第13話 ロットネストアイランド






ドンッ ドンッ


パシーン パシーン


『あーあーテステス……ロットネスト島を不法占拠している正統オーストラリア軍に告ぐ! 俺たちはLight mareだ! おとなしく砲撃をやめ降伏せよ』


なかなかデカイ音が出るなこの拡声器。

俺は今、ロットネスト島の東の港に隣接する正統オーストラリア海軍基地の上空で、拡声器を片手に基地に向かって降伏勧告を行なっている。

真下に見える基地のあちこちに、ライフルやランチャーを手に建物の陰に隠れている兵士が見えるからちゃんと聞こえているだろう。


基地内の中心部には俺の乗るエメラのみで、グリ子たちや8頭の岩竜は基地の周囲を包囲している。

港に停泊している軍艦及び米国のものらしき輸送船や貨物船は、蘭の乗るスーが出港できないように港の出入口を塞いでいるから逃げることはできない。


どうやらこのロットネスト島はダーリントン鉱床で採掘した鉱物の一時保管場所らしく、港の周辺には大きな集積場が複数あった。多分ここから日本と米国の大型貨物船がレアメタルなどを積み込み輸送しているんじゃないかな? クイーンズランド都市連合もここを使っているかは知らないけど。


そうとなればこの島は正統オーストラリアにとっては大事な島のはずだ。島にある軍の基地の規模は大きく、防衛装備も充実しており戦闘機も配備されていることからまず間違いないだろう。まあ船から戦闘機から全て米国のお下がりの旧式だけったけどな。


そんなわけで降伏勧告をしてみたが、相変わらず基地中央で滞空しているエメラを狙った戦闘機及び対空砲火による攻撃が止む気配はない。魔法付与されてない弾頭などまったく効かないし、全てエメラの魔法障壁によって防がれているから無傷だけど、このままじゃ敵さんも諦めきれなさそうだな。


無傷で手に入れたかったから一切攻撃はしなかったが、なかなか往生際が悪いな。

仕方ない……


《 ヤン! あの砲台を吹き飛ばせっ! グリフォン隊は航空機を全て撃ち落とせ! 》



《 ハッ! 岩竜よ、あの砲台にブレスを! 》


《 ギュオオオン! 》


俺は仕方なく基地の手前の砲台と、周囲を旋回している10機ほどの戦闘機を破壊するように心話を使い指示をした。

俺の指示を受けたグリフォンに乗るダークエルフたちは、旋回中の戦闘機を次々とグリフォンの風の魔法で撃ち落とし、ヤンとキャロルの乗る岩竜は降下して地上の砲台に向かってブレスを放った。

岩と水による土石流のような岩竜のブレスの直撃を受けた砲台とその周囲にあった弾薬庫は、盛大に爆発して周囲に破片を撒き散らした。

そしてその瞬間、ほかの砲台からの砲撃が止んだ。


『10分待つ! 降伏か全滅か選べ! 次は徹底的にこの基地を破壊する! その際は捕虜はとらない! 一人残らず殲滅する! 』





「あら? 早いわね。最初から砲台を壊しておけばよかったみたいね」


「兵士たちも武器を捨てて両手を上げてますね」


「ここは再利用するからなるべく壊したくなかったんだよ。砲台も高いみたいだしな」


俺が最終通告をしてから5分後に、基地中心部にある建物から白旗があがった。そして無線で命令があったのか、建物の陰に隠れていた兵士たちが武器を捨ててぞろぞろと現れた。

残った戦闘機は離陸が間に合わなかった5機だけか……お? あの格納庫にヘリがあるな。車両も輸送トラックと装甲車が無傷だしこれで良しとするか。


「凛と夏海は車両やヘリなどの戦利品の数をチェックしておいてくれ。ヘリは俺たちがもらうとして、後はパース市に高く売れると思うからな」


「島内の移動に使うのね、わかったわ。装甲車っていくらで売れるのかしら? 代金はドルがいいわね。調べなくちゃ♪ 」


「まさか戦闘機と装甲車の売買までうちの会社でやるなんて……一応スクロールが兵器扱いなので扱えることは扱えますが……」


「ついでに軍艦も売るつもりだから。島も手に入るし魔石も兵器も手に入るしで、特別ボーナス出せそうだな」


「これは儲かるわよ〜。最近紫音たちもお金を使うようになったから喜ぶと思うわ」


「ダークエルフの子たちは帰ってくるなりアイテムポーチいっぱいに買い物してきましたからね。会社のカードを持たせてあげた方がいいかもしれませんね」


確かにそんなに買い物をするなら銀行で大金をおろさないといけないしな。楽しいショッピングの最中に変なのに目を付けられて面倒に巻き込まれるのもな。デビッドカードが使えるとは思うが、暗証番号を毎回打ち込まないといけないからな。さすがに大金の入っている銀行の暗証番号を、買い物の度に打たせるのも心配だ。


「それもそうだな。凛、カードを社員分作ってやってくれ。給料天引きなら買い物しやすいだろう」


「わかったわ。やっとお給料に手をつけてくれて安心したわ」


「頑張って方舟で訓練した甲斐があったよ。んじゃ俺はこの基地の司令官に会ってくるからあとはよろしく」


俺はそう言って地上へ転移で降り、白旗が掲げられている建物の中へと入っていった。

建物の中に入り廊下を歩いていると、多くの兵士が怯えたような驚いているような、なんとも言えない表情で俺を見ていた。

多数のドラゴンで乗り込んだうえに単身でやってきたからかね?


俺は近くの兵士を捕まえて司令に会いにきたから案内しろと言って案内させることにした。

途中どこかと通信をしてきるようだったが、どうせ俺を案内していいかどうかを確認していたんだろう。

悪いな。正統オーストラリア軍の階級章を見ても誰が偉いのか見分けがつかないんだよ。


俺はそのまま兵士の後をついていきエレベーターに乗り5階へと昇り、司令官がいると思われる部屋へと通された。

俺が部屋に入るとそこには軍服を着た10人ほどの士官らしきおっさんが壁際に立っており、正面の執務机に50代くらいの女性とその隣に20代半ばくらいの美女が立っていた。



「初めまして、Light mareのリーダーをしている佐藤光希だ。まずは無駄な血を流さず降伏してくれたことに感謝する」


「初めましてミスターサトウ。私は正統オーストラリア軍ロットネストアイランド基地司令官のオリヴィア・エモンズ少将です。Light mareの噂は聞き及んでおります。私たちの攻撃に対し最小限の反撃で収めていただいたことを感謝いたします」


「そうだな。少し遅かったな。あれだけの竜を前にして攻撃を仕掛けてきたのは愚策だったな。貴女の判断により戦闘機乗りが犠牲になった。本国に徹底抗戦をするようにでも命令されたか? 」


《 クッ…… 》


《 まだ若造ではないか。なぜ我々があのような子供に……》


《 中佐! 声が大きいですぞ! あのLight mareは単独でソヴェート軍を壊滅させたのですぞ》


《 昨年に上海のあの過去類をみない大氾濫を、たった1パーティで殲滅したとも聞いている》


《 彼があの魔王ならばSSSランクだ。ここにいる我々など一瞬で燃やし尽くされるだろう》


《 なっ……そ、それほどの……》


ふーん、こんな辺境の地で壁の中で閉じこもってる割には詳しいな。米軍からでも情報を仕入れてるのかね。


「ええ、その通りです。私はすぐに降伏するつもりでしたが、本国からはここを死守せよと。本国とパース市に停泊している艦艇が援軍として来るまで持ちこたえよとの命令で、やむなく迎撃をすることになりました」


「パース市にいたのは既に鹵獲した。本国のはまあ来ても明日あたりか? ドラゴン相手に無茶な命令だな」


「やはり……無謀な行為だったとは承知しております。結局戦闘機を呆気なく落とされこちらの攻撃は一切効かず、命令に背く形になりますが降伏を決断することになりました」


「まあダーリントンにいたあのデブよりは良い判断だな。さて、ではこれからのことを説明する。これよりこの島は俺たちLight mareが所有する。正式な所有者であるパース市からは了承済みだ。そこで、あんたたちには正統オーストラリア国を俺がお仕置きしている間、ここで捕虜となってもらう。特にどこかの部屋に監禁するつもりはない。建物内なら自由にしていてくれて構わない。だが、建物から一歩でも外に出たなら建物ごと破壊する。見張りにドラゴンを置いていくから馬鹿なことを考えないことだな」


下手に拘束して建物を汚されたら嫌だからな。この建物と基地内の設備は再利用するつもりだ。

兵舎から食料だのを集めさせてこの建物に放り込んでおいた方が監視が楽だしな。


「こ、個人でこの島を所有するのですか? それにパース市の了承を? では今回のことはパース市が? 冒険者連合は戦争には加担しないのではないかったのですか? 」


「今回のことは冒険者連合は関係ないな。俺が個人でパース市を独立させる依頼を受けた。この島を報酬にな。たまたま正統オーストラリアとクイーンズランド都市連合には、会社として制裁をするつもりだったからついでだな」


「せ、制裁……ですか? 」


「おいおい、トボけんなよ。お前らが俺が作った魔誘香を戦争に使ったのは全てバレてんだよ。証拠も確保した。米国がバックにいるからって調子に乗ったな。米国は俺と敵対したくないと言ってお前らを見捨ててパース市についたぞ? パース市から搾取して得たお前らの繁栄はもう終わりだ。これからはパース市の住民のような生活をして過ごすことになるだろうよ。因果応報ってやつだな」


何十年も同胞を食い物にしてきたんだ。逆の立場になって精々自分たちがしてきた事を悔い改めるんだな。

これからはお前たちが鉱夫になる番だ。

しかしこの司令官、若い時は相当美人だったんだろうな。ん? 隣の美女と顔が似てるな。もしかして親子か? 茶色がかった黒系の髪に青い目、胸は普通だがなかなかにエキゾチックな雰囲気の美人親子だな。


「なっ!? べ、米国が!? 」


《 馬鹿な! 長年の盟友である我らをそんなあっさりと……》


《 shit! 政府のやつらめ! 大丈夫だと言っていたではないか! 》


《 つまり政府の暴走のせいで我々はこのような目に? 》


《 魔誘香さえあの時使わなければLight mareが出てくることはなかったというわけか……》


《 く、国が滅ぼされるのか? 国民がパース市のような貧しい生活を強いられるというのか? 》


「別に滅ぼすつもりはねえよ。お前らがパース市にしてきたことを今後してもらうだけだ。滅ぼすのは簡単だが、俺に民間人を虐殺する趣味はないからな」


港を破壊してシドニーやほかの都市を囲っている壁を壊せば呆気なく滅ぶだろう。周りは魔物だらけだからな。それはさすがに俺も気が引ける。生かさず殺さず汗水流して働いてもらって、パース市と我が社を富ませてもらわないといけないからな。

なに大丈夫だ。頑張れば頑張った分だけ贅沢できるようにはしてやる。

ただ、軍人は全員ダンジョン攻略させる。今までまともにダンジョン攻略なんかしたことがないお前らには地獄だろう。ここにいる奴ら全員Dランクだもんな。


「で、では政府のみに責任を問うと? 街の民間人には手は出さないということですか? 」


「そのつもりだ。ただ、政治家が頑なに降伏を拒んだら軍人には死傷者が出るだろうな」


「それはやむを得ないと思っています。ですがどうか民間人を傷つけることだけはご容赦ください。お願いいたします」


「だからそのつもりだと言っただろ? まあいい、これ以降本国との無線通信を禁止する。別に隠れてしてもいいが、援軍が来れば無駄に犠牲者を増やすだけだ。防御を固められたらうっかりブレスで壁を破壊して魔物を街に入れてしまうかもしれない。よく考えて行動するんだな」


別にどっちでもいいけどな。どうせ逃げ場はないんだし。


「わかりました。指示に従います。また捕虜に対しての格別な扱いに感謝致します」


「気にするな、見張るのが面倒なだけだ。明日か明後日には全てが終わっている。それまでおとなしくしていろ。三時間以内に食料や生活用品をこの建物に運ばせろ。それ以降外にいた者は全て殺す。以上だ『転移』 」


「「「「「なっ!? 」」」」」


俺はそう言い残してその場から転移で建物の外に出た。

そして以蔵に2頭の岩竜を無人でこの地に残すように指示をし、蘭には念話で正統オーストラリアの船のみ丁寧に陸に揚げるように頼んだ。


ひと通り指示を出した俺は飛翔の魔法で上空に飛び、飛行場にいたエメラの背に移動して凛のチェックを手伝ってからパース市へと戻ることにした。もうかなり暗くなってきたしな。


途中パース市の港で待機させていた捕虜に輸送船に乗るように言って、岩竜付き添いのもとロットネスト島へと護送させた。向こうに着いたら司令官のいる建物にすぐに入るように言ってあるから大丈夫だろう。すぐに入らないと岩竜に攻撃されるしな。


こうして俺たちの物となるロットネスト島をほぼ無傷で手に入れることに成功したのだった。

港も建物も無事だしあれならすぐにでも商売ができる。

早いとこ二つの都市国家を制圧して島をゆっくり見て回りたいな。


確か60ヶ所もビーチがあるんだよな? そのうち東側の20ヶ所くらいは一般解放して、島の西側半分は俺たちのプライベートスペースにするか。森林もあるし良い避暑地になりそうだ。

そして恋人たちと俺用のビーチに、サキュバスと俺用のビーチ、ダークエルフと俺用のビーチと分けてそれぞれのビーチでキャッキャウフフするのもいいな。


あっ! いいこと思いついた! いっそのこと水着不可のヌーディストビーチにするか!

全裸の恋人たちやサキュバスたちにダークエルフたちと、生まれたままの姿でアダムとイヴごっこを……

これは堪らないな……よし! とっとと終わらせよう!


俺はエメラから降りパースの街に入るまで、新たに手に入れた島を楽園にするために色々と計画をするのだった。








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