7話






「よーしみんなもう地上に戻ろう」


「はーい!お姉ちゃん蘭ちゃん行こ〜」


「あらもうそんな時間?」


「今日はあまり魔獣に会えませんでしたね、蘭は不完全燃焼気味です」


「ちょっと間引きし過ぎたかもな、今度はフィールドタイプのダンジョンでも行こうか」


「あっ、それいいかも!もう薄暗いダンジョンは飽きてきたもの」


「私もフィールドタイプのダンジョンは好きですね、魔獣は強いですが戦い甲斐があります」


「蘭も思いっきり走り回りたいです」


俺達は今、沖縄本島のダンジョンに来ている。ここの所魔獣を狩り過ぎたのか中層までの魔獣がめっきり減ってしまった。自衛隊は喜んでいるが鬼系の迷宮ダンジョンなので素材も美味しくないし俺もそろそろ飽きがきていた。

迷宮タイプのダンジョンは狭いので蘭も思いっきり身体を動かせなくて欲求不満気味だしな、宝箱があるうちは宝探しをして楽しかったがそれもあらかた取ってもう無い。

なのでフィールドタイプのダンジョンに行こうかと提案してみたら中々食い付きが良かった。


「そうか、なら福岡の竜系フィールドダンジョンでも行くか」


「あそこって40年前に氾濫があってドラゴンが外に出て来たダンジョンでしょ?」


「ああ、南九州の島にいるらしいね。氾濫でガーディアンが出てくることは無いから外に出て来たのは一番強くてもSランクの中位竜だろうな、確か火竜だったかな」


「Sランク竜!?よく今まで九州無事だったわね!」


「竜は滅多に動かないからな、外なら魔脈に近い山とかで魔素を取り込みじっとしているさ。食事もたまに飛竜喰うくらいだしあまり活動的じゃないんだ。大勢人間が押し掛けたりして眠りを邪魔しなきゃ特に被害は無いよ」


「確かに外に出てくるのは飛竜だけとは聞きました。それも数が増えて被害が年々大きくなってるとか」


「繁殖期に餌をやってりゃそりゃ増えるさ、飛竜は蘭が狩るの得意だから今度竜狩りにでも行くか?シルフィーナの手助けにもなるしな」


「え?蘭ちゃん空中戦得意なの!?」


「狐の神獣ですよね?」


「うふふふ、はい」


「蘭は神狐の姿になるとジャンプ力が凄いんだ、飛竜程度ひと噛みひと燃やしだな」


「蘭ちゃん凄い!神狐の姿とか一度見てみたい!5~6メートル位になるんでしょ?」


「蘭の神狐の姿は美しいよ、人型の蘭も美しいけど何というか次元が違うというかそう神々しい美しさなんだ」


「主様…嬉しいです」


「ほえ〜そんなに…さすが神獣なのね。確かにこの尻尾と耳は綺麗だし触り心地最高だしハマるわ」


「凛ちゃん光希に最初あまり触ったら駄目って言われてたでしょ?」


「うふふふ、凛ちゃんとなっちゃんならいいですよ」


「やったー!もう家族みたいなものだしね!」


「蘭ちゃんそう言ってくれてありがとう」


「よしっ!じゃあ今度南九州の飛竜を狩りに行くか!シルフィーナに許可取らないとな」


「さんせー!竜退治なんて冒険者の憧れよね♪」


「まさか飛竜と戦えるとは…もっと腕を磨いておかないと」


俺達は冒険者になると誰もが憧れる竜退治の話をして盛り上がりつつエスケープの魔法を発動し地上へと戻った。

離脱球を自衛隊に卸してからこの魔法が使いやすくなったのは良かったな。


地上に出るともう夕方になろうかという時刻で、何処かで夕食でも食べようかなと思っていたら地上に出て電波が入るようになった携帯にメールが立て続けに届いた。

シルフィか冒険者連合からかなと確認してみるとその両方からだった。

俺は皆に冒険者連合の換金窓口で魔石の換金を頼みシルフィのメールを確認した。



《光希様 貴方が好きです 勇者様だからではなく 強く優しい貴方が好きです》



俺は胸が苦しくなった…シルフィの言葉が俺がいたアトランの世界で亡くしたシルフィに言われた言葉そのままだったからだ。


気が付けば涙が頬を伝っていた…


俺も好きさ、嫌いなはずが無い。アトランであれだけずっと一緒にいてあれほど愛した女性と同じ女性だ。

でも俺の愛したシルフィは死んだ。

だからはじめはこの世界のシルフィーナは同一人物のように見えて全く違う女性だと強く思うようにした。

だけどそう思うようにしてもこの世界のシルフィーナは死んだシルフィと考え方や仕草や言動が似過ぎていてどうしても重なってしまう。好きになってしまう。

これはどちらの世界のシルフィにとても失礼な事だ。

彼女は俺が愛したシルフィを知らない。それは当たり前だ。でも俺は俺が愛し守れなかったシルフィとこの世界のシルフィーナを重ねてしまう、俺が愛し失ったシルフィとの恋愛の延長として見てしまう。

これはダメだ、俺が愛し失ったシルフィが俺の中からいなくなってしまう。それは耐えられない。


俺は彼女が最後に残した日記と精霊石をいつのまにか握りしめていた…


シルフィーナごめん君の気持ちには応えられない…


「主様?」


「ダーリンどうしたの!?」


「光希!どうしましたか!」


俺が俯き立っていると換金を終えた恋人達が戻って来た。心配させてしまったようだ。

蘭だけは俺が持つ日記と精霊石の意味が分かったのかそっと俺の手を握ってくれていた。


「ああごめん、ちょっと昔を思い出しちゃったみたいでみっともない姿見せちゃったな。あはは」


「主様…蘭はずっと側にいます。いなくなりません」


「ダーリン…いいの、辛い時は泣いていいの。私も支えるから…」


「光希、私はもっと強くなります。貴方を支えられるよう貴方より先に死なないよう強くなりますから…」


「…ありがとう。今度俺が愛し失った恋人の事を2人に話すよ」


「うん、話して…ダーリンの事をもっと教えて、そしてもっと頼って」


「私も聞きたいです。貴方の苦しみを知り分かち合いたいです」


「本当に俺にはもったいない子達だよ。凛と夏海に出会えて良かった」


「やだダーリン凄く嬉しい…私もダーリンに出会えて幸せよ」


「光希嬉しい…貴方はもう私の全てなんです。もっと頼って甘えてください」


「じゃあ今夜ベッドで2人にはいっぱい甘えさせてもらおうかな!」


「もうっ!ダーリンは本当にえっちなんだから!でも今日はなんでもしてあげるわ」


「私もなんでもします。また後ろを使って頂いても…その…はい」


「あらあら、なっちゃんたらもうそこまで?」


「え?後ろ?何?なんの事?」


「あははは、何でもないよ。さてみんなでご飯でも…あ、ごめん電話だ」


俺を一生懸命支えようとしてくれる2人に感謝しつつも照れくさくなりついつい下ネタに走ってしまった。

そこから凛に色々突っ込まれそうな時にタイミングよく電話が掛かって来た。


「はい佐藤です」


《佐藤さん良かった繋がった!メールは見て頂けましたか?》


「あ、谷垣さんご無沙汰してます。すみません今さっき沖縄のダンジョンから出てきたばかりでしてまだ確認してません。どうかしましたか?」


《そうでしたか…実は南九州の桜島に無断で竜の討伐に行った冒険者達を連れ戻す為に理事長がセルシアさんを連れ行ったのですが…先程衛星にドラゴンが活動している映像が出たと自衛隊から連絡が来たのです》


「シルフィーナとセルシアがですか!?」


《ええ、飛竜だけなら32匹いるとは言えあの2人とAランクパーティもいますし何とかなるとは思うのですがそこにドラゴンとなると心配になりまして…理事長を失う訳にはいかず佐藤様に救援をお願いしたいのです》


《すぐ向かいます。那覇の自衛隊に協力要請をしてください。オスプレイでお願いします」


「ありがとうございます!すぐに手配します!何かとご負担をお掛けしてる佐藤様にこれ以上はと理事長に止められていたんですが申し訳ございません》


「シルフィーナの命に関わる事は今後一切遠慮しないでください。では那覇へはすぐ着きますので」


冒険者連合の副理事長の谷垣さんからの電話の内容は俺に嫌な予感を感じさせるものだった。

シルフィは後衛だ、単独ではドラゴンと戦えない。前衛にセルシア一人ではいくら中位竜相手でも少し厳しいだろう。最初から竜化すればそこそこ戦えると思うがセルシアは竜化であんな姿になったばかりだ、躊躇う可能性もある。そしてその躊躇いが原因で死ぬ可能性もある。前衛がいなくなればシルフィーナも同じ運命だ。

俺の中でシルフィを失ったあの時の記憶が強く蘇ってきた。


「蘭、凛、夏海!シルフィーナとセルシアが危ないんだ事情は後で説明する!那覇へ行くぞ!」


「え!?理事長達が?わかったわ急ぎましょ!」


「シル姉さんが…主様すぐに!」


「理事長達が!?行きましょう!」


俺は3人を連れ建物の裏に行き那覇空港近くの転移地点へ移動した。急ぎ向かった空港には連絡を受けた自衛隊員が出迎えてくれており俺達はオスプレイへと乗り込み南九州の桜島へと向かった。

オスプレイはヘリコプターと飛行機を掛け合わせたような輸送機でヘリのように垂直離着陸ができ、飛行機のような速度が出る米軍の新型輸送機だ。

オスプレイは時速500kmで飛ぶことができ、桜島まではおよそ1時間で到着する予定だ。

俺は輸送機の中で皆に事情を説明しこの際桜島の竜を全滅させる事にして皆と役割分担を行なった。

夕焼けに染まる空を飛びながら丁度1時間程で桜島上空へと到着した。

輸送機には結界を張っているから大丈夫だと言ってあるのだが、パイロットは竜の巣食う島に到着したからか青褪めた表情で俺の指示を待っている。

俺は探知を掛け飛竜とドラゴンの位置を探った。


「飛竜は散らばってるな、ドラゴンは…不味い!もっと西へ行ってくれ!直ぐにだ!」


「りょ、了解」


「蘭!飛び降りて地上が近くなったら転移で皆を降ろす!降りたら神狐になり凛と夏海を乗せ東へ向かって飛竜を狩れ!その後の指示は念話でする!俺はドラゴンを殺る!」


「はい!」


「え?え?飛び降りるって言った?聞き間違いよね?え?ええ!?」


「こ、ここからですか?こ、光希を信じます…」


「いた!ここでいい!ありがとう!俺達は大丈夫だ!飛び降りたらすぐ離れて旧霧島市で待機していてくれ!じゃ!」


「こ、この高度から飛び降りるんですか!?りょ、了解しました。お、お気を付けて…」


「え?え?え?キャーーーーーー!!」


「うふふふふふ、狩りの時間です」


「あっ、光、希…ふぁっ、キャーーーーーー!!」


俺は蘭を抱き凛と夏海を両手で掴み眼下に見えるドラゴンへと向かって輸送機から飛び降りた。

ドラゴンから少し離れ倒れている2人の姿が見えた時に俺の中の何かがキレた。


『天雷』


俺は空中で雷魔法を放ちドラゴンへ直撃させ動きの止まったドラゴンの足下へ転移をし皆を下ろした。


「火トカゲ野郎!楽に死ねると思うなよ!蘭!ここはいい行け!」


「はい! 」


俺が合図をすると蘭は少し離れ全身に魔力を漲らせその姿を白銀に輝く神狐へと変化させた。


コーーーーーーン!


全身を白く輝く毛で覆われ6メートル程の大きさになった神狐の蘭はその美しい音色の声でひと鳴きし、凛と夏海に近付きその背に乗るように促した。


「あ…ああ…こ、これが蘭ちゃん…綺麗…あ、乗るのね?靴を脱ぎたくなる程綺麗な毛…」


「ら、蘭ちゃん?こ、それ程とは…なんて神々しい…自然と頭が下がってしまうわ。え?乗るの?そう、わかったわ」


凛と夏海を乗せた蘭は背中でキャーキャーー叫ぶ2人を気にかける事もなく、もの凄いスピードで念話で指示をした位置に向かい走って行った。


「シルフィ大丈夫か!」


「あ…う…うう…こう…き…さま…セル…シアが…わたしを…かばって…」


「セルシアは大丈夫だ!竜人はしぶといんだ簡単には死なないし死んでも俺が生き返らせる。シルフィーナ…ああ…酷い傷だ…ほら上級ポーションだ……クッ…飲めないか…ごめんな」


「あっ…ん…んん…んくっ」


俺はシルフィに駆け寄りポーションを飲ませようとするが上手く飲み込めてない。

俺は上級ポーションを口に含みシルフィの唇を塞ぎ舌で唇をこじ開け口内にポーションを流し込んだ。


グォォォォォォォォォ!


『氷結世界』


シルフィを治療中に天雷のダメージから復活したドラゴンがうるさいので俺は無詠唱で氷結世界を発動した。俺を中心に地を這ってドラゴンの足下に辿り着いた氷はそのままドラゴンの下半身を凍らせ上半身へと迫っていった。ドラゴンは暴れて氷を破壊していくが破壊された部分は直ぐに凍っていき破壊と凍結を腹部辺りで繰り返していた。


「よしっ!大丈夫そうだな。シルフィこれをセルシアにも飲ませてやってくれ、竜化は後で俺が時を戻すから安心しろ」


「あ…きす…は、はい…」


俺は氷と遊んでいるドラゴンに聖剣を構えて向かい合った。


「シルフィを二度も失う訳にはいかねーんだよ!トカゲ如きが調子に乗ってんじゃねー!」









ーー桜島 風精霊の谷のシルフィーナーー



「シルフィを二度も失う訳にはいかねーんだよ!トカゲ如きが調子に乗ってんじゃねー!」


あ…ああ…光希様が助けに来てくれた…もうダメかと思った、私は禁呪を発動する所だった…でも光希様が雷を放ち天から舞い降りてきて助けてくれた。



私とセルシアはドラゴンに挑んだ。でもやはり2人だけでは無理があった。残り少ない魔力という事もあったけど昔戦った風竜とは攻撃力も防御力も違った…火竜がここまで相性が悪いとは思わなかった。

セルシアの攻撃も鱗を砕き出血させドラゴンにダメージを与えていたけど致命傷にはほど遠かった。

そしてドラゴンから放たれたブレス、とんでもない威力でシルフの力でも防ぎきれず私は負傷した。


それを見たセルシアが竜化をしドラゴンと壮絶な殴り合いとブレスの撃ち合いをしたけど同じ威力だとしてもあの巨体から繰り出されるブレスに徐々に撃ち負けそして焼かれ、最後は私を庇い無理な体勢でブレスを受け重傷を負いドラゴンの爪に腹部を抉られ腕をもぎ取られてしまった。


私は何もできなかった。あらゆる精霊魔法が魔法障壁により減衰させられ動きをほんの少し止める事しか出来なかった。

風と火、私は迫り来るブレスの威力を抑える程度の事しかできなかった。

装備を焼かれ身体中に火傷を負いもう禁呪を使うしかセルシアを助ける術は無いと覚悟を決めた時に天から雷と光希様が舞い降りた。

私を抱き抱え上級ポーションを口移しで飲ませてくれ、そして私を二度も失う訳にはいかないと怒り叫んでいる。

そう、私を……やっぱりそうだった、光希様が失った恋人は並行世界の私。私がどんなに光希様を好きになっても彼はきっと受け入れない。死んだ並行世界の私を永遠に失う事になるから……

並行世界の私… 羨ましいし恨めしい。貴女の存在が私と彼との関係の楔となっている。

報われない恋なのかもしれない、でも私は光希様が好き。いつかきっと並行世界の私と今の私の2人を愛してもらえるよういつかきっと…

私は流れる涙を拭いセルシアを治療しながら光希様の姿を目に焼き付けた。私達を助けに来てくれた勇者様の姿を…








ーー桜島 佐藤 光希ーー




「オラッ!こんなもんかトカゲ!」


グォォォォン


「雑魚じゃねーかテメー!『スロー』『ヘイスト』『影縛り』『次元斬』」


グギャオオオオオオ!


俺はこのトカゲにムカついていた。コイツは俺の天雷と氷結世界を受けてから腰が引けている、ダンジョンに操られているドラゴンに比べて凶暴さが無い。

外の世界に出て悠々自適な最強生活をしてただのトカゲに成り下がった硬いだけのトカゲだ。

俺はドラゴンの時間を遅くし自身の時間を早め更に影縛りで動きを止めて次元斬で両翼を斬った。

そして痛みで力が抜けたドラゴンの頭に闇の手を巻きつけ頭を下げさせ俺はジャンプをし聖剣でドラゴンの大きく突き出ている口を横から半分に斬った。


ヴギャオォォオ!


「おら!火吹いてみろ!『次元斬』


グォォォォォォォォォン!


俺は牙ごと口先を半分に斬られその激痛で横倒れになったドラゴンの両脚を次元斬で断ち切り、続けてドラゴンの角も魔力を込めた聖剣で断ち切った。


「これでどこからどう見てもトカゲだな」


クォォォォン


「あ?命乞いか?念話なんか送ってくるんじゃねー!」


俺は恐怖に染まったドラゴンの念話を受け取ったが無視をしドラゴンの腹部に聖剣を深く刺した


グォォォォン


「もういい死ね!……チッ…うぜぇ…テメー死ぬ覚悟もねーのに戦ってんのかよ!クソが!」


恐怖、従属、死にたくない、助けて、色々な感情を念話で送ってくるドラゴンにトドメを刺す為に心臓目掛け突き刺そうとした聖剣を俺は途中で止めた。


「チッ…動くな!動けば殺す!」


クォォォォン


俺は心が折れたドラゴンを放置しシルフィの元へ向かった。

シルフィはセルシアを抱きしめながら俺の戦いを見ていた。


「シルフィーナすまん、あのトカゲ命乞いしてきやがった。死にたく無い助けてだってよ」


「見てました。圧倒的過ぎて少しドラゴンの気持ちがわかりました」


「殺して素材にするなら殺すけど?中位竜だし失った装備より良い装備ができるぞ?」


「いえ、いいです。このドラゴンは一度も桜島から出て人を襲っていませんから」


「そうか、じゃあ契約で縛って飛行機代わりにするか。アトランで飼ってたペットより弱いけどな」


「ぷっ…ドラゴンを飛行機代わりですか?流石勇者様ですね。発想がとんでもないです」


「魔王のいる大陸は飛んでいかないと辿り着けないからな、必要に駆られてさ」


「そう…そうですね、海よりは安全に行けますね。でもドラゴン飛行機…ふふふ」


「あ〜でもこの世界じゃ目立つな…まあ、見世物にでもして稼ぐさ」


「ドラゴンを見世物に!?光希様の発想にはついていけません」


「壁も敷地もあるからな」


「よ、横浜に連れて行くつもりですか!?都心に近いのに!?パニックになりますよ!」


「そこは事前にお手とかお座りさせてる動画でも流しておくさ」


「ドラゴンを犬扱いですか!?」


「氾濫の時に少しは役に立つだろうさ」


「光希様…私は頭が痛くなってきました…」


ドラゴンをどうしようかとシルフィと話していると次々とアイデアが浮かび、また動画のチャンネル登録者が増えるかもと俺は命令通り倒れたまま全く動かないドラゴンに夢を膨らませつつセルシアの様子を見た。


「セルシアは大丈夫そうだな、オイッ!セルシア起きろ!起きないと乳揉むぞ!」


「だ、旦那さま…ど、どうぞ」


「起きてたんじゃねーか!元に戻してやる少し待ってろ。んで…よくシルフィーナを守ったな偉いぞ良くやった」


「え?えへへへへ…旦那さまの言い付け通りシルの言うことちゃんと聞いてたぞ!撫でてくれ褒めてくれ!」


「おお、そうかよく頑張ったな。偉い偉い、これからもちゃんとやるんだぞ」


「えへへへへ、当然だ!あたしは旦那さまの言い付けを守る良き妻になるんだ、だからシルの言う事を聞く。簡単だ」


「そ、そうか…いい子だなよしよしこんなに髪も血で汚れて…元の可愛い顔に戻してやる『時戻し』」


「えへへへ、たくさん撫でて褒めてもらった。次は子種もらえるかも…えへへへ」


だんだんこの素直でお馬鹿なセルシアが可愛く思えてきた。不思議だ…

俺は時戻しを発動し竜化して鱗だらけの姿だったセルシアを元の綺麗な白い肌へ戻した。


「相変わらず凄い胸だな…」


「旦那さまだけは触っていいんだぞ?」


「クッ…いいからこれを着ろ。竜化の度に全裸になるなよまったく…」


「なんだよ触っていいのに…そしてそのまま…ちえっ!」


竜化時にまたビキニアーマーが弾け飛んだのか俺は元の姿に戻り全裸になったセルシアの爆乳が目に入り思わずセクハラ発言をしてしまった。ところが触ってもいいという彼女の誘惑の言葉に一瞬手が伸びそうになったが歯を食いしばって振り切りアイテムボックスからワンピースを取り出し着るように言った。

シルフィも装備や服がボロボロで胸も丸見えなのでテントを出し中で着替えるように言った。


「シルフィーナこの中で着替えてきてくれ」


「はい、お気遣いありがとうございます」


「気にしなくていい、今の姿のままだとその…胸が丸見えだからな」


「え?…あっ…きゃっ!み、見ないでください…き、着替えてきます!」


「ああすまん…」


俺は途中顔を真っ赤にして胸を隠しながらテント急ぎ入っていくシルフィを見送りながら東側の飛竜を狩りきった蘭に念話で指示を送った。


『蘭!次は西側に6匹、春田山に7匹で最後だ』


『はい♪分かりました主様』


ん?なんだか嬉しそうだな。久々に神狐姿で飛竜狩りしてるからかな?

凛と夏海は付いていけてるかなと今更な心配をしつつ俺は全く身動きをしないドラゴンへと近付いていった。


「今からお前の命を助ける事と身体を元に戻す事を条件に契約してもらう。言葉は分からないだろうから念話でイメージを送るから了承しろ。拒否するのは自由だがその時は素材にする」


今後俺の命令無く人を襲わない事と俺と俺の恋人達とシルフィの命令には絶対服従をする契約を念話で送った。0.2秒で了承された、過去最速だった…素材は嫌だったみたいだ。

正当防衛の場合は罰則対象外と特約を盛り込みはしたが、違反したら丸一日地獄の苦しみを味わう罰則を付けたにも関わらず即答だったのはまあ何も考えて無いんだろうなセルシアのように…

契約でドラゴンを縛った俺はドラゴンにも時戻しの魔法を掛け俺やシルフィと戦う前の姿へと戻した。

いきなり自分の姿が五体満足となり最初は困惑していたドラゴンだが、喜びの咆哮を上げてから大人しく顎を地面につけ伏せの姿勢で俺からの指示を待っていた。


「光希様ありがとうございました」


「ああ、気にしないでいい」


俺がワンピースに着替えて甘えてくるセルシアの頭を撫でながらドラゴンの使い道を考えていると着替え終わったシルフィがテントから出てきた。


「光希様改めて助けていただいてありがとうございました」


「気にしなくていい丁度今週ここの竜を狩ろうと皆で話していた所だ」


「それでも光希様が来てくれていなければ私は…」


「今度はもっと早く知らせて欲しい。シルフィーナの身に危険があるなら俺は何処にでも行く」


「それは…並行世界の私が失った恋人だったからですか?」


「………それもある」


「私は諦めませんから…いつかこの世界のシルフィーナも好きになってもらいますから」


「……俺の心の問題なんだ。俺もシルフィーナの気持ちに応えたい…でもそれは時間が掛かる」


「ふふふ…エルフは長寿なんです。いつまでも待ちますよ、だから今はこれだけで我慢しておいてあげます」


「おっと…」


「好き…ん…んんっ…」


シルフィは気付いていた。並行世界のシルフィが俺の恋人だったと言う事を…

その上で俺の気持ちを考え答えを今すぐ求めなかった。俺はシルフィのその気持ちにいつか応えたいと思った。

いつか死に別れたシルフィとこの世界のシルフィーナを別の人間と思えるよう、この世界のシルフィーナをもっと良く知ろうと心に決めた所でシルフィが突然抱きついてきて唇を重ねてきた。

俺はそれを黙って受け入れた。


俺とシルフィには時間が必要だとわかっていながらも、言葉には出せない心にある熱い想いを長いキスでお互いに確認し合うのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る