第6話 女神の島の別荘






 ポーーーン♪



『当艦は30分後に女神の島へ到着する予定です。下船の準備をお願いいたします』


「予定通りだな」


「途中遭遇した嵐を結界を張って対応したのは驚いたけど、そのおかげで遅れることなく到着したわね」


「あんな結界の使い方は冒険者連合でもしないわよ。消耗品の魔石じゃなくて魔結晶を使ってるからできる技よね」


「飛空艇の魔導結界盤の魔石は効果範囲を広げた分、消耗が早いですからね」


「個数を増やして範囲を狭くしても発動するための人員が増えるし、結局交換する魔石の数は増える。その辺が俺の今の技術では今後の課題だな。アンネットが増幅の魔法回路を結界にも転用できないか研究中だからそれ待ちだ」


 魔力をケーブルを通して発動するには距離があり過ぎて無理だしな。ならば効果を増幅するのが一番いい。

 アンネットはひと通り古代書を読み漁っていたが、彼女が作りたい集束の魔法回路を作れるほどの資料は俺の持つ古代書には無かった。まあ元の持ち主が生体ゴーレムを造る研究をしていた奴だからな。研究のジャンルが全く違うから所有していた古代書も偏っているのは仕方ない。金属の錬金や薬草などの調合なんかは俺は助かっているけどな。

 それでもヒントとなる資料はいくつかあったようで、結界の塔を作る研究と並行して研究してくれている。

 結界の塔に使えるほどの増幅の魔法回路ができれば、今後は低コストで魔導結界盤を作れる可能性が出てくるから、アンネットにはかなり期待している。


「あっ! 見えたわ! 別荘よ! ちゃんとドラゴンポートも飛空艇乗り場もあるわ! 」


 リビングから女神の島が見え、そこには西海岸にある俺たちの別荘と併設されているドラゴンポート、そして別荘から南にかなり離れた場所にある飛空艇乗り場がはっきりと見えた。


「海岸沿いに南の港と繋がる道路もちゃんとできているな。これならまた追加で増築する時は飛空艇だけではなく、普通の船で資材を運ぶことができそうだ」


「今後は道路に監視用の人を配置しないといけなくなるわね。一応ゲートっぽいのもあるみたいだけど」


「山には魔物を放ち、道路を塞ぐゲートには引退した冒険者を雇って配置する予定だよ。それまではダークエルフが交代でいてくれることになっているんだ」


「え? 魔物を放つの!? それは大騒ぎになりそうね」


「創造で造った魔物だし、人のいるところには行かせないさ。騒いだ奴がいるとしたらそいつは不法侵入者の生き残りだな。逃げ場のないこの島なら簡単に捕まえられる」


「それもそうね。どっかの国の兵士とかならその国を出禁にすればいいだけね」


「一気に人口が増えたから侵入者は増えそうよね」


「南の海岸沿い以外はリアラの塔からは山を越えないと来れないからな。生きて返すつもりは無いさ」


 確かに加盟国以外の軍人を受け入れるようになってから、来島者が一気に増えた。皇グループが経営する歓楽街の治安も悪化してきたと聞いている。まあ今は仕方ない。受け入れないと各国がうるさいからな。受け入れた上で問題ばかり起こす国は出禁にすればいい。

 それにもしも罪を犯す者がいれば、この島の中心にあるリアラの塔から東と南の港までの範囲は冒険者連合の法が適用される。冒険者連合の法は、基本的にダンジョン内での犯罪に適用される法だから厳しくて有名だ。罰則は罰金と停職と除名に懲役と死刑があるんだが、冒険者連合の懲役刑は特殊だ。連合加盟国の懲罰用の隔離されたダンジョンに、毎日のように挑まされる。まあ強制労働だな。中級ダンジョンとはいえ、良い装備なんて使わせてもらえないから懲役1年以上は死亡率が高い。死刑と同じようなものだ。


 そしてリアラの塔より西と北はLight mareの土地だ。この土地は主権国家の土地でもないし、買ったわけでもない。女神の島の攻略報酬として、冒険者連合加盟国の承認を得て俺たちLight mareが取得した土地だ。

 女神の島の土地の所有権利としては冒険者連合と同じということになる。つまりこの土地で冒険者連合の法は適用されない。その代わり冒険者連合が警備する義務も無い。

 結果として不法侵入者には俺たちで対応することになっている訳だ。

 Aランクの魔物を筆頭に大量に山に放って、そこらの上級ダンジョン並みに危険な山にしてやるさ。


 空への対応は番人として創造したグリフォン3頭を、既にダークエルフの里の近くに配置してある。今日から別荘の方もパトロールをさせる予定だ。今までは工事業者を驚かせないようにダークエルフエルフの里と砦の上空だけをパトロールさせていたけど、これからはこの別荘も守らせる。


 地上にある家の周りには死霊系でも放つか? いや、恋人たちが怖がるからやめておこう。別荘がお化け屋敷になったら落ち着かないしな。

 蘭が飼いたいと言っていたAランクの白狼王を10頭ほど放っておくか。背中に乗って浜辺を散歩するのもいいしな。



「別荘の周辺を魔物に守らせるって、ダーリンはだんだん魔王みたいになってきたわよね」


「ふふっ、凛の言うとおりね。多くの魔物を従えて人族の侵入者を狩り続けたら、この別荘はそのうち魔王城とか呼ばれるわよ? 」


「ふふふ、光希は勇者であり魔王でもありますから」


「蘭がとうとう四天王になる日が来ました」


「蘭! あたしもいるからな? 5人だからな? 五天王にしてくれよな! 」


「五天王はなんだか聞いたことがないです。五魔将にしましょうか? 」


「おい! 魔王になるの前提で話し合うな! そういう能力を手に入れちゃったんだから仕方ないだろ。便利なんだし。ようは魔物も使いようだ。計画的に無理なく使えばいいんだよ」


 凛のやつめ、あえて気付かないフリをしていたのに……


「ダーリンが計画的にねえ……やる時は開き直って豪快に使いそうよね」


「コウは昔からめんどくさがりだから、いつかきっと魔物の軍団を作って人族の国に攻め込ませるに違いないわ」


 そんなことしねーよ! 好奇心で古代竜にケンカ売るシルフィより俺はまともだ!


「蘭は五魔将で最弱……蘭を倒しても次のセルちゃんがきっと……」


「蘭を倒した奴にあたしが勝てるわけないぞ!? 無茶振りだよな! 」


 蘭はなんの練習をしてんだよ……蘭が負けるような相手とか俺でも相手したくないぞ?


「あははは! 蘭ちゃんが最初に相手する時点で私は戦わなくて済むわね」


「いきなりラスボスにあたるようなものよね」


「蘭ちゃんがいるダンジョンとか絶対に攻略しに行きたくないわ」


「俺も嫌だな……」


 ヘタしたら魔王と戦う方が楽かもしれない。



 俺たちがそんな馬鹿話をしているうちに、飛空艇は別荘の南の発着場に着陸した。

 俺は昼食の片付けをしていた紫音とマリーたちを呼び、飛空艇から外に出て転移で別荘の前まで移動したのだった。


「きゃー♪ セレブの豪邸みたい! 」


「前に来た時はあちこちシートで見えなかったけど、こうやって完成したのを見ると凄いわよね」


「ここでみんなと休暇を過ごせるなんて楽しみですね」


「すげーー! 屋上のプールから庭のプールまでウォタースライダーが通ってる! 」


「うふふ、あれは蘭が主様にお願いして付けてもらったんです」


「凛と夏海が欲しがっていたジェットスキーもビーチにある格納庫に入っている。シルフィのバギーもな」


 別荘の前に転移した俺たちはまずその外観を色々な角度から見て回った。

 この別荘は海岸から300mほど離れた高台にあり、鉄筋コンクリート造の地下一階地上二階建てとなっている。二階建てとはいえ天井の高さをかなりとっているので、実際は4階建くらいはあると思う。

 壁の部分はほとんどが強化ガラス張りだ。

 ビーチや飛空艇乗り場からは曲がりくねった長い坂を登ってくる必要があり、門を潜り敷地に入るとすぐに大きなプールがある。そしてその向こうに外から中が丸見えになっている別荘がある。

 この窓にはスイッチ一つで黒いブラインドが瞬時にかかり、中が見えなくなるから覗かれる心配はない。

 そして別荘の右手側にはドラゴンポートと倉庫、左手側にはテニスコートを作った。


 俺たちはプールを迂回して玄関に入り、一階の100帖はあるリビングとドリンクバーと大型のキッチンを見て回った。

 リビングにはいつでも映画が観れるようにシアターセットが設置されており、ビリヤード台と複数配置されているソファに壁には超大型のテレビが設置されている。一階にはリビングと繋がっているスポーツルームもあり、各種ジム機材とスカッシュができるスペースもある。メイド部屋もこの一階だ。

 二階は30帖ほどの俺たちの部屋が20室と、大浴場とラウンジがある。


 最後に屋上には露天ジャグジーとプールがあり、このプールから一階のプールはウォータースライダーで繋がっている。ウォータースライダーは敷地の外にまで膨れていて、思ったより距離が長そうだ。一度使うと外階段で登らないといけないのは遊園地と同じ仕様だけど、うちの子たちは転移で戻ってくるだろうな。



 そしてひと通り別荘を見て回った俺たちは、リビングでアイスコーヒーを飲みながら窓から海を眺めてくつろいでいた。


「やっぱり別荘っていいわ〜。綺麗な海を毎日見ながら露天風呂とか最高よね」


「ずっと安心して海で遊べればいいんだけどね。今のうちにめいっぱい楽しんでおかないと」


「海底ダンジョンですか……まだ前兆はないのでしばらくは大丈夫そうですが」


「海の魔物は戦いにくいので蘭は苦手です」


「確かになー、海の魔物が出てきたら落ち着いて遊んでらんないよなー」


「まあ40年以上現れてないからまだ大丈夫なんじゃないか? それまでに安心して海で遊べるように対抗策を完成させておくよ」


「え? コウは対抗策を用意してたの? 網とかじゃ無意味よ? 」


「大丈夫だ。なんとかできる」


 結界の塔さえできれば問題ない。最悪それまでは聖魔法の『聖域』を全力展開すればビーチで遊ぶ範囲内なら魔物の侵入を防げる。その前にスーに範囲内の魔物を片付けてもらわないといけないが……

 しかしイマイチダンジョンが出現するタイミングがわかんないんだよな。


 ダンジョンは既存のダンジョンが増殖した物以外に、突然現れた新規と思われるダンジョンが毎年3つは世界中で見つかっている。中華大陸やオーストラリア大陸にアフリカ大陸は、地上に魔物がいるためダンジョンの増減が確認できないから実際はもっと増えていると思う。

 異世界にあるダンジョンの総数なんて数えたことがないからわからないが、最上級ダンジョンが無いことからまだ全てのダンジョンがこっちに来ていないのは間違いない。


 もしかしたら海底ダンジョンが既にあり、氾濫していないから海に魔物がいないだけの可能性もある。

 こういうのはいつ現れるのか考えたって無駄だ。現れた時のために対策しておけばいい。飛空艇だってそのために建造しているわけだしな。


 まあ今はそんなことより恋人たちに紫音と桜とで、ビーチでキャッキャウフフを楽しまないとな。


「さあ、まだ昼を回ったところだしみんなでビーチで遊ぼう! 紫音に桜にマリーたちも一緒だ! さあさあ着替えて着替えて! 」


 俺はみんなに水着に着替えるように促し、恐らく用意していなかったであろう紫音と桜とマリーたちに俺が用意した水着を取り出して渡していった。紫音と桜にはTバックの露出面積の多い水着を。マリーたちには一度着せてみたかった競泳水着とスク水を用意してある。


 水着を受け取ったマリーが、Tバックではないのですね……マスターは食い込みがご所望。とか言っていたがその通りだ。お尻の部分が片方だけ食い込んでいるとかそういう自然なのを見たいんだ。いいか? 決してわざとTバックにするなよ? と、俺はマリーたちに目で訴えかけた。

 全員無表情だったが、口元が少し緩んでいたからきっと伝わったと思う。こういうのは俺が言葉にしてやらせたらダメだ。あくまでも自然を装ってくれないとな。


 それさら俺自身はとっとと水着に着替え、全員が着替え終わるのを外のプールで待つことにした。

 今日は楽しくなりそうだ。





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