第12話 ガンちゃん







このオーストラリア大陸の片隅で、思わぬ知り合いとの再会で驚いた。


体感としては2年ぶりに再会した海兵隊所属のトムと積もる話もあったし、俺もあの頃より英語が上達しているので色々と話したかったが、ここに来た目的を考えればそんなのんびりとしている暇はない。


俺はトムと話しながらも、地下シェルターがある建物から次々と出てくる米軍と正統オーストラリア軍兵士を視界に収めていた。

どの兵士たちもまず最初にエメラを見て驚き、次にその足に寄りかかって俺と話しているトムを見て安心していた。

いや、ドラゴンの足に寄りかかるトムもたいした度胸があるとは思うけどさ、その姿を見ただけで安心するとかどうなんだ?しかも他国軍までもがだ。


俺がどんだけこの男は部隊でやらかしてんだと冷めた目でトムを見ていると、米軍の中佐の階級章を付けた戦闘服姿の男と、正統オーストラリア軍の戦闘服を着た男が数人の士官を引き連れて建物から出てきた。


米軍の指揮官ぽい男は精悍な顔付きで、まさに前線の指揮官という印象だった。多少その茶系の髪に白髪があるが、恐らく40代後半くらいだろう。しかし対照的に正統オーストラリア軍の指揮官ぽい男はかなり太っており、顔がでかく燻んだ金色の髪が飾りのようにちょこんと頭の上に乗ってるって感じだった。

戦闘服を着ているのも、戦場にいるのも明らかに場違いな男に見えた。


「トム、あの人たちが指揮官か? 」


「お? 来たな。そうそう、この基地の司令官の二人だ。米国が正司令官で正統オーストラリアが副司令官な。ちょっと説明してくるわ」


「ああ、頼んだ」


俺は建物から出てきて早々に怒鳴り散らし、兵士たちに机と椅子を用意させている正統オーストラリアの司令官を見て、これは最悪力づくになりそうだなと思っていた。


それからトムが自国の司令官に説明をし、親指を立ててきたので俺はトムのいる場所まで歩いていった。

凛と夏海を呼ぼうとしたが、付近に転がるキングゴーレムから魔石を取り出していたので俺だけ行くことにした。


「おお〜、貴方があの有名なLight mareのリーダーのミスターサトウですか! 救援に感謝致します。私は第3海兵遠征軍所属、ダーリントン防衛連隊の連隊長をしておりますエイム・ダットマンと申します。階級は中佐です」


「初めまして。Light mareリーダーの佐藤光希だ」


Bランクの剣士か、沖縄の基地司令官もそうだが米国は実力を伴った指揮官が多いな。


「こちらは正統オーストラリア共和国陸軍の……」


「ああ、そいつの紹介はいらない」


俺は失礼だと思ったがダットマン中佐による紹介を遮った。

敵の名前なんて興味ないからな。


「な、なんだと貴様! 冒険者の分際で! 私をいったい誰だと思っているというのだ! 」


「敵だよ」


「なっ!? 」


「正統オーストラリア共和国は俺たちLight mareの敵だ。米兵を救出したらお前の国と戦争をしにいくことになってるんだよ」


「なっ、なっ、なっ……」


「ミ、ミスターサトウ! そ、それはいったいどういう事ですか? 正統オーストラリア共和国は我々が支援している国です。それを敵などと……いったいどういう理由でしょうか? 」


俺の言葉に顔を真っ赤にしている正統オーストラリアの指揮官をかばうように、ダットマン中佐が慌てて間に入ってきた。


「コイツらは俺が作った魔誘香を悪用して、クイーンズランド都市連合の基地に魔物を誘導した。だからこれから報復しに行く。米軍なら知ってるだろ? Light mareから購入した魔道具の使用制限とペナルティを」


俺の作った魔道具を戦争に使用するのは御法度だ。それをした際にはどんな手を使ってでも、Light mareが報復しに来ると米国の軍人で知らない奴はいない。


「ま、まさか!? 大佐! 本当に魔誘香を? 」


「し、知らん! 私はそのようなことは知らん! その男のでまかせだ! 」


「残念だったな。魔誘香を使って魔物を誘導した兵士は既に捕らえてある」


正統オーストラリアの兵であることはサキュバスたちが既に確認している。あとはいざという時にちゃんと証言するように契約魔法を掛けるだけだ。隷属の首輪を嵌めて、聞かれたことを全て素直に話すという契約の魔法を承諾させる。拷問する必要が無くて楽でいい。


「ば、馬鹿なっ! そんなことあるわけが……」


「そういう訳だダットマン中佐。衛星電話を貸してやる。本国に確認するといい」


俺は青ざめる正統オーストラリアの指揮官を尻目に、アイテムボックスから衛星携帯電話を取り出して中佐に渡した。

中佐はお借りしますと言ってそれを受け取り、手帳を取り出してそれを見ながら電話を掛けた。


「……ええ、Light mareが救出に……それで……なんと! やはり……了解しました……以後はそのように……はい」


「理解したか? 」


「はい、確認が取れました。ミスターサトウの仰った通りでした。正統オーストラリアと我が国は今後一切関係を断ち、米国は今後パース市の支援をするとのことです。また、大統領よりミスターサトウの指示に従うよう命令が出ております」


どうやら大統領が俺のやりやすいように命令を出してくれたようだ。最悪正統オーストラリアを庇う米兵も拘束しなきゃならないと思っていたから助かる。


「ば、馬鹿なっ! 米国は長い間協力関係にあった我が国を裏切るというのか! そんな冒険者如きに米国は屈するのか! ダ、ダスマン大尉! 兵をまとめよ! 」


「ハッ! 」


「エメラ」


《 クオーーン! 》


「「「ヒッ! 」」」


「おいデブ! 兵をまとめてどうするつもりだ? まさか俺と戦うつもりなのか? なぜここに魔物が一匹もいないのか考えた上で言ってんだろうな? 」


俺がエメラの名を呼んだら、それまで寝転がっていたエメラが起きあがり、正統オーストラリアの指揮官の頭上でひと鳴きした。

たったそれだけで指揮官とその指示を受けた大尉は腰を抜かし、その場にへたり込んでしまった。


そしてそのタイミングで呼び寄せていた岩竜が5頭現れ、上空を旋回していた。


《 ド、ドラゴンだ! アレはロックドラゴン!戻ってきたのか! 》


《 た、隊長! 退避の命令を! 》


「あ……ああ……ド、ドラゴンが……」


「落ち着け! アレは俺のペットだ。ここを襲っていた岩竜二頭と、その他の岩竜を従えた。全部で12頭いるが俺の命令なしに人を襲うことはない。おいデブ! なぜ米国が俺と敵対しないかわかったか? 」


俺は狼狽える兵士たちを落ち着かせ、目の前で腰を抜かしながら上空の岩竜たちを見上げて失禁しているデブの指揮官に問いかけると、首が千切れるんじゃないかってくらいに縦に振っていた。


俺は岩竜たちを近くに着陸させ、ドラゴンに包囲されて落ち着かない様子のダットマン中佐に声を掛けた。


「ダットマン中佐。そういうわけで正統オーストラリアの兵士たちは、パース市で捕虜として預かってもらう。すぐにロットネスト島も占拠してそこに運ぶつもりだから、貴方には正統オーストラリア兵の武装解除と輸送をしてもらいたい。ああ、正統オーストラリアの艦艇は全て沈めるか鹵獲するので、ここにくることはないから心配しなくていい」


米海軍がまだパース市に着いているかわからないから、ここに来るのは夜遅くになりそうだがな。

街に戻って港に正統オーストラリアの艦船がいたらそれを処理して、ロットネスト島から正統オーストラリア軍を追い出してから捕虜をそこにまとめておけばいいだろう。


「は、ハッ! ご指示に従います! リーンドマン少佐! 正統オーストラリア兵の武装解除を! 」


「イエッサー! 」


「正統オーストラリア兵に告ぐ! お前たちの故郷は俺の敵となった! お前たちの国に俺は報復に行くが民間人を虐殺する趣味は俺には無い! あくまでも政府の奴らにお灸を据えにいくつもりだ! ここで抵抗してもいいが無駄死にになるとだけ警告しておく! エメラ! 抵抗する者がいたら周囲の兵もろともブレスでミンチにしろ! 」


《 クオーーン! 》


》》》


《 やべえ……サトウがデビルに見える。敵じゃなくて良かった〜》


トムがなにか言ってるが無視だ。あんなこと言っても微塵もビビってないんだよなアイツ。胆力だけは凄まじいものがあるよ。ほかは全てダメダメだけどな。


俺とエメラの警告と岩竜たちに囲まれているせいか、200名ほどの正統オーストラリア兵たちはおとなしく武装解除をしていった。


「ダットマン中佐、俺は南に誘導した魔物を殲滅してくる。明日までには迎えがくると思うので正統オーストラリア兵のことは頼んだ。逃げたなら逃げたで構わない。国に逃げれば俺と戦うことになるからその時に殺せばいいしな」


》》


「わ、わかりました。迎えの船が来た時にパース市まで護送します」


「以蔵たちはここでゴーレム系の魔石を回収してから付いて来い! 残りは米軍にくれてやれ。凛と夏海も行くぞ。トムまたな! 」


「「「はっ! 回収致します! 」」」


「サトウサンキュー! 助かったぜ! 必ず俺は沖縄に戻るからまたその時にな! 」


Thank you Light mare 》》》



凛と夏海が転移でエメラに乗ったのを確認した俺は、帽子を振るトムほか米兵たちに見送られ南へと向かった。

なんだか後方で魔石回収だー小遣い稼ぎだーとかトムの声が聞こえるが、多分軍に回収されると思うんだけどな。まあいくらかポケットに入れてもバレないか。


それから南の平野部に行ったが既に殲滅が終わっており、皆が素材の剥ぎ取りと魔石の回収を行っていた。

俺と凛たちも回収に加わり、魔石も魔物の種類ごとに分けて袋に入れて保管していった。

キャロルはヤンに色々と教わりながら二人で素材回収をしていた。そっと鑑定をしてみると彼女のランクはCに上がっており、パワーレベリングは成功したようだった。

ダンジョンを攻略するわけじゃないし、Cもあればもう十分だろ。


基地周辺での魔石の回収から戻ってきた以蔵たちも剥ぎ取りに参加し、一通り素材は最低限のものだけ回収してから俺たちは一路パース市へと向かったのだった。


パース市に着いてからは街の上空を旋回し、キャロルに岩竜の上から手を振らせた。

市長から通達がちゃんとあったようで、対空砲火は無かった。

街の住人も兵士たちも呆然と空を見上げていたけどな。いきなり大量のドラゴンとグリフォンが味方ですとか信じられないよな。


それから俺はサキュバスたちの乗る岩竜に街の門の前で防衛するように言い、ダークエルフたちを連れて9頭の竜と5頭のグリフォンで港へと向かった。

港には空母を含む米国艦艇が10隻ほど沖に停泊しており、正統オーストラリアの駆逐艦と輸送艦4隻が港に接舷しようとしていた。


俺たちは港に接舷しようとしている正統オーストラリアの艦艇を包囲し、降伏勧告を行った。

さすがに9頭の竜相手に抵抗しても無駄だと思ったのだろう。しばらくして白旗が各艦に掲げられた。

ふと沖にいる米国艦艇を見ると、そこからも白旗が掲げられていた。

なんでだよ! 大統領から連絡いってるはずだろ! なんで降伏する必要があるんだよ!


俺は米海軍のトンチンカンな行動に呆れつつも転移で港に降り、搭乗員全てに下船するように命令をした。

下船が終わるまでの間、俺は港の隅に移動して蘭に念話を送った。


《 蘭、待たせたな。スーはどうしてる? 》


《 主様! 蘭とスーちゃんは魔法の訓練をしに沖に来てます 》


《 そうか、横浜にゲートを繋ぐから戻ってくれ 》


《 はい! 紋章『転移』 》


『ゲート』


俺は蘭に家の近くの埠頭に戻るように言って、海に出る位置にゲートを繋げた。

するとすぐにスーに乗った蘭が現れた。

突然水竜が現れたことに港で動揺した声が聞こえてくるが全て無視して、俺はスーの背に転移をして蘭と抱き合った。


「蘭、遅くなって悪かったな。思ったより時間が掛かった」


「主様、時々念話をしてくれてたので蘭は平気でした。でも岩竜があんなにいるのは予想外でした」


「この土地でしか使い道ないからな。二頭はそのままペットにして、ほかは創造で創った」


岩竜をペットにしたことは途中で知らせてはいたが、さすがの蘭も岩竜がこれほどいるのは予想外だったようだ。


「困りました……お家に連れていっても住処を用意できそうもありません。また土地を買わないといけませんね」


「連れて帰らないからな? 岩竜は都心では飼えないからな? 歩く度に地震が起きて迷惑だからな? 」


「ええ!? そ、そんな……ガンちゃんを連れて帰れないなんて……」


既に名前を考えていたのかよ……これはメスの方は絶対ガン子って名前に違いない。


「飼えるとしたら桜島とかだろうな。あんまり離れていてもペットとして飼いづらいだろ? もうちょっと俺の創造魔法が上達したら、蘭の好きなあまり大きくない魔物を創るからそれで我慢しような? 」


「蘭の好きな……はい! 蘭は白狼王をいっぱい飼いたいです! お家の番犬にしたいです! 」


「そ、そうか……警備隊と相談してからな? もとはAランク魔物だしな。俺も慎重に創造しなきゃいけないしな」


よりによって白狼王をいっぱいとか……王種を複数集めて大丈夫かな? 喧嘩とかしないだろうか? それに放し飼いにするのなら、敷地内に来るお客さんを怖がらせないように知能が高いまま創造しないとな。これはなかなかに難易度高いな……


「うふふ、これで主様と蘭の群れは安全です」


「ははは……蘭が喜ぶなら頑張るよ」


俺は嬉しそうな蘭を見てやるしかないと思い、乾いた笑いをしていた。


それからは凛と夏海もスーの背に転移してきて、蘭と飛竜討伐やダーリントン基地での魔物の殲滅のことを話していた。

そして正統オーストラリア軍が船からの下船を終えたのを見計らって港に兵士たちをひとまとめにし、岩竜を一頭見張りに付けてエメラと残りの岩竜にグリフォン、それに蘭の乗るスーを連れて沖に停泊する米国艦隊に挨拶しにいった。


適当な米国艦隊の駆逐艦に俺は単独で転移で降りて、その辺の兵士にダットマン中佐から連絡はいってると思うがダーリントン基地に早急に兵士を回収しにいってもらえるように伝えた。

そしてこれから俺たちはロットネスト島を取り返しに行くことと、港にいる正統オーストラリア兵はあとで迎えに来るので気にしないようにと伝えて艦を降りてエメラへと戻った。


震えながら俺の話を聞いていた兵士は、引き攣った顔でイエッサーって言っていたから大丈夫だろう。

俺たちは相変わらず白旗を掲げている米国艦隊を尻目に、ロットネスト島へと向かうのだった。


さて、俺たちの別荘地となる島だからな。丁寧に攻略しないとな。




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