第10話 増えた岩竜
「ここでいいかな。水場がないから蘭とスーはあとで呼ぶとして……『ゲート』 」
「クオンは今回は休みたいって言ってるみたいだしね」
「あの子はほんとにもう……」
「まあまあ。週末のドラゴンの遊覧飛行もあるし、クオンとメイは残ってないと子供たちが悲しむからな。おっ! 来たな」
俺がゲートを横浜の家の隣のドラゴンポートに繋げると、気付いた者が皆に知らせたのだろう。すぐにサキュバスとダークエルフたちがゲートを潜ってきた。今回もグリ子たち5匹は全員参加だ。
「光魔王様軍親衛隊30名!揃いました! 」
「光魔忍軍70名! 参上いたしました! 」
「待たせたな。これよりダーリントン鉱床南にある正統オーストラリアと、米国の駐屯地にいる魔物を掃討しに行く。地上の施設は岩竜が暴れたことで崩壊していると思うが、米国大統領が言うには地下にシェルターがあるらしい。そこに生き残りがいると思うから救出を行う。見つけたら米軍は友軍として保護し、正統オーストラリアの兵は敵兵として捕虜とすること。いいな? 」
地上の施設は岩竜が出現した時点で俺は諦めた。米軍も早々に退避しているはずだ。
それだけドラゴンの破壊力は圧倒的ということだ。いくら頑丈な壁で囲まれた駐屯地でも、その一画をブレスで破壊されればほかの魔物が雪崩れ込んでいって部隊は全滅する。
逃げきれなくて全滅したなら、それならそれで仕方ない。俺たちが現場へ助けにいったという事実が大事なんだ。
この大陸に来る途中に、米海軍と正統オーストラリア軍らしき艦艇がパースの港に向かっていっているのを見かけたからな。
最悪は援軍にきた米軍を、スムーズに駐屯地に入場させる環境だけ作れればいい。
「「「「「 ハッ! 」」」」」
「「「「「はっ! 」」」」」
「ちなみにあそこにいる岩竜二頭はさっきペットにした。創造で創ったんじゃないからAランクのままだ。あの竜はそうだな……ヤン! 」
「ハッ! ここに! 」
「濃いグレーのオスの岩竜に、キャロルさんを連れてきて二人で乗って戦え」
「は? あ、ハッ! 」
「あはは、ダーリンそれいいわね」
「ふふふ、光希はきっと楽しんでるわよ」
凛と夏海は面白がってるな。いや、俺も普段はポーカーフェイスのヤンの顔が変わるのが楽しいんだけど。
俺にキャロルを連れてくるように言われたヤンは、困った顔をしながらゲートを潜って呼びに行った。
「残りの岩竜にはリムとミラとユリが乗れ」
「「ハッ! 」」
「やったー! 乗ってみたかったんだよね岩竜! あのブレスってさ、戦ってる時すっごく避けにくかったんだ。それをボクが撃たせることができるなんてキモチいいや〜」
「ミラは岩竜にずっと乗ってブレス担当な? 絶対岩竜から降りるなよ? 」
「うん! ボクに任せてよ! 」
ヨシヨシ。これでミラの安全は確保された。また単独突撃されたら危ないからな。
「フフッ、光魔王様」
「うふふ、光魔王様はミラの扱いがうまいですわ」
「心配なんだよ。岩竜はゴツゴツしていて乗り心地は悪いから、この腹帯とクッションを取り付けておけ。簡単に作ったやつだからホビットたちが新しいのを作るまで我慢してくれ」
俺はそう言って今後創造で竜を創る時のために作っておいた簡単な装具を渡した。
これにはクオンやエメラに付けている椅子やベンチシートが無く、ただ30mほどの長い革を背に取り付けて、等間隔に手綱と足を引っ掛ける場所があるだけの物だ。これは臨時で使う用に10セットほど作ってある。
「ハッ! お気遣いありがとうございます! 」
「光魔王様ありがとー! これでお尻を気にしないで乗れるよ! 嬉しいな〜! 」
「ははは、ミラのお尻の弾力が無くなったら俺も嫌だしな」
「えへへ、またいつでも揉んでもいいからね。光魔王様だけ特別だよ♪ 」
「帰ったらまた揉ませてもらうよ。さて、残りのサキュバスとインキュバスにダークエルフたちには今から乗り物を用意するから待ってろ」
俺は皆から離れてアイテムボックスから10個のAランク魔石を取り出した。
重いし遅いしであんまり使い道が無いけど、この土地には合ってるからここで創造しちゃおう。
「いでよ!巨岩の王よ! 『創造』」
俺は地面に置いた魔石に向かってイメージを固め、創造の魔法を発動してすぐに後ろへと飛び退いた。
すると魔石のあった場所が大きく光り、その光が収まるとそこにはこげ茶色の岩竜が鎮座していた。
これは方舟にいた岩竜だ。岩竜は使い道があまり無いからここで使うことにした。
ちなみに呪文みたいなのには意味は無い。ノリだ。
《 ギュオーン! 》
「従え! 」
《 ギュッ! 》
「よしよし、リム!装具を付けておいてくれ! 」
「こ、光魔王様……まさに魔王……この力があれば魔王軍として世界を……あっ、ハッ! すぐに取り付けさせます!」
「す、すごいやー! ドラゴンを創造したのは初めてみたよボク! こーんなに大きいドラゴンを一瞬で生み出すなんてさ、破壊神シーヴ様みたいだ! 」
「ああ……光魔王様……素晴らしいですわ……圧倒的な強さと神の力……早く抱いて欲しいですわ」
リムの目が怖い……それにミラは俺を破壊神呼ばわりかよ。
ユリは……いつものことだけど聖魔人となったその身体で無意識に魅了を使うんじゃない! 俺が意識しないとレジストできないとか強力過ぎだろ!
「ユリ、約束が違うぞ? 俺以外にも男がいるんだぞ? 」
「ハッ!? も、申し訳ありません! ああ……私としたことが……光魔王様だけの身体だと誓ったはずですのに……」
まったく……集中できないじゃないか。
俺は落ち込んでるユリの頭を撫でて気にしてないと言い、次の岩竜を召喚していった。
そして10分ほどで10頭の岩竜を創造し終え、ダークエルフたちにも渡して装具を付けさせた。
「紫音に桜、落ちないように気をつけるんだぞ? 」
「……大丈夫。さっき凛奥様が浮遊のネックレスを貸してくれた」
「私も夏海奥様からお借りしました」
「ああ、それがあったな。今度新しいのを作ってやるよ」
確か前にクオンから落ちても大丈夫なように凛たちに作ってあげたやつだな。
アレを付けてるなら安心だな。
「……嬉しい」
「あ、ありがとうございます。嬉しいです」
「いいさ、二人にはマッサージいっぱいしてもらったしな」
「……えっち」
「わっ! わわわ、光希様こんなところで! は、恥ずかしいです……」
恥ずかしがる紫音と桜は堪らないな。この件が終わったらさっそくロットネスト島のビーチで、留守番組だった未婚のダークエルフを連れてくノ一の訓練をまたしないとな。
「蘭ちゃんが認めたとは言ってたけど、ダーリンはリムたちのほかに紫音と桜にも既にセクハラしてたのね」
「ふふふ、それでも私たちを気にして最後まではしてないみたいよ? 」
「そこはダーリンだから心配してないわ。しちゃったら私たちに必ず言うもの」
「そうね。それに増えても変わらず愛してくれてるから私は気にしないわ」
「そうなのよね〜マメというか真面目というか、二人の時間も減らないし私も別に気にしないわ。でもお祖父様は三人のお祖母様で大変だったのにダーリンは凄いわよね……」
凛と夏海が何か言ってるがスルーだ。ハーレムを作るためには鈍感系主人公に成りきりつつ、最大限恋人たちに気を使うのが王道だ。俺はハーレム王になるためには努力を惜しまないんだ。
ん? 静音はなんで満面の笑みなんだ?
「あらあら紫音と桜はもうそんなことまで? お母さん嬉しいわ」
「でかしたぞ紫音! 桜! きっと強いお子が産まれるだろう。我らの未来も明るいというものよ! ハハハハハ! 」
「……残念、まだあと少し」
「ち、違います! お母様にお父様! まだそこまでは! 胸と口だけでまだ……って! こんなところでやめてください! 」
さすがに両親を前にして俺はあの輪の中に入れない。そのまま祝言をとか言いそうな雰囲気だしな。
今は近付いたら駄目だ。特に以蔵が酷い。
「あ、あのミスターサトウ……ここは……ヒッ! ド、ドラゴンがこんなに……」
「ああ、キャロルさん来たか。ここはオーストラリア大陸のパース市の南20kmのところだよ。それは転移の門と言った方がわかりやすいかな? 一瞬で遠くの場所に行ける門なんだよ。それとドラゴンは俺のペットだから気にしないで。無害だから」
俺が静音親子からそっと距離をとっていると、ヤンに連れられたキャロルがゲートから出てきて固まっていた。
ヤンは説明してないのかよ。
「ぺ、ペット……ですか……それに転移? そんな魔法が……いえ、ミスターサトウなら……え? あれ? あれはお義父さん? なぜこんなところに? 」
「ああ、一応ここまでの経緯を説明しておくよ。それを聞いてからお父さんのとこに行ってくれ。まず俺がこの大陸に向かっている時に街に潜入させていた仲間から連絡がきて、岩竜と飛竜が大量に……君のお父さんが決死隊として……市長なのに……間一髪で……瀕死で……」
俺は遠くにいる父親の存在に気付いたキャロルに、これまでの経緯を説明した。市長にお仕置きをしてもらうために悪意を込めて……
「そ、そんな……ミスターサトウがもし間に合わなかったらお義父さんは……私がやっとLight mareの協力を得られたのに……街に戻った時にお義父さんがいなくなっていたかもしれないなんて……それじゃあ私はなんのために……」
「そうだ。君の父親は市長という街を守る立場なのに街を捨てた。なによりも大切な人がいるのに自ら命を捨てに行くような大馬鹿者だ。二度と同じことをしないようにキツく言わないと、アイツはまた同じことをやる。残された者の哀しみを想像できない大馬鹿者に、キャロルさんがわからせてやってくれ」
「……はい」
うん、いい感じに怒りが伝わってくるな。
でもこの子はDランクだからな……あっ、そうだ!
「ああ、これを使ってくれ。魔力を通すと雷の矢が出るスクロールというものだ。なーに、お父さんはBランクだ。これくらいじゃ死なないさ。あとこれも。これは上級ダンジョンに自生している硬い木でできていて、鉄の剣も折ることができるんだ」
「………ありがとうございます。お借りします」
「さあ! お父さんのとこに行っておいで! 雷で麻痺させてからが効果的だからね! 」
「………はい」
俺の言葉に怒りを抑え込んでいるような低い声で返事をしたキャロルは木剣とスクロールを手に、俺の魔法により新たに現れた岩竜の群れを見て驚いている市長たちのもとへと駆けていった。
ああいう大人しそうに見えて芯の強い子は怒らせると怖いんだ。
しっかり娘に怒られるんだな。もう二度と家族を置いて死のうなんて思わないようにな。
俺は遠くで鳴り響く雷の音と、男の悲鳴と女の子の泣き声を聞きながら、ダークエルフたちが岩竜に装具を取り付けているのを眺めていた。
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