第11話 救出






「うわ〜ん……ひっく……ひっく……」


「す……ま……ない……キャロ……ル」


「もういいか? あんたもこれで残された者の気持ちが少しはわかっただろう」


俺は皆が岩竜に装具を取り付け終わったのを確認して、ボロボロの市長に抱きついて泣いているキャロルの所にやってきた。

しかし市長は酷い顔だ……剣を抜かず鞘で受けたからか、鞘が破壊されてるしあちこち打撲しているようだ。


「は……い……わ……私はもう……自分の命令で……兵士や市民が……死ぬ……のが怖かったのか……もしれない」


「軍にいたんだったな。その子は義理の娘だったか? まあ軍を率いる者や街を治める者は、時には非情な判断をしなきゃならないのはわかる」


「今回……は確実に………全滅する任務でした……私だけ安全な場所にいて……とても死ね……とは……言えなかった」


キャロルを見つめながらそんなことを言うって事は、過去にキャロルの父親でも死地に送ったのかね?

だけど有能らしいこの市長がいなくなれば、街がどうなるのかとか考えればわかることだろうに。

まあ自己満足だな。

俺は溜息を吐いて市長にポーションを渡し飲ませた。


「んくっ……貴重なポーションをありがとうございます」


「俺は自分で作れるし仲間にも作れる者が大勢いるから気にするな」


「このレベルのポーションを……さすがニホンの冒険者ですね……我々とは大違いです」


「錬金の魔法書があればパース市民にも適正者は必ずいるさ。今はそんな余裕が無いだけだろ」


「確かに……あまりの貧しさに起死回生にとダンジョン攻略を進めていますが、まだまだ時間はかかりそうです」


「今日からもうあんたたちは余裕のある生活ができる。今後はそれに甘えてダンジョン攻略を諦めることのないようにするんだな」


「よ、余裕ある生活ですか? 」


「ああ、俺たちLight mareが依頼を受けた以上それは確定だ。とりあえず俺たちは今からダーリントンに行って米軍を救出しに行く。あんたは街に戻って俺のペットのことを住人に説明しておけ。俺たちは味方だとな。キャロルさんはちょっとレベル上げさせるために連れて行く」


レベルよりヤンとの親密度を上げるのが目的だけどな。


「キャ、キャロルを魔物の群れがいる場所に連れて行くのですか!? 」


「ああ、ボディガードを付けるから安心しろ。ドラゴンの上に乗ってるだけの簡単なお仕事だ。キャロルさん。もういいか? 」


「グスッ……はい……私も戦います……お義父さん、ヤンさんが側で守ってくれるので大丈夫よ」


「ヤン? さっき隣にいた天使のような男か? ミスターサトウのお仲間のようだから強いのだろうが……」


「大丈夫だ。あんたより確実に強い。特殊能力があるからな。さあ、それじゃあ行くぞ」


「はい! 」


俺は自分は娘を置いて死ぬつもりだったくせに、娘の身を心配する市長を放ってキャロルと一緒に岩竜のいるところへと戻った。

時差の関係でまだこっちは昼だが、やる事がいっぱいあるんだ。いつまでも相手してられない。


「以蔵! 足の速いグリフォンたちで、ここから南西に10kmほど先に放置してある飛竜の素材と魔石を回収させに行ってくれ! 」


「はっ! 至急向かわせます! 」


「それじゃあ全員騎乗しろ! これより北にあるダーリントンへ出発する! 」


「「「「「はっ! 」」」」」


「「「「「ハッ! 」」」」」


俺の号令で凛と夏海はエメラに乗り込み、サキュバスとダークエルフたちもそれぞれの岩竜に乗り込んだ。


「出発! 」


こうして総勢13頭の竜騎士軍団は、ダーリントンへと出発した。




♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢





「おお〜結構いるな。ヴェロキラプトルがやたら多いな 」


「そうね、ほかのCランクは牛人とキングゴーレムもいるわね。それ以外はEとかDのパペットとかゴーレムばかりね」


「レッドスコーピオンもいますが少ないですね。恐らくサンドワームもいるとは思いますが……」


市長たちと別れてから40分ほど北に飛び、俺たちはダーリントン鉱床にある正統オーストラリアと米国の共同基地が見えるところまでやってきていた。


そこには破壊された基地の壁から基地内に流入した魔物で溢れ返っていた。

恐らく地下にある人間の魔力に反応しているのだろう。基地の建物の前にいる複数のキングゴーレムが、建物を破壊してなんとか中に入ろうとしている。


「山岳系メインに砂漠の魔物少々ってとこかな。魔誘香にヴェロキラプトルが反応してゴーレムとかが追われて来たのかもな。まあ4000くらいはいるしそこそこの経験値にはなるだろう」


ヴェロキラプトルは全長2mほどの猛禽類の鉤爪のような形状の手足と、細長い頭部に比例したワニのように長い口、その中に並んでいる細かく鋭利な牙が特徴の恐竜みたいな魔物だ。

Cランクのコイツらは山岳などの不整地でも難なく走り抜け、さらに群れで狩りをするなかなかに厄介な奴らだ。そのくせ爪と魔石以外はたいした素材にならないので冒険者からは結構嫌われている。


「ダーリン、山を越えた北側にも魔物の反応があるけどどうする? 」


「ん? ああ、そっちはクイーンズランド都市連合とソヴェートの基地だから最後でいい」


魔誘香を使って他国を攻めておいて、予想以上多く誘導して自分たちも襲われてるんじゃ世話ないよな。

飛竜とガーゴイルの反応があるから街に来ないように後で片付けるけど、それまで精々戦ってろ。


「あら? そうなのね。馬鹿な人たちね。魔物の動きを操るなんてできるはずないのにね」


「自業自得ね」


「そうだ自業自得だ。まずはこの辺一帯にいる魔物を片付ける。北から俺たちで掃討していって、南の平地に集めて殲滅が一番楽だろう」


「方舟に来れなかった人たちのレベル上げだから仕方ないわね。今回は大人しくしてるわ」


駐屯地の西はパース市に繋がる川があり、北には山がある。魔物は東と南にしか逃げ場がないから北と東から追いかけ回せば南に誘導できる。


「グリフォン隊が戻ったら、以蔵とリムたちは東から魔物を南に追い立てろ! 俺は北からやる!その他の者は南の平地で待ち伏せだ! 足の速いグリフォン隊には魔物の頭上から魔誘香を投下して南に誘導しやすくさせろ! 」


「「「はっ! 」」」


「「「 ハッ! 」」」


そして10分ほど待つと5頭のグリフォンが合流した。

以蔵が事前に心話で説明していたのか、グリフォンに乗るダークエルフたちは既に魔誘香を手に持っていた。


「待ち伏せ組はなるべく低空で殲滅しろ! 経験値を取りっぱぐれるなよ? 魔物の数が少なくなったら地上戦をやってもいい。それじゃあ経験値稼ぎするぞ! 配置に付け! 」


「はっ! 紫音と桜は一緒に来るのだ! 」


「ヤンは南へ! 他の親衛隊を指揮せよ! そして一匹残らず殲滅しろ! 」


「はっ! わかりましたリム様」


「エメラ、北だ。高度を上げて行くぞ」


《 クオーーン! 》


俺の合図とともに各自がそれぞれ持ち場へと向かっていった。

キャロルはヤンにしがみ付いているな。緊張してんのかな? ヤンの岩竜だけ二人しか乗せなかった効果が出ているようだ。


俺は東に向かうリム三姉妹の乗る岩竜と、以蔵と静音、紫音と桜が乗る岩竜を見届けて北へと向かった。


そして駐屯地の北へ到着すると、以蔵に合図をして一斉に魔物を追い立て始めた。

俺はエメラに駐屯地の上からブレスを吐かせ、空いたスペースにエメラを着陸させ風の魔法を放たせた。

東からもリムと以蔵たちの乗る三頭の岩竜が同じようにブレスを吐き、駐屯地の東へと着陸し尾を振り回しゴーレムやパペットを薙ぎ払っていた。

そしてそのタイミングでグリフォン隊が現れ、魔誘香を投下して南へと誘導していった。


魔物たちは突然現れた圧倒的強者の攻撃を受け大慌ての様相だった。

特に頭の良いヴェロキラプトルは、エメラと岩竜を見るなり一目散に南へと逃げていった。

こういうところが厄介な魔物と言われる所以なんだよな。おーおー、逃げ足速いな! 逃げに入ったコイツらには魔誘香必要なさそうだ。


「あらら、ヤンたちは取り逃がさないかしら? 」


「あの決断力は凄いわね。やっぱり方舟の魔物と違って、野生で生き残ってた魔物は動きと判断力が違うわね」


「方舟の魔物は魔石から創られた魔物だからな。生きていくために魔物同士で喰い合うこともないから逃げるという選択肢は必要ない。だからその辺の能力は発達しなかったんだろう」


ダンジョン内の魔物は他種族同士で喰い合うこともあるが、基本的にダンジョンから魔力の供給があるからそれほど頻繁ではない。しかしダンジョンから外に出た魔物は、魔力の供給がないから常に他の生き物を食し魔力を補充しないといけない。

ちなみにゴーレムやガーゴイルなどの魔法生物は、ダンジョン近くでダンジョンから漏れる魔力を補充している。だから魔力が切れそうになると勝手に元の場所に戻るんだよね。


そういう理由から、氾濫でダンジョンの外に出て長い年月を過ごした魔物ほど生存力が高くなり、かつ狡猾で厄介な存在となる。

ただ例外として、地上では自分より強い竜がいなくて絶対強者として殆ど動かなかったクオンは別だ。アイツはダンジョン内の竜と大差ない強さだった。いや、むしろ弱かった。


「あはは! ゴーレムが逃げる姿って面白いわね」


「サンドスコーピオンを踏み潰していってるわね。パペットも蹴り飛ばされて散々ね」


「ゴーレム並みに動きが鈍いからな。さて、エメラ! 空から南へ追い立てるぞ! 」


《 クオーーン 》


エメラに追い立てられ周囲から魔物がいなくなったので、俺はエメラを再度上空に飛ばして空から追い立てるよう指示をした。

エメラが上空に飛び立つと、南の平野部ではあちこちからブレスを地上に吐いている岩竜の姿が見えた。

何人かが後方に逃れたヴェロキラプトルを追っているな。アレは取り逃がすと今後面倒なのはダークエルフたちもわかっているようだ。


「以蔵にリムたちはそのままグリフォンたちの後を追って南に行け! 俺は基地内の兵士たちを救出する! 」


「はっ! お任せください」


「ハッ! 一匹残らず殲滅致します! 」


基地の南で以蔵たちと合流した俺は、やたら岩竜にブレスを吐かせているミラを一瞥して以蔵とリムに南での殲滅作業に参加するように指示をした。


そして以蔵たちを南へと向かわせたのちに、キングゴーレムが群がっていた基地中央の建物の入口にエメラを着陸させた。そこはキングゴーレムに破壊された瓦礫が多く散乱しており、このままでは地下にいる兵士たちを外に出せないので、建物の入口を塞ぐ瓦礫を地形操作の魔法で地面に埋めた。


それから俺はアイテムボックスから画用紙を取り出し、建物や付近に建っている無傷の照明灯に設置してある監視カメラに向かって英語でLight mareが助けにきたと書いて掲げた。


「気付くかしら? 」


「あっ、あそこのカメラが動いたわ。カメラは生きてるみたいだから大丈夫よ」


「気付かないなら放っておくさ、そのうち食糧が無くなったら地上の様子を見にくるだろう」


まあ、さすがに軍事基地だから地下シェルターから地上を確認する手段はあると思うけどね。




「お? 気付いたみたいだ。誰かこっちに来るな。あれ? この魔力はどこかで……」


俺がカメラに向かって画用紙を掲げていると、建物の地下から地上に上がってくる3つの魔力反応があった。俺たちに気付いて偵察に来たようだ。しかしその一つの魔力に俺は見覚えがあった。


「やっぱりサトウだ! だから言っただろ! こんな魔物に囲まれたとこに来れるクレイジーな奴はサトウしかいないってよ」


「トム! トムじゃないか! なんでお前がこんなとこにいるんだ? 沖縄基地所属じゃなかったっけ? 」


しばらくして建物から出てきた男は、沖縄の離島にいた時に暇つぶしに沖縄本島のダンジョンに潜っていた際に仲良くなった海兵隊の男だった。

こんな戦場でも相変わらず金髪をキッチリとセットして軽薄そうな笑みを浮かべてやがる。


「いや〜それがさあ、上官の娘に手を出しちまってこんな僻地に飛ばされちまったんだ。そしたら運悪く魔物の氾濫だ。もうダメかと思ったぜ。でも俺はツイてた! 俺は絶対サトウが助けにきてくれるって信じてたよ! おお! 美人の恋人も一緒じゃん! 二人とも久しぶり〜♪ 俺のこと覚えてるよな? な? 」


「あんたみたいな軽薄な男はそういないから覚えてるわよ」


「ふふ、久しぶりですね。こんな状況でもその軽さを維持できてるのは凄いですね」


酷い言われようだな。しかしこの男は相変わらず欲望に忠実だ。まあそんなところが気に入ったんだけどな。


「Yeah! 覚えててくれてたんだね! やっぱ俺のことはそうそう忘れられないよな! よかったら今度デー……」


「紋章『氷河期』」


ピシッ


『闇刃』


パリンッ


「私と今度なんだって? 」


「光希の前でよく言えますね」


「い、いや……な、なんでもない……」


「あはははは! 相変わらずだなトム。前に蘭にボコボコにされたのに懲りない奴だ。それより後ろの二人がドン引きしてるぞ」


俺は沖縄で蘭の肩に手を回そうとして半殺しになったのをすっかり忘れ、また俺の恋人にちょっかいを掛けようとして凛に周囲とブーツを凍らされ、夏海に凍ったブーツを壊されて靴下だけの姿になったトムを見て大笑いした。

本気で言ってるわけじゃないのはわかってはいるけど、ホント懲りない奴だよ。


「オーケーオーケー! 再会の軽い挨拶はこの辺にしておくさ。ちょっと足が寒いけどな。相変わらず過激な恋人たちだな」


「お前の挨拶は取り敢えず女の子を口説こうとするからな。相手をよく見ろと言っただろう? 二人ともSランクだぞ? 」


「マジかよ! あの狐耳の美女といい、サトウの恋人はなんでみんな高ランクなんだよ。俺なんか未だにCランクだぞ! 」


「お前より遥かに多くの魔物を倒してるからだよアホ! それより中には何人くらいいるんだ? 魔力の反応としては300人くらいだと思うが」


「ああ、正統オーストラリアの奴らも入れたらそんくらいだ。半分くらいやられちまったよクソッ! あの岩竜と飛竜の群れさえ現れなければもうちょっと地下に逃げれたんだけどな」


「そうか、まあ飛竜は全滅させたし岩竜はペットにしたから安心しろ。取り敢えず後ろの二人は地下にいる人たちを呼んで来てくれ。俺はLight mareリーダーの佐藤 光希だ。大統領からの依頼でお前たちを救出しにきた」


「マジかよ! あの岩竜をそこのドラゴンみたいに飼いならしたのか!? あの赤いドラゴンといいとんでもねーな……おいっ! 俺が本物だって保証するから大丈夫だ。司令たちを呼んできてくれ」


「「りょ、了解! 」」


「ああ、お前は一応少尉だったな。よく幹部試験受かったよな」


「おいおいサトウ、それは俺を見くびりすぎだって! これでも士官学校での成績は下の中だったんだぜ? 」


「落ちこぼれじゃねーかよ! 」


俺は短い髪をかきあげてドヤ顔するトムにツッコミを入れ、その後も地下から兵士たちが上がってくるまで

お互いの近況を話したりしていた。

そしてこの大陸に来た目的を話したところで、建物から続々と兵士たちが出てきたのだった。


《 うおっ! やっぱりドラゴンだ! ほ、本当に安全なんだろうな? 》


《 よく見ろ。少尉がドラゴンの足に寄りかかってるだろ? あの人が踏み潰されてないなら安全だ 》


《 確かに少尉が大丈夫なら安全だな 》


《 少尉が殺されないで俺たちが殺されるなんてありえねぇからな 》


《 踏み潰されればよかったのにな。帰国したら妹を紹介しろとしつこいんだよあの人 》


《 しかしあのLight mareのリーダーと知り合いだってのは本当だったのかよ…… 》


酷い言われようだな……トムの日頃の行いの悪さがよくわかる。


さて、あの茶色の戦闘服を着ている奴らが正統オーストラリア軍の奴らかな?

コイツらは敵だから捕縛しておきたいとこだが、ついさっきまで味方だった米軍が文句言ってきそうだな。

面倒だが選択肢をやるか。


俺は基地の司令をトムに連れてきてもらうように言った後に、以蔵たちに心話で岩竜を何頭かこっちに寄越すように指示をした。





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