第15話 ピチピチュの実
ーー 台州市 台州川 最終防衛陣地 霧隠れの以蔵 ーー
私と静音は魔導師隊を引き連れ川の手前までやってきた。目の前には宙に浮きながらこちらへ向かってくるリッチ二体とエルダーリッチが見える。
「劉よ、あの中央の赤黒いローブを着て錆びた金の王冠を被っているのがエルダーリッチだ」
「あれが理事長の娘さん達の仇の……」
「エルダーリッチは魔力も魔法抵抗値も高いけど、これだけの人数から上級魔法を撃たれれば流石に無傷とはいかないわ。アイツがダメージを負ったらトドメは私達が刺すわ」
「はい。私を含め上級魔法は中央のエルダーリッチへ、中級魔法は左右のリッチを対象に撃たせます」
「うむ。頼むぞ」
劉にエルダーリッチを見せた後に私は精霊魔法の発動準備をした。上位精霊の精霊魔法は込める魔力次第で上級魔法に匹敵する破壊力を引き出せる。劉達と合わせて8人の上級魔法に耐えられる筈が無い。
そしてエルダーリッチがゆっくりと魔法の射程内へと入って来た。
「劉! 撃て! ネルよ、我が娘の仇を切り刻め! 忍法『闇手裏剣乱舞』」
「はい! 彼の者を焼き尽くせ!『激炎』」
『水龍の牙』 『エアクラッシュ』 『土石流』 『炎龍の爪』『風龍の爪』
「闇の精霊ネルよ! 私に力を! 我が娘の仇! エルダーリッチを串刺しにして! 忍法『闇槍百刺』」
私の合図と共に魔導師隊は一斉に魔法を放った。私が放った精霊魔法により闇の手裏剣が四方八方からエルダーリッチへ襲い掛かり、静音の精霊魔法はエルダーリッチの足下から百本もの槍が出現しエルダーリッチを串刺しにしようとしていた。それと同時に劉他5名の上級魔法がエルダーリッチへ、その他の魔法使いの魔法はリッチへと到達しようとした時……
パシーン パシーン
パシーン パシーン
その全てが弾かれた……
「なっ!? 結界!」
「そんな! これだけの魔法を弾く結界なんて!」
私達の放った魔法は全て弾かれ、エルダーリッチどころかリッチまで無傷だった。
そんな馬鹿な……上級結界ですら破れる程の魔法を何故? そもそもエルダーリッチが結界魔法を使うなど聞いた事も無い。例え使えたとしてもあれだけの強度を上級結界で出すには相当な魔力を消費するはず。しかし全く消耗した気配が無い。一体どういう事なのだ……
「馬鹿なっ! 弾かれたなんて…… あっ、いけない! 理事長魔法が来ます!」
『………………アイス エイジ』
『………………トルネードカッター』
『………………フレイムスピア』
『炎壁』 『土壁』『エアウォール』『氷壁』
「クッ……退け! 川が凍る! このままではゾンビに呑まれる!」
「はいっ! 皆一旦退くぞ!」
私が魔法を弾かれ放心していた所にエルダーリッチが周囲全てを凍らせる魔法を放ち、リッチがこちらへ立て続けに攻撃魔法を放って来た。劉達の防御魔法でその全てを防ぐ事はできたが、川は徐々に凍結していきゾンビが渡ってくるのは時間の問題であった。
私はショックを受けながらもここにいる者達を死なせる訳にはいかず、エルダーリッチを睨みつけながら撤退の指示を出した。
魔法が駄目なら次は接近戦を仕掛けるまでよ。待っておれ! 必ずその首をもらい受けに行く!
その後エルダーリッチは更に上流でも魔法を放ち川を凍らせた。そして広範囲から凍った川の上を通ったゾンビとスケルトンが襲い掛かって来た。
それに対し我々はドローンを使いゾンビの頭上から聖水を降らせ、動きを鈍らせた所を魔法と剣で倒していった。
だがやはり多勢に無勢。川を渡るゾンビ達が徐々に増え、我々も少しずつ後退せざるを得なくなった。
やがて川から指揮所迄の間に配置した車両も、ゾンビとスケルトンで埋め尽くされて意味を成さなくなってきていた。後退に継ぐ後退で我々は一人で対応するゾンビとスケルトンの数が増え、負傷していく者が増えていった。
「不味いな、このままでは包囲される前に突破されてしまう。静音、シルフィーナはまだか?」
「もう台湾を出発したそうよ。もうじき到着するわ。今は耐えるしかないわ」
「皆の者聞けっ! 台湾から援軍が出発しこちらへ向かっている。あと少し、あと少し耐えよ! 死ぬな! あと少しで助かるぞ!」
「「「おおっ!」」」
『…………アイススピア』
「「ギャーーー!」」
「クソッ! リッチ共め調子に乗りおって! 負傷者は直ぐに下がって治療を受けよ!」
《こちら無情街道防衛集団。ゾンビとスケルトンを確認》
《こちら福栄道防衛集団。こちらもゾンビを確認した》
《連龍高速道路防衛集団だ。こちらからもゾンビ達が向かって来ている》
「わかった。お前達は撤退し西の飛空艇が着陸する予定地で待機していろ! ゾンビが川を渡ったらこちらに撤退して来い!」
『『『 了解! 』』』
クッ……政府め! せめて踏み込み式の小型センサーを空からばら撒いてくれれば、別働隊を作る必要も無かったと言うのに! つくづく使えない政府だ。
しかし不味い……西側の山間部を進んでいた20万のゾンビ達が追いついて来た。このままでは包囲される……やむを得んな。私が殿となり冒険者達を後方の市街地まで撤退させ、そこで建物を使い市街地戦を行うしか無いか。
どうやら私もここまでのようだな。
「静音、我がここで引きつけるゆえ……」
「以蔵来たわ!」
「何!?」
「シルフィーナよ! 援軍よ! 皆の者! 援軍が来たわ! 押し返しなさい!」
「「「おおおおお!」」」
「飛空艇……なんとか間に合ったか」
私が静音に撤退を指示しようとした時、静音より援軍が来たと聞き急ぎ背後の南の空を見上げた。
見上げた先には、夜の暗闇に浮かぶ白い飛空艇がこちらへと向かって来ているのが見えた。そしてその胴体には、翼を広げているドラゴンとその胸に突き刺さる6本の剣の絵が金色で描かれていた。それは紛れもなく冒険者連合の紋章だった。
援軍の報せを聞いた冒険者達は一気呵成にゾンビとスケルトンを川へと徐々に押し返していった。
そして飛空艇が真上まで来た時。
シルフが舞い降りてきた。
ドゴオォォン!
シルフはその膨大な魔力で、凄まじい音と共にスケルトン共々凍った川を打ち砕いた。
「なんだあれは! シルフィーナの精霊魔法だと思うがなんだあの破壊力は!」
「恐ろしい程の魔力だったわ……きっとあのシルフは特位精霊よ。そうでないとあの威力は説明がつかないわ」
「特位精霊だと!? シルフィーナが特位精霊持ちとなったのか! 」
「里にも昔勇者様に付き添った者が特位精霊持ちになったと聞いた事があるわ。勇者様の側に仕えると成長が早くなるのかしら」
「いくら勇者様でも精霊までは見えぬと聞く。シルフィーナの努力の成果だろうよ。いずれにしろ氷を破壊してくれたのは有難い。そして頭上から降り注ぐこの聖水の雨のお陰で、ゾンビとスケルトンは動きが鈍くなっておる。今の内に川を渡って来た者共を掃討するぞ!」
「ええ、今の内に掃討して態勢を立て直しましょう」
シルフィーナの精霊魔法には驚かされたが、今は川を渡り戻れなくなったゾンビとスケルトンを掃討するのが先だ。先ずは態勢を立て直す。夜が明け陽が出ればゾンビ共の動きも鈍る上に更なる援軍も到着する。さすれば今しばらくここで時間を稼ぐ事ができる。
私は援軍による好機に喜びつつ、ゾンビとスケルトンを掃討する為に前線へと躍り出るのだった。
ーー 富良野ダンジョン 28階層 佐藤 光希 ーー
「光希、この薬草がそうですか?」
「ああそれで間違い無いよ。一応濡らした布で根っこを包んでおいてくれ。すぐ枯れるんだよその薬草」
「はいわかりました」
ダンジョンに入って3日目の早朝。俺達は最下層を前にして採取をしている。ここのフィールドにはレア素材が多いので、今の内に採り溜めをしておこうと思ったからだ。内臓を若返らせる薬の素材や魔薬に媚薬。それに頬が落ちるほど甘くて美味しい果実などこのフィールドは素材の宝庫だ。いつか作れるようになるかも知れない最上級ポーションの素材もあったので採っておく。
最上級ポーションはエリクサーとも言われていて、レシピや素材は持っているんだけど肝心な最上級錬金魔法書が手に入らなかったから作れないんだよな。
蘭と何度もゴーレム系の最上級ダンジョンをハシゴして周回したけどこればかりは運で、手に入ったのは毎回上級錬金魔法書ばかり……最上級ポーションはドロップしたけど、それを作り出せる魔法書は手に入らず泣く泣く諦めたんだよね。結果的に魔王戦で最上級ポーションは一個も使わなかったけど。
「ダーリン、このいい匂いがする花は何?」
「それは媚薬の材料になるやつだよ」
「え? 媚薬って……あの?」
「そうだよ。理性が飛ぶから禁制品に指定されてるんだ。他の冒険者が知らないで持って行ったら、犯罪とかに使われるかもしれないから全部採取しておこう」
「え? うん……うん? ダーリン……私達に使ったりしないわよね?」
「おっ! 蘭の好きなクワンの実があるぞ! 沢山採ってジュースやゼリーにしよう!」
「はい! 在庫が少なくなって来て少し不安でした。蘭が採り尽くします!」
「ちょ、ちょっとダーリン露骨に無視したわね! 使う気なんでしょ!」
「え? そんな事しないよ。凛が使いたいと言わなければ絶対に使わないよ」
「本当かな〜 お姉ちゃんも見張っててね!」
「……媚薬……獣のように光希を貪るほどの……ハアハア……」
「これは駄目そうね……」
「あははは。まあまあ、ほらっ採取どんどんやろう。風豹が頻繁に襲って来てるしさ、メイが相手をしているけどキングスパイダーもさっきからしつこいし早く終わらせよう」
俺は凛のツッコミを誤魔化しつつ回避し、採取に集中するように言った。
無理矢理は使わないよ。ただ、焦らされている凛に使っていいか聞くだけだから。
うん、楽しみだ。
「もうっ! わかったわよ。それにしてもBランク魔獣のオンパレードね。風豹はスクロールの素材になるから歓迎だけど、蜘蛛は嫌だわ。さっきの火蟷螂も素材をカマで燃やすから腹立つし」
「森の中だから仕方ないよ。森を出るとデスワームが出てくるし、結界が無いと採取も落ち着いてできないしね」
「これ絶対普通の冒険者じゃ採取無理よ。薬草一つ採取するのに命懸けよね」
「冒険者はハイリスクハイリターンの仕事だからね。せっかくAランクになって下層に来れるようになっても、採取途中で命を失う者もいる。それでも富と強さを求めてダンジョンに潜るのが冒険者さ」
「そうよね……私は家業が家業だし、お祖父様の魔法に憧れて育ったからこの道を選んだわ。お姉ちゃんは家族が家族だし、強さを求めてなのよね。そして二人ともダンジョンで死を待つしか無い状態に陥ったわ。ダーリンがいなかったら私もその死んだ冒険者と同じだったのよね」
「運……なんだよ。どんなに強い者でも運が悪ければ呆気なく死ぬ。運が良ければ氾濫中の上級ダンジョンで取り残されても生き残る。今俺達がここでこうしている間にも、世界中で多くの人がダンジョンで死んでいる。でも、たまたま俺達が通り掛かればその人は助かる。危険な場所で生き残るには運も必要なんだ」
そう、運なんだ。過去の勇者も魔王の所に辿り着く前に命を落とした者もいる。勇者でさえ死ぬ時は死ぬんだ。俺だって別に例外じゃない。強くなれば確かに死ぬ確率は低くなるけどゼロにはならない。
「運か……でもダーリンが魔獣に殺される未来とか全然見えないわ」
「それはわからないよ。今後俺だって知らない強力な魔獣が現れるかもしれないしね。その他にも古代の魔道具とかは使い捨ての物が多いけど、その分強力だからそういう未知の魔道具を使われたらどうなるかわからないさ」
昔、古代遺跡から発掘された強力な結界を張る魔道具を盗んだ者がいた。そいつを討伐するよう王国に命令され戦ったが、確かに上級結界より強力な結界だった。その魔道具は結界が破られると同時に壊れたからどんな仕組みなのかはサッパリ分からなかったけど、古代の魔法文明はかなり発達していたらしいからそういう物もあるんだろう。まあこの世界には古代遺跡は来ていないからそんな物を目にする事はないと思うけどな。
「そんなのがいそうな所に近付かなければいいのよ。わざわざ運試しする必要は無いわよ。会社を育ててのんびりしましょ」
「それもそうだね。毎日凛とエロい事してた方が幸せだしね」
「もうっ! ほんとダーリンはえっちなんだから……でも、なんだか今の話でダーリンでも死ぬ事があるって考えたら少し不安になっちゃった……さっきの花の薬……一度だけなら飲んであげてもいいわよ?」
「え? ほんとに!? それは楽しみだな!」
「ダーリンだけなんだからね? あんな縛られたりとか恥ずかしい事するのは……勘違いしないでよねっ!」
「わかってるさ。俺は幸せ者だなぁ。そうと決まればとっととガーディアン倒して家でゆっくりとイチャイチャしよう! うん、そうしよう!」
「もうっ! ほんとにえっちなんだから!」
ふふふ……えっちになるのは凛の方なんだよね〜早く帰ってえっちな凛をこの目に焼き付けなければ! 漲ってきた!
「みんなー! 採取はこの辺にしてガーディアンを倒しに行こう! クオン達が心配になってきちゃってさ、早く帰ろうよ」
「そうですね。エメラも寂しがっているかもしれませんしね。そろそろ帰りましょうか」
「うふふ。シル姉さんが一番寂しがってるかもしれません。蘭もシル姉さんへお土産の果実を採取したので早く渡してあげたいです」
「よしっ! それじゃあ行こうか。グリ子! グリ美! メイ! 狩りは終わりだ! こっちに来い!」
キュオォン
キュオッ!
ガウッ
俺は早く家に帰ってエロエロパラダイスを満喫したくなり、皆をグリ子達に乗せ29層へと向かった。
29層にはハーピーの上位種のハイハーピーと呼ばれるBランクの魔獣が中級程度の風魔法を放ちながら襲い掛かって来たが、結界で防御しつつ蘭の天雷で呆気なく墜落していった。耐久力があるから死んではいないだろう。先を急ぐ俺達の邪魔にならないなら、別にトドメを刺しに行く必要も無いと無視して最終層である30層を目指した。
30層は深い森だ。川も山も草原も一切無く、フィールド全てが深い森になっている。通常の攻略者が地上を歩いて行くと方向が分からず、迷いながら高ランク魔獣の絶え間ない襲撃で消耗させられる死の森となる。しかし俺の場合は探知を掛け高い木に登り転移して終わりだ。
今回はグリ子達がいるからこのまま真っ直ぐガーディアンの所まで行く。このフィールドはパニックコンドルという状態異常魔法を使う特殊な鳥系魔獣がいるが、中級以上の結界を張っていれば防げる程度の魔獣だ。
「うわぁ全部森なのね。ここを地上で歩くとか嫌だわ」
「フィールド系の恐ろしい所はこういう所ですね。このフィールドで野営は厳しいですね」
「そうだね。俺も最初の頃は苦労したよ。おっ! 来たよ! さっき言った通り結界を張って落ち着いて攻撃すれば大丈夫だからね」
「あれがパニックコンドル? 顔も飛び方もあの鳥がパニックになってるようにしか見えないわ」
「そうよね。酔っ払いが高速移動しているみたいで動きが読めないわ」
「それがアイツらの狙いだ。落ち着いて近付いたら狩ればいい。蘭! グリ美に結界を!」
「はい! グリ美ちゃん行きますよ〜紋章『女神の護り』」
パクァー
パクァー
「うわっ! 気持ち悪い顔ね! 10本喰らいなさい!『炎槍』」
「これは狙いづらいですね。ならば! 『黒雨嵐』」
「うふふふ。行きますよ〜 紋章『天雷』」
パグァァ!
バグァァ!
「断末魔も気持ち悪いわね……」
「お疲れさんっ! よし、それじゃあここで一旦停止してくれ!」
「いよいよピチピチュの実ね」
「ああ、その前に夏海にこれを」
「これはミスリルの刀! 」
「富良野に来る前に出来上がっていたから受け取って来たんだ。後は錬金と付与だけだったんだけど、今回は素材がいいから中級魔法を付与しようと思ってさ、夜にテントで少しずつ作ってたんだ。付与した魔法は雷鳥だ」
「雷鳥を!? 白銀の刀身に雷……この刀を『白雷』と名付けても良いでしょうか?」
「ああいいよ。夏海の命を守る装備だ。好きにしていい」
「光希……私の為にこのような素晴らしい刀をありがとうございます。愛してます。その……私も先ほどの花の……飲んでもいいです」
「ほんとに! 夏海まで飲んでくれるなんて最高だな! 凛と夏海に貪られ続ける……よしっ! 早く狩ろう!今すぐ狩って帰ろう!」
「うふふ。蘭も一緒です」
蘭は飲まなくていい。俺が死ぬ……
「もうっ! ダーリンはもうっ!」
「ふふふ。光希可愛い……」
「ははは、楽しみでつい……ああ、先に言って置かないといけなかった。ここのエルダートレントは倒したら、その残骸にピチピチュの実が成るから火系の上級魔法は禁止。それと、エルダートレントが死んだ時の魔力の残量によって成る実の数は変わる。最低2個は成るけど、魔法を全く使わせないで倒せば最高で5個手に入るから一気に倒そう」
「そうだったのね、知らなかったわ。過去に2回持ち帰った人達は3個だったわね。記録更新しなくちゃ」
「そんな仕組みだったんですね。それでは接敵して一斉に攻撃ですね」
「キングトレントが壁になるからそっちを頼むよ。エルダートレントは俺と蘭でやるよ。慣れてるしね」
「わかったわ。5個手に入れる為だもの。邪魔なキングトレントは燃やしてやるわ」
「私も切り刻みます!」
「それじゃあこの先にガーディアンがいるからその手前に着陸場所を俺が作る。そこで降りて攻撃をしてくれ。それと今から動画を撮るからね」
「わかったわ。あっ、お姉ちゃん。私の髪乱れてないかしら」
「大丈夫よ凛ちゃん」
「氷炎の魔女のファンができたらどうしようかしら」
「……大丈夫よ凛ちゃん」
俺はいらない心配をしている凛をスルーし、皆を先導して森の一番奥まで進んだ。そこは一見普通の森に見えるが、俺の探知にはしっかりとエルダートレントの魔力とキングトレントの魔力が11個映っている。俺はその手前に向けて魔法を放った。
『轟雷』
魔力を少し多めに込めて放った轟雷は森の木々に当たり一瞬で燃やし灰にした。
そしてその空いたスペースにグリ子達を着陸させ飛び降りた。
「邪魔よ!『豪炎』そして氷炎の魔女の真髄! 紋章『氷河期』」
「行きます! 白雷よその力を解き放て! 『雷鳥の舞』」
「蘭行くぞ! 『スロー』 『ヘイスト』『天雷』『影縛り』」
「はい! エルトレちゃん久しぶりですね! ではさよなら!」
グリ美から飛び降りた凛は豪炎で手前のキングトレントを燃やし、続けてその奥でエルダートレントを守ろうとするキングトレント三体を凍らせ動きを抑えた。そして夏海は雷鳥を放ち、エルダートレントの隣にいた二体のキングトレントを焼き砕き足を止めさせた。
凛と夏海の攻撃で盾を失ったキングトレントより一回り小さいが真っ白な木のエルダートレントは、その口を開け魔法を放とうとしたが俺の魔法で動作が緩慢になった。そこへ俺は蘭にヘイストを掛けスピードを上げさせ、同時に天雷でエルダートレントにダメージを与え完全に動きを止めた所で影縛りで拘束した。
そこまでお膳立てした所で今日は緑のチャイナドレス姿の蘭が、2つの魔鉄扇を両手に持ちエルダートレントに挨拶をしてから2連撃を放ちその胴体を三等分にした。
何もできぬまま胴体を切断されたエルダートレントは倒れ、枝になる葉を全て落とし胴体をしぼませていった。
「ハアァァァァア 多田抜刀術『一閃』」
「これで最後よ!『豪炎』」
「お疲れ様。もうBランク魔物が複数いても二人で問題無いね」
「ダーリンの力のお陰よ。たくさん撃てて気持ち良かったわ」
「この刀の魔力の通りと切れ味は素晴らしいです。以前頂いたドロップ品のミスリルの短剣とは全く違いますますね」
「腕の良いドワーフ製だからね。ドロップ品は所詮ドロップ品だよ」
「なるほど。専門の職人が作るとこんなに差が出るのですね」
「ああ、武器防具に関してはそうだね。蘭もお疲れ様。相変わらず凄い切れ味だな」
「うふふ。主様の魔法のお陰でゆっくり急所を狙えましたから」
「蘭にはヘイストは必要無かったかもな。それよりみんな見てくれ、こうやってピチピチュの実が成るんだ」
俺がそう言うと、凛と夏海は興味深そうにしわがれたエルダートレントの残骸に近づいて行った。
するとしわがれて今にも折れそうなエルダートレントの枝に5つの木の実が成っていった。
「何というかアレね。最後の力を振り絞って子孫を残したって感じね」
「実を成した後に灰になる所がまた哀愁を誘うわよね」
「一か月したら何食わぬ顔で復活してるよ。それじゃあ宝箱とそれを回収して帰ろうか!」
「もうっ! ダーリンたら落ち着かないんだから。そんなに早く私としたいのね。昨日あんなに私達の身体を好きにしたのに底無しよね」
「ふふふ。こんなに光希に求められて嬉しい……」
「蘭もシル姉さんとリムちゃん達にお土産を早く渡したいです!」
「あははは。早く凛と夏海と蘭とイチャイチャしたいんだ。4階の大浴場でゆっくりしよう」
「もうっ! そうね、私もダーリンとゆっくりしたいわ。帰ったらデートで行く場所決めないとね」
「ふふふ。私も夢の国のチケット予約しないと。楽しみだわ」
「はい! 蘭も大阪の食い倒れというのをしたいです!」
「わかったよ、蘭は大阪だな。おっ! 上級解毒薬3本に上級ポーション5本に上級風魔法書は当たりだな! 運がいい」
「それは大当たりね! 運がいいわ」
「それは凄いですね!」
「よしっ! みんなグリ美とメイに乗って離脱球を発動してくれ。ここを出よう!」
「はーい! お姉ちゃんにグリ美行くわよ〜『エスケープ』」
「メイちゃんお外に出ますよ〜『エスケープ』」
「また来月シルフィを連れて来るかな。久しぶりに湖で……楽しみだな『エスケープ』」
こうして俺達は殆ど遊びに来ていたような富良野ダンジョンを攻略し帰路に着いたのだった。
帰ってからは媚薬を飲んだ恋人達に俺は食い倒れされるのか……ワクワクしてきたぞ!
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