第2話 反省
「遠路遥々ようこそおいで下さいました。ポーカー大統領にケリー補佐官初めまして。光希 佐藤と申します」
「初めましてミスターサトウ。やっとお会いできました。レオナルド・ポーカーです」
「ミスターサトウ初めまして。ニコラス・ケリーです。こちらはアメリカ冒険者連合理事長のライオネルと、スターロン財閥次期総帥のケビン・スターロンです」
「サトウ殿お初にお目にかかる。ライオネルだ。今回はうちの理事が迷惑を掛け申し訳なかった」
「ミスターサトウ。ケビン・スターロンです。この度は我が娘がご迷惑をお掛けした事をお詫び致します」
「ライネルさんにスターロンさん初めまして。失礼ですがスターロンさんの娘さんとは?」
「ミスター……我が愚息のパーティ仲間のブリアンナ・スターロンの事です」
「ああ……そうですか、彼女の……まあお掛けください」
聖水を発見してから2日後。我が家の1階にあるラウンジには、現在のアメリカを動かしている要人が集まっていた。
彼等は日本政府と調整し軍用機で秘密裏に日本へ入国した後に、大型輸送ヘリ3機と護衛の戦闘機を引き連れ我が家のヘリポートならぬドラゴンポートへ降り立った。うちのドラゴンポートは広いからね、ヘリ3機とか余裕だよ。流石に戦闘機は降りて来なかったけどね。
警護の関係で俺達は一階のラウンジで出迎えお互い挨拶をし、俺も蘭達を紹介してソファに腰掛けた。配置はそれぞれ1人掛けのソファに座った大統領達と俺が相対し、恋人達は少し離れた所のソファに座っている。
大統領の息子達のパーティはまだヘリの中らしい。
ポーカー大統領はテレビでよく見るので知っていた。実際に見ると俺より背が高いな、180以上はあるだろう。68歳と聞いたが元魔法使いだからか40代にしか見えない。金髪をオールバックにしてイケメンだ。意思の強そうな太い眉毛が印象的だな。
ケリー補佐官は年相応で60歳くらいかな? 天頂部に髪が無く、その他の頭部の髪は所々白髪が混じっている。背は160位かな、アメリカ人にしては低いのかも。しかし隙が無い顔付きだな。この人は油断できないな、王国の宰相に似た雰囲気がある。愛国心が強そうだ。
しかし外の景色はシークレットサービスで塞がれていて物々しいな。大統領の側にも6人程いるしね。全員Bランク以上とか流石だな。
「ミスターサトウ。改めてこの度の協定違反により、我が国がご迷惑をお掛けした事をお詫び致します。また、我が愚息のした行い。親として重ねてお詫び致します」
「冒険者連合の理事が迷惑掛けた事。申し訳なかった。俺は理事長の地位から降りる。今日は腕の一本は覚悟して来た。それでどうか許してくれ。この通りだ」
「私の娘が扇動に加わったと聞き大変驚きました。普段は教会にて無償奉仕をする優しい子なのです。どうかお許しください」
「大統領。アメリカ国の対応はシルフィーナから逐一聞いています。軍の輸送艦を出し協力した事は水に流します。そしてライオネルさんのその後の対応も聞いております。内部の引き締めをかなり厳しく行ったとか。今回扇動された冒険者達を即追放した事も伺っております。貴方は冒険者連合に残り、引き続き引き締めを行なってください。それが責任を取る事だと思います」
「ミスターサトウありがとうございます」
「サトウ殿……すまねえ……恩人に歯向かった事は本当に申し訳ねえ……わかった。これからは今まで以上に目を光らせもう勝手な事はさせねえ」
「それで当事者の確か……リチャードにブリアンナ嬢そしてガイルでしたか? 色々と周囲から叩かれているのは聞いております。しかし彼等は私欲により周囲の無関係な冒険者達に嘘やデタラメを言い扇動し、私達を殺そうとしました。四肢が戻った途端にまた命を狙われては面倒ですので、本人の態度次第ですね」
「それはその通り返す言葉もありません。リチャードのした事はたとえ唆された事とは言え許される事ではありません。ミスターサトウにお任せします。その結果どの様な結末になろうとも私が恨みつらみを持つ事はありません。私は親として今回一度きりのチャンスを子に与えるつもりで来ました」
「ガイルは確かに天狗になっていた。セルシアでさえもう倒せると息巻いていた。若さ特有の驕りだ。本人はかなり憔悴していて反省しているとは思うが、もし反抗的な態度を取るものなら殺してくれても構わない」
「ブリアンナも毎晩うなされており憔悴しております。どうか嫁入り前の娘にお慈悲を頂きたい」
「スターロンさん。ブリアンナ嬢が扇動に積極的に参加していたのを知らないのですか? あの島で懸命に戦った米国の兵士達を、悪魔に洗脳されていると言って殺そうとしたのですよ? そしてその彼女の言葉で何人の冒険者が巻き込まれたと? 女性だからと許されるものでは無いですよ? いずれにしろ私達に今後関わらないのなら、本人が憔悴しようが死のうが別にどうでもいい事なので、それだけを確認させてください」
「……はい」
俺は謝罪を受けそれを受け取ったが、スターロンさんの娘を持つ父親特有の甘々な言葉にうんざりし、リチャード達を連れてくるように伝えた。
しばらくしてリチャード達が車椅子を押されてラウンジに入って来た。リチャードとブリアンナの車椅子はスーツ姿の女性が、虎公の車椅子は同じパーティにいて危機を察知し、真っ先に抜けた猫人族の女性が押していた。
彼等が入って来たと同時に立ち上がった蘭を見て、虎公と猫人族の子は震えながらその横を通り過ぎ俺の前で止まった。
「よう、久しぶりだな。いい面になったじゃねーか」
「…………」
「うっ……ぐすっ……もう許してください」
「…………」
「怖いにゃ……化け物ばかりにゃ……来たくなかったにゃ……」
「そこの猫人族の君はなぜ来たの?」
「み、ミリーにゃ! ガイルは幼馴染にゃ! 止めたのにこの馬鹿は化け……勝てない相手に挑んでこんな姿になったけど、小さい時は私をよく助けてくれたいい奴にゃ。一緒に腕と足を返してもらえるようにお願いに来たにゃ!」
「ミリーか。いい子だな。おい虎公! 四肢が戻ったらまたやるか?」
「ヒッ! や、やらねえ……俺じゃ勝てない人間がたくさんいるってのがわかった。もう歯向かわねえ……悪かった。あんた達を殺そうとした俺達が悪かった。許してくれ」
「ブリアンナ。お前はどうなんだ? 」
「わ……私も反省してます。調子に乗ってたの……私達は最強だって、アメリカの為にって。間違ってました。罪の無い人をわ……私のこの傲慢さで傷付けようとしました。それも周囲の無関係な人を巻き添えにして……あの冒険者達からい、命を狙われるんじゃ無いかって毎日怖くて怖くて……本当にごめんなさい許してください」
「ふーん……リチャードだったな? お前はどうなんだ。自分がやった事理解できたのか?」
「わ、私が馬鹿だった。父にも多くの冒険者達にも迷惑をかけてしまった。何故あのような言葉を信じてしまったのか……全ては私の傲慢さ故にパーティ仲間まで巻き添えにしてしまった。ミスターサトウとパーティメンバーの皆さん。申し訳ありませんでした。私はこのままでいい。どうかブリアンナとガイルだけでも元の姿に戻してやって欲しい」
俺は青ざめ震えながらも謝罪の言葉を口にした三人に反省の色を見た。これなら今後面倒な事は考え無さそうだな。それよりも……
「わかった。謝罪を受け取ろう。約束通り反省しているようだから預かっていた四肢は返してやる。で? お前達だけ元の姿に戻ってどうすんだ? お前達に扇動され部位欠損した30人は? お前達が元に戻ったと知ったら恨まれて殺されるぞ?」
「う……それは……」
「そ、それは……」
「殺される……よな」
「そいつらの四肢も元通りにすると約束してやらないと、お前達も家族もずっと狙われるよな。そいつらも元通りにするのが責任を取るって事なんじゃないのか? 別にお前達が死のうがどうでもいいがな。これは年長者からの助言だ」
「……彼らと話をする。そして一生掛けてでも補償をする。上級ポーションで治るのなら手に入れてみせる」
「わ、私も彼らに心から謝罪をして補償をします」
「俺も責任を取る。自分だけ元には戻らねえ」
「そうか、別にそいつらも俺からしたら敵だしどうでもいいがな。そうしたいならすればいいさ。蘭、凛、夏海にシルフィーナ。こいつらの欠損部位はこのポーチに入ってる。足も持ってきているようだし、リビングで治してやれ。ポーションは大統領達に免じてサービスだ」
「ぷっ……わかったわダーリン。ブリアンナさん行きましょ」
「ふふふ。光希はなんだかんだ言って優しいですね」
「ふふっ。そうよね。上級ポーションまであげるなんて」
「うふふふ。虎ちゃん元に戻してあげますね」
俺に頭を下げ、恋人達に案内されて行く彼等の後ろ姿を見送った。蘭に声を掛けられた虎公とミリーは顔が引きつっていたけどね。
「ミスターサトウ。上級ポーションまで使って頂けるとは。ありがとう。感謝する」
「サトウ殿ありがてえ。ガイルも今後はおとなしくなるだろう。しっかり再教育をすると約束する」
「ミスターサトウ。貴重な上級ポーションまでご用意頂けるとは思いませんでした。このご恩はいずれお返しさせて頂きます」
「反省すれば返すと言ってありましたから。大統領が直々にお越し下さいましたし、彼等はまだ20才かそこらの若者ですからね。一度くらいは大目に見ますよ。それと、上級ポーションを冒険者連合に卸しているのは私ですから気にしないでください」
「なんと!? そうでしたか……愚息はなんて愚かな事を……」
「じょ、上級ポーションを作れるのですか!? そのような貴重な人材に娘は……改めてお詫び申し上げます」
「ミスターサトウはそのような能力もお持ちでしたか……やはり大統領を連れてきたのは間違い無かったですね」
リチャード達は冒険者連合には戻れないが、Aランク探索者として上級ダンジョンに特別に入れるようにはしてある。そこで稼いで今回迷惑を掛けた人達に償いをするだろう。自分達の身の安全の為にもね。
それからは大統領達にグリフォンとドラゴンをどうやって従えたのかとか、テレポーテーションができるのかとか、隕石を落とす魔法を知っているかとか色々聞かれたが適当にはぐらかしておいた。ソヴェートの件を疑ってるんだろう。状況証拠は真っ黒だからな。
「ご想像にお任せしますよ。私は黒いドラゴンは従えてはいませんが、同じ事をやれと言われればできます。私を危険人物として消そうと思うならそれはそれでいいです。ただ、その時はアメリカもそれ相応の代償を支払うになる事をご忠告申し上げます」
「そ、そのようなつもりはありません! ミスターサトウが無闇矢鱈にその武力を振るう人物ではない事は私どもも理解しております。決して強大な力を持つ人物だと言う理由で、敵対しようなどとは思っておりません。
「そうですミスターサトウ。私達は友好関係こそ望んでおりますが、決して敵対しようなどとは思っておりません!」
「俺達アメリカ冒険者連合が今後サトウ殿と敵対する事はありえねえ。アメリカが敵対したなら、俺達はどの様な理由であってもサトウ殿に付く。約束する」
「アメリカ冒険者連合がそこまで……本当にブリアンナはなんて人になんて事を……」
俺は今後手を出したなら容赦しないと言う意味を込めて釘を刺したら、慌てた様子でそんなつもりは無いと反論してきた。今はそうかもしれないけど、次代はどうかわからないけどね。取り敢えずはこの大統領がいる内は大丈夫そうだな。50年後はどうか知らないが、アトランと違いこちらの世界は後世に正確に情報が伝わるから早々に下手な事はして来ないだろう。
「そうですか、そう言って頂けると私も安心です」
「今後もし我がアメリカの者が何か接触して来たならば、このケリーへご一報下さい。何を置いても最優先で対応させて頂きます」
「ありがとうございます。お互い取り返しのつかない事になる前にご連絡させて頂きます」
「そ、それは助かります。所でその……ミスターサトウのその力はとてもこの世界の人間とはかけ離れております。大変失礼な事ではありますが、一つお聞きしたいのですが……」
「私は人間なのかどうか、この世界で生まれ育った者なのかどうかでしょうか?」
「あ、いえ……はい」
「そうですよね。この世界の人達と比べると私の力は異常ですよね。お疑いになる気持ちは十分理解できます。今言える事は、私は人間であり日本人ですがこの世界の人間ではありませんと言う事ですね」
「この世界の人間ではないが日本人であると?」
「……つまりミスターサトウは異世界人……いえ、この世界より強い者がいるパラレルワールドから来た人間と言う事ですか?」
「少し違いますがそんな感じではありますね。これ以上はご容赦ください」
「オイッ! ケリー補佐官! これ以上サトウ殿に聞くんじゃねえぞ!」
「……はい。大変失礼な事をお聞きして申し訳ございませんでした」
「いえ、国の舵取りをする方からすれば、強い力を持った得体の知れない存在は恐怖以外何者でも無いでしょう。そこは理解できます。しかし私にも都合がありますので、全てをお話する事は出来ません。ご理解ください」
ケリー補佐官が世界中の権力者が疑問に思っているであろう事を聞いてきた。それは予想していた質問なので勇者の事は伏せて答えた。ある程度真実に近い情報を与えれば、勝手に色々と辻褄を合わせて納得してくれると思ったからだ。恐らく他国にもそれとなく伝わるだろう。むしろそうして欲しい。これ以上家の周りを工作員がウロチョロされるのも嫌だしね。
「そう言って頂けると助かります」
緊張していたのだろう。ケリーさんは額に浮かぶ汗をハンカチで拭いながらそう言った。
それからは大統領にドラゴンの遊覧飛行の事や、グリフォンに乗った安住総理に自慢されて羨ましかった事を聞かされた。いや、乗せないよ? 流石に不味いでしょ。そんな物欲しそうな顔をしたって駄目だからな? ケリー補佐官とシークレットサービスの方達も、俺に必死に首を横に振って受けないようにお願いして来てる。俺は空気が読める男なんだ、乗せないからな?
そんな大統領の俺も乗せてよアピールを適当に答えてスルーしていたら、ラウンジとリビングを繋ぐドアが開いた。そこにはリチャードとブリアンナとガイルの三人が立っていた。
「リチャード!」
「ブリアンナ! ああ……耳も指も……」
「父さん心配掛けてごめん。もう二度と迷惑を掛けないよ」
「そうか、若い時には取り返しのつかない失敗を犯すこともある。それで命を落とす者も多い。お前は幸運にも命があり、怪我も治してもらえた。感謝の気持ちを持ち、決して逆恨みなどするなよ?」
「わかってる。そして責任を果たすよ」
「パパ心配掛けてごめんなさい。これからは決して驕らず、迷惑を掛けた人達からも逃げないわ」
「パパも一緒に償うからな。ブリアンナは一人じゃないんだ。一緒に謝りに行こう」
「理事長迷惑掛けたすまねえ」
「この馬鹿者が! これからはしっかり責任を果たしてもらうぞ。もしまた驕り高ぶるようなら今度は俺が殺してやる」
「わ、わかってるって。ひたすらダンジョンに潜って償うさ」
四肢が元に戻り感動のご対面をしているリチャード達を横目に、俺は蘭達の所へ行った。
「みんなありがとう。解凍に時間掛かったみたいだね」
「カッチンコッチンだったから訓練所に持って行って溶かしたわ。ちょっと焦がしちゃったけどね」
「凛ちゃん危なく消し炭にしそうになって、私は光希を呼んで時戻しを頼もうかと思ったわ」
「うふふふ。蘭は既に眠り草を用意してました」
「凛さんが豪炎で一気にやろうとしたのには焦ったわよ」
「凛……なにしてんだよ……」
「ちまちま溶かすの飽きたから一気にやろうと思ったのよ。えへっ♪ 」
凛は蘭と似たり寄ったりだな。ほんと火魔法に適正がある人間は豪快な思考の人間ばかりだよな。
「まあ結果オーライだな。最悪蘭の用意した眠り草で寝かせて時戻しで何とかなるしな」
「でしょ? 私も最悪それがあるからやろうとしただけよ。みんなして蘭ちゃんみたいとか言わないでよね」
「凛ちゃん。その言葉に蘭はなんだか引っ掛かりを覚えます」
「ははは。豪快さは似たり寄ったりだろ。凛と蘭で混合魔法練習しているのを知っているぞ? 上級結界壊すとかどんな魔法だよ……」
「うっ……バレてた」
「主様……すみません」
「怪我が無いならいいけど、混合魔法は強力な分操作が難しいから気を付けてくれよ? 結界なんかより二人の身体が心配なんだ」
「うん。ちゃんと安全マージンは取ってあるから大丈夫よ。心配掛けてごめんね」
「蘭と凛ちゃんに結界掛けてからやってますから大丈夫です」
混合魔法は強力な分魔力の配分や操作が非常に難しい。操作を誤ると狙った場所以外に大きな被害を出す。
しかも蘭と凛が練習していたのは、豪炎に竜巻刃を混ぜ火炎竜巻を作ろうとしていた。これは操作を誤ればとんでもない被害を出す。ダンジョンでもフィールド系かボス部屋位にしか使えない。
俺は蘭と凛の破壊思考をどうにか治せないか悩んでいた。
そして子供達が元の姿に戻ったのを確認した大統領達は、丁度予定していた滞在時間となった事もあり全員日本式に頭を下げてから帰って行った。最後に島で勇敢に戦った少尉達の名誉を守るよう俺は大統領にお願いした。大統領は既に彼等は国の英雄で、勲章の授与をする事になっていると笑って言ってくれた。
これで一先ず女神の島でのゴタゴタは終結したな。
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