第23話

 

  凛と夏海と気持ちを確かめ合った翌朝。俺は未だ夢の中にいる恋人を眺めていた。

  俺の右側を見ると凛が幸せそうに俺に抱きついて寝ている。反対側を見ると夏海が俺の手を両手で握ったまま寝ていた。


  守らなくちゃな……もう二度とあんな思いをしないよう。

  この世界で産まれ生きてきたこの子たちの人生に深く関わってしまった以上、俺もこの世界と関わっていかないといけない。


  俺や蘭と違いこの子たちにはこの世界に家族がいるし、色々なしがらみもある。

  俺といれば色々な悪意にさらされる。


  もう選択を間違えない。俺は強くなったあの時よりもずっと強くなった。俺は俺の大切な人だけを守る。


「結構本気で惚れちゃったな……」



「う……ん……」


「ん……」


  おっと2人が目が覚めたみたいだ。俺は布団をめくり凛の身体見つめながら凛に挨拶をした。


「おはよう凛」


「ん……あ……光希……おはよ……ん?……やだ……見ないで」


「昨日はお互い見せ合っただろ?」


「そうだけど恥ずかしい……」


「綺麗だよ凛……」


「ん……ちゅっ……うふふ……好き……もう離れない」


「俺も好きだよ。もう離さない」


「えへへへ……嬉しいな〜」


  俺は目覚めた凛の素晴らしい胸を見てから、挨拶をしておはようのキスをした。すると反対側から視線を感じた。


「ん? 夏海も起きたのか? おはよう夏海」


「お、おはようこざいます光希様……んっ……ちゅっ……んんっ」


  夏海も起きたようでおはようのキスをした。


「2人とも昨夜約束したようにポーション飲んでね? 戦闘に差し支えるから」


「うん……でももう少しだけ。光希との初めての思い出になるから」


「私ももう少し……光希様のものになったと実感したいです」


  うわーなんなのこの可愛い生物! 萌え死にそう! めちゃくちゃ嬉しいわ。


「そうか……ならシャワー浴びておいで、出たらポーション飲むんだよ?」


「うん」


「はい」


  そう言って2人はシャワーを浴びに行った。俺は下着だけ履いて蘭のいる部屋に行ったら、蘭はベッドで丁度身体を起こしたところだった。


「蘭おはよう」


「主様……ちゅっ……」


  蘭にも毎朝の日課のキスをする。


「昨日は一人にしてごめんな? 凛と夏海の2人と付き合うことになった。蘭もひっくるめて俺が好きだと言ってくれてさ」


「うふふ……蘭はこの時を待ってました! 主様?」


「ん?」


「主様、昨夜はお楽しみでしたね」


「はあ?……ああ……あの時の宿屋のオヤジの真似か」


「ふふふ……蘭は一度言ってみたかったんです」


「お前なぁ……ははは」


「ふふふふふ」


  昔蘭と泊まった宿屋のオヤジが言った言葉を、密かに言ってみたかったとは……なんかズレてるのが蘭らしいと言えば蘭らしいか。


「蘭は凛と夏海と仲良くやれそうか?」


「はい! 2人ともとても優しくて話しやすい人たちなので、蘭はもう仲良しです!」


「そうか……2人がシャワーから出たら一緒にシャワーを浴びようか」


「はい! でもその前に……」


「ん?」


「一人で寝るの少し寂しかったので抱きしめてください」


「ごめんな蘭……愛してるよ」


「私も主様を愛してます……」


  俺は蘭のいじらしい言葉と、淋しい思いをさせて申し訳ない気持ちで蘭を強く抱きしめてキスをしお互いの舌をゆっくりと絡ませた。そしてキスをしながらまま蘭のネグリジェに手を入れ、その大きな胸を揉みしだいた。


「あっ……主様……んっ……蘭はしたくなってしまいました」


「凛たちはシャワーを浴びてるから、一回だけしようか。ベッドの上で四つん這いになって」


「はい……ください」


俺はベッドの上で大きなお尻を向ける蘭の下着を下ろし、そのまま激しく愛し合った。


そして蘭の中に吐き出した後、凛と夏海が出るのを待って一緒にシャワーに入るのだった。


  蘭の作った朝食を皆で食べ一息つき、食後に雑談をしながらコーヒーを飲んでいるところで、俺は凛と夏海に俺たちのことを話すことにした。ダンジョンに入る前に派手にやったことから、ステータスを偽装してるのはどうせバレてるだろうし、ダンジョンを攻略して外に出たら色々と忙しくなると思ったからだ。



「凛と夏海。ちょっと聞いてくれる?」


「ん? どうしたのダーリン」


「どうかしましたか? 光希」


  ん? 何か呼び名が……夏海は恋人同士なんだから様付けはやめて、呼び捨てにしてくれとさっき頼んだからいいが……ダーリン? 確か一番愛しい人だったか? 恥ずかしいなそれ……まあいっか、愛されてる分には悪い気はしない。


「ああ、2人は俺と蘭の力がこの世界の他の人に比べて普通じゃないと気付いてるよな?」


「うんそれはなんとなく。2人とも多分協会の理事長よりも強いとは思ってる」


「はい、光希や蘭ちゃんの力や知識はズバ抜けてます」


「まず俺はこの世界とよく似たパラレルワールドや、並行世界と呼ばれる日本出身なんだ。そこである日突然勇者召喚され異世界で勇者となり、魔王を倒して元の世界に戻ったはずなんだが、どういう訳か似たこの世界に来てしまったんだ。蘭は人間ではなく異世界で俺の従魔となった狐の神獣なんだ」


「え?ええーーーーー!? ゆ、勇者って異世界人が言っていたあの!? それに蘭ちゃんが神獣!?」


「なっ!? 勇者様? 並行世界!? 蘭ちゃんが神獣!?」


「まあいきなりこんな話をされて信じられないのはわかるよ。まず俺が勇者で蘭が神獣である証拠としてこれを見てくれ。蘭も鑑定の羊皮紙に出してくれ」


「はい、主様。『鑑定』」


  俺は探索者を真面目にするつもりがなかったので、当初は蘭に鑑定羊皮紙を渡してなかった。しかし今後協会の協力が無いと色々厳しくなってきたので、蘭も探索者にしようと鑑定羊皮紙を渡してあった。俺も擬装を解いたやつを用意した。





 佐藤 光希さとう こうき


 国籍:日本



 職業: 勇者


 体力:SS


 魔力:SSS


 物攻撃:SS


 魔攻撃:SSS


 物防御:SS


 魔防御:SSS


 素早さ:SS


 器用さ:SSS


 運:B


 取得魔法:最上級雷魔法、最上級空間魔法、最上級時魔法、上級結界魔法、上級水魔法、上級闇魔法、上級鑑定魔法、上級付与魔法、上級錬金魔法






  蘭


 国籍:日本


 種族:神狐


 職業: 佐藤 光希の従魔


 体力:S


 魔力:B


 物攻撃:S


 魔攻撃:B


 物防御:S


 魔防御:B


 素早さ:S


 器用さ:B


 運:C


 ✳︎神狐時全能力2ランクアップ


 取得魔法:最上級火魔法、上級錬金魔法、上級付与魔法


 種族魔法:人化、幻狐、狐火、狐月炎弾、狐縛炎、神炎、大狐嵐動、再生(神狐時)


 備考:従魔契約(佐藤光希)



「ひゃー! ホントだった……本当に勇者で神獣……あれ? 佐藤? あれ? 最上級魔法? え? こんなに? え? 」


「あ……あ……ああ……なんという……私の勇者様」


「ごめん、俺のこの上級闇魔法でステータスは擬装してたんだ。名前も事情があって変えてたことは謝る」


「ちょ、ちょっと待って! す、少し落ち着かせて!」


「わ、私はもう何もかも信じます」


  まあそうだよね、この世界じゃありえない数字と魔法だもんね。特に使う気にならなかったから聖以外の他の魔法は魔法書持ってても覚えていないとか言い難くなったな。まあいいか、しかし夏海は着々と蘭化してきてるな……

  そして10分後にやっと落ち着いたようで凛が俺を見ている。


「ごめんなさい動揺しちゃって、もう大丈夫。ダーリンは佐藤で勇者で蘭ちゃんは神獣おけっ!」


「白馬の王子様は勇者様だった……ああ私の勇者様……」


  夏海はどこか遠くを見ている。


「ごめんね、ただ2人が好きだから隠し事をしたままじゃダメだと思ってさ、恋人になった以上は俺は2人を信じる」


「ダーリン……こんな重大なことを私を信じて教えてくれてありがとう、嬉しいわ」


「ああ……光希……私も信用してもらえて嬉しい」


「恋人だからな」


「うん」


「はい」


「それで最初に言ったことを時系列で話すと……」


  俺は取り敢えず動揺しながらも、俺たちを受け入れてくれた凛と夏海に感謝の気持ちを持ちつつ、まずは俺は今いる日本とは並行世界の同じ日本で大学生をしていて、そこにはダンジョンなど無く今いる世界と文明も西暦も同じだということ。


元号や歴史など微妙に違う世界だということ。そこである日突然異世界のアトラン大陸にあるリンデール王国に勇者召喚をされて、異世界に呼ばれたこと。その世界は末期世界で魔王軍にリンデール王国以外全て滅ぼされており、俺が勇者をやらないと王国も俺も滅ぶと言われたこと。魔王を倒してSSS級の魔石を得れば元の世界に帰れると言われたことを話した。


「ダンジョンの無い並行世界かぁ……召喚されたっていうのは、こっちの異世界人から召喚勇者は日本人が多いって聞いたから理解はできるけど……でもそうよね。異世界があるんだから並行世界もあっておかしくないわよね」


「ダンジョンの無い日本……40年前の日本にダンジョンが現れず、そのまま今に至る世界ですか。そうなるとこの世界にも光希がいる可能性もありますね」


「ああ、だから俺はこの世界に俺が存在していると思ってさ、念のため偽名を使ったんだ」


「なるほどねー。ならダーリンのいた世界にも私がいる可能性があるのね……そこでは出会えなかったのなら、これって凄い運命の出会いよね。ドキドキしてきたわ」


「そうですよね。光希の世界の私は何をしているのか……きっと光希とは出会えなかったはず。だとしたらやっぱり運命だったんですね」


「はは……そうだね、運命だな。2人に出会えただけでこの世界に来て良かったと思えたよ」


「ダーリン……もうっ! 胸がドキドキすること言わないでよ!」


「光希……嬉しい」


「まあそういう感じで異世界に呼ばれてたんだがその後は……」


  俺は2人に出会えた運命に感謝しつつもその過程を説明した。


  召喚された後は厳しい訓練を行い、ひたすら毎日魔獣と戦っていたこと。2年目の時に魔獣に襲われている当時火狐だった蘭を助けたこと。帰る場所が無い蘭と獣魔契約をし、それ以来常に一緒にいたこと。蘭の種族ランクが上がり2度目の進化で人化を覚え、3度目の進化で九尾の狐になり4度目の進化で神狐の神獣となったこと。


  5年目の時にできた恋人と死に別れたこと。数年荒れていたこと。大陸にあるあらゆるダンジョンを踏破しまくったこと。成長した蘭と恋人となり進化によって長き時を生きる蘭と人生を共にするために、古代ダンジョンに挑み時の魔法を覚え不老となったこと。召喚から15年目で魔王を倒し日本に帰ってきたらパラレルワールドだったことを話した。


「スンッ……クスン……ダーリンかわいそう……恋人と死に別れたなんて」


「うっ……ううっ……光希……壮絶な人生を……ううっ」


「ありがとう。でも時間と蘭が解決してくれたよ。蘭はいつだって一生懸命全力で俺を支えて愛してくれたんだ。今の俺は蘭がいたからあるんだ。だから蘭は俺の全てなんだよ」


「あ……あ……主様……ら、蘭だって……グスッ……主様がいたから今の蘭があるんです……弱い火狐の、しかも子供の蘭と獣魔契約をしていただいて群れが滅び帰る場所の無い蘭に……グスッ……居場所をくれたから……そして蘭のために最高難易度の古代ダンジョンまで攻略してくれて……主様は蘭の全てなんです」


「じゃあお互い様だな。蘭、いてくれてありがとう愛してるよ」


「愛してます心から主様を……愛してますこれからも永遠にずっと」


  俺は蘭を抱きしめた。


  なんだかしんみりしちゃったな……


「凄い絆だわ……13年の積み重ねか……私もいつか蘭ちゃんみたいになるわ」


「本当に羨ましいです。私も光希に蘭ちゃんと同じように思ってもらえるようになりたいです」


「凛と夏海とはこれからたくさん思い出を作るからね。お互いの気持ちを育てていこうな」


「うん! でもダーリンカッコ良すぎよ! 何よ蘭ちゃんのために最高難易度の古代ダンジョン攻略したって! もっと好きになったじゃない!」


「本当にカッコ良すぎです。そして蘭ちゃんを想うその優しさにますます好きになりました」


「この古代ダンジョンのことは蘭の大切な宝物なんです。ふふふ……」


「羨ましいわ蘭ちゃん。でもダーリンは私たちがこのダンジョンに閉じ込められてるのを知って、単身で助けに来てくれたもんね。これも私たちの宝物ね。こんな素敵な人を好きになったのは当たり前か」


「私も死の淵から蘇らせていただいたことも、私の身体と心を救ってもらったことも全て宝物です。そうですよね、こんなカッコいい男性に惚れないのはおかしいですよね」


「もう……なんと言えばいいか……恥ずかしいな。そんな大した男じゃないしモテたことも無いしな」


  俺は滅多に無い褒め言葉の連続で、もうどうしていいかわからなくなった。


「まあそういうことでこの世界に俺たちの戸籍は無いんだ。存在していなかったからな。それで今後ダンジョンを出た後は探索者協会に事情を伝え、諸々便宜を図ってもらおうと思っている。正直魔獣素材や魔石、魔道具に魔法書はたくさん持っているしそのうえSSS級探索者だ。まあS級までしか無いみたいだけどね。協会も俺たちをぞんざいに扱わないだろうし、融通も利かせてくれると思う。そういった思惑もあり、ある程度探索者として活動しないといけないと思っている。だから一緒に付いてきてくれないか?」


「うん! 当然よ! 絶対離れないからね!」


「私は光希に全てを捧げてます。どこまでも付いていきます」


「ありがとう。俺も離れたくなかったら良かったよ。それから2人にはもう二度と傷付いてほしくないからアイテムを渡すよ。まずアイテムポーチね、これは6畳の部屋と同じ面積を収納できて、ポーチ内の時間は停止してるから食材を入れても腐らない。間口を広く作っているから出し入れしやすいよ」


  そう言って蘭が持っているのと同じ機能の竜革でできたポーチを凛には白、夏海にはベージュ色を渡した。


「凄い! 6畳!? 時間が止まってるって!? 」


「これは凄すぎます!」


「空間魔法があればいくらでも作れるからな、八王子の皇ショッピングモールにいた副社長にもダウングレードのやつ売ったよ。ははは」


「副社長って大叔父さんじゃない!」


「あ、やっぱり親族だったか」


「社長が凛ちゃんのお祖父様になりますね」


「社長の孫だったのか! しばらく内緒にしててな? ん? 凛ちゃん?」


「当然よ、バレたら大変だわ! あ、私たち姉妹になったのよ。同じ男性にその……ほら……そういう風に言うじゃない。ね? お姉ちゃん」


「え? え? 私に振るの?」


「あはははは……わかったよこの話題はわかったから」


「えへへ」


「後は防御系のアクセサリーと、夏海にも凛のローブと同じ素材同じ機能のマントを渡しておくね。夏海は俺のものだと言うなら身体をなるべく傷付けないようにしてね」


「あ……はい! 光希のものになったこの身体は傷つけません!」


「凛は今のローブを使っていてくれ、アクセサリーに関しては魔力を流すと自動で中級結界が張れるこの『天使の指輪』を装備してくれ。2人とも右手の薬指を出して」


「「薬指!? はい!」


  俺はそう言って青い宝石が付いているように見える、色を擬装した魔結晶の指輪を2人の薬指にはめた。


「わーい! 指輪を薬指にはめてもらっちゃった♪」


「薬指に指輪……プレゼント…… 」


「俺の代わりに2人を守ってくれるものだからね。それは魔結晶を使っているから自身の魔力は使わない。宝石の色が薄く白くなったら使えなくなるけど、大気中から魔素を集めて勝手に魔力が溜まるからずっと使える。ローブや刀と同じだよ。あとこれは凛に」


「これは火魔法の上級魔法書!? え? いいの? ずっと欲しかったの!」


「複数あるから遠慮なく覚えてよ」


「キャー! ダーリン大好き大好き……チュッチュッ」


  俺は凛に火魔法の上級魔法書を渡したら、凄い喜びようで抱きついてきてキスの嵐だ。


「魔法を覚えるのは1人の時にやってね、入ってくるイメージをちゃんと理解しながらが効果的だから後でゆっくり覚えてね。魔法のアレンジとかは蘭に聞くといいよ、火魔法のエキスパートだからね」


「うん! 楽しみ! 蘭ちゃん教えてね!」


「はい凛ちゃん、蘭になんでも聞いてください」


「最後にポーション系渡しておくね。俺が作れるから遠慮なく使うように」


  そうして凛と夏海に上級ポーション各10本、中級30本、初級50本。上級魔力回復促進剤各20本、中級50本、初級100本。上級解毒薬各10本、中級30本、初級50本。石化解除液を各50本を渡した。


「ひゃああああ!? じょ、上級がこんなに! 価値観が、価値観が〜」


「こ、こんなにですか!?」


「それだけ2人が心配な彼氏馬鹿だと思ってくれ」


「もうっ! そうやって行動で大切にしてるって伝えられたら……もうっ! ほんと優しいんだから! 口だけの男たちとは大違い」


「愛されてる……私は愛されてるのを感じます。大切にしてもらえてる……」


「大切だからな。よしっ! 取り敢えずじゃあ準備して下層に行こう」


「「「はい」」」


  俺たちは準備を整え71階層へと向かうのだった。



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