第25話



ーー横浜上級ダンジョン最下層 ダンジョンコアルーム 皇 凛ーー



私達はダンジョンのガーディアン、所謂ダンジョンボスである吸血鬼を倒しコアルームでダンジョンコアを手に入れた後、その場でテントを張りお疲れ様会をやる事になった。


今は取り敢えずシャワーを浴びてサッパリして少し休んでから食事の用意をしようと言う事で、お姉ちゃんと一緒にシャワーを浴びているところ。


「それにしても怒涛の3日間だったわ……ダンジョンに取り残されダーリンに助けられてそのままダンジョンに逆戻りして、あれよあれよとボスまで倒してコアまでほぼ完全な状態で回収しちゃってこんなに濃い3日間なんて生まれて初めてよ」


「ふふふ、そうね信じられない出来事の連続で私も良い意味で身体と心の変化にびっくりしてるわ」


私はタオルにボディソープを付けて腕から胸と洗いながら、隣でシャンプーを髪から洗い流しているお姉ちゃんに話しかけた。


「でもあの時ダンジョンの出口で咄嗟にダーリンに着いて行くって判断したのは大正解だったわ! あそこで別れてたらまた会えたか分からないし、恋人にもなれなかったかも知れなかった。あの時の自分を褒めてあげたいわ」


「それは私も同じよ、あの時は凛ちゃんがついて行くからって訳じゃなくて本当に咄嗟に離れたくないって思ったの。光希が着いて行くのを渋々でも認めてくれた時は本当に嬉しかったわ」


そう、あの時が私達の人生で最高の良判断だと思ってる。断られてもダンジョン内に走って行こうと思ってたしね。助けられておいてそこまで困らせるのは恩知らずな行為だとは思ったけど本当に離れたくなかったのよね。


私の大切なお姉ちゃんを二度も救ってくれて、しかも二度目は死んでしまったお姉ちゃんを蘇生して、更にお姉ちゃんがずっと気に病んでいた目と額の傷を再生までしてくれた。最初私は信じられなかった。助けに来てくれただけでもお姉ちゃんの遺言通り、なんでもしてお礼をしようと思ってた。関根の件で好意は持ってたからダーリンになら身体を求められてもいいと思った。


でもダーリンはお礼はお姉ちゃんを蘇生させる魔法を秘密にしてくれれば他はいらないって、そしてお姉ちゃんが本当に生き返って私に声を掛けてくれた時に私はダーリンに完全に心を奪われた。もうねオーバーキルもいいところよ、完全に惚れてしまって『好きかも……』から一気に大好きになった。それはお姉ちゃんも同じだとあの陶酔した目を見てすぐ分かったわ。それからずっとお姉ちゃんと2人でダーリンの後ろ姿を片時も目を離さず見ていた。


「このダンジョンで助けられたあの時に、私達は完全にダーリンにメロメロになったわね」


「そうね、それは間違いないわ。私ね、あの時死の淵から戻って来たからなのか、全く新しい自分になった気持ちでこの新しい命は光希の為にあるんだってそう思えたの」


そりゃ本当に生まれ変わったというか、一度死んで生まれたからねという言葉を私は飲み込んだ。


「あ、あれだけ瀕死だったしお姉ちゃんの古傷治してもらったからね。そりゃ新しい自分になったと思うわよ」


「ふふふ……そうね、そういう事にしておくわ」


あ、やっぱり何か勘付いてそう……これは深入りしたら駄目ね。


「それと25階層で戦い方教えてもらったのも良かったわよね。私は手数重視だったけど、ダーリンの魔法見て操作を重視した方が有効だと思ったし」


「ええ、私も身体強化を今まで戦闘時だけ発動してたのを、できる限り普段から発動して生活を送り習熟度を上げるのがいいだなんて初めて聞いたわ。きっと私の魔力は上がってると思う」


形の良いお椀型の胸をタオルで洗いながら、そうお姉ちゃんは言った。


そう、守られてばかりじゃいけないとお姉ちゃんと話し合って25階層からは行けるところまでお姉ちゃんと2人で前に出て戦おうと決めたの。ダーリンは少し不安そうだったけどやらせてくれたわ。


そして戦ってる時に後ろからダーリンが見守ってくれてるのがわかって、もの凄い安心感があった。その後色々と戦い方に注意を受けて私は手数重視の魔法を操作重視にして、戦闘で前に出がちな所を直すように言われたの。


お姉ちゃんはやっぱり刀が合っているらしく刀を貸してもらっていた。

私も凄く綺麗でとんでもない効果が付いてるローブを貸して貰った。


無理矢理着いて来た私達なのに、私達を心配して超貴重な装備を貸してくれてその優しさに更に好きになって……2泊目にダーリンが入っているお風呂に蘭ちゃんが入って行くのを見てその後ずっと出てこなくて、これはきっとそういう事なんだろうなとお姉ちゃんと顔を真っ赤にして話していた。


私達は蘭ちゃんが羨ましかったんだと思う。それと同時にダーリンと蘭ちゃんの間にある絶対的な信頼関係とお互いの存在がそう、魂で繋がっているような関係に私達は凄く憧れた。そういう2人の関係も好きになったんだと思う。きっと蘭ちゃんがいなかったら今のダーリンはいないだろうって、蘭ちゃんがいてこそのダーリンなんだって。


そう思ってからはそれまでも仲良く話していたけど、蘭ちゃんが凄く好きになったの。私より一つ年下なんだけど、普段ダーリンが絡まない所ではどこかおっとりしてるけど、戦闘では圧倒的な強さを持っていてことダーリンが関わる事には全力で応えている。


私が好きになった人を全身全霊で支えている子を見て好きにならない訳がないわよね。お姉ちゃんも蘭ちゃんを私と同じく妹のように見ながらも、どこか尊敬している感じがするわ。


「私達は蘭ちゃんに感謝よね」


「そうね、蘭ちゃんがいなかったら今の光希は無かったと思う。とても素直で可愛い子だけど、私はずっと光希を支えて来た蘭ちゃんを凄く尊敬してるわ」


「うん! 私も凄く尊敬してる! そして私達を受け入れて背中を押してくれた事も、もの凄く感謝してるわ」


「13年尽くしてきた最愛の人に他の女性が言い寄って来たらいい気分はしないでしょうに、それはもう嬉しそうに背中を押してくれたわね」


「本当にそうよね。蘭の夢が叶います! とか言われた時はえ? なんのこと? とか思ったけど、彼女が狐の神獣という事を知って、滅ぼされた自分の群れを作ってダーリンとたくさんの奥さんと子供達に囲まれて幸せだったあの時を取り戻したいだなんて……私泣いちゃったわ」


「うん……いい子よね。強い雄が多くの雌を囲んで群れを作る種族で、かなり大きな群れだったみたいね。異世界は人間の世界でも貴族や富豪は一夫多妻が普通だったらしいし、日本も男性より女性が多いから高ランク探索者には認められてるわ。わ、私も光希の子供をその……たくさん産みたいし、蘭ちゃんの夢を叶えてあげたいと思ったわ。でもまだまだ蘭ちゃんの域には程遠いし、光希が望むまでは産まないようにするわ」


「こ、子供とかはまだ……好きだけどもっとダーリンと恋人として色々2人の思い出作りたいし……いずれは産みたいけど……その……」


「ふふふ、凛ちゃんは19歳だからそう思うのは普通よ。私はもう25でそういうの考える年齢ってだけ。光希には言えないけどね。私は探索者に襲われた時の保険として用意しておいた避妊薬を、好きな人の為に使えるだけでも幸せよ」


「わ、私もママに渡されたのを飲んだわ……あれ一ヶ月効果あるのよね。わ、私達ダーリンとしちゃったからまだ必要だし。あー思い出したら恥ずかしくなってきたわ! あの時はダーリンの事で頭いっぱいだったけど、お姉ちゃん見てたのよね? 私はお姉ちゃんの見てないのに! 」


「はいお姉ちゃんとして、しっかり凛ちゃんが女になる瞬間を見届けてました。ふふふ……凛ちゃん可愛かったわ。お姉ちゃんも次は私かもってドキドキしてた」


「あーもう! 恥ずかしい! ズルい! 今度は私がお姉ちゃんの恥ずかしいとこ見る! 」


「え? やだ! やめてよ! 1人ずつにしてもらいましょうよ! 」


「いやーでーすー! ニヤニヤして隣で見ますぅ〜」


「ちょ、待ちなさい凛ちゃん! もうっ!待って! 」


そうあの時、人と全く変わらない探索者の姿をし日本語を話す吸血鬼の眷属を倒した後。私達はとても動揺した。あんなに強いダーリンでも初めて人を殺めた時は吐いたんだよと優しく慰めてくれて、魔石が残るんだから人じゃないって私達の心を必死に守ろうとしてくれて……もう気持ちを抑えられなかった。


その晩蘭ちゃんとダーリンがお風呂に入ってる時にお姉ちゃんと話し合って2人で今夜告白しようという事になった。


そしたらいつもよりずっと早くお風呂から出てきた蘭ちゃんが、私達の所に来て辛い時は好きな人の温もりを感じると楽になれますよって。私は大切な人の為に自分を犠牲にできて、主様の魅力を理解してる2人なら群れに入るのを歓迎します。主様の事をよく知ってる蘭に全て任せてください! 必ず群れに入れるようになります! って言ってくれて。ブラを2人とも脱ぐように言われて、その格好で抱きついて素直な気持ちを伝えれば成功しますってダーリンの部屋に行くように言われたの。


これまでダーリンから私の胸やお尻に視線を感じてたけど、それは他の男達からの視線と違って全然嫌じゃ無かった。むしろ女としてちゃんと見てくれてる事に嬉しかった。お姉ちゃんも同じ事を言ってたわ。きっと好きな人だからなんだと思う。だから蘭ちゃんの言ってる事はわかるけどそういう誘惑とかは通じないと思ったのよねダーリンには。


案の定ダーリンの部屋に2人でドキドキしながら行って布団に入って抱きついたけど、誘惑されるどころか優しく頭を撫でられて今日は辛かったろ? と慰められてその優しさが嬉しくて嬉しくて告白しちゃった!


蘭ちゃんの言った通り私達は受け入れられて恋人同士になった。蘭ちゃんホント神! あっ、神獣かって内心はしゃいでた。


でも私の足がダーリンの股間に当たってしまって気付いたの。ダーリンはずっとその……元気なのを我慢してたみたいで辛いのにそれでも私達の為に我慢してるって。その優しさに自分から抱いてって言ってしまった。あれは恥ずかしかった!


淫乱な女とか思われてないか不安だったけど、きっと言わないとあのままダーリンは我慢して私達を慰めて続けてくれていただろうし、私も抱いてもらえて良かったと思ったわ。すっごい痛くて泣いたけど、その度にダーリンが優しくて最高の思い出になったと思う。


翌朝しっかりお姉ちゃんも抱いてもらったのを確認すると、私達は2人でシャワーを浴びに行き喜びを分かち合ったの。前に友達が言ってた同じ男性に抱かれると姉妹になるという話を思い出して、未だにお嬢様と敬語で話すお姉ちゃんに私達はダーリンを通してもう姉妹になったんだから妹だと思って! 私は夏海さんにお姉ちゃんになって欲しい大好きなの! って素直に言ったら最初は抵抗していたお姉ちゃんだったけど、ずっと妹のように私を想ってくれていてくれたと話してくれて私は凄く嬉しかった。話し方も本当の姉妹のようにしてとお願いしてやっと私の夢が叶ったの。


お姉ちゃんは私のボディーガードの仕事はダンジョンを出たら辞めて、ダーリンに一生を捧げたいと言ったの。私も同じ気持ちだから、ずっと一緒だねお姉ちゃんって言ったらお姉ちゃん泣いちゃって、私とずっといれる事も嬉しかったみたい。お姉ちゃん可愛い!


そんな私達姉妹の新しい関係が始まって、シャワーから出て食事を皆でした後、ダーリンからとんでもない秘密を聞いて驚愕したわ! でもどこか納得してたと思う。強さが異常だし人の為に戦う姿とか本当に勇者そのものに思えたから。蘭ちゃんが神獣なのはびっくりだったけどね!どんだけ綺麗な神獣なのよって!


お姉ちゃんなんて白馬の王子様は勇者様だった……私の勇者様って遠くを見てぶつぶつ言ってて少し引いたけど、きっとお姉ちゃんは蘭ちゃんになるわと確信したけどそこは妹としてスルーしといたわ。


SSSの探索者、そんなランクは無いけど文句なしの世界最強の私のダーリン。地上に出たら家族やら世間やらきっとうるさいだろうけど、私はうるさいママやお祖父ちゃんが何を言おうともただダーリンに付いて行くだけ。絶対に離れない。


私を大切にしてくれて優しくて格好良くて大好きなダーリンと、一緒にどこまでもずっと……








ーー探索者協会 横浜上級ダンジョン支店 支店長 大須賀 実ーー




俺はお偉い様方との長い会議を終え、自衛隊の玉田中隊長との情報交換とダンジョン監視の調整も終えて支店に戻った。


そして氾濫の事後処理の溜まっている書類を部下と共に処理しつつ、あーもう夜じゃねーかよ早く帰りてーなー等々文句を言いながら書類とPCと睨めっこしていた。


「しかしBランク探索者が2人足や手を欠損したのは痛いな……」


「ええ、将来性のある子でした。Aランクも狙える位置にいましたしね」


「欠損部位は回収保管できたのか?」


「ええ、それぞれのパーティメンバーが回収して居合わせたAランク中級水魔導師に氷壁の魔力と範囲を調整して発動してもらい、瞬間冷却の後に特殊保管センターへ輸送しました」


Aランクの中級水魔法が使える魔導師がいたか。彼等はラッキーだな。部位欠損してラッキーというのも変だが、上級ポーションさえ手に入れば元どおりになる可能性が高い。


「後は上級ポーションが手に入り次第順番にか……望み薄だが希望は必要だよな。実績もあるしな」


「ええ、緊急召集に応じた場合のみ戦闘時の欠損による部位保管制度とはいえ、上級ポーション自体殆ど出回りませんからね。自衛隊も同じ制度を導入していますが、あちらは通常時の戦闘での欠損も対象ですから。例え出回ったとしても手に入るかどうか」


「過去に欠損部位再生の実績がある事だけが心の支えか……」


「その実績も25年前のAランク探索者が、後進の為にと譲ってくれた2本を最後に実績がありませんからね」


「保管料なんて協会がいくらでも負担するが、今回のように命を懸けて横浜を救ってくれた未来ある若者達には申し訳ないな」


「本当に心苦しい限りです……せめて今ダンジョンに挑んでいる彼が攻略してくれれば怪我をした彼等も浮かばれるのですが」


「倉木さんとランさんか……あの戦闘力は異常だったな。理事長も言ってたが本当にこの上級ダンジョン攻略の可能性はあるのだろうか? 吸血鬼は理事長でも異世界ならともかく日本ではかなり厳しいと言っていたな」


「吸血鬼に特攻のある武器や道具が、こちらでは手に入らないという事でしたね。聖水ですか? 神がこの世界より身近にいた異世界だから手に入るアイテムみたいですね」


「ああ、この世界は神が多過ぎてよく分からないそうだ。本当の神なのか偶像なのか。ただ封印する事は出来るそうだからそう悲観しなくてもいいそうだ」


「後何日で出てくるのかそれとも出てこないのか……」


「通常上級ダンジョン攻略には、レイドを組んで挑戦しても1ヶ月は最低掛かるらしいからな。その辺りを過ぎて戻らなければ失敗という可能性も出てくるだろう。今考える事じゃないさ」


「ええ、それもそうですね。攻略できなくても彼等には生きて戻ってきて欲しいですね」


そう部下と今回の戦闘で手足を失った将来性のある探索者の現状を憂い、今ダンジョン攻略に挑戦している2人と、それに付いていった女性探索者2人の無事を祈っていた時に1本の電話が鳴った。


プルルルル

プルルルル


「大須賀だ……なに!? それは本当か!? そうか! よしっ! 今行く! 」


「どうしたんですか支店長」


「ダンジョン入口の光が消えた」


「な!? まさか……そんな本当に……」


「ダンジョンが攻略された! あの2人やりやがった! 今から現場に行く! 理事長にも連絡を入れマスコミ対策に人を集めろ! 」


「はい!」


俺は現場でダンジョンを交代で見張っていた職員からの連絡に驚愕した。ダンジョン入口の光が消えた。つまりコアが破壊されたという事だ。


この横浜上級ダンジョンが死んだ!


俺は抑えきれない興奮と共にダンジョンの壁入口へと急いで向かうのだった。


過去多くの探索者を呑み込み、間引きをしていたにも拘らず氾濫まで起こし、今後またいつ氾濫が起こるか震えながら日々を過ごさなければならないと思っていたダンジョンの最後を見届ける為に………

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