第63話 汚名






ーー 永田町 首相官邸 内閣総理大臣 東堂 勇 ーー






「そうか! とうとう森フィールドも日本のみでやったか! 」


「はい。Light mareの手助けなしに日本国のみで中世界森フィールドを攻略致しました」


12月に入り厳しい冬がやってきた頃。官邸で真田と一緒にドワーフの鍛治士より得た技術で作られた魔導ストーブに餅を乗せて焼いていると、武田防衛大臣が方舟の攻略状況の報告をしにやってきた。

それはここ一週間ほど攻略戦を行っていた中世界森フィールドを攻略したという朗報だった。


「佐藤氏からは様々なアイテムを供与してもらっているので独力とは言い難いが、それでも彼らの参戦なしに中世界を攻略できたことは大きな前進だ」


「はい。攻略戦で散っていった者も浮かばれると思います」


「そうだな……今回もこれまでも多くの戦士を失った」


Light mareからは中級魔導結界盤と魔誘香の提供を受けた。これにより小型ヘリを飛ばすことができ、魔物を陣地を構築している場所に誘導し有利に戦えるようになった。この二つのアイテムは厳重な管理をすることと、戦争に使用しないことを条件に譲ってもらうことができた。


確かに他国に奪われればそのまま日本軍が大打撃を受ける諸刃の剣だ。譲ってもらった5個の魔導結界盤には遠隔自爆装置も付け、最悪の状況にも備えている。魔誘香も常に使用した数と在庫の照合をすることになっている。

それにしても以前、Light mareによる連隊の訓練時に、そのまま中世界草原フィールドを攻略した際は死者は出なかった。しかし日本軍だけで攻略となると、アイテムにより有利に戦えたというのに犠牲を出してしまった。改めて彼らの存在の大きさを感じる。


10月の終わり頃に攻略を再開した我々は、国際救済軍が軍の再編成をしている間に破竹の如く未攻略の小世界山岳フィールドおよび海、砂漠と攻略をしていった。

途中整備と休息を挟み連合国であるインドとアラブの攻略戦にも援軍として参戦した。そして攻略した小世界のフィールドは日米欧英連合時の愚を繰り返さないよう、各国それぞれで管理する事にした。


議員の中には日本が圧倒的に強いのにインドとアラブ神国と攻略フィールドを均等に分けるのはどうかという意見もあるが、末端の議員は佐藤氏がいつまでもいると思っているからな。

彼がいなくなった後の日本には助け合い信頼できる仲間が必要なのだ。


そもそも我々も佐藤氏が現れなかったら米欧英の奴隷国となっていた身分だ。驕って孤立してはならない。常に最悪の状況に備えることが必要だ。


「Light mareが現れてから小世界フィールドでの犠牲は無くなりなりましたが、中世界フィールドではその難易度からやはり犠牲が出てしまいます。前回の草原フィールドでは8名、今回の森フィールドでは17名が殉職いたしました」


「即死ばかりはポーションではどうしようもないからな……陣地を構築しての防衛戦でも犠牲が出るのはなんとかしたいものだな」


中世界フィールドは一個師団3000人で挑んでいるので1%以下の損耗率はかなり少ないと言える。インドとアラブ神国は実力が足らず不参加だが、彼らが参戦したらもっと多くの犠牲者が出るだろう。

連合国全体の能力の底上げが必要だ。


「倉木さんのパーティが奮戦してくれているのでこの数の犠牲で済んでいるのが現状です」


「倉木君か……この世界での佐藤氏であり、彼の力の一部を受け継いでいることから現在日本最強と言ってもいいだろう。しかしまさか佐藤 栄一氏の息子だったとはな。調査室長に聞いた時は驚いたものだ。因果なものだな。そのせいか戦い方が危ういとも聞いたな」


「あの件は日本軍の汚点でした。正しいことをした光一君の父親を軍は保身のために……なのにその息子に軍は救われて……師団長ほかあの件を知っている者は皆己を恥じ入るばかりだそうで……彼の戦い方に何も言う資格は無いと……」


「軍が行ったことを隠蔽したことで付いた父親の汚名を晴らしたいのだろうな。倉木君には詫びねばなるまい。俺と軍で頭を下げ真実を伝える機会を作ろう」


本来ならもっと前に詫びるべきだった。そうしなければとは思っていた。しかし日米欧英連合から脱退し国民が不安を覚えている時に、過去のとはいえ軍の不祥事を知られ不信感を持たれるわけにはいかなかったのだ。今なら……小世界に中世界草原フィールドを3つと中世界森フィールドを1つ攻略した今なら国民に軍が責められても国が混乱することはないはずだ。

すまんな倉木君……辛かったろうに国の都合で真実を伝えてやれなくて本当にすまん。


「はい。その方が軍のためにもなりましょう。話は変わりますが総理。新生オーストラリア国の件はどのようになっておりますでしょうか? 」


「ああ、それは真田が話を進めていたな。真田! っておい! それは俺の餅だろ! 」


「え? あ、ははは。ついつい美味しくて。え〜新生オーストラリア国を連合に加盟させる件でしたね。それはキッパリ断られました。彼の国は我が国との二国間の同盟を希望してました」


「やはりそうですか……」


「そうなのか? 連合に加盟した方が恩恵……いや、彼らの武力なら特に無いか」


「確かに師団長が装備を同じ物にしたならば我が軍より強いと言ってました。しかしそれより佐藤さんへの忠誠といいますか崇拝が凄いそうで……佐藤さんと交わした日本が困った時に力を貸すという約束を実行することしか考えて無いそうです。ですよね? 真田大臣」


「ははは。武田大臣のおっしゃる通りです。我が国が支援した物資の事もあるとは思いますが、大統領だけではなく側近も口を揃えて日本以外とは同盟を組むつもりは無いと。これは全国民の総意だとまで言ってました」


「おいおい全国民の総意かよ。しかし崇拝か……地獄のような生活から解放されたうえに鍛えてもらい、仇まで取らせてもらったあげくに中世界森フィールドの攻略まで手伝ってもらえれば神と思いたくもなるか。実際神の使いだしな」


俺だって絶望のどん底で日本を救ってもらえたんだ。拝みたくもなる。本人が絶対やめてくれと言うから拝まないだけだ。


「拉致事件の時は警察庁長官と共にえらい目にあいましたが、私も彼には感謝してます」


「ククク……よく生きて帰ってきたよな。Cランクになれて良かったじゃないか」


「笑わないでください。もう二度とあんな訓練は遠慮します」


長官も言っていたが、佐藤氏が悪魔にしか見えないような訓練だったらしい。武田大臣は59歳だったか? その歳でよく生きて帰ってこれたもんだ。俺はゴメンだな。


「まあ新生オーストラリアがそんなに日本を思ってくれてるならいいんじゃないか? 佐藤氏が日本を潰せと言ったらあっさり敵になりそうなのが怖いけどな」


「そこは我々が気をつけるしかありませんね。私は佐藤さんを敵にはまわしたくないです」


「ははは、確かにそうですね。それも込みで同盟を組むしかないですね。現状中世界フィールドの攻略ができるのは我が国と新生オーストラリア国しかありませんから」


「救済軍がおとなしくしていてくれないからな。いざという時の頼もしい味方だな」


救済軍とは不戦協定を結んでいるし、攻略の邪魔はしてはこない。が、上限人数いっぱいまでフィールドに兵士を送り込んでくるから魔物の数はかなり多い。救済軍も時間を稼ぎたいだろうから仕方ないが、前回の草原も今回の森もそのせいで攻略に時間が掛かった。

しかしLight mareが加勢した新生オーストラリア軍による中世界森フィールドの攻略の時は、救済軍はまったくいなかったらしい。グリフォンを見た瞬間に撤退したようだ。安全地帯は魔物に対しての安全地帯だからな。Light mareに殲滅されると思ったのかもしれん。実際そうなったかもしれないしな。


救済軍の主力は現在小世界フィールドに残しておいた海と砂漠フィールドにいる。インドとアラブ神国は草原と森を欲しがっていたからな。今後は日本は新生オーストラリアと攻略をしつつ、インドとアラブ神国の戦力の底上げもしなければならない。

そのためには倉木君の力が必要だ。早めに詫びるための日程を調整しなければならないな。











ーー 大島拠点 佐藤 光希 ーー






「光一が調子に乗ってる? 」


「調子に乗ってるというよりは焦っているようなのです」


「焦る余裕があるんだから調子に乗ってるんだろ? ギリギリで戦ってたら焦りたくてもそんな余裕ないからな」


「それはそうかもしれませんが、転移をモノにしてからとにかく多くの魔物を倒そうと前に出ていってしまって師団との連携がうまくいってないそうで……昨日の電話で夏美が心配してました」


「あの野郎……今回の森攻略で二桁の犠牲者が出たのはそれが原因か……いくら救済軍が嫌がらせでフィールドに兵士を置いていたとはいえ、陣地を構築した防衛陣形と師団の装備ならそうそう即死攻撃は食らわないはずなんだ。光一にやった範囲魔法があればなおさらだ。それをわざわざ外に飛び出して戦ってただ? 過信しやがって……それで光一は家にいるのか? いるならぶん殴ってくるよ」


あの野郎はどこまで昔の俺と似てるんだ。協調性が皆無じゃねえか!

命懸けの攻略戦だ。犠牲が出るのは仕方ないとはいえ、光一が防衛陣地に張り付いていれば犠牲の数はもっと減らせたはずだ。

自分のことばっか考えやがって!


「いえ、今朝から5日間夏美と玲さんを連れて森フィールドで特訓するそうです」


「三人でか? 師団は整備休暇中だろ? 魔誘香は渡してないし安全地帯を中心に狩ってれば問題ないとは思うが……無理しなきゃいいがな。いや、これも経験か……」


親父のことや恋人たちを守るためにと色々焦っているんだろうが、光一は強力な魔法を使えるとはいってもたかがAランクだ。渡した魔力回復薬もそれほど残ってないはずだ。まあこれも経験だな。一度痛い目にあわなければわからないこともある。特に俺みたいな馬鹿はな。


「心配ですね」


「かと言って止めてもまた同じことをするさ。離脱のスクロールは三人に渡してあるんだ、危なくなったら逃げるだろうよ」


「そうですね……」


帰ってきたら拳で説教してやらないと……俺と同じ経験をさせたくはないからな。

でも俺だからな〜、失敗しないとわからない馬鹿だから言い聞かせるのも骨が折れそうだ。



「ダーリンお風呂空いたわよ〜今日はお姉ちゃんの日でしょ? マット出しておいたわ。ごゆっくり〜」


「ああ、ありがとう。寝る時は凛だったよな? 待っててくれ」


俺が光一のこと考えていたら凛とシルフィに蘭とセルシアがお風呂から出てきたようだ。

今週は一人づつとお風呂に入って寝ることになってる。二人っきりで話したいこともあるしね。


「うん、待ってる。二人きりは久々で緊張しちゃうわ」


「今夜は寝かさないぞ〜」


「キャー食べられちゃう♪ 」


「あははは! 夏海、行こうか」


「はい! 」


さ〜て今日は夏海とお風呂でどんなマッサージのしあいっこをしようかな。あっ! 透ける水着を着せてするのもいいな。お風呂で着衣で……いいかも……

とりあえず毎回必ずいるマリーたちを適当なところで外に出して、そのあとにお楽しみだな!


この時すでに俺の頭の中には光一のコの字も存在していなかった。







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