第24話




  俺たちはテントを出て71階層で再び吸血元探索者の一行と戦うことになったが、凛と夏海は今度はなんの躊躇いもなくサクサクと処理していった。6体の吸血探索者と吸血トロールのセットではさすがに全員での戦いとなったが、やはり吹っ切れたようで昨日よりは戦いやすくなっていた。女は強いとはよく言ったものだ。


  そして75層から一気にダンジョンの天井が高くなり現れたのが……


「ヴララララララララァァァ」


「サイクロプスか! 本来なら最下層ボスなんだが吸血鬼に眷属にされたか? 凛、夏海! コイツは魂の配分、経験値が多い! 遠距離からサイクロプスの目を狙ってバンバン攻撃してくれ! コイツの種族魔法は雷魔法だから、いつでも指輪に魔力通せるようにしておけ!」


「「は、はい!」」


「蘭! 俺が冥界の黒炎を放ったら俺の魔法を合図に豪炎を!」


「はい!」


  一つ目巨人いわゆるサイクロプスやキュプロクスと言われるこの全長7メートルはある巨人は、種族魔法で雷魔法を使う。こいつはボスクラスだから経験値がおいしい。凛と夏海の糧になってもらうか。



 種族:吸血サイクロプス



 体力:S


 魔力:C


 物攻撃:S


 魔攻撃:B


 物防御:B


 魔防御:B


 素早さ:F


 器用さ:E


 種族魔法:再生


 備考:吸血鬼の眷属



  眷属化され能力は上がってるが、まあトロールの物理魔法万能タイプで更に大きいという感じかな。俺は凛と夏海に攻撃開始の合図をしてからサイクロプスへと走っていき、中級闇魔法を発動した。


『影縛り』


『炎槍』


「水燕5連!」


  俺が魔法を発動するとサイクロプスの影から黒い手がいくつも現れ、サイプロクスの脚を掴み固定した。サイクロプスは前に進もうとし、そのパワーで黒い手を次々と引きちぎって行くが俺は魔力を多めに込め何度も発動していく。


サイクロプスはなかなか進めない事に苛立ち、俺に雷魔法を放とうとするが凛と夏海の攻撃が一つ目に当たりキャンセルされる。


「ヴギャーー!」


 目に攻撃が当たり地響きを伴う悲鳴をあげるサイクロプスの懐に入った俺は、足を魔力を込めたミスリルの剣で斬りつけ足首から先を断ち切った。


「ヴラァァァ!」


 ズズーーーン


  サイクロプスは踏ん張れず体勢が崩れ、バランスを取ろうにも影縛りで足を固定され、前方に手をつく形で跪いた。そこへ凛と夏海が追撃を掛けた。


『炎槍』


「水燕6連!」


  凛達の攻撃がサイクロプスの顔に当たり、サイクロプスは堪らず上げてた頭を下に向けた。

  まるでギロチンに頭を乗せ斬首されるのを待つかのような体勢となったサイクロプスへ俺は走り、大きくジャンプをして背後にまわり、首へ魔力をたっぷりと込めたミスリルの剣を振り下ろし断ち切った。


『冥界の黒炎』


『豪炎』


  すかさず離れ剣を収めると俺は上級闇魔法を放ち、続いて蘭も豪炎を発動しサイクロプスの巨体を赤と黒の炎が包み込み塵とした。


  大きいうえに魔法を使う魔獣はめんどくさいよな。魔法で倒そうとしても面積広いから魔力多めに使うし、先に魔法撃たれると凛たちにリスクあるしね。しかも再生能力付きとか焼くのも1人じゃ大変だわ。


「よしっ!蘭離れるぞ!凛と夏海はサイクロプスの側に行ってくれ!」


「「「はい!」」」


  確実に倒したのを確認した俺は蘭を連れ100メートル先に転移し、それからサイクロプスの側で佇む2人の様子を見ると何かに耐えているようだ。


「凛! 夏海! どうだ?」


「す、凄い大きい力が入ってきてます」


  魔獣を倒すとその貢献度に応じ、魔獣から出る魂か何かが近くにいる者の身体に吸収される。逆に言えばどんなに貢献しても、近くにいなければ吸収されない。俺は今回それを利用したパワーレベリングを行なった訳だ。倒した者がすぐ遠くへ離れないといけないから割と難しいんだけど、転移があれば楽にできる。


「蘭サンキュー!」


「主様お疲れ様でした」


「ダーリンありがとう! 多分何かのランク上がってると思う」


「光希ありがとうございます。私も多分上がりました」


「全部終わったら確認してみようね。さあどんどん行こう!」


「「「はい」」」


  サイクロプスを倒し、76層に降ようと階段から下を見た俺達は異様な光景を目にした。


「うげっ! オーク繁殖場かよ……」


「ひっ!」


「これは……」


  そこはこれまでのダンジョンの様相とは違い、一切の壁が無くフロア全体がオークの繁殖場となっているのが見えた。

  精臭の異様な臭いと媚薬や興奮剤の匂いが充満していた。


「知能あるのがボスだとこういうのやるんだよな〜。取り敢えず臭いからまとめて処分!」


『大津波』


『天雷』


「凄い……」


「なんという魔法……」


  俺は津波で全てのオークを流してから天雷を発動し、魔力でできた暗雲から落雷するのをしばらく見ていた。500はいたオークたちは黒焦げとなり全滅した。少し匂い消えたな。


「うわぁ、オスの体液やらなんやらで汚そうだな。魔石取りたくないな……もっと魔力込めるか、ケチらず強い魔法で塵にすれば良かったな」


「主様以外のは蘭は無理です。触れません」


「私もダーリン以外のは触りたくない」


「光希のしか無理です」


「………『冥界の黒炎』」


  俺は恥ずかしくなりケチらずとっとと魔法を発動し、オークたちを燃やし尽くし次の階層に向かうのだった。


  77階層に行くと予想通りオーガ繁殖場で、76階層と同じく大津波で押し流し今度は塵となるよう最上級雷魔法の轟雷で無に帰した。78階層もトロール繁殖場で数が少ないので、蘭の豪炎と俺の冥界の黒炎で焼き尽くした。こうなると次は嫌な予感がするな……


「ちょっと皆はここで待っていてくれ」


「え? ダーリンどうしたの?」


「何か強力な魔獣がいるとかですか?」


「主様……蘭もやりますよ?」


「いいよ、すぐ終わらせてくる」


  蘭は気付いてるよな。そりゃ散々一緒にやってきたからな。ただこの世界の人間には辛いだろうから俺がやる。


  俺は皆を置いて79階層へ降りた。

  そこは大きく4つに区分けされた子育て広場だった。オークの子供区画、オーガの子供区画、トロールの子供区画に各種族の赤ん坊区画。およそ400匹の魔獣の子供と50匹ほどの妊婦がいた。

  子供たちは剣や弓を持って駆け回って楽しそうに遊んでいる。


「はぁ〜、毎回気が滅入るよなこういうの」


  異世界でゴブリンやオークやオーガの巣を潰すと必ずいる子供。ダンジョンにもこういった場所はたくさんあった。今は無力だが数ヶ月後には人を襲う。わかっていても気分がいい作業じゃない。


「ま、やりますけどね!」


  『冥界の黒炎』


「ピギーー!」


「ピギャーー!」


  俺は一区画ずつ焼いて回った。魔獣相手に慈悲は無い。


『蘭終わったよ』


『はい、向かいます』


  俺は全てを終わらせて蘭に念話で伝え皆を連れてきてもらった。


「この階層は訓練場みたいなとこだったからすぐ終わったよ、さっさと行こうか」


「え? そうだったの? なんだちょっと心配したじゃないもうっ!」


「なるほど戦士の訓練場でしたか」


「……主様お疲れ様でした」


  皆にこの階層の説明をしたら蘭がそっと俺に寄り添ってきた。そんなに気にしてないんだけど、蘭は俺のこととなると過保護になり過ぎなんだよな。俺はそう思いながら最終階層へと歩いていった。


「あれ? お姉ちゃん転がってる魔石凄く小さくない? ほら、あの辺にたくさん落ちてるの」


「本当ね凛ちゃんの言う通り小さいわね、子供の魔石みた……い……あっ」


「子供……確かに子供のならこれくらいの大きさね、でも最下層付近に子供? あっ……」


「凛ちゃん、繁殖場があるなら当然子供が産まれて安全な場所に集めとくわよね」


「お姉ちゃんの言う通りだと思う。魔石の数からかなりいたんだろうね」


「光希はまた私たちを気遣って……」


「……確かにいくら魔獣でも、無力で無抵抗な子供を大勢殺す場面を見るのはキツかったかもしれない」


「魔獣は成長が早くてすぐ大人になり、私たちに襲いかかってくるのが分かっているからやらなきゃいけないんだけどね」


「うん、こういうのって理屈じゃないからダーリンは心配したんだろうね。でもそうダーリンが思うってことは、ダーリンも少なからず抵抗があることなんだと思うの。自分だって辛いのに私たちを気遣って……」


「そういう人だから私たちが好きになったんだけど、私は光希の心を守りたいからもっと強くなるわ」


「うん、私も強くなる! ほんとにいい男よね。絶対逃さないようにしなきゃ!」


「ふふふ、私も捨てられないように頑張るわ。蘭ちゃんに色々教えてもらわないと。そ、そのよ、夜のこととかも。昨日は私たち初めてだったから光希は満足できなかっただろうし」


「抱いていてくれてる時もずっと私を気遣ってたわ……私も蘭ちゃんに色々聞こうっと♪」


「私たちもいつか蘭ちゃんみたいな愛され方をされるように頑張らないとね」


「うん! お姉ちゃん一緒にがんばろ! おー♪」


「ふふふ……凛ちゃんたら」


  俺が先行して歩いてると、何やら後ろの方で小声で2人が話しているみたいだ。魔石の大きさで気付いたのかもな。まあ、処分してるとこさえ見なきゃどうってことないから大丈夫だろ。


  さて次は吸血鬼か、前衛の夏海に色々教えるかな。



  俺たちは最終階層の80階層に降りていった。

  80階層に降りると、正面に王宮の謁見の間の入口のような豪華に装飾された扉があり、俺たちは扉を開け中に足を踏み入れた。


  中に入ると室内は外よりもかなり暗く、俺はすかさず暗視の魔法を発動しつつ探知の反応を確認した。探知では正面に大きな魔力が一つと、その奥の斜め左右に10の魔力反応がある。

  取り敢えず奥にいる奴に何か攻撃魔法を撃ち込もうかなと考えていたら、天井にぶら下がる巨大なシャンデリアに火が灯り部屋全体を明るく照らした。


「ようこそ冒険者諸君。よくここまで来られたな。大したものだ」


「そりゃどーも。知ってるか? この世界では探索者って言うんだぜ?」


「私の言葉がわかるのか……同じ世界から来た冒険者がいるとは聞いていたが」


  部屋の正面奥の5段ほどの階段を登った場所には王座のようなものがあり、そこには執事服みたいな服を着ている男が立っていた。背丈は俺と変わらないくらいで、吸血鬼よろしく口元から牙をのぞかせており整っている顔がイケメンで腹が立った。その男は偉そうな口調でアトランの言葉で話しかけてきたが、通じるとは思っていなかったのだろう。俺が言葉を返すと驚いているようだった。


  俺は鑑定を掛け、どの程度の爵位とランクの吸血鬼か見てみることにした。




 サタールム・デュラム


 種族:吸血鬼


 体力:S


 魔力:S


 物攻撃:A


 魔攻撃:S


 物防御:A


 魔防御:A


 素早さ:A


 器用さ:A


 種族魔法:超再生、蝙蝠化、吸血、魅了、闇術


 備考:男爵



  男爵ね。ギリギリS級魔石落とすかどうかってとこか……雑魚だな。


  俺は鑑定結果を見て伯爵位ならいーなーと思っていた期待が裏切られ、倒した後の魔石のランクの心配をした。ちらりと後ろを見るとそこには言葉が分からない凛と夏海が警戒しており、いつでも戦闘態勢に入れるように身構えていた。蘭は魔鉄扇を持ってはいるが余裕の表情だ。


「私を前に余所見とは余裕だな」


「おお、悪かった。戦う前にちょっと聞きたいんだがいいか?」


「私もそこの美しい女たちのことを聞きたかったところだ。いいだろう」


「あんたベルゼガルの配下の生き残りか?」


「ベルゼガル? 誰だそいつは」


「魔王の名前だよ知らないのか?」


「魔王様は300年前までいたがそんな名ではない。過去にもそんな名前の魔王様などいない」


「グリムスという魔王もか?」


「知らないな。次は私の番だ。そこの美しい女たちは生娘か?」


  俺の背後にいる恋人たちを、気持ち悪い笑みを浮かべて見てる男爵に余所見をしてるとか指摘された時はツッコミたかったが、堪えて魔王軍の生き残りか聞いてみたら全然予想外の答えが返ってきた。もしかしたらアトランに似た並行世界にあるダンジョンが日本に来たのかもな、ややこしい!


  さて、質問に答えてさっさと片付けるとするか。


「ん? 俺の女たちが処女かって? そんなわけないだろ。全員俺がしっかり愛したよ」


「チッ……ならお前たちは全員死ね! 『ダークカッター』」


「処女厨キモッ! 『闇刃』」


  俺が質問に答えたら、もう興味は無いとばかりに俺たち全員を刈れるような巨大なカッターを飛ばしてきた。それに対し俺は同じ大きさの闇刃を出し迎撃した。


  二つの刃は空中でぶつかり合い消滅した。それと同時に王座の左右の扉から冒険者の格好をした吸血鬼の眷属が10体飛び出してきた。


「蘭! 夏海! 眷属を! 凛は夏海の援護! 危なくなったら指輪忘れるなよ!」


「「「はい!」」」


『影縛り』


  俺は援護のために眷属全員の足元へ闇の手を発生させた。走っている相手には効果が薄いが、足並みを崩すくらいにはなるだろう。


「チッ、同系統の闇魔法使いか。まずは貴様を殺す! 『バインド』『ダークスピア』」


「俺を殺すとか笑える『闇槍』」


  男爵は俺の影を操り足を拘束しようとするが、俺は聖銀と呼ばれ闇系魔獣や魔法に強いミスリルの剣であっさり影を斬った後に、俺に向かってくる黒い槍を闇槍で迎撃した。


相変わらず吸血鬼の種族魔法は始祖や公爵以外はオリジナリティの欠片もなく、闇魔法のマネしたのばかりだよな。せっかく自由度のある闇術なのに活かしきれてない。


『ダークヘルファイア』


  槍を迎撃した俺の足元から黒い炎が吹き上がるが、俺は既にそこにはいない。影で縛ってからの槍とのコンボだったんだろうが発動が遅いんだよなコイツ。

  俺は黒い炎が吹き上がるのを背に吸血鬼男爵の懐まで転移し、ミスリルの剣を横薙ぎに振り胴を切断した。


「ぐぁぁぁぁ! 馬鹿な! 速すぎる!」


「視力低いんじゃない?」


  上半身と下半身が切断されているのに普通に喋る吸血鬼を、俺は相変わらず気持ち悪いなと見下ろしつつ、転移ズルをしたのを男爵の視力のせいにしといた。


  周囲を見ると恋人たちは無事眷属を倒せたようでこちらを見ていた。蘭がいるしな楽勝だったろうな。


「夏海! こっちへ」


「はい!」


  俺は夏海を呼び男爵の胴体がくっつく光景を見せた。


「夏海、吸血鬼の再生はかなり速い。だけどミスリルなどの聖属性の武器に魔力を込めて攻撃すると、ダメージを与えた部位の再生速度を落とすことはできる。速く見えるかもしれないが、これでも遅くなってるんだ」


「眷属とは大違いですね。これが吸血鬼……」


「目は見るなよ? 魅了使ってくるから」


「あ、はい!」


『ダークカッター』


「はいはい、そういうのいいから『天使の護り』あと動くな『影縛り』『雷槍』」


「ガァァァァァ!」


  吸血鬼が近付いてきた夏海を魅了しようとガン見してたから夏海に警告したら、逆ギレして攻撃してきた。迎撃がもう面倒なので俺と夏海に結界を張って防ぎ、胴が半分繋がり動こうとしたから影縛りで四肢を固定し、さらに雷の槍で胸を突き刺し地面に固定した。雷槍は出しっ放しにしておく。


「こういう純粋な吸血鬼を完全に滅ぼすのはミスリルだけでは難しいんだ。倒すだけなら切り刻んで、それからミスリルで作った複数の箱に肉片を分散して入れて封印かな。焼き殺そうとしても塵から復活する。一番確実なのが強力な上級聖魔法で一瞬で消滅させることかな。次に聖水なんだけど、これはこの世界にあるか分からない。異世界には神がこの世界よりも身近な存在だったから、神の声が聞ける聖女もいた。その聖女の祈りで聖水ができるんだ。聖魔法使いもいない聖水も無いとなると、聖魔法使いが武器に最低でも中級聖魔法の攻撃系の聖魔法を付与するしかない。中級聖魔法でも数発撃てば滅ぼせるからね」


「なるほど。私が使っている黒い雨のように聖魔法を飛ばすのですね」


「そうだね。ちょっと待ってな『天使の護り』」


「キーキーキー」


「こうやって完全に動き封じると、蝙蝠化して逃げるから気を付けて。逃げてる間に再生終わってたりするから」


「な、なるほど。手強いですね」


  俺は夏海と話している間に、蝙蝠化して逃げようとした蝙蝠を結界で閉じ込めた。


「で、聖魔法はレア魔法で中級ダンジョンの最下層ボスを倒しても、初級魔法書が手に入るのは稀だ。中級魔法書も、上級ダンジョンの中層ボスを倒して稀に出るくらいだ。更に適性を持っている者は少ない。聖魔法はこの世界ではかなり重宝されるから、適性があり初級まで覚えたらランク低くても探索者辞めて高待遇の病院で働いた方が死ぬ危険無いし楽だろ? だから誰も中級を命を懸けて取りに行かないし、付与魔法の適性も無ければ武器に付与できないからハードルが高い」


「その通りですね、聖魔法使いはすぐ探索者を辞めてしまいます。ですのでポーションの需要と供給のバランスが極端に悪く探索者の死亡率も高くなっています」


「異世界だと魔獣に世界が滅ぼされるかどうかって時に、街にいても意味ないからな。聖魔法使える冒険者はそれなりにいたよ。その中には付与魔法適性がある人もいた。聖と付与の両方の適性がある者は国が保護して安全にランクを上げさせ、国が他の冒険者に依頼を出して中級聖魔法書を取りに行かせていた」


「世界の違いですか……この世界もいつかそうなりそうな予感がします……」


「まあ、このままならなるだろうね。上級ダンジョンの増加に間引きが付いていけてないからな。こういう知能あるダンジョンボスもいるしな」


「それも世界が行なってきた結果ならば、受け入れるしかありませんね」


「勇者なんだからどうにかしてとか言わないの?」


「勇者だからって自分を犠牲にして、何故見ず知らずの多くの他人のために奉仕しないといけないのですか?」


「……そうだね」


「光希は優しすぎるんです。きっと世界のためにたくさん苦しんでたくさん失ってきたのですよね? もう自分のことだけを考えても神様は文句言わないと思いますよ」


「ああ……そうだね。ありがとう夏海。俺はもう選択を間違えない。俺は俺の大切な人を守るために力を使う。夏海、お前を守るためにもだ」


「光希……私の勇者様……」


 ガンガンガンガンガン!


「貴様! 私を! この私を無視するとは! 今殺してやる必ず殺してやる! 『ダークカッター』『ダークスピア』」


 ガンッ! ガンッ!


「あ、忘れてたわ。蝙蝠化やめたのか」


  夏海といい感じでいたら再生が終わったのか、蝙蝠化を解いて結界に攻撃している男爵が喚いていた。あ、結界破られそう……中級結界だしな。


「というわけでここには聖魔法使える人はいないので、聖魔法が付与された武器一択となるがそれは俺も持ってない」


「ええ!? ではどうするのですか?」


「聖魔法が付与された武器は無いけど、あらゆる属性の魔法を増幅し聖属性に変換する武器はある。それが聖剣だ」


「こ、これが聖剣……なんて美しい……」


  俺はそう言ってアイテムボックスから聖剣を取り出し鞘から抜いて構えた。

  俺には聖魔法は必要無かった。そりゃ最初は闇魔法に適性があって聖魔法取れなかったのは凹んだけどさ、勇者が闇に適性高いって……それでも聖剣があったから悪魔系の魔族や魔王と戦えた。


「な、な、な、なんだそれは! なんだその光は! ま、まさかまさか……」


  多くのヒビが入り、あと少しで壊されそうな結界への攻撃をやめて男爵が狼狽していた。


「あれ? 言ってなかったっけ? 俺勇者。これ聖剣」


「な、なんだと! 勇者? 勇者がなぜこの世界に!?」


「知らなかったのか? そっちの世界に召喚された殆どの勇者はここ日本の住民なんだぜ? じゃあさよなら『雷龍牙』」


「そ、そんな馬鹿な! そんな所に私は……そんなことがやめ、やめろ! やめ……ギャァァァァァァ!!」


  俺は聖剣に雷属性の魔法を流し男爵に放った。聖剣を通した魔法は、その威力が増幅され更に聖属性に変換された。雷龍牙は聖龍牙となり白銀の龍の顎が聖剣の剣先から放たれ、壊れかけの結界ごと吸血鬼に襲いかかり消滅させた。


「夏海はここにいろ! 『転移』」


「はい!」


  俺は聖剣をアイテムボックスへ戻し、夏海に経験値を与えるため離れた。夏海の様子を見て少ししてから再度夏海の所へ戻り男爵がいた場所に魔石の回収に向かった。


「うーんギリギリSランク魔石か……弱かったから仕方ないか」


「光希、ありがとうございます。色々教えてもらったうえに経験値まで」


「俺は好きな女に貢ぐタイプなんだ」


「み、貢……ぷっ……ふふふ……私は全てを光希に捧げたのだから、貢ぐ必要は無いですよ。私が貴方に私の全てを貢ぐ方です」


「あはは……それは夜に頼むよ。たくさん夏海の全てを貢いでほしい」


「あ……よ、夜って……はい」



「ねえダーリン! もうそっち行っていい?」


「ああもういいよ! お待たせ」


  俺と夏海がいちゃいちゃしてたら、遠くで蘭と一緒に吸血鬼との戦いを見ていた凛がもう大丈夫かと聞いてきたのでこっちへ来させた。


「蘭、凛お疲れ様」


「うふふ……主様遊んでましたね」


「ねー。お姉ちゃんに教えながら余裕で戦ってたよね、ダンジョンボスなのに」


「ははは、まあアイツは男爵という地位の奴で吸血鬼では下のレベルだからな。今後のためにと前衛の夏海に色々経験させた方がいいかと思ってさ」


「光希……私のためにありがとうございます」


「そうなんだ〜。でもダーリンが最後に出した武器凄かった! 凄い光って白銀の龍が出て一瞬で吸血鬼を消滅させちゃうんだもん!」


「聖剣だからな。あれで魔王を蘭と一緒に倒したんだ」


「はい、主様は魔王も意外と楽に倒してました」


「ええ!? 世界を滅亡させる寸前まで行った魔王を楽に!?」


「かなりレアな魔法を手に入れたからな。まあ思ったより弱かったなアイツ」


「私はとんでもない人の恋人になったみたいね……」


「不安になった?」


「そんなのなる訳ないじゃない! 不安どころか誇らしい気持ちよ! 私の彼氏は凄いんだって自慢したいわ!」


「あはは、なら良かった」


  そう言って凛は俺に抱きついてきた。 まあ、ちょっと安全マージン取りすぎたみたいで魔王は思ってたより弱かったな。もっと早く倒しておけば良かった。


  その後、俺たちは宝箱と宝物庫を確認した。戦利品としては上級になって間もないダンジョンなので、目ぼしいものは上級ポーション10本と上級魔力回復促進剤15本、上級土魔法書と中級水魔法書、中級火魔法書、鑑定の水晶くらいだった。


初級の魔法書は配下に使わせたっぽく無かった。属性の適性検査は4属性は協会でできるらしく、凛と夏海は土と水に適性は無かったようだ。そのうち売ればいいという話になった。ポーションは全て凛と夏海に渡した。いくらあっても困らない物だしね。


  そして俺たちは奥のダンジョンコアルームに入った。

  コアルームは20メートル四方ほどの広さの部屋で、その中央に台座に刺さるように設置されている高さ1メートルほどのひし形の真紅のクリスタルがあった。これがダンジョンコアだ。


「これがダンジョンコアだよ。上級にしては少し小さいかな」


「これがあの……ダンジョンコアで魔結晶」


「こ、これが……初めて見ます」


「この台座が恐ろしく硬いから、皆この上の部分を上手く壊して持って帰るんだ。壊すときも結構バラバラになるから、塊として使えるのはこの5分の1くらいかな」


「確かに硬いわね……これは無理だわ」


「硬いですね。剣は折れるでしょうね」


「錬金魔法の『変形』で台座を変形させて取り出すのもできなくもないんだけど、多分魔力相当減るからやらない。俺はいつも空間魔法で取り出してるんだ」


「空間魔法で?」


「ああ、見てて」

 

  そう言って俺は台座の前に立ち意識を台座に集中し、上に出ているコアの形から台座に隠れて見えないコアの形をイメージする。その後イメージした位置に最上級空間魔法を発動する。


『次元斬』


 キンッ!

 キンッ!


「え?」


「なっ!?」


  次元斬は空間を斬るので物質の硬さなど関係なく、この世に斬れぬものなど無い!状態となる。

  俺はイメージした場所をなぞるように細かな制御をしV字に台座を斬った。


  俺は台座に乗るコアを両手で持ち上げ台座から抜いた。イメージより外側にコアはあったようで、少し下部が削れたがまあ上手くいった方だと思う。


「すごーい! こんなに硬いのにキンッ! って! ダーリンすごーい!」


「斬れ……た……次元を斬るだなんて……」


「まあ、かなり集中してイメージと魔法操作をしないといけないから、高速戦闘では使えないんだけどね」


「主様はよくこの魔法を寝ているドラゴンや、滞空してあまり動かないドラゴンに使って狩ってました」


「ドラゴンを!? ダーリン……」


「え? ドラゴンをこの魔法で? 確かに相手が動かないなら最強ですね」


「相手が大きくてあまり動かないなら楽に狩れる魔法ではあるね。まあそういうことで今日はここで休んでお疲れ様会やろう」

 

「はーいさんせー!」


「いいですね! やりましょう」


「蘭は美味しい料理を作ります」


「あ、あたしも手伝う〜」


「私も手伝いますよ蘭ちゃん」


「うふふ……では皆で作りましょう。楽しみです」


「いいね! そうしよー」


「そうですね、光希に美味しいって言ってもらえるのを皆で作りましょう」


  俺たちは上級ダンジョン攻略を3日で成し遂げ、一先ず区切りをつけるためにパーティをやることにするのだった。




 

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