第9話 心の余裕






俺は岩竜をペットにした後、凛とテイラー市長ほか兵士たちがいるところまで戻ってきた。



「ダーリンお疲れ様! この人たちの治療は終わったわよ」


「ありがとう凛。さっき夏海から戻るって心話がきたよ。やっぱり瞬殺してきたみたいだ。兵士たちもその後ろから付いてきてるからここで少し待とう」


「飛竜じゃね〜お姉ちゃんとエメラなら手間取る方がおかしいわね」


夏海のことだから刀に付与した天雷を放たずに、飛竜に飛び乗って斬ってそうだけどな。


「あ、あの……ミ、ミスターサトウ……が、岩竜はどうなってしまったのですか? それに南に行った飛竜は……」


「ん? ああ、岩竜はペットにした。あんたの部下を追っていた飛竜はさっきの風竜、名前はエメラっていうんだけどな? そのエメラと一緒に行った俺の恋人が殲滅したよ。あんたの部下もこっちに向かってきているから少し待ってろ」


「あ、ありがとうございます。その……いま岩竜をペットにしたと聞こえたのですが…… 」


「そうだけど? 既にエメラを従えてるんだから別におかしな事じゃないだろ? 」


「そ、それは確かにそうですが二頭の岩竜をペットにしたとは……」


「別に信じられないなら信じなくてもいいと言いたいところだが、今後のこともあるか……おい! 岩竜! 命令だ! 飛べ! 」


俺は今後のことも考えて後ろを振り向き、食事が終わったお互いの口を舐め合っている岩竜に飛ぶよう命令した。


《 《 ギャオォン! 》 》


「腕を振れ!」 「降りろ! 」 「伏せろ! 」 「よしっ! 楽にしろ! 」


俺の命令で二頭の岩竜はすぐさま上空に飛び上がり、立て続けに出した命令全てに機敏に応えていった。

うんうん、元はおとなしい竜なだけあって従順でよろしい。

岩竜にひと通りの動きをさせた俺は市長の方に向き直った。すると凛以外全員が顎が外れるんじゃないかってほどに口を大きく開けて目を見開き驚いていた。


「俺は闇魔法の契約という魔法を使える。圧倒的な力を見せた上で契約をすれば、条件はあるが生物なら従えることができる」


「あ……そ、そんな魔法が……う、疑って申し訳ありませんでした」


「信じられないのも無理はない。エメラを卵から育てたから従えることができているんだろと言っていた者もいたしな。そういう訳であの岩竜はもう安全だ。俺の命令なしに人を襲うことはもうない」


「なんという……これがSSSランク冒険者……想像以上だ……」


《 クオーーン! 》


「お? 噂をすれば戻ったか。エメラお疲れ、ご褒美だ」


《 クオッ♪ 》


俺と市長が話しているとエメラが南から戻ってきた。

俺はご褒美にアイテムボックスからトロールキングを取り出し上空に投げた。

するとエメラはそれを上空でキャッチして、少し離れたところに着陸して食べ始めた。

夏海は転移で既に凛の隣に立ってエメラに微笑みを向けており、凛の近くにいた兵士は突然現れた夏海を見てギョッとしてた。ここの兵士は顔芸が揃っていて面白いな。


「夏海もお疲れ」


「ただいま戻りました光希。エメラとの狩りは楽しかったです」


「あっちの生き残りは29人か、飛竜八匹に追われてよく生き残ってたよな」


「どうも飛竜たちは遊んでいたみたいですね。わざと攻撃を外していたようです」


「はは、知能の低い飛竜らしいな。そういう訳で市長、あんたの部下がこっちに向かっているから合流して西の海岸沿いを走って街に戻れ。途中で7人ほど生き残りがいたからその回収も忘れずにな」


ここに来る途中で見かけた生き残りは、西の海に向かって歩いていたからな。海岸沿いを走っていけば見つけられるだろう。


「な、7人も生き残って……ありがとうございます。このお礼は必ずさせていただきます」


「いいさ、依頼のうちってことにしといてやる」


「そ、それです! あの……キャロルがお願いしたことは確か冒険者連合への口添えだったと思うのですが、なぜLight mareの皆さんはオーストラリアへ? い、いえ! 来ていただいたことは大変助かったのですが、キャロルがなにをお願いしたのか気になりまして……」


「ああ、ロットネスト島が欲しくなったからパース市の独立を手伝うことにした。キャロルさんとはパース市の独立としばらくの間の防衛を受ける代わりに、ロットネスト島の所有権とパース市で商取引をする際の税免除を報酬としてもらうことになった。依頼に関しては全権委任されていると言っていたから、あんたも文句は無いんだろう? 」


「は? あ、はい。確かにキャロルには交渉の全権委任をしておりますので、私は追認するだけなのですが……そ、その……冒険者連合を誘致していただけるのではなく? Light mareがパース市を独立させてくれ、防衛もしていただせると? あの……ご存知かと思いますが、我々が独立をすれば正統オーストラリアとクイーンズランドと戦争になる可能性があります。さらにその後ろ盾となっているソヴェートとアメリカともです。ですから冒険者連合を誘致して攻められないようにと考えていたのですが……」


「ソヴェートには首都にドラゴンで乗り込んで、オーストラリアから手を引くように言って了承してもらった。日本とアメリカは正統オーストラリアの支援をやめてパース市を支援することになった。正統オーストラリアとクイーンズランドは別件でお仕置きをしにいくから、その時にパース市に二度と手を出せないようにしておく。だから心配する必要はない。信じられないなら戻って日本と米国に連絡してみるといい。ツテはあるんだろ? 」


「…………ま、まさか本当に? は、はい……確認させていただきます」


半信半疑ってとこか? まあ普通は信じられないよな。でも俺たちならあり得るとも思っているよような顔だな。まあ30万人の生活を背負っている市長なんだし確認を取るのは当然だな。


しかしその割には命を捨てて決死隊なんかにいるけどな。優秀で責任感が強いやつほどこういう馬鹿をするんだよな。まあこういう男は嫌いじゃないが、キャロルに全部チクッてやるからあとでコテンパンにされるといい。



「市長!」


「「「「「市長ー! 」」」」」


「ニース! ジャック! ケインにオルソンも! お前たちよく生きていてくれた! 」


「市長! ドラゴンと東洋の美女が飛竜をあっという間に倒してくれたんです! 」


「あっ! あのドラゴンです! うおっ! 東洋の美女! 」


「っておいっ!が、岩竜が! ね、寝てる……」


「し、市長! ど、どうしましょう! 岩竜が! 」


「落ち着け! もう大丈夫なんだ。あの岩竜は……」


騒がしい奴らだな……7台のジープでやってきていきなり騒ぎ始めやがって。

市長が事情を説明しているうちにこっちも準備するか。


「凛、夏海。皆を呼ぶぞ」


「え? ここで呼ぶの? 」


「ああ、もう転移はこの世界でバレてるからな。気にしないで使うことにしたよ」


方舟でバンバン使ってたから人目を気にするのが面倒になっただけともいう。

実際ソヴェートと米国にはバレてるから隠しても意味はないだろう。

俺たちを脅威だとか言い出したら世界を滅ぼすか方舟に逃げるかすればいいしな。


絶対安全な逃げ場ができて随分と気持ち的には楽になったな。もしも方舟に逃げる時は、一つのフィールドをLight mareとその家族しか入れないようにすればいいしな。

まあそんな事にはならないだろうけど。


「そうね! 何かあれば逃げるとこあるしね。この世界でもオープンでいいと思うわ」


「そうですね。万が一の時は、うちの家族と門下生を連れて方舟に行ってもいいですしね」


「ははは、そうは言っても生まれ故郷から離れるのは辛いだろうから、方舟は最終手段だな。できるだけ脅威と思われないように大国とはうまくやるようにするよ」


それでも創造魔法まで知られたら一気に人類の敵となりかねないと思うんだけどな。魔王的な意味で。


「ゲートと創造魔法を知ったら誰も歯向おうなんて思わないと思うわ。逆に隠すと勝てるかもって歯向かってくるかもしれないと思うの」


「それは一理あるわね。ある日突然首都に魔物とドラゴンが現れたら、守る物の多い国ほど何もできないと思うわ。方舟のように絶対安全な土地がないこの世界ではね」


「それは確かにそうだけど……」


確かに首都の真ん中で最上級ダンジョンの氾濫が起こるようなもんだしな。

でもそれって世界を恐怖で抑え込むってことだよな? それはちょっと……

俺の恋人はなんでそんな恐ろしいことを平気で言うんだ? 方舟でちょっとやり過ぎたかな?


まさか方舟という逃げ場ができただけで、こうもLight mareの魔王軍化が進むとは……

うちの四天王怖い……自制しないと。


俺は凛と夏海のガタガタ言ってきたら世界征服しちゃえば? って雰囲気に呑まれないよう自分を律し、二人を連れて市長のいる場所から500mほど離れた場所まで歩いていった。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る