第21話 会談






光一たちの特訓を終えた翌日。


俺は蘭、シルフィ、リム、以蔵、ドグを連れて門のある代々木公園へと行き、そこで待ち合わせていた真田大臣とともに公用車に乗り込み永田町にある首相官邸にやってきた。

官邸内に入ると4階の特別応接室に案内され、ドアを開けると紺のスーツを着た俺と同じくらいの身長で50代くらいの少しおでこが後退している男性が待ち構えていた。その男性は中肉中背といった体型だが、俺はその鋭い目つきから一目で戦士だとわかった。鑑定をしてみるとやはりCランクの剣士だった。


「佐藤さんようこそ日本国へ。私がこの国の内閣総理大臣の東堂 勇です」


「初めまして東堂総理。Light mareリーダーの佐藤 光希です。お会いできて光栄です」


やっぱり総理大臣だったのかよ。どの世界も国が存亡の危機になるとこういった人が政治のトップになるんだな。

俺たちは後から入ってきたお偉いさんともそれぞれに挨拶をし、椅子を勧められたのでそこに座った。

配置としては俺の両隣に蘭とシルフィが、その隣にドグが座った。リムと以蔵は俺の背後に立っている。どうやら護衛のつもりらしい。

俺の正面には総理と真田大臣、そして後から入室してきた仁科官房長官と名乗る七三分けの背の低い老人が座っており、その背後には明智内閣調査室長と名乗る40代くらいの人が立っていた。


「佐藤さんには我々の特警への管理が行き届かず迷惑を掛け申し訳ないことをしました」


「いえ、俺は降りかかる火の粉を払っただけですので。それよりも特警により犠牲になった人たちや子供たちの供養と、横領していた者や利益享受を受けていた者への厳しい処罰をお願いします」


「それは必ず。議員も含め公務員の者は全て極刑とし、毒をもって刑の執行を行うことになります。その他主犯格以外の者は資源フィールドでの終身労働ですな。今回は佐藤さんのおかげでこの国の膿を出すことができました。感謝します」


「そうですか。確実に実行していただけるのであれば、俺からは何も言うことはありません」


毒殺とはエグイな。確かにこのご時世、ステータスが高い者を殺すほどの大量の弾薬を使うのはもったいないしな。採掘や過去の資源のリサイクルで色々と作ってるらしいが、犯罪者に使う余裕はないんだろう。毒なら低コストだが、ヘタに体力があるから長い時間苦しんだのちに死ぬんだろうな。そんな処刑とか絶対見たくないな。


「それは確実に実行させます。しかし本当に異世界の方々なのですな。美しい獣人という呼び方で良いのかわかりませんが、エルフにダークエルフそしてドワーフ。その女性は天使? ですかな? 物語の中でしか存在しないと思っていた種族が実在するとは……」


「本来は並行世界の日本にも存在しない種族なのですけどね。もともとこの者たちは……」


俺は幻術で光魔となっているリムのその白い翼に角という物語にも出てこない種族を見て、無難に天使だと言う総理を面白く思いながらリムやシルフィたちがどうやって並行世界の日本に来たのかを説明した。


「あのDVDに出てきたダンジョンと共に異世界から来たとは……それは災難でしたな……」


「最初はそう思っていましたけど、佐藤に出会えましたので今は幸運だったと思っています」


「お、俺もサトウさんに助けてもらえて幸運だった、でした」


「佐藤さんは皆さんに好かれているんですな。それとドグさんでしたか、 慣れない日本語のうえに無理に敬語を使わなくてもいいですよ。我々の国の言葉で話してもらえるだけでも敬意を感じてますからな」


「そ、そうか? サトウさんに恥をかかせたくなくてよ。悪いな」


「ハハハ、佐藤さんは皆さんに尊敬もされているようですな。さて、もう聞いてると思いますが我が国は佐藤さんをアマテラス様の使いと認め、この日本を救うために協力をお願いすることにしました。佐藤さんの言う通り連合へも脱退を検討している旨を先日通達しました。今後は方舟の特別エリアにある連合会議場で各国と脱退をするための話し合いを行い、できるだけ多くの資源を得て脱退する予定です。それに先立ち佐藤さんには、先日攻略された中世界草原フィールドへ繋がる門を東京ドーム内に設置していただきたい」


「わかりました。神殿に行き門の設置を東京ドームにします。それと管理者になる時にも特別エリアの存在を聞いたのですが、いったいそこはどのような場所なのでしょうか? 」


「特別エリアはどういう仕組みかはわかりませんが、各国の首都にフィールドに繋がる門とは別に方舟に繋がる門が存在していましてな。日本はこの霞ヶ関にありまして……」


総理が言うにはその門を潜ると方舟の船底部分に出るらしい。そこは常に天井からの光に照らされており非常に明るく、都市が一つ入るほどの広さの空間で壁には方舟の外が見えるいくつかの窓があるそうだ。そしてなんとその空間には各国の首都に繋がる門があるらしい。そんな何百も門があるのかと思ったらそうでは無いようで、長い間使われてない門はいつのまにか消えて無くなっているそうだ。今は数十ほどの門があり、各国が自国の門の周りに大型車両を置きバリケードや設置式の壁で囲んで門を守っているとのことだった。

設置式というのは、その空間の床にはどのような手段を用いても穴を開けることができないため、建物もプレハブのようにただ置くだけのものしか建てられないそうだ。それでも各国は二階建てのそれなりに大きな建物を建てており、台風も地震も起きないから問題なく維持できているようだ。


うーん、直線で20kmというから東京23区より少し狭い面積に各国が大使館とか、連合ごとの会議用の建物を建てている感じかな? 道路もあるらしいし、敵対陣営との境には緩衝地帯を設けて高い壁も設置しているみたいだからそこで戦争とか起きそうだな。

俺がそう思っていたことを呟いたら、そんなことは起こり得ないと言われた。なんでもそのエリアは殺傷行為が禁止らしく、殴るくらいなら大丈夫だが相手に重傷を負わせるせるような攻撃をすると加害者が神の力で方舟の外に放り出されるようだ。

方舟は太平洋の高空に浮かんでいる。そんなところから放り出されたら普通は死ぬよな。まあ俺たちは大丈夫だけど。


んで、その空間に攻略済みの門を各陣営が設置しているそうだ。管理者が同一人物なら一つの門で済むけどそこはバラバラらしく、各陣営の領地的な場所に複数の攻略フィールドへ繋がる門があるらしい。

そしてその空間を利用して連合各国に物資の輸送をしたり、日本はポーションなどで敵対陣営以外と貿易をしたりしているようだ。

攻略フィールドへ繋がる門の設置場所は、日本は首都と繋がる門が中露の門に近いので米国の門の付近に固まっているそうだ。神殿で〇〇人のみしか門を潜れないと設定しているし、非殺傷エリアだから大丈夫だとは思うんだけどそこは心理的なものらしい。確かに敵国に繋がる門のすぐ側に攻略フィールドへ繋がる門は置きたくないよな。


肝心の連合会議場というのはその特別エリア内の欧州諸国が固まっている地域にあり、そこでは半年毎に定期的に連合会議が開催され、連合内の取り決めやフィールドを攻略するための話し合いに食糧や資源の配分を決めたりするそうだ。


「なるほど。そういう場所が方舟にあるんですね。管理者となってフィールドに期限があることを知り思ったのですが、神はどうやら人間に協力しあってこの方舟を攻略させたいようですね。だからそのような空間を作ったのでしょう。全世界が一つになって協力し合うことができれば、フィールドの期限が来たとしてもそれほど大変なことにではないでしょうからね」


「そうですな。私もそう思います。我々も連合以外の国とも貿易を通じて協力を呼びかけているのですが、なかなか上手くいっていないのが現状です。我々が属している連合が人口によって資源や食糧を配分してますから、どうしても折り合いがつかないのです」


「そうでしょうね。小世界も草原しか攻略できていないようですから、協力してどれだけ資源や食糧が増えるかわからない以上、余裕の無い国ほど現状維持を望むでしょう。なにより日本が連合内で制裁と言う名の侵略を受けている最中ですし、それを見て連合に入ろうとは思わないでしょう」


「そうですな。白人国家の属国になることを迫られている日本が言っても説得力がありませんな。これまではインドやアラブ神国のおかげでなんとか耐えてこれましたが、それももう限界だったところです。我々にとって佐藤さんはまさに神の使いでした」


「まずは日本国民を救うことを考えましょう。力を付け人口を元に戻し、手に入れたフィールドを自力で守れるようになりましょう。そのための手助けは俺たちがします。ここにいるドワーフのドグを始め、この世界には無い技術を持った者が仲間に大勢います。俺も魔道具作製に関しては高度な知識を持っています。連合を脱退するまでの間は密かに中世界草原フィールドを開拓し軍の底上げを行い、脱退後に一気に攻略しましょう。他国のことなど考えている余裕はありません。まずは日本国民を、そして皇室を守ることを最優先で行動してください」


神は協力し合えば攻略し維持できる肥沃な土地と豊富な資源がある天国を用意した。しかし人類がそれに背くなら永遠と戦い続ける地獄も用意した。ならば単国でフィールドを攻略し維持できる力を付ければいい。

強力な力を持っていれば味方も増え、日本を中心に連合を構成することができるはずだ。これは保険となり、フィールドの期限が来た時に再攻略が楽になる。今は力を付けることだけを考えて行動すればいい。


「ええ、その通りです。佐藤さんの助力に感謝します。私も前線に立って戦いますので是非異世界の装備を……」


「総理! 駄目ですぞ! その隙あらば戦場に立とうとするのはやめていただきたい。一国の首相としての自覚を持って行動していただかないと困りますぞ! 」


「ははは、戦士が政治家をやると色々とストレスが溜まりそうですね。そうですね、総理と真田大臣にはこれを差し上げましょう。少々大きいですが魔石交換式の中級結界の腕輪です。少量の魔力を通すだけで中級魔法レベルの攻撃を数回防げます」


俺は戦いたい総理の気持ちもわかるので、戦うのは資源フィールドのみといういう条件を付け加えて総理と真田大臣にまだまだゴツいデザインの結界の腕輪を渡した。


「結界ですと!? しかも中級魔法を数度防げるほどの強力な……このようなものも作れるのですか? 」


「これは……剣に施された付与魔法というもので結界を付与したのでしょうか? しかし結界……私の認識が正しければ戦いが変わりますね」


「ええ、物理も魔法も防げます。俺は結界の魔法と錬金魔法、そして付与魔法を上級まで使えます。ですからこういった物も作れます。しかしこれは敵に奪われるとそのままこちらが不利になりますので兵士には渡せません。要人の護身用か、遠隔自爆装置を付けてヘリに設置して空から攻撃することに使うくらいですね」


「なんという……これは非常にありがたい。これがあれば官房長官も狩りを承認してくれるはず」


「総理、まずは耐久度を確認してからですぞ。佐藤さん、このような貴重なアイテムをいただき感謝いたします」


「ヘリに結界を張れるのであれば空から魔法を撃てますね。これはかなり有利になります。その時は私も戦場に立とうと思います。佐藤さんありがとうございます」


「魔石交換式ですので過信は禁物ですよ? 武器に関しては俺とここにいる蘭が弓やミサイルに火魔法などを付与できます。黒鉄が多く必要になりますので、これは今後山岳フィールドを攻略してからとなりますけどね。それにスクロールなどのアイテムもあり……」


俺は総理たちに釘を刺したのちに提供できる技術やアイテム、それに必要な素材などをドグも交えて詳しく話した。総理たちはスクロールの存在にとても驚いていたが、ドロップ形式の方舟では素材が入手しにくいのと、俺と蘭しか作れないので最終兵器扱いとして後世に受け継いでいくということになった。魔法を付与した武器も敵に奪われるリスクを考えて限定数の製造に留め、その時代の最強の戦士に受け継いでいく形式にした。この時シルフィが横で天剣ね? 天剣を作るのね? 12本作りましょう! と言っていたのを俺は全力でスルーした。


そんなこんなで途中昼食を交えて今後の打ち合わせをし、明日以降のスケジュールを調整して神殿の鍵を受け取り俺たちは官邸を後にした。お土産に大容量のアイテムバッグ5個にこれでもかって量の食材とお酒を詰めて渡したら、官邸にいる職員全員が見送りに出てきたよ。一応その中の一つは陛下用に祭祀に使う日本酒やお供え物が入ってるから、ちゃんと宮内庁に渡すように言ったけど大丈夫だろうか……


官邸を後にした俺は送迎を断りその場にゲートを開いて拠点へと戻った。真田大臣が口を開けて驚いている姿はなかなか面白かった。

そして皆に神殿に行ってくると言って蘭を連れてフィリピンまでゲートを繋ぐのだった。


さて、サクッと登録するかな。







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