第3話 光魔神誕生の日






「あひっ…… 人違い……だ……俺じゃな……い……もうやめてくれ……」


「聖水怖い聖水怖い聖水怖い……」


「アジム!おいっ!サタール! サタールム・デュラム! しっかりしろ! 」


「まあ魔族式挨拶はこんなもんでいいか。しっかし弱ぇなぁ 」


俺は仰向けになったまま、全身血だらけで泣きながら冤罪を訴えているデビル種のアジムと、白い煙をあちこちから出して亀のように丸まってブツブツ言っているサタールを見てそう口に出していた。


《 ううっ……ぐっ…… 》


《 なんて奴ら……だ……ぐふっ……我々が手も足も出ぬ……とは…… 》


《 ど、同胞とこれほどまでに力の差が……純血種の我らが何もできないとは…… 》


《 誇り高き吸血鬼である我らがホビットとドワーフごときに……信じられん 》


フロアで拘束されている吸血鬼やサキュバスにその他の魔族たちは、その誰もが短時間に制圧されたことが信じられない様子だった。


ん? あの壁にめり込んでるのはバガスの部下か? 基本脳筋馬鹿な種族だから、恐らくバガスの命令を無視して参戦したところをセルシアに瞬殺されたんだろう。生きてるようだしまあいいか。


俺はひと通り周囲を確認すると、虫を見るような目でアジムを見下ろしているリムに声を掛けた。


「リム、スッキリしたか? 」


「ハッ! 幾分かは」


「最後にアソコを燃やそうと思ったんだけどね〜」


「潰すだけでは少しもの足りませんでしたので」


なにこの子たち……どんだけ恨みがあったんだよ……

まあ無理やり隷属させられてセクハラされれば恨みも積もるか。


俺はもう触れるのはよそうと思い、低い階段を上り上座にある3つの椅子の方へ歩いていった。

そしてその椅子からさらに5mほど後ろにある黒い巨大なカーテンを勢いよく開けた。

するとそこには巨大な椅子が鎮座していた。

この椅子は、俺と蘭が倒したグレーターデーモン種の魔王ベルゼガルが座っていた椅子だ。

俺はその椅子の前に立ち、階段下にいるアジムたちとその先のフロアにいる魔族を見下ろした。


「蘭 」


「はい! 」


そして俺は蘭を呼ぶと蘭はすぐに転移してきて俺の隣に立った。


「魔王軍の残党どもよ聞け! 俺は300年と少し前にここでお前たちの王、魔王ベルゼガルを倒した人族の勇者だ! 」


俺がそういうとアジムとサタールは正気に戻り俺を驚愕の表情で見上げ、フロアにいる魔族たちも一斉に俺を見た。何人か当時の生き残りがいるのか、過剰に反応している者が散見された。


俺は言葉だけでは信じられないだろうと思い、アイテムボックスから聖剣と魔王が持っていた黒い大剣を取り出し頭上に掲げ、両方の剣に魔力を通した。


俺が剣に魔力を通すと聖剣は白く光り、魔王の剣はその刃の部分に赤い血管のようなものを浮かべた。

その血管はドクンドクンと脈動しており非常に気味の悪いものだった。


「蘭、お前の美しい姿を見せてやれ」


「はい! 」



コーーーーン!



俺はここにいる当時の魔王軍の生き残りが思い出しやすいよう、蘭に神狐の姿になるように言った。

蘭は俺から少し離れ手を地面につき、白銀に輝く美しい神狐へと姿を変えた。


《 なっ!? あ、あの大狐は!? 》


《 ま、間違いない……幼き頃に見た血濡れの赤狐……》


《 紅蓮の暴狐…… 》


《 そ、それに見ろ! あ、あの光はもしかして聖剣なのでは? 》


《 わ、わからん。しかしあの黒い大剣は見覚えがある……あれは…… 》


やっぱり長寿の吸血鬼とアドバン種の奴らに生き残りが多いな。俺の顔を忘れてもこの魔王城近辺を暴れまわった蘭を忘れる奴はいないだろう。かなり暴れたからな。

それにしても血濡れとか紅蓮とか呼ばれてたのか。今度蘭をからかうネタにしよう。


《あの血の模様……間違いない。若き頃に見た魔王様の愛剣であった魔剣ヴェルム 》


《 バ、バガス……もしや貴様が固まっていたのは…… 》


《 サタールはあの頃はまだ幼子だったな。俺はあの大戦時に勇者に会ったことがある……あの2人は間違いなく勇者とその従者の大狐だ 》


《 な、なんということだ……我らが始祖様を倒したのがあの男…… 》


《 ア……アヒャッ……に、逃げなければ……勇者に滅ぼされる…… 》


魔剣ヴェルム? ああ、確かそんな名前だったっけこの剣。これ呪いの剣なんだよな。血を吸うと切れ味が増す系のやつ。呪いの剣系は蘭が見るとまた発作が起こるから、ずっとしまったままだったんだよな。


いや、この剣はマジで呪いの剣なんだって。当時手に持った時に俺を侵食しようとしてさ、速攻でねじ伏せてアイテムボックスにしまったんだよ。


さっきも取り出した時に一瞬俺を侵食しようとしたみたいだけど、少し魔力を流したらおとなしくなった。神力で消滅させられたら敵わないと思ったんだろうな。


俺は聖剣をアイテムボックスにしまい、魔剣を足もとに突き刺しその柄に両手を重ねた。

そして仁王立ちの姿勢となって蘭に頷いた。

俺の意図を感じ取った蘭はその姿を人に戻し、俺の隣に寄り添うように立った。

そして次に俺は恋人たちを段上へと呼び寄せた。


「凛、夏海、シルフィ、セルシア。こっちに」


4人は黙って俺の隣に転移で移動してきて、俺の左右に並んで立った。


「魔族どもよ! 俺はお前たちより強い! 強い者に従うのが魔族のルールのはずだ! 黙って従え! 『プレッシャー』 」


俺はそう言ってこのフロアにいる仲間以外全ての魔族に、特大のプレッシャーを放った。


ドンッ!


》》》


「 グッ…… 」


「 グフッ……な、なん……だこの力は…… 」


「 あががが……潰れる……死ぬ…… 」


「バガス! 従属か死か! 」


俺は階段下で膝をつき耐えているバガスに問いかけた。


《 グッ……従おう…… 》


「アジム! 」


次に地面にキスをしているアジムに声を掛け


《 あひっ! し、従います! 従いますぅー! 》


「サンダル! 」


最後にサタールムに、どうせお前は従う気は無いだろという表情で問いかけた。


《 グッ……グヌヌヌ……人族にこの……始祖の仇に……グッ……この誇り高き……》


『セイクリッドクロス』


俺は予想通り抵抗するサタールムの周囲に、最上級聖魔法のセイクリッドクロスを展開した。

この魔法は6つの光の十字架が敵を包囲し、聖なる光を浴びせたのちにその光の十字架自身のアタックにより敵を殲滅する魔法だ。

今の俺の魔力なら、聖剣が無くてもこの魔法だけで魔王を消滅させることができる。

サタールム程度、この光の十字架に包囲されただけで消滅しかかるだろう。


《 あぎゃーーーー! 熱い! 灼ける! な、なんだこの魔法は! 知らない! 知らないぞこんな強力な……き、消えていく……し、従う! 吸血鬼一族は従うーー! 》


「ふんっ! 次は消滅させる」


俺はプレッシャーも含め全ての魔法を消した。


「これよりこのヴェール大陸と魔王城は俺がもらう! お前らは光魔王軍の配下となり俺のために働け! 反抗する者は種族ごと滅ぼす! 慈悲など期待するなよ? 俺は元勇者だ。お前たちを斬ることになんの躊躇いもない! 従う者は跪け! 従えない者はその場に立て! 今すぐ殺してやる! 」


ザザッ!


俺がそう宣言すると、リムを先頭にダークエルフたちも含めフロアにいた者全てが跪いた。

なんでリムに以蔵にニーチェやイスラたちまで……マリーたちはこの空気の中、なにかのゼリーを食べてるな。さすがだ。


次に俺はアイテムボックスから魔法書を取り出した。


「なっ!? そ、それはまさか! 最上級の!? そ、それも闇魔法書! 」


「ま、まさか……隷属魔法を……」


「お前らを信用なんかするわけないだろ? 」


俺は最上級闇魔法書を開き魔法を覚えた。


【冥界の大穴】【隷属】 【精神干渉】どれも胸糞悪い魔法ばかりだ。

なるべくなら覚えたくなかったが、上位魔族たちを使うなら仕方ない。

魔族は上位になるほど破壊神シーヴの影響を受ける。その性質は悪だ。必ず裏切る。

上位魔族を信じるくらいなら、新宿の1000円ポッキリの店に行った方がまだ信じられる。


だから魔王は圧倒的な力と魔法で押さえ付けていた。

最上級闇魔法書を手に入れることのできた魔王は隷属魔法で、その他の魔王は力と種族魔法で。


俺が倒した魔王はデビル種が2回進化したグレーターデーモンだから、種族魔法で対象の魂を強制的に縛ることができた。


俺は力だけで抑えることはできるが、この世界にずっといるわけじゃない。俺がいなくなった途端にコイツらは好き勝手やるのは確実だ。

だから隷属の魔法で縛る。俺に絶対服従させる。契約魔法では吸血鬼は縛れない。あれは心臓が止まれば解除されてしまうからな。


俺は驚くバガスとサタールムとアジムに向かい、隷属魔法を発動した。


「魂を縛れ! 『隷属』 」


「ぐっ……ぐああああ! 」


「なっ!? ぎ、ぎぎぎぎぎっ! 」


「ぎゃあああ! 」


俺が隷属魔法を発動すると黒い霧が現れ帯状になった後に、バガスたちの胸へと吸い込まれていった。

初めて使うけど魂を縛られるからか相当苦しそうだな。

俺を裏切れば魂を縛るあの黒い霧が魂を消滅させるわけか。

そう言えば魔王の放った魂魄を縛る魔法も黒い手だったな。聖剣で斬って捨てたけど。


魔法の発動が終わると、バガスでさえ片手を地に付け胸を押さえてうずくまっていた。

サタールムはまた亀だ、アジムは白目を向いて口から泡まで吹いて気絶している。


俺はフロアに向きなおり、もともと青い顔をさらに顔を青ざめさせている吸血鬼たちを見た。


「サンダルの眷属以外の純粋な吸血鬼には全員この魔法を受けてもらう。その他の種族の者は隊長格のみだ。リム、配下のサキュバスとインキュバスを前へ」


「こ、光魔王様! 我らは裏切ることなど! 」


「なにを勘違いしているんだ? いいから前に出ろ」


「え? ……ハッ!」


リムは不安そうな顔をして、この世界に一緒に連れてきた配下の者を前へと並べた。

先頭にリム、斜め後方にミラとユリ。そしてその後ろにカイとレムたちがいる。

俺はリムたちに向かって闇魔法を発動した。


『契約


「え!? 」


「ひゃっ!? 」


「んふっ……」


「「「「「 光魔王様……」」」」」


「女神の島で出会ってからこれまでの間、お前たちはよく尽くしてくれた。ありがとう。俺はお前たちに感謝している。そして心から信頼している。これはその証明だ。これからも変わらず側にいてくれると嬉しい」


「あ……ああ……こ、こうまおう……さま……」


「光魔王様……ボク……ボク……ずっといるから……離れないよ」


「信じてもらえた……魔王軍の残党に同族がいるのに……私たちが同族と結託する可能性だって考えられたかもしれないのに……私たちを信頼してく……ううっ……嬉しいですわ」


「「「「 ううっ……グスッ……」」」」


リムを筆頭にみんなに泣かれてしまったが、契約魔法で縛っておいて信頼してるとか言ってもほんとかよって思うしな。

まあこの子たちなら大丈夫だ。俺に従うメリットもこれまでさんざん見せてきたしな。



さて、一番まともそうなバガスのヘイトを下げておくか。


俺たちがここに現れてから一度も反抗的な態度を取っていないのに、強制的に隷属させられたバガスとその配下のヘイトを下げるために、俺は階段を降りバガスに近付いた。


「バガス、老いたな。いくつになった」


「……515だ」


「確かアドバン種の寿命は700くらいだったか。それなら全盛期は300歳の時くらいか? 」


「そうだが……それがどうしたというのだ。私はまだまだ戦える」


「光魔王軍は使える者は長くこき使うとこなんだよ。じっとしてろ。命令だ。……『時戻し』 」


「な、なにを! グッ……こ、これはいったい……」


俺はバガスに時戻しの魔法を掛けた。

バガスはいきなり無数の歪な時計が自身の身体を覆い始めたことに驚いたからか、俺の命令に逆らおうとして胸に痛みが走り動きを止めた。

隷属の魔法は命令された内容に反応する。バガスに説明してなかったな。悪いことしたな。


バガスを覆う歪な時計はその針を逆回転させ、時を戻していった。

10年……50年……100年? ……150年くらい……多分200年。この辺でいいか。

俺は数えるのが面倒になり適当なところで魔法を解除した。

すると歪な時計は消えていき、多分若返ったバガスの顔が現れた。

わかんねえよ馬の顔の違いなんか。


「若返ってる? まあ身体の筋肉は張りが出てるかな? 」


「こ、これは……この身体は……300になる頃の……」


あ、やっぱ10年くらい数え間違えてたわ。200年ちょうどを狙ってたんだけどな。


「俺は時の古代ダンジョンを攻略した。もうこの世界にはないがな」


俺が攻略してから無いけどな。この魔法を持つのは世界に1人だけと決まってるからな。


「時の!? なるほど……魔王様が敗れるのも仕方なかったということか……過去最強の勇者が相手ではな」


「そうだな。時のダンジョンを攻略するよりは楽だったな。今なら魔王が5人いても勝つ自信がある。おとなしくしてるんだな」


「勝てぬ相手には挑まぬ。そんなことよりもこれでまた思う存分戦える……勇者よ……いや、光魔王様。感謝する。改めてアドバン族は光魔王様に従うことを誓おう」


お? 成功したかな。


「俺がいる間はリムに従え。お前より強いから安心しろ。 リム! 」


「は、ハッ! 」


「魔王軍残党を光魔王軍に組み込め! そして人族と戦争をする準備を進めろ! あわせて魔族どもには仲間の魔石を種族ごとに提出させろ! これよりリムを光魔王軍の副司令官に任命する! リムの思うようにしていい。頼んだぞ」


「ハッ! 光魔王様の御為に! 」


リムは顔が紅潮しているな。こういう素直なところが本当に可愛い女だ。

さて、いきなり仲間の魔石を出せと言われても納得できないだろうな。


「魔族どもよく見ていろ! 『創造』 」


俺はリムに指示をした後にアイテムボックスからオーガの魔石を取り出し、創造の魔法を発動した。


《 オ、オーガが! 》


《 と、突然何もないところから……》


《 いや、光魔王様がなにか魔法を発動したぞ? 》


《 ま、まさかオーガを生み出した? 》


《 ネクロマンサーの生み出すゾンビには見えないな……普通のオーガだ……》


《 魔石からオーガを? ハッ!? 蘇生か! そんなことができる魔王など今までいなかったぞ! 》


《 まさか魔神……シーヴ様の現し身……光魔神…… 》


《 そ、そうだ! こんなこと神にしかできるはずがない! 破壊神シーヴ様の現し身だ! 我ら魔族を復活させてくれるぞ! 》


《 光魔神様! 》



「え? あれ? いや、これは魔石を集める理由を……説明……あれぇ? 」


「ぷっ! あはははは! ダーリンが魔王から魔神にランクアップしたわ! 半分神だし創造は蘇生みたいなもんだし間違ってはないわね。ぷぷぷっ……」


「ふふふふふ、勇者様が魔神になるのは前代未聞ね。新たな信者ができてよかったじゃない。神になる時はどっちになるのかしら? 」


「主様が魔神になるのでしたら、蘭は魔王にならないといけませんね。どこの世界でなるのが良いのでしょう……」


「なあなあ、魔神て魔王より強いのか? 旦那さまなら強い方になるに決まってるよな! 」


「セルシア、魔神は魔族の神のことですよ。それにしても魔王を演じようとしたら魔神扱いされるなんて……ふふっ、光希らしいオチですね」


《 光魔神様! 》


《 光魔神様! 》


《 我ら魔族に栄光を! 》


《 我ら魔族に繁栄を! 》



どうしてこうなった……


俺はフロアから聞こえる歓喜のシュプレヒコールに、どうしてこうなったのかと混乱していた。


信者とかもういらないんですけど……



こうして光魔王軍結成の記念すべき一日が幕を開けたのだった。








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