回収できないなら、七日神麦の栄養素である魔石は大量に必要だ。Eランク以下の低級魔石でよいとはいえ、獣人たちを救って終わりじゃないからな。その後のことも考えないと駄目だ。
よし、みんな泉を囲んだな。
「リアラ! 準備は整った! 俺だけを白い部屋に呼んでくれ! 」
「主様? 」
「ダーリンどうしたの? 」
「ああ、ちょっと色々交渉したいことがあってな。あの部屋は時間が止まってる。すぐ転移が始まるからみんなそれぞれの身体に触れて待っていてくれ」
俺が皆にそう説明したと同時にリアラの像が光り、俺は白い部屋へと呼ばれた。
「悪いなリアラ」
『いえ、そのまま出発していただこうと思ったのですが、なにか私にお話が? 』
「ああ、いくつか確認しておきたいことがあってな。まず転移先だがどこにするつもりだったんだ? 」
『はい。本当は私の神殿のある浮遊島にしたかったのですが、我が子たちに浮遊石を採取されてしまい地上に落ち崩壊してしまいました。ですのでアトラン大陸の大神殿に送る予定でした』
なにやってんだよアイツら……俺だってちょこっとしか採取してないのに、浮遊島が落ちるほど取るとか馬鹿なの? 空間魔法のダンジョンだってあったのになにしてくれてんだよ!
まあそれはいい。もったいないが仕方ない。それよりも……
「リアラ? 大神殿は王都にあったよな? 今も王都なのかはわからないが、大神殿は大陸の中心部に位置している。そこに迫害されている種族のエルフとダークエルフと魔族が突然現れたらどうなる? 今のアトラン大陸にある国の軍事力は俺もわからないんだ。こっちはドワーフもホビットたちもいる。仲間に危険が及ぶ可能性があると判断すれば、蘭にいきなりメテオを撃たせることになるかもしれないぞ? 」
神さまってのは大雑把だからな。基本自分の管理する世界のことしか考えてない。だから別世界の人間を平気で召喚したり使い潰したりできるんだ。アマテラス様は俺がアマテラス様の管理する土地の人間だから、まだ幾分かマシなだけだ。
リアラのこの丁寧な物言いに騙されたら駄目だ。この女神も自分の世界のことしか考えていない。だから俺たちを送る場所とか微塵も考慮していない。
俺は神には勝てない。それは半神になったからこそ嫌でもわかるようになった。リアラに挑んでも瞬殺される自信がある。神とはそれほどの存在だ。
ただ基本は善性なのが神だ。価値観の違いは凄まじいが、話が通じる以上交渉していくしかない。そうすればwin-winの関係にだってなれるはずだ。
現状アマテラス様とはうまくやれている。方舟の世界での利益は大きい。アマテラス様のおかげでお袋や弟にだって再会できるかもしれない。ならリアラともそういう関係を築けばいい。
俺には魔王を倒せるという力と不老の能力がある。世界を管理している神たちにとって俺はとても便利な存在だ。アマテラス様とリアラが俺と接触してから異世界に送ろうとしているのを見るに、俺には突然の一方的な召喚に耐え得る力がもうあるんだと思う。
だから神の力が十分に発揮できて、しかも俺に抵抗されないよう納得させた上で異世界に送っているんだと思う。つまり俺が抵抗すればスムーズに異世界に送ることはできないということだ。本人からそう聞いたわけじゃないが、一度は無理やり俺を異世界に送ったリアラがそうしないんだ。その可能性は十分にあると思う。
そうであれば俺は自分の力を武器に神の力を利用して幸せになってやる。
なんたって神だ。たいていのことはできる。嫌な時は嫌だと言えばいいし、もしも召喚に抵抗できない身内の者を送ってそれを人質に俺に異世界に行かせようとするなら、その世界の魔王になって徹底的に破壊してやる。神は基本善性だからさすがにそんなことはしないの思うが、そういう覚悟と力があることを見せて牽制はすべきだ。
リアラだってノブナガのことを苦々しく思っているようだった。俺からしてみればノブナガに限らず無理やりあんな地獄に放り込まれて力をつければ当然だろとは思うが、俺をノブナガにしたらどんなに新たに勇者を送ろうが止められないのはわかっているはずだ。あえてそんなリスクは犯さないだろう。
神が俺を利用するなら俺だってしてやる。なるべく友好的に、かつ侮られないようにな。
『それは困ります……罪もない我が子たちを殺めるのは遠慮して欲しいです』
リアラは案の定、俺たちを人族のいる場所に送った後の行動まで予測できていないようだった。
声しか聞こえないが困っている様子なのは伝わってくる。
「俺もそんな事はしたくない。一度は救った世界だからな。だから転移先は魔王城で頼む」
『ヴェール大陸に? いいのですか? あの大陸には未だに多くの魔族がいますが……』
「構わない。俺に考えがある」
ヴェール大陸にまだ多くの魔族がいるって事は……ドラのお転婆娘は俺の言ったように、戻ってこない俺たちの復讐はしていないようだ。もしも俺たちが魔王に敗れた時にドラ娘まで失いたくなかったからな。
というか万が一の時は自由に生きろって言って契約魔法は解除してったけど、俺たちが戻らなかったから待ってそうだな。俺をというより蘭を。
300年……あのドラ娘なら待ちそうだ。頑固だからな。これは再会した時は大変そうだ。
痛そうだな……黙って300年分叱られるとするか。
『勇者がそれでよいのなら……ですが魔王城ですか……勇者が転移した残滓がありますね……同じ場所に転移させることになりますが、本当によろしいのですか? 』
「魔王がいたっていいさ。1分で片付ける」
『ふふふ……もういませんよ。 わかりました。転移先は魔王城にいたします』
「サンキュー、まずは拠点を構えて情報収集しないとな。非戦闘員もいるんでね。これが俺のやり方だ」
どれほど文明が発達してるのかわからないからな。最悪古代文明クラスを想定したとしたら、いきなり本拠地に乗り込むのは危険だ。俺と恋人たち以外がな。
『ふふふ、そうでしたね。勇者は過去のどの勇者よりも慎重でしたね』
「過去のどの勇者よりも魔王討伐に時間が掛かったけどな」
『それでも途中倒れることなく魔王を討伐しました。かなり余裕があったようですが』
「俺はゲームでも最高レベルまで上げてからラスボスに挑むタイプなんだ」
『ふふふふ……本当に面白い方。お話は以上でよろしいですか? 』
「あと一つ。これは成功報酬の話なんだが…………」
俺は今回の件が終わったらリアラにやって欲しいことを頼んだ。
リアラは少し考えたようだが、最終的には本人たちが望むならと了承してくれた。
俺はその返答に満足して転移を開始してもらうように言った。
『では勇者よ、世界をお救いください』
「そのセリフは最初の召喚の時に聞きたかったな」
『ふふふふふ……』
俺がそう言うとリアラは少し困ったような笑い声をあげてその神力を膨らませていった。
これくらいのイヤミは言わせてくれよな。
そしてリアラの膨大な神力に包まれた俺は、毎度おなじみの浮遊感と内臓がひっくり返るような気持ち悪さが襲ってきた後に、地面に立つ感触を覚えた。
「相変わらず気持ち悪い……」
「うっ……ダーリンよかった……ちゃんといた……うう……気持ち悪……」
「コウ……これは方舟の時の比じゃないわね……ダンジョンと共に日本に来た時を思い出したわ……」
「主様! 」
「「「お屋形様! 」」」
「さすがに異世界転移だからな。並行世界に行く時よりはきつかったな。気分の悪い者はポーションを飲むように言ってくれ。蘭と以蔵たちは気にするな。結界は張った」
「はっ! 」
「はい、主様」
リアラによる転移が終わり徐々に周囲を包む光が収まっていく中、一緒にいた者たちは皆が気分が悪そうな顔をしていた。
俺は探知の反応に驚いている蘭と以蔵たちに大丈夫だと伝え、自然に俺たちの壁となるように動き武器を構えているリムたちにも頷いて問題ないことを伝えた。
そして周囲を照らしていた光が収まると、皆が驚きの表情で周囲を見渡していた。
そう、俺たちが転移した先は魔王城の謁見の間。ここは魔王城の最上階で異空間となっている部屋だ。
俺と蘭が魔王と戦った場所でもある。
足もとには赤い絨毯がこのだだっ広い部屋の隅々まで敷かれ、壁際にはデビル種やアドバン種、サキュバス種に吸血鬼種と数多くの魔族が、突然謁見の間の中央に現れた俺たちを驚愕の表情で見ていた。
そしてこの部屋の入口の扉付近でも、オーガやオークなど人型の魔物たちがお揃いの漆黒の鎧を身にまとい俺たちを見て固まっていた。
「だ、ダーリン? ここはどこなの? なんだかどこかのお城のように思えるんだけど……それにアレは……」
「コウ……ここはまさか……」
「光希……ものすごい数の魔族と魔物がいるのですが……」
「うおーー! すげー! こんなにたくさんの魔族あたし初めて見た! すげー! なんか強そうだ! 」
「うふふふふ、懐かしいです」
「サキュバスとインキュバス……しかも純血種がこれほどいるとは……」
「ひえ〜! お仲間がいっぱいいるけどなんだか弱っちくみえるよ」
「ふふふ、ミラ姉さん。それは私たちが強くなったからですわ」
「皆! ここは魔王城の謁見の間だ。結界は張ってある、安心していい」
俺は転移したらいきなり大量の魔族に囲まれているという状態に驚く皆にそう言って安心させた。
「ええ!? だ、ダーリン! 魔王城ってラスボスの居城じゃない! 」
「コウ……どこに安心できる要素があるのよもうっ! でもそう……ここがコウと蘭ちゃんが魔王を倒した場所なのね」
「ここが魔王城!? そんな……まったく、光希は豪快すぎます」
「マジか!? 魔王がいるのか!? どこだどこ!? そんな圧倒的に強い気配はないぞ? 隠してるのか? 」
「うふふ、あそこの3人以外はそれほど強くなさそうですよ」
まあ魔族といってもこんなダンジョンが無くなった世界の魔族なんてたいした事ない。
生まれてからずっと檻に入れられ育てられたライオンみたいなもんだ。
それでもそこそこ強いのがいるのは、この300年あまりのうちに自然繁殖をしながら身内で殺し合いをしてきたんだろう。
《 なっ!? な、な、何者だ! なぜここにいる! どこから入ってきた! おい! サキュバスども! なにを固まっている! 》
《 眷属たちよ! なにを固まっているのだ! 侵入者だ! 女以外は排除しろ! 》
《 あ……ああ……あれは……あの男と獣人は……まさか……まさか…… 》
ん? 以前魔王がいた上座に座ってるやつらが何か言ってるな。それになんで魔王の椅子が3つもあるんだ?
ん〜、ここからだと遠すぎてよく見えないな。
とりあえず鑑定しておくか。
『鑑定』
…………ぶっ! マジか!? ここでお前らに会うのか!
「ぶっ! ぶははははは! 笑える! 」
俺はあまりにも面白い神のいたずらに、ひとり大笑いしていたのだった。
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