第5話 ライトメア号






シルフィからギルドを設立したという話をされてから2週間ほどが経過した。

この間、シルフィと一緒に冒険者連合を辞めたセルシアとリーゼリットに、本部や支店からシルフィを慕って付いてきた20名ほどの事務員を受け入れ、会社ビルの1フロアー全てを使いギルドLight mareを発足した。


しかし発足はしたが仕事はない。俺たちは冒険者連合の依頼とかあんまりやらないからな。

普段はダークエルフたちが凛や新堂さんに必要な素材を指定されてダンジョンに取りに行く際に、そのついでに冒険者連合の依頼を受ける程度だ。あとは訓練のついでっていうのもある。

逆に俺が動くクラスの仕事を取ってきてもらっても困る。当分はダークエルフたちが受けれる仕事を取ってきてもらい、彼らが訓練を兼ねて消化していくことになるだろう。


受付のベテランや事務仕事のプロ集団、依頼の調査専門集団に新人研修や実技の教官などに来てもらっておいて申し訳ない限りだ。一応落ち着いたらうちの会社の業務を手伝ってもらったり、冒険者学園に教官として派遣しようと思っている。


しかしどういう訳か女性ばっかりだったな。以前セルシアの襲撃を受けた時に沖縄の離島に迎えにきていた、孤児院出身のシルフィが幼い頃から可愛がっていたという3人の女性は面識があるが、ほかの人たちは初対面だ。男は研修と実技系の数人しかいない。今後彼ら彼女たちには迷惑を掛けると思うから、せめて待遇だけでも冒険者連合より良くしておこうと思う。

それにしてもみんなシルフィやセルシアと働けて嬉しそうだったな。慕われてんだな。


こうしてギルドの設立でバタバタしているうちに飛空艇が納品され、待ちに待った女神の島の別荘の引き渡し日となった。

現在飛空艇はドラゴンポートのところに置いてある。納品された日は恋人たちと船内を見て回って大はしゃぎして楽しかったな。

その時にどうせなら女神の島の別荘が完成したら飛空艇に乗って行こうということになり、それまで飛空艇の乗組員たちには休暇を与えた。

そしてその間に俺とドワーフたちとホビットたちで飛空艇を魔改造しまくったんだ。


飛空艇の形は自衛隊と冒険者連合が所有しているものと同系統だ。基本的な形として全長100mある船の艦首にあたる場所の、全体の5分の1くらいの部分の上半分を削って甲板にしたような形をしている。そこからうちは積載量1000トンもいらないので、前方の倉庫部分を削りその分居住空間を増やしたんだ。

潜水艦の前方5分の1が操縦室と居住空間で、上部3分の2が飛空艇を浮かす為の気体と動力。下部3分の1が倉庫だと思ってくれればいい。そして飛空艇の最上部と最後部に監視所が設置されている。


前方にある操縦室と居住空間は5階建てになっており、最上階が操縦室と飛空艇クルー用の20室の部屋。それにクルー用の共同浴場があり、4階は客室30室と空間拡張した大部屋と共同浴場とラウンジがある。


1~3階が俺たちのプライベートエリアだ。ここには家具など一切設置していない状態で納品してもらった。

そして5日掛けて飛空艇全体をカバーできるように上級魔導結界盤を8個設置し、飛空艇の屋根部分に出て戦えるように足場を作り、落下防止のためのベルトとロープを各所に設置していった。

それからプライベートエリアに空間拡張の魔法を掛けて内装をいじり、家具を設置していった。


3階の半分を占めている大浴場にはウォーターベッドやらスケベイスやらを配置していき、風呂上がりに休むラウンジにもソファを設置した。

さらには大浴場と2階のリビングとキッチンから外が見えるように、外壁の一部を大カゲロウという10mはあるBランクの魔蟲の透明な羽を加工したものに変えた。この羽はかなり強度がある上に透明なのでガラス代わりによく使うんだよね。当然外から見えないようにコーティングをしてある。

これで大浴場で夜空をバックに恋人たちを一列に並べ、窓に手をつかせて後ろからみんなのお尻を眺めながらよりどりみどりで……楽しみだ。


そして一階の15室ある拡張した俺たちの部屋と、マリーたちの部屋にも次々と家具を配置した。

俺の部屋にはキングサイズのベッドを2つ置いてある。なんのためかって? ナニのためだよ。

最後に転移室を作り横浜の自宅に繋がるゲートの魔道具を設置した。これで凛やシルフィに夏海は会社で何かあった時にいつでも行ったり来たりできる。転移の魔法では、視界外にあり移動中の飛空艇には転移できないからね。


こうして完成したオリジナル飛空艇を、研究室でこもっているアンネットを連れ出して見せたんだ。

そしたら言葉が出ないくらい驚いたあとに大笑いしていたよ。改造するってのは聞いていたけど、まさか上級魔導結界盤を設置するとは思ってなくて、さらには空間拡張で部屋を広げることも、お風呂の外壁を透明にしてスケベイスとベッドを置くなんてって笑われたよ。若いねぇだってさ。アンネットも見た目は若くなってるのにな。


大浴場を見せた時にアンネットが空を飛びながら夜景を見てお風呂に入るのは気持ち良さそうだと言ってたから、冗談で一緒に入るか? って聞いたら、それもいいねえとか返されて焦って冗談だと言う羽目になったよ。なんだい冗談かいとか笑われたのがちょっと悔しい。まあ、俺なんて子供扱いだったな。これが子育てまで経験した女性の余裕かと思った。

こういう年上の女性っぽい人もいいよな。実際年上なんだけどな。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



一緒に別荘へと向かうのは恋人たちと紫音に桜、そしてマリーほか11人のオートマタ全員だ。アンネットは研究に忙しいそうで今回は同行しない。落ち着いたら別荘に連れて行ってやろうと思う。別荘にも研究室を作ってやれば来るだろう。


俺は彼女たちを連れて家を出て、既に朝早くに出勤して出航準備をしているクルーたちが乗る飛空艇へと向かって歩いた。


「それにしてもダーリンとガンゾさんたちの改造には呆れたわ。まさか外壁を透明にするなんて思わなかったわ」


「ふふっ、あの鏡になっている部分よね? 早く夜空を見ながらコウとお風呂に入りたいわ」


「女神の島まで30時間ほどかかるからゆっくりできそうね」


「冒険者連合の飛空艇と同じで外にも出れるから気持ちよさそうだよな。旦那さまと夜の散歩ができるよな」


「蘭はあの大きなギルドの紋章がお気に入りです。早く女神の島にいる冒険者の人たちにお披露目したいです」


「紫音、なんというか私たちダークエルフにぴったりの紋章だな」


「……うん、聖剣の周りを包み込む闇はネルに違いない」


「確かに黒い船体にしたのはそういう意味も含んでいる。それにしても紋章は黒地に白抜き文字だから目立つな」


そう、飛空艇の大きな船体にはLight mareの紋章が描かれている。紋章と言ってもシンプルなものだ。

まず俺たちの飛空艇は自衛隊や冒険者連合のような白い船体ではなく真っ黒にしてもらった。そこに白抜きで大きな曲がりくねった2本の角と、その中央の地面に聖剣が突き刺さっている。光の剣と悪魔をイメージしたシンプルなデザインだ。

装備や看板とかには金の刺繍で角と剣、そして剣の刺さっている場所から左右に月桂樹の葉を描くらしい。恋人たちが楽しそうに色々とデザインしていたよ。


まあ俺たちは人間と魔族の混成パーティだからこういうデザインになった。リムたちなんて感激して凄く喜んでいた。魔王軍の紋章とか言ってたけどそこはスルーしておいた。なんか旗を発注していたが、それも見なかったことにした。



♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢



「ノーラ艦長、早い時間から悪いな」


「とんでもございません。休暇までいただいて感謝しております」


「ロザリーはリアラの塔にみんなを連れて行ってたんだってな? 」


「ハッ! 勇者様のもとで働かせていただく以上、少しでも強くなっておかねばと力の塔に各自で挑みました! 」


「会社の寮で休んでたらいきなり連れていかれたニャ! 操船訓練がやっと終わって渋谷で買い物しようとしてたのに散々だったニャ! でも勇者様の家と女神の島が繋がっていてびっくりしたニャ! サリーたちいらないニャ! 」


「なっ!? サリー! なんということを勇者様に言うのだ! 」


「いいんだロザリー。サリーたちにはギルドの輸送部隊として仕事はたくさんある。しばらくは女神の島とロットネスト島への資材の運搬業務になるけどな。世界最強のギルドの一員として常に周囲から注目を浴びるからしっかりやって欲しい」


「わかったニャ! このライトメア号に襲い掛かってる者たちは魔物でも人族でも皆殺しにするニャ! 」


サリーは元気いっぱいだな。リチャードのところのミリーもそうだけど、猫人族ってのはサッパリしていていいよな。


飛空艇の前に整列しているクルーは全部で30名いる。全て女性の獣人だ。

自治区でクルーを募集したら多くの人から応募があり、その中からシルフィに選んでもらって既存の連合の飛空艇で半年近く訓練してもらい、その後に完成した俺たちの飛空艇で初航海を終えたばかりだ。


艦長には羊人族のノーラが就いている。白い肌に白い髪で頭部からは羊の角を生やし、肉付きの良いふっくらとした体型で癒し系の女性だ。彼女はとても勤勉で人徳がある。日本生まれで確か40歳だったと思う。元Cランク探索者であり既婚者で、夫は政府の飛空艇クルーをしている。子供は確か2人いて、どちらも成人して冒険者連合の支店で事務員をしていると言っていた。


ノーラの補佐には狼人族のロザリアを任命した。本人がロザリーと呼んで欲しいというからそう呼んでいる。彼女も日本生まれの21歳で元Cランクの探索者だ。俺のところで働くために探索者を引退してきたそうだ。見た目は美形だがかなりキツめの顔立ちをしている。睨まれたら怖そうだ。

ロザリーの背は160cm半ばほどで、日に焼けた肌と濃いめの茶髪に茶色い尻尾が特徴だ。胸はシルフィと同じくらいかな。足が長くモデルというよりアスリート体型だと思う。

とても真面目な子なんだが先祖が勇者のパーティにいたらしく、勇者の物語が大好きらしい。そしてシルフィから彼女は隠れアニメファンでもあると聞いていた。面接でシルフィと意気投合したそうだ。まあそういうことだ。


そして迎撃隊長には猫人族のサリーを任命した。彼女はロシアで救出した人たちの一人で、祖母が当時俺と蘭をリーゼリットのところまで案内してくれたニーナ婆さんだ。両親は他界していて婆さんと二人暮らしをしながら探索者としてロザリーと同じパーティで稼いでいたらしいが、今回の募集に飛びついてロザリーとほかのパーティメンバーごと探索者を辞めてきたらしい。

どうやらずっとうちから戦闘系の仕事の募集があるのを待ってたそうだ。

サリーはまだ18歳と若いが、短期間でCランクにまで駆け上がった実力者だ。黒い髪に黒い尻尾でとてもちっこい。145cmくらいじゃないかな? ニーチェよりちょっとあるくらいだ。でも胸はホビットのニーチェより小さい。サリーとニーチェは会わせたらいけない気がする。


ほかにも熊人族に犬人族、鼠人族に狐人族と色んな獣人がいるが、艦長を除けば全て18~25歳くらいだ。みんな耳と尻尾がソワソワしていて可愛い。ケモミミパラダイスだな。

それにしてもここにいる全員が地球生まれの異世界人なんだよな。不思議な感覚だ。



俺は彼女たちの履歴を思い出しながら、皆を連れて飛空艇のタラップに乗りエレベーターホールへと向かった。そしてクルーたちは4階と5階行き専用のエレベーターに乗り、俺たちはプライベートルーム専用エレベーターに乗って2階のリビングへと向かった。


リビングへ着くとマリーと紫音たちは分かれてそれぞれが俺たちの世話の準備を始めた。

最近は桜とマリーたちは一緒に新しい料理を創作しているらしく、とても仲が良いように見える。紫音は大浴場で蘭とマリーたちと何かを練習しているらしいが詳しくは聞かなかった。蘭が絡んでるなら何をしているのか予想がつくからな。

蘭はリムたちサキュバスが先祖代々受け継いでいる秘伝の房中術をマスターしたらしく、シルフィや凛に夏海、そしてセルシアに伝授をしていた。明らかに夜の奉仕がバージョンアップしていたから、俺も薬を飲まないと保たなくなってきている。みんなの口や舌の動きや下の動きが最高に気持ちいいんだが、精力剤が無かったら俺はとっくにこの世にはいなかっただろう。錬金術を使えて本当に良かったよ。


『それでは当艦はこれより女神の島へと出港致します』


リビングでマリーの淹れてくれたコーヒーを飲んでいると、艦内放送が響き渡り飛空艇がゆっくりと上昇していった。するとリビングから見える景色に俺たちの敷地全体が見えて、そこでエメラに踏まれているクオンの姿を発見して皆で笑いながら横浜を後にした。




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