第26話 古代魔法






俺は最上級闇魔法の隷属に似た魔法を掛けられたダークエルフ達を解呪した後に、俯いて座っている紫音と桜の前に立った。二人の下半身は蛇と蜘蛛なので、座っていても立っている俺と目線は同じだった。


「40年よく命を繋いだな。以蔵と静音を見ろ。泣いて喜んでるぞ?」


《……ユウシャサマ。ノロイヲ カイジョシテイタダキ アリガトウ ゴザイマス》


《アリガトウ ゴザイマス ユウシャサマ。デスガワタシタチハ バケモノ アタマヲイジラレ コトバモ……》


「二人ともとても美しいよ。その綺麗なホワイトシルバーの髪なんて凄く魅力的だ。双子だからか? 紫音がロングで桜はショートなんだな。似合ってるよ」


《……キレイ? バケモノニ ナッタノニ》


《ユ、ユウシャサマ……オセジハ イイデス。バケモノ ナノハ リカイシテマス》


「お世辞じゃないさ。2人は悪い魔法使いの魔法で一時的にそんな姿になってるだけだ。俺がその魔法も解呪してやる」


《……ソンナ オトギバナシノヨウナ……》


《バカニシナイデ クダサイ。ワタシタチハ アノ リッチニ カラダヲ……ウウッ……》


「確かダークエルフのおとぎ話に、悪い魔法使いに魔物にされた族長の娘を勇者が救う物語があっただろ? あれ実は本当の話なんだ。その証拠をみせてやろう…………時の女神よ、長く苦しい時を過ごしたこの者達へ慈悲を……『時戻し』 」


《エ? トケイ? 》


《コレハ! ナ、ナニヲ! 》


「二人ともじっとしていてください。二人の呪いを解いてくれる主様の魔法です」


俺は涙を浮かべ自分の姿を嘆いている二人に、右手と左手からそれぞれ同時に時戻しの魔法を発動した。最初から時戻しを掛けなかったのは、隷属のような強力な魔法が掛かっていると身体が元に戻っても隷属の魔法は残るからだ。

魔法を発動すると俺の手から無数の歪な時計が放たれ、紫音と桜の身体を覆った。その光景を周囲にいる他のダークエルフ達が、一体何が起きているのかと驚きの表情で見ていた。


「あ、あれは何だ…… お屋形様は紫音と桜に何を?」


「あの歪な時計は一体……何が起きていると言うの?」


「あれは時戻しの魔法よ。ダーリンは古代ダンジョンの攻略者なの。今40年の時を戻している所よ」


「時魔法!? あの過去どの勇者様でも攻略ができなかった古代ダンジョンを攻略されたのか!? 」


「まさか!? あの神の試練を乗り越えたなんて……でもあの見た事も無い魔法と時計……もし本当なら……時魔法であれば紫音も桜も……」


「嘘ではありませんよ。私もあの魔法で命を救われたのですから」


「なんと!? 夏海殿が? では本当に……」


「見ていれば分かるわよ。もう終わるわ」



俺が時戻しを発動しているとまた後ろが騒がしくなっていた。

38.39.40.41……ここだな。俺は紫音と桜の姿が人の姿に戻った所で魔法を止めた。すると隣で蘭がすかさずシーツを何も履いていない二人の下半身に掛けていた。もう少し見たかったのに……


「紫音に桜。呪いは解いた。自分の身体を見てみろ」


《……身体? あ……声が……あ、足が……股間もある……》


《あ……姉さんの身体が元に戻ってる……声も……わ、私の身体も! ああ……足が……ある 》


歪な時計が消え放心していた二人に俺は声を掛け、自分の身体を確認させた。すると二人は蘭に掛けられたシーツを広げ、俺の目の前にその何も履いていない下半身を全て見せてくれた。薄いが白い毛か……これはまた……生きてて良かった。


「紫音さんに桜さん? 主様が喜んでますよ?」


《…………恥ずかしい》


《きゃっ! こ、興奮してお目汚しを……申し訳ございません勇者様》


「お目汚しだなんてとんでもないさ。とても綺麗だった。役得だな」


《……綺麗……私の身体が……》


《綺麗だなんて……勇者様》


蘭に指摘され顔を赤くはしているが、紫音は表情が無いな。そういう子なのかな? 対照的に桜は表情が豊かだな。双子で顔はそっくりだけど、髪の長さと表情の違いでどっちがどっちとかすぐ分かるな。


「両親の所へ行ってやれ。その姿なら問題無いだろ? さあ、行ってやれ」


《……はい。ありがとうございます勇者様》


《はい! ありがとうございます勇者様! お父さん! お母さん!》


俺が紫音とにそう言うと二人は以蔵達の元へ駆けて行った。以蔵達もこちらに向かっていたようで、途中で家族4人で抱き合い泣き崩れていた。そうだよ、こういう結末じゃなくちゃな。


「紫音! 桜! こんな事が、こんな事になろうとは! 会いたかった……会いたかったぞ! 」


「紫音……桜……生きていてくれてありがとう。守ってあげられなくてごめんなさい。40年も辛かったわよね。お母さんは……お母さんはもう二人は生きていないのかと……ううっ……」


《……お父さん、お母さん。もう会えないと思ってた……》


《うっ……ううっ……お父さん、お母さん……》


俺が感動の家族の再会を見て自己満足をしている時に、周囲のダークエルフ達の話し声が聞こえてきた。


《ミタ? シオンサマト サクラサマガ モトノ スガタニ……》


《コレガ ユウシャサマ ノ チカラ……》


《ワタシタチモ モトニ モドレル? 》


「そうだったな。さあ、次は真冬だったか? 君と隣の確か千鶴だったな。こっちにおいで、元に戻してやる」


《ハ、ハイッ! ウレシイ……》


《ワ、ワタシモ? アア……ハイ、オネガイシマス ユウシャサマ》


「蘭、悪いがまた魔石を頼む。さっきよりは魔力は使わないからそんなに消費はしないと思うけどな」


「はい! 魔石はたくさんありますので気にせず使ってください。凛ちゃんが交渉して冒険者連合に魔石を納めなくて良くなりましたので」


「え? そうだったの? 知らなかったよ。まあ、魔道具やスクロールで貢献してるしな。魔石位は貰っておくか。よしっ! それじゃあ悪い魔法使いに掛けられた呪いを解くぞ! 」


そして俺はまた100人に魔法を掛けて回るのだった。シーツ足りないよな、男には俺のお古のズボンやジャージでも履かせておくか。


それから2時間後に全員の時戻しを終えた。途中凛と夏海を呼んで着替えとかを貸してもらい、女性のダークエルフに着せたりと何だかんだ忙しかった。時戻しが終わった者は皆お礼を言った後に、一目散に以蔵と静音の所に向かって行った。確か以蔵は頭領だったっけ?会いたかったんだろうな。


「あー疲れた! 」


「主様お疲れ様でした。とても素敵でした。蘭は4523回目の惚れ直しをしました」


「蘭ちゃんどんだけ毎日惚れ直してんのよ……私も今日のダーリンには惚れ直しちゃったな。カッコよかったわよ♪ 」


「ふふふ、流石光希です。皆笑顔になってます」


「ああ、良いもんだよなああいう笑顔ってさ。何十年も辛い思いをしたんだ、これからは毎日笑顔で過ごして欲しいよな」


「主様……蘭はまた4524回目の惚れ直しをしました」


「ダーリン……そんなダーリンが大好きよ」


「私も優しいそんな光希が好きです」


「ははは。クサイ事言ったかな。さて、もう夜も遅い。凛と夏海には大部屋のテントを渡すから、ダークエルフ達に使わせてやってくれ。俺と蘭はリッチエンペラーを倒してくる。どうも未知の魔法を持ってそうだからな、二人は連れていけない」


紫音達に掛けられた魔法は、隷属の魔法に似た見たことも無い魔法だった。もしかしたら古代人が作った魔法の可能性もある。そうだとしたら凛と夏海を連れて行くのは危険だ。知らない魔法を放たれた時に、二人を守れないかも知れない。

古代人の作った魔法は情報が少ない。あったとしても次元に穴を開ける魔法を作ったらしいとか、空を飛べるだとか水の中で呼吸できるとかそう言ったレベルの情報しか無い。

古代魔法は古代人しか知らないし作れない。もしこのダンジョンのリッチエンペラーが古代魔法を使うなら、きっと冥界から魂だけ召喚された存在では無いだろう。古代人が自ら古代魔法でリッチとなった者である可能性がある。奈落の底にずっといて、出れない所にダンジョンが出来て外に出れるようになった? だから地上に出て来てダンジョンを占拠したか?

いずれにしろ俺も古代人とは戦った事が無い以上、未知の敵なのは間違い無い。


「うん。わかったわ。隷属の魔法には抵抗できるか微妙だし……足手まといにならないようここで待ってるわ」


「分かりました。信じて光希の帰りを待っています。どうかお気を付けて」


「魔王がいても余裕で倒してくるよ。今の俺達にはその力がある。安心して待っていてくれ」


「もうっ! カッコ良いんだから! 愛してるわ。無事に帰って来てねダーリン。蘭ちゃんも怪我しないでね? 無事に帰ってくるのよ?」


「光希……待ってます。蘭ちゃん光希をお願いね? そして蘭ちゃんも無事に私達家族の元に帰って来てね?」


「はい! 蘭にお任せください! リッチエンペラーを踏み潰して家族の元に帰ります! 」


「あはは、踏み潰してってのが蘭ちゃんらしいわね。それじゃあ行ってらっしゃい。以蔵さん達には私から話しておくわ」


「ふふふ。蘭ちゃんたら。気を付けてね」


「ああ頼む」


「行ってきます! 」


俺と蘭は凛達にダークエルフの事は任せて部屋の奥にある扉を開け、その先にある空間へ進んだ。

そこには最初の部屋よりも何倍も広い空間があり、3つの他の部屋へと繋がる扉があった。右側にかる二つの扉の内一つは倉庫兼食事をする場所のようで、多くの魔獣の骨が転がっていた。恐らくゾンビ化した魔獣の腐肉を食べ命を繋いでいたのだろう。魔法で自殺を禁止され精神も狂わないよう命令されていたらしいが、それがどれ程の拷問だったのか俺には想像も付かない。

そしてもう一つの扉の中は仕切られ床に布が敷かれているだけの寝床だった。


最後に正面の扉を開けると最下層へ繋がる階段があった。

俺は蘭と頷き合ってアイテムボックスから勇者の胸当て、小手、膝当て、額当てと装備をし、最後に聖剣を手に持った。蘭は神狐の姿になり俺の一歩後ろに下がった。


《蘭、正直何が起こるか予想もつかない。俺達の知らない魔法が飛んでくるかも知れない。結界だけは絶やさずに掛け続けておけよ? 》


《はい! 魔王城に乗り込む前みたいで蘭はわくわくして来ました!》


《ははは、そうだな。それじゃああの時と同じように、俺は何があっても蘭を守るよ 》


《蘭は何があっても主様を守ります! 》


俺達は魔王城に入る前にお互いに言った言葉を言い合い、階段を下りるのだった。



階段を下りた先は予想通り広い空間だったが、加工された左右の壁沿いに6つずつ透明なカプセルが並んでいた。そして正面には奥の部屋から伸びているであろうケーブルのような太く赤いコードに繋がれた、リッチエンペラーが宙に浮き俺達を見ていた。

装飾品が多量に付けられた豪奢な白いローブに骨の指に嵌められた指輪、見覚えのある結界のネックレス。

そしてローブから覗く骸骨頭に嵌められた金のサークレットに、手に持つ大きな魔結晶の付いた杖。

そのどの装備も俺の知るリッチエンペラーが付けている装備とは違っていた。

俺は直ぐに結界と鑑定を掛け、このリッチエンペラーの正体を探った。




‎ارون شفايتز


種族:リッチエンペラー


体力:B


魔力:-----


物攻撃:B


魔攻撃:S


物防御:B


魔防御:S


素早さ:C


器用さ:SS


魔法: الضغط、موجه الجاذبية、‎الصهر والذهب


種族魔法: 反魂



古代文字だと! やはり古代人のリッチエンペラーか! 魔力が鑑定できないのは何故だ? まさか無限なのか? いや、あのコードが怪しいな。あの先はコアルームのはず……何らかの魔道具でコアから魔力を引き出して自分の魔力にしている? そんな事可能なのか?


ん? この魔法の所の古代文字はエルフ文字に似ているな……そう言えばエルフ文字は古代文字が変化した物だとシルフィが前に言っていたっけ。だとしたらうーん……重い世界? いや違うな圧力? それと波? わからん、エルフ文字もちゃんと勉強しておくんだった……


《蘭! 古代人だ! 魔法は古代文字で読めないから注意しろ! それと魔力値が鑑定で見れない。恐らくあの赤いコードでコアから魔力を抜き取っているのかもしれない。結界を掛けて慎重に行こう》


《分かりました主様。少し様子を見てみます》


俺達は鑑定でも分からない得体の知れない敵に、先ずは様子見をする事にした。

それから1分程経過した時、リッチエンペラーがおもむろに杖を一振りした。

すると壁際に置かれていた左右のカプセルが開き、そこから12体のメイド服姿の女性が現れた。


その女性たちは全員が全く同じ顔で、160センチと少しある位の身長に青い髪を後ろで纏め上げていた。いや、一人だけ金髪の女性がいるな。

この女性達は一体何者なのか、俺は嫌な予感を覚えつつ鑑定を掛けた。





種族:自動人形オートマタ



体力:S


魔力:D


物攻撃:A


魔攻撃:D


物防御:A


魔防御:C


素早さ:S


器用さ:A


種族魔法:


備考:半生体自動人形



おいおい……まさかとは思ったがオートマタまで作れるのかよ! しかも見た目が人間と変わらない出来とか! 異世界の古代遺跡から出てきたオートマタは正に人形って見た目だったのに、このリッチエンペラーは錬金術の天才かよ。


幸い能力は物理特化な上に大した事は無い。12体もいるから普通の冒険者のレイドでは多少苦戦するだろうが、倒せない相手でも無い。

俺がそう思っていると、突然リッチエンペラーが杖を振り下ろした。


ピシッ!


「うおっ! なんだこの魔法は? 一撃で結界にヒビが? 頭上から落ちてきたような感覚だな。空気圧壊? いや違うな……」


『 موجه الجاذبية 』


「ちょっと試すか、『転移』 」


バキッ!


リッチエンペラーが杖を振り下ろした瞬間に張っていた結界にヒビが入ったが、どんな魔法なのかは分からない。自分の身で受けて試すのも嫌なのでアイテムボックスからデスナイトの普通の鎧を取り出し足元に置き、リッチエンペラーが二度目の魔法を放った所で俺は10メートル程横に転移した。

その結果、俺がいた場所にあった鉄の鎧は見事にペッチャンコになっていた。

空気圧壊じゃないな、威力が強過ぎる。自壊したようにも見える……圧力、重力系の魔法か! おいおい、そんな魔法まで古代人は作ってたのかよ! そりゃ滅ぶわ。 まさかブラックホールなんて作らないだろうな?


俺が見たこともない重力系の魔法に戦慄していると、オートマタ達がその手にナイフや鎖鎌、ハルバードやハンマーなと多種多様な武器を持ち一斉に襲い掛かってきた。

なるほど、重力魔法と連携用のオートマタだったか。


《蘭! 重力系の魔法っぽい。杖か何かで威力を上げているようだが、範囲を広くしているからか一撃で結界を壊せるものでも無い。動き回ってオートマタを処理してくれ》


《はい! 主様! 》


『 موجه الجاذبية 』


パリーン!


「うおっ! 今度はなんだ? 何か飛んできたぞ? 見えないから分かりにくいな!『女神の護り』 」


俺が蘭に念話をしていると、リッチエンペラーが無視するなと言わんばかりに俺だけに魔法を放って来た。その魔法は強力で、耐久度が落ちていたとは言え一撃で結界を壊す程の威力だった。

重力繋がりなら重力波? そんな感じの物を飛ばしたのか? しかしあの杖いいな。1ランクくらい魔法攻撃力上げれるっぽいな。とっとと終わらせて貰って帰ろう。


「リッチエンペラー! 貴重な魔法見せてくれてありがとうな! じゃあさよなら『転移』 」


『 موجه الجاذبية 』


「杖置いてけっ! ハッ! ぶべっ! 『転移』 」


『موجه الجاذبية』


パリーン


「ぐっ……弾き飛ばされた……痛ぇ……重力波で近寄らせないと……そういう使い方もあるのか。失敗したわ『女神の護り』」


俺は終わらせるつもりでリッチエンペラーの前に転移をして魔力を込めた聖剣を突き刺し結界ごと破壊しようとしたが、リッチエンペラーの魔法で吹き飛ばされ転移でその場を離れた。しかし読まれていたのか追撃を受け、結界を壊された。横では蘭が次々とオートマタをその爪と牙で破壊していた。

俺だけかっこ悪いな……しかし凄い魔力量だな、あれだけ上級魔法より強力な魔法を連発してまだまだ余裕そうだ。やっぱりあの赤いコードが生命線か? あの場所から全く動かないし、弾切れなしの固定砲台かよ。

まっ、それならそれでこっちも魔法当て易いしやり易いけどな。


「所詮魔力量が無限にあっても動かない固定砲台じゃな。いつまでも生にしがみついてるお前に引導を渡してやるよ。『スロー』『ヘイスト』 浄化してやる南無阿弥陀仏!『聖・雷龍円殺陣』」


『الصهر والذهب』


『موجه الجاذبية』


パリーン


俺は念の為スローとヘイストを掛けた後に魔王にトドメを刺した魔法を放った。

聖剣を通り威力が増幅され聖属性となり、聖剣より顕現した5体の雷龍の姿は日本に伝わる竜の姿をしており、その長い胴を空中に漂わせていた。そしてリッチエンペラーを囲み、五方向からその顎門を開け一気に襲い掛かった。

リッチエンペラーは魔法を連続発動して抵抗したがそんなものが最上級雷魔法の、しかもExランクの魔法攻撃を更に聖剣で増幅した俺の雷龍に通用する筈も無く打ち消され、頼みの綱の結界も呆気なく破られその身を雷龍に呑まれていった。


《 هذا غباء...انا ساحر محكمه عظيم 》


「このマッドサイエンティストが! 」


今際の際に何か叫んでいたが古代語だから何言ってるのかサッパリわからん。なんとなく、こんな威力の魔法知らない! 消滅したくない! みたいな感じだったように見えた。


おっ!杖は弾き飛ばされていて無事だ! 凛へのお土産にしよっと! しかし魔力と魔法はびっくりしたけど、所詮はリッチエンペラーだな。魔道具で強化してもSランクとExランクの差はそう簡単には埋まらないって。でも重力魔法にビビって急いで大技出したのはナイショだ。

いや、ブラックホールとかもし出されたらどう対応すればいいか分からないしね。奥の手を出させる前に全力で倒す。未知の敵にはこれに限るな。漫画みたいに敵の全力出させてから倒すとか怖すぎるだろ。



《主様終わりました 》


《お疲れ蘭、こっちも終わったよ。警戒し過ぎだったようだ。大した事無かったよ。もう人化していいぞ》


蘭から念話が来たので見てみると、オートマタは全て胴を二つに切断されていた。製作者が倒されたからかその目に光は無く、機能を停止しているようだった。しかし血などは出て無いが、見た目はホント人間ソックリだな。あの錬金術師のリッチエンペラーは、マッドサイエンティストだけど天才なのは間違い無いな。


「主様、このオートマタ達は強くて蘭はとても楽しかったです」


「このオートマタがか? 素早さと体力はSだけど他はAランクで魔法も撃てないのに?」


「はい! 扱う武器が独特で暗器と言うのでしょうか? 服の至る所に隠していた武器を次々に放って来たのです。その武器の扱いも上手く、更に連携も素晴らしくて蘭はとても楽しかったです。主様に直して貰って持って帰りたいです」


「このオートマタを? 大丈夫かなぁ、直した後言う事聞くかな……あっ! オートマタなら何かしら命令を聞かせる魔道具がある筈! そこの扉の先の部屋から魔力を感じるからきっと宝物庫に違いない。それがあるか見てみるか」


「はい! 蘭は宝物庫大好きです。物色します!」


「また女神の島の砦の時みたいに散らかすなよ? 」


「あ、あれは後で片付けようと思って……その……」


「ははは。ぶすっとした顔で確かに片付けてたな。蘭が好きそうな魔道具が無かったからな」


「ぶすっとなんてしてません! 確かに魔道具が無くて残念でしたけど……」


「でも、このダンジョンは期待できそうだな。昔読んであげた絵本にあった、空を飛べる魔道具があるかもしれないぞ? なんたって古代の錬金術師がいたダンジョンだからな」


「空飛ぶブーツが!? 主様! 早く行きましょう! 蘭は期待で胸がいっぱいです! 」


「わかった、わかったから引っ張るなって。ホントこういう所はいつまでも小さい時から変わらないな」


俺は蘭が小さい時に絵本を読み聞かせた際、蘭が空を飛びたいと言っていたのを思い出しそういった魔道具があるかもしれないと蘭に言ってみた。そしたら蘭は目をキラキラさせて俺の腕を引っ張り宝物庫へと歩き出した。魔王城の時は魔王を倒す前に宝物庫を見付けて、蘭が興奮してかなり長居して魔王を待たせちゃったんだよな。心なしか魔王イラついてたしな。今回は早めに切り上げないと朝になりそうだ。


さて、どんな魔道具があるのか。 リッチエンペラーがアレだったから期待しちゃうな。どうか生体研究系のグロい素材とかじゃありませんように。


俺は大きな期待と少しの不安を胸に、蘭と共に宝物庫へと向かうのだった。





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