第22話 開放






総理との会談及び打ち合わせを終えた俺は、蘭とともに再び中世界草原フィールドへきていた。

さすがに昨日の今日ということもあり、神殿前には待ち伏せ部隊はいないようだ。

俺は蘭とともに転移で神殿前までやってきて神殿の門を開け中へ入った。

神殿内に入ると前回と同じく中央に黒い台座が鎮座しており、台座の前に立つと石版が現れた。俺はその石版に手を置きこのフィールドの開放を念じ、続けて東京ドームを思い浮かべて外野フェンス辺りに門を設置するイメージをした。そして門を潜れる者の条件を同じよくに念じた。


「やっぱり個人の指定はできないみたいだな。それじゃあ日本に悪意を持たない者……これも駄目か……日本人または日本人の遺伝子を持つものと異世界人の全てならどうだ? ……これはOKなのか。人種の指定のみっぽいな。創造神にそんな区別がつくのか? 米国人と英国人とかどうやって区別すんだろ? 」


「主様、これで登録は終わりなのですか? 」


「ああ、なんとなくだけど登録できたという感覚があるんだ。これでフィールドには魔物も他国の者もいなくなっているはずだ。外に出て確認してみよう」


「はい! 」


俺は人種の指定など色々と疑問に思いながらも、外に出て飛翔魔法で蘭と空からフィールドを確認してみることにした。


「おお〜! 大量に牛がいる! 羊も! 馬までいるぞ! 」


「主様、あれほどいた魔物が全ていなくなってます。不思議です……」


「ほんとに一匹もいなくなってるな。でもどこから流れてきているのかわからない大河もあるし、小さな森もそのままだ。ん? あそこの凛と蘭の魔法で燃やし尽くした場所はそのままなのか……これは森フィールドでは火気厳禁だな。攻略したら山火事のあとでしたとか大ヒンシュクものだろ。創造神も不思議パワーで元に戻してくれればいいのにな」


「森だと蘭は魔法を思いっきり撃てないんですね……」


「魔物にだけ当てればいいんだよ。凛と蘭は周囲ごとまとめて燃やし過ぎなんだって。ピンポイント攻撃を覚えような? 」


「うう……わかりました。弱めの天雷でやります」


それも範囲攻撃じゃねーかよ。なんでこんな大雑把な子に育ったんだ? 間違いなくシルフィの影響だな。


「森では物理攻撃主体な? それにしてもキリンにカバに狼やチーターまでいんのかよ……生態系がめちゃくちゃだな。喰われないように早めに牛を確保しなきゃな。蘭、外に出よう」


「はい、主様」


俺は転移で入ってきた門の前に移動し、蘭に念のために掛けてもらっていた幻術を解いてもらいこのサバンナ状態になってしまったフィールドを後にするのだった。



「佐藤さん! ありがとうございますありがとうございます! 」


《 おお〜! 本当に中世界草原フィールドを攻略したようだ 》


《 凄いぞ! これなら連合に制裁を受けていても大丈夫だ! 》


「真田大臣、約束通り門を繋げました。フィールドに入れる条件は日本人の遺伝子を持つ者のみとなります。フィールドの中ですが、大量の牛や羊に馬がいました。それと同時に狼やチーターなどの猛獣もいます。至急家畜となる動物の保護をお願いします」


俺と蘭がゲートを潜るとそこは東京ドームの中だった。そして門の前には両手を広げて感激している真田大臣と、緑の戦闘服に革鎧姿の500人はいるであろう兵士たちが門から出てきた俺たちを見ていた。

俺はさっそく大臣にフィールド内の情報を伝え、家畜の保護をお願いした。


「牛に羊がいるのですか!? それに猛獣まで!? わ、わかりました。至急軍を向かわせます」


「ええ、お願いします」


《 おい! 聞いたか? 牛がいるんだってよ! 小世界には豚と兎だったが、中世界には牛と羊だ! 》


《 懐かしいな……俺は北海道生まれでよ、小さい頃はその辺に牛なんかいくらでもいたんだよな 》


《 ああそうだな。牛を見るのも20年振りだな…… 》


「第二輜重連隊の太田大佐! フィールドには牛などの家畜の他にチーターなど猛獣もいます。家畜の確保を至急お願いします! 」


「ハッ! 至急手配します! 第二輜重連隊は車両に乗り込め! フィールドに出たら家畜の場所を確認しだい誘導して囲い込みを開始する! 」


「「「了解! 」」」


この分じゃ探せばサイやバッファローとかいそうだな。創造神は適当過ぎじゃないかこれ?

フィールドは雲もあるし小さいけど太陽もあったから、もしかしたら神殿で気候もいじれたとか? でも例えいじれても、苦労して攻略した草原フィールドをサバンナの気候にする奴はいないと思うな。

恐らくそれを見越して混ぜてきたっぽいな。そうなるとペンギンとか白クマとかどうなるんだ? 大世界の海とか手に入れたらどっかにいるのかね?


まあ、いずれしろこれで四国ほどの土地は手に入った。まずは家畜の確保をして神麦の栽培だな。そして子供のいる世帯から移住だ。今後地上は危なくなるから急いでプレハブでもなんでも持ってきて移住を進めると総理も言ってたしな。


「大臣、それじゃあ俺たちは今日のところはこれで。明日からこのドームに作業小屋ごと技師たちを連れてきますので、職人さんたちを集めておいてください」


「ええ、既に職人の皆さんには連絡を入れてあります。ここであれば他国の目に触れないでしょうから安心して学ぶことができるでしょう。本日はありがとうございました。また明日からよろしくお願いします」


「ええ、できる限りのことはしますよ」


俺はそう言って蘭を連れて拠点へと転移をした。

明日からは日本の職人へドワーフとホビットが武器や防具の作り方を教えることになっている。素材は全てこちらから提供する。かなりの量になるがその辺は政府と調整済みだ。

日本を救った報酬として、今後攻略したフィールドで得られる黒鉄やミスリルの5%を50年間貰えることになっている。埋蔵量がどれほどかはわからないが、攻略したフィールドには魔物がいないから安全に採掘できる。つまり採掘量も増える。山岳フィールドで俺が探知魔法の応用で鉱山を探さないといけない手間はあるが、それさえやってしまえば寝ていても黒鉄とミスリルがガッポガッポ入ってくる。


政府としてはフィールドを攻略した後も俺との繋がりを維持したい。俺は何年か置きに鉱石を回収に来るだけでいい。お互いの利害が一致したというわけだ。対価なしにミスリルが安定的に手に入るなんて、これを凛に話したら今夜は色々サービスしてくれそうだ。


俺は転移した後に上機嫌で拠点のドアを開けるのだった。













ーー アメリカ合衆国 ワシントンD.C. ホワイトハウス 合衆国大統領 ミッキー・ローランド ーー







「そうか、とうとうミドルワールドの草原エリアが開放されたか」


「はい大統領。ですがフィリピンの門の近くに設置した監視カメラに映っていたのは、黒人のカップルでした」


「黒人だと!? グリフォンに乗っていた者では無いのか? 」


「はい。グリフォンに乗っていたアジア系の者でも無ければ、先日草原エリアで異常な数の魔物狩りを行なっていた白人の者たちでもありませんでした」


「フィールドボスを倒したのはアジア系の者たちの筈だ。神殿に入り管理者登録をした者もその者たちだ。なぜ黒人がフィールドを開放できるのだ? おかしいじゃないか」


一体なにがどうなっていると言うのだ。管理者には一人しかなれない。なのになぜ初めて現れた黒人が……いや、フィリピンの門に現れたのだ。アジア系の者たちの仲間なのは間違いない。あれほどの未知の魔法を使う者たちだ、恐らく姿を変えられる魔法か何かがあるのかもしれん。


「はい。恐らく姿を変えられる魔法か何かがあるのではないかと情報局の者は言っております」


「信じられん……信じられんがそうであれば辻褄が合う。となればあの白人たちもグリフォンに乗っていた者の可能性が高いな」


「一瞬で500はいた中露の者たちを全滅させる実力を持った者たちです。恐らくあの白人も同一人物かと思います」


「あそこにいたのは中露の最精鋭部隊だ。奴らが動いたから我ら連合も追従したが危なかったな」


Bランクの戦士が多くいる部隊を一瞬で全滅させるなどとんでもない奴らだ。その後もなんとか接触しようとしたが急に身体が重くなり動けなかったと聞く。いったいどんな魔法を使ったのだ?


「オオシマの連中と関係があるとしか思えないのだが、全く島から出ていないのだろう? 」


「はい。ドラゴンも島から出た形跡がありませんし、港を見張っているエージェントからの報告では船でニホン本土へ向かった形跡もありません」


「別の勢力なのか? オオシマにいる者もアジア系で英語を話すと言っていたな? ニホンの新聞にはエルフなどがドラゴンに乗った写真が載っていたそうじゃないか。いったい何者なんだ奴らは……」


「はい。なんとか通じる程度の英語力だったそうですが、意思の疎通はできたようです。しかしいきなり攻撃ヘリで島に向かうとは……失敗しました。司令官は更迭し、船で再度接触を試みましたがドラゴンに追い返される始末でして……」


「チッ……ニホンは同じ追い返されるにしても話し合いまで持っていけたというのに、馬鹿な司令官のおかげで我々は話すらできない状態だ。どこの世界にアポイントが取れない初対面の相手に攻撃ヘリで会いに行く馬鹿がいるというのだ。そいつはもう引退させろ。そんな無能に合衆国の兵を指揮させられん」


相手がどんな存在なのかも調べずにドラゴンがいる島に攻撃ヘリで行くなど正気とは思えん。そんな無能に指揮される兵は間違いなく無駄死にさせられるだろう。合衆国のためにも奴はには引退してもらう。


「おっしゃる通りです大統領。彼のおかげでオオシマには全く近付くことができなくなりました。ニホンも話はできたようですが、怒らせて追い出されたというのがせめてもの救いです」


「どの国とも関係を持たないということか……いや、ニホンに最初に現れたことから彼らはニホンと接触しようとしたが、ポリスと揉めてニホンを見限ったとみた方が納得がいくな」


「確かに最初はニホンに現れました。そしてポリスと揉めたあげくに交戦しオオシマへと降りたち、その後ニホン政府の使者と話をしましたが決裂し今に至ると考えた方が妥当かと思います」


「オオシマといいフィリピンといい、突然強力な力を持つ者が複数現れるとはな。偶然なのか神の思し召しなのか……まあオオシマの者たちはニホンに味方をしないのであれば今はいい。それよりもフィリピンの者たちとなんとか接触を試みてくれ。ドラゴンはあの門には入れないがグリフォンは入れる。そして単独で中露の最精鋭部隊を全滅させられる魔法使いは是非欲しい。オオシマの二の舞にならないよう丁寧に接触するように厳命してくれ」


「承知しました大統領。それとニホンが連合を脱退することを検討している件ですが、どのように対処するおつもりでしょうか? 」


「チッ……まさかそっちを選択するとはな。確率は低いと思っていたんだがな。サムライの国だということを失念していた。インドとアラブ神国への圧力はやり過ぎたか……」


しぶといニホンに決断させるために貿易相手国に圧力を掛け、食糧や石油を連合以外からは手に入れられなくしたが、折れるどころかより頑なにさせてしまった。もう少し時間を掛けてゆっくり追い込むべきだったか? いや、しかし次の選挙まで時間が無いのだ。結果を出さねば長年の同盟国を追い込んだ信義に欠ける大統領として大敗をすることだってありえる。


「そうですね。ニホンの貿易相手国に圧力を掛け、制裁中のニホンと貿易を続けるならば敵国として今後対処すると言ったのはやり過ぎたかと思います。ニホンを追い込み過ぎて太平洋戦争を起こさせた時と似た展開になりました。戦後に我が国が作った平和憲法でサムライの魂を骨抜きにし、第三次大戦でも後方支援に徹しさせたというのにまさかハラキリに等しい選択をするとは誤算でした」


「臨時連合会議を招集した。インドとアラブ神国への圧力を緩め、多少譲歩すれば脱退の件は引っ込めるだろう。私も連日のデモ活動を見て少し焦っていたようだ。次の選挙がある年末までまだ時間はある。仕切り直しとするしかあるまい。その間にニホン抜きで森フィールドを攻略すれば奴らも屈するしかないはずだ」


「やむを得ないかと。いずれにしろ連合を脱退すれば中露がすぐに攻めてくることはニホンもわかっているはずです。最終的には我が合衆国に屈する他は無いはずです」


「そうだな。例えオオシマの者たちをニホンが味方につけて中露の脅威に対抗できたとしても、脱退すれば幾ばくかの資源と食糧しか手に入らない。国民は飢えて死ぬだけだ。新たなフィールドなどニホン単独で攻略など不可能だ。万が一攻略できたとしても、国民全てを満たすほどの食糧がすぐに手に入るわけでは無いからな。どちらにしてもニホンは連合に残るほかは生き残る術はない」


本当にしぶとい奴らだ。とっととポーションと武器製作技術を渡して我らの属国となればいいものを、いつまで恥辱だとか誇りが傷付くだとか時代錯誤なことばかり言うつもりなのだ?

対等な同盟? この100年近く我が合衆国はニホンなど属国としか思っていなかったというのに、身の程知らずな猿どもだ。

我が国の属国となればニホンの皇帝も丁重に扱うし、ニホン人も人間として扱う。色付きだが優秀だからな。ちゃんと面倒を見てやるというのに何が不満なのだ? 中露の属国になったら家畜以下の扱いしかされんのだぞ? ニホン人の考えていることはさっぱりわからん。


いずれにしろ来週の臨時連合会議ではきっちりと躾けてやらねばな。

まったく手の掛かるイエローモンキーどもだ。





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