第62話 仮面







ーー 方舟 中世界 森フィールド 新生オーストラリア軍 倉木 光一 ーー








「アハハハハ! 光一! なんかいっぱい釣れたから連れてきたぞ! 旦那さまに似てるんだから余裕だろ? 魔誘香そっちに投げるからな! ほらっ! 」


「え? 凄いスピードでなにか飛んできたと思ったらセルシアさん? 釣れた? は? え? な、なんだこれ! 」


「こ、光一なに? 魔物? セルシアさんがいっぱい釣れたって……」


「光一さん? え? ……魔力反応が……あ……ああ……」


「く、倉木さんいったいどうしたのですか? セルシアさんは何を? 」


「ぐ、軍団長! 北からハーピーの群れ700! ハーピークイーンの反応もある! 距離800m! 東から擬猿ぎざると思わしき反応1000!複数の王猿の反応もあり! 距離500m! さらに北東からトレントの反応800! こっちもジャイアントトレントの反応が複数ある! 距離1000m! 」


セルシアさん誘導雑過ぎだろ! こっちは1000人しかいないのに倍以上の魔物を引き連れてきやがった!

広場に出るか? いや、ハーピーがいる! 木を隠れ蓑に戦う方が有利だ。ならこのままここで……


「「「なっ!? 」」」


「だ、第一軍団北へ扇陣形を取れ!ハーピーから来るぞ! 盾隊は東から来る擬猿に備えろ! トレントは足が遅いから後だ! 」


「せ、セルシアさん連れてきすぎよ……」


「こ、光一さん私たちはどうしましょう? 」


「俺たちはこの先の広場に出て先にハーピーの数を減らす! ジェフリーさんは擬猿の対応を! 特に王猿には注意してください! 」


擬猿は森の木や葉どころか空や雲の色などに体毛を変化させて四方八方から奇襲してくる厄介な猿だ。しかも体長は人間ほどもありかなり素早い。新しく新設したという盾隊で守りながら削っていくしかないんだが、身体強化をした体長4mほどもある王猿がその盾隊を吹き飛ばしてしまう。


「ハッ! 王猿は優先的に仕留めます! 」


「すぐ戻ります! 夏美! 玲! 行くぞ! 」


「「はい! 」」


草原ならたとえCランクの魔物が倍来ようが足場も視界も良いから対応できるが、森でこの数はマズイ! 特に猿系は立体攻撃をしてくる。トレントが合流する前に片付けないとシャレにならん。


「もうすぐ接敵する! 夏美は木々を盾にヒットアンドアウェイで、玲は夏美の援護を遠距離からしてくれ! 『天使の護り』 玲はここから動くなよ? 俺は空で戦う! 」


「わかったわ! 」


「わ、わかりました! 」


「来たぞ! 『転移』……喰らえ! 『天雷』 」


俺は夏美と玲に指示をして魔誘香を広場へと投げ、それに釣られてやってきた上空のハーピークイーンが率いる群の前へ転移をして天雷を撃ち込んだ。



「ぐっ……お、落ちる……落ち着け大丈夫だ……『転移』……よしっ! もう一丁喰らえ! 『天雷』 」


できた! 空中で二連続転移成功だ! このまま空中で飛び続けて殲滅してやる!



「よしっ! うわっ! ちょ、まっ、待てって!くっ……て、転……無理! ぐああああ! 」


ハーピークイーンを墜落させ俺がさらにもう一度転移で上空に移動しようとした時に、取り巻きのハーピーが捨て身の体当たりをしてきて集中が途切れてしまい転移の発動に失敗してしまった。

俺はハーピーに剣を刺しつつもつれるように落下して森に突入し、枝を折りながら落下していった。


「うっ……くっ……なめるなぁぁぁ! 『天使の護り』 」


パシーン パシーン パシーン


「おわっ! とっとっ! 視界が狭いから戦いにくいな……でもさすが結界魔法だ。あの高さから落ちても無傷か……でも首が痛い」


光希に渡された革製のヘルムにバイザーがなにげに邪魔くさい……バイザーはマジックミラーみたいになってるし、鼻も半分近く隠れてるから玲に最初誰ですかとか聞かれたよ。

弱いうちは頭はしっかり守らないといけないと言われ、俺と夏美に装備をくれたのはいいんだけど、夏美は仮面舞踏会に出るような蝶のアイマスクと鉢金だけなのに、なんで俺はこんなに顔がほとんどわからないほどの重装備なんだ?

まったく……光希は過保護過ぎだよな。


「おっと! それより夏美のとこへ行かなきゃ! ……『転移』 」





「ハアァァァァ……ハァッ! 『闇夜の涙』 」


「夏美さん危ない! 『ファイアーフレイム』 ! 」



「ふぅ……玲さん助かったわ。木に隠れてたなんて……」


「夏美さん、森では奇襲がいつ来るかわかりませんから大技は控えた方がいいですよ」


「ええ、そうするわ。私もまだまだ未熟ね」


なんとか二人は大丈夫そうだな。それにしても結構倒したな、残りはここを通り過ぎて後方にいったか……


「ハーピーの残党が軍団の方に行ったぞ! 追撃する! 」


「ええ! 」


「はい! 」


ちっ……大技を使い過ぎた。不発もあったし残り魔力が少ない。これはキツイな……

俺は自分の未熟さゆえに無駄な魔力を消費してしまったことを悔やみつつ、軍団の援護に向かった。




「あれ? 結構ピンチじゃん! 」


「く、倉木さん! 王猿を! 」


「任せろ! 夏美! 行くぞ! 玲は援護を! 」


「はい! 『ファイアーウォール』 『ファイアーフレイム』 」


俺がジェフリーさんのところに駆けつけるとちょうど盾隊に王猿が体当たりをしており、隊員が数名吹き飛ばされていた。その隙間から陣形内に入ろうとする擬猿に対し、玲が炎壁で隙間を埋め炎槍で擬猿を次々と仕留めていった。


「喰らえデカ猿! うおおおおお! おらぁ! 」


《 ギッ! 》


「硬っ! 体毛が硬い! うおっ! 」


「光一! 『一閃』 ハアッ! 」


《 ギキィィィィッ! 》


俺は玲の放つ炎に紛れ一気に王猿の懐に入り、ミスリルの剣に魔力を込めてその腹部を一閃したが思ったよりも浅かった。

俺に腹部を斬られた王猿は痛みに一瞬怯みながらも、その豪腕を俺の頭上から振り下ろした。俺はそれをバックステップで避けようとしたが、夏美が間に入り王猿の腕を切り落とした。


刀すげーな!

しかし俺の場合は突き刺した方が良さそうだな。


「ナイスだ夏美! 押し切るぞ! 」


「ええ! 」


「いくぞデカ猿! 『雷竜牙』 」


《 ギィィィィィ! 》


俺は夏美に切断された腕を押さえている王猿に向かってミスリルの剣に付与された雷魔法を放った。

剣から飛び出した竜の頭はその顎門を開け、王猿の胴体に喰らいつきその身を焼いていった。


「夏美! 」


「シッ! そこ! 抜刀術『絶斬』 」


《 ギッ…… 》


雷竜の顎門に身を喰われ、雷撃により身を焼かれ動きを封じられた王猿に夏美が身を低くして近付き、鞘から刀を抜いたと思ったら次の瞬間には王猿の首が飛んでいった。


「相変わらず凄い斬れ味だな……」


「夏海に教えてもらったのよ。やっぱりお祖父様から直接教わった夏海は凄いわ。魔力の効果的な通し方も教えてもらったし、これで光一を守れるわ」


「男としては守りたい側なんだけどな」


「ふふっ、それは玲さんにしてあげて。私は光一を守りたいの。もう二度と光一の目と腕を失わせたりしたくないのよ」


「それは俺が弱かったからだ。俺はもっともっと強くなる! もう夏美に罪悪感なんて感じさせたりしない」


「光一……強くなりましょう」


「ああ、大切な人を守るために」


俺は夏美の女王様みたいな黒いアイマスクを見つめ、夏美は俺のバイザーに映る自分の顔を見たのか微妙な顔をしていた。

わかるよ、黒い革鎧に刀を差して鉢金を頭に巻いてるまではいいけどその仮面はないわ。

でもかなり高ランクの魔物の皮でできているらしくて防御力が高いらしいんだよな。夏美の身の安全のためだ。我慢してもらうしかない。


「光一さん! ジェフリーさんたちが苦戦してます! 」


「あっ! あっちにも王猿がいたんだった」


視界の隅ではジェフリーと数名の槍を持った兵士が別の王猿と戦っていた。確かもう一体いたはず……いたっ! 魔法隊と盾隊に囲まれて動きを封じられているみたいだ。さすがにみんな苦戦しているようだ。


「夏美と玲は盾隊のところへ! 俺はジェフリーさんに加勢する! 」


「「はい! 」」


トレントがもう近くまで来てる! 早く処理しなきゃ!










ーー 方舟 中世界 森フィールド 佐藤 光希 ーー






「セルシア! 2グループだけ誘導しろって言っただろ! トレントは余分なんだよ! 引き返してトレントの間引きをしてこい! 」


「うわーーーん! 旦那さまごめんなさい! 嫌いにならないでーーー! 」


「嫌いになんかなったりしないから早く行ってこい! 」


「ううっ……ごめんなさい……いってくる……」


「ったく、なにが俺に似てるから大丈夫だと思っただよ。相変わらず並行世界とか理解してねーのな」


さすがにあの数は光一はともかくオージーに死人が出る。大雑把というか相変わらず自分の考えで勝手なことをするよな。光一はまだ俺ほど強くないってのに。


「鏡の中の世界の主様だと伝えましたが、鏡の中には入れないと言われてしまって蘭は何も言えなくなりました」


「正論だ……正論だが世の中常識では考えられないことが起こるからな……セルシアも異世界から来たはずなんだが、アイツ地球に来たことも別の大陸に来たくらいにしか考えてないんじゃないか? 」


「それはいくらなんでも無いわよ。地球に来て15年くらいで異世界だって理解したわよ? それまでは里にそろそろ顔出さないととか言ってたけど」


「それでも15年掛かったのかよ……」


「さすがセルちゃんです」


「ふふっ、そこが可愛いのよね。コウと出会ってからは言うこと聞いてくれるようになったし、コウに抱かれてからはさらに従順になったしね。あの子男なんていらないとか言ってたのに、あんなに尽くすタイプだとは思わなかったわ」


「うふふ、セルちゃんも群れに入ってくれて蘭は嬉しいです」


「あ〜まあ可愛いやつだよな」


確かに愛し合ってからは俺に嫌われないようにと前よりもさらに従順になった。それでも単独行動をさせると俺に言われたことを3割くらい忘れて勝手なことをする。怒るとすがりつくように泣くからなかなか強く言えない。でもそんな姿が可愛かったりする。クソッ! 反則だろアレは!


「ふふっ、次はリムかしら? それとも紫音? リムには一族があるから通い夫になるわね」


「リムちゃんたちなら蘭は歓迎します! 紫音ちゃんも静音さんから相談されました」


「静音に? まあ彼女たちの気持ちには気付いてるさ。その辺は自然な流れに身を任せるつもりだ」


「イケメンが言うとカッコイイわよね。ほかのダークエルフの子もコウを狙ってるわ。でもダークエルフだけじゃなくてエルフの子も増やしてね」


「はい! 蘭も子作りがんばります! 」


「フッ……蘭とシルフィはできにくいからな。今夜も頑張らないとな」


イケメン(エルフ種限定)でモテるのはなかなか辛いもんだな。

でもダークエルフはともかく、妖精に近いエルフと人間は子供ができるまで数十年とか掛かる。神獣の蘭は人間より高位の存在だから何年掛かるか予想がつかない。つまりたくさんしなきゃいけないという事だ。


「コウは底なしだからほかの子が何人増えても安心できるわ。いっぱいしましょうね」


「主様なら群れを一気に大きくできると蘭は信じてます」


「世界最高の錬金術師だからな」


俺には古代調合大全書があるんだ。それに時戻しだってある。何人増えたって全員満足させてみせる。



「あら? 」


「出たな」


「う〜ん……これは鵺……ですか? 」


「ああ、一番厄介なのが出たな。光一なら大丈夫だと思うが一応行ってみるか」


「そうね、行きましょう」


「毒が心配です」


「そこまで強い毒じゃないけどな。動きが素早いからオージーたちが結構喰らいそうだ。『凛、夏海。ボスが出た。第1軍のところだ』 」


俺は凛と夏海にインカムで連絡を入れた。


『 わかったわ! 第2軍を連れて行く 』


『 わかりました! こちらは第3軍を連れて行きます 』


『 頼むよ。俺たちは先に行ってる 』



「さて、そろそろ魔力が切れそうな光一のケツを叩きに行くか」


「促進剤も回復薬も飲むの禁止にしたのは厳しいんじゃない? 」


「アイツは魔法の不発が多いからな。これも訓練だよ」


促進剤や回復薬を飲むと魔法の失敗が痛くなくなるからな。少しスパルタだが転移は早くモノにして欲しいしこれも親心だ。


「訓練ねぇ。あのヘルムに夏美さんのアイマスクは罰ゲームにしか見えないけど」


「こっちの世界のなっちゃんはかなり攻めてました」


「顔が割れる訳にはいかないからな。オージーたちには俺の存在がまだ必要らしい。光一には神の使いになってもらうさ」


「ふふっ、光竜教だっけ? コウが使徒様だものね。ふふふ……」


「言うな。これからは光一が使徒様になるんだ。せいぜい頑張ってもらわないとな」


「光一君は知らないんでしょ? コウも悪い人よね」


「知ったら逃げるだろうからな。俺のことは俺がよくわかってる。この世界には俺という抑止力が必要なんだよ」


俺がいなくなったと他国が知ったらロシアと米国がまた悪さをするだろう。覇権主義国家なんてそんなもんだ。だが、たまに顔を見せておけばおとなしくしているはずだ。光一には世界の抑止力になってもらうさ。

せっかく同じ顔なんだからな。


「ふふふ、それもそうね。光一君には頑張ってもらいましょう。世界の平和のためにね」


「使徒として、そして魔王としてな」


そう言って俺たちはお互いに笑みを浮かべながら光一の元へと転移をしたのだった。


「うふふ、二人とも昔みたいに悪い笑みを浮かべていて蘭も楽しいです♪ 」


蘭! 人聞きの悪いこと言うんじゃない!











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