第19話

 




 ――横浜上級ダンジョン 24層 小部屋 多田 夏海――






  私は朦朧とした意識の中、走馬灯のように過去の映像が脳裏を過ぎ去っていった。


  ああそうか。私の祖父は心刀流多田抜刀術という刀術の師範だった。父は祖父に反抗し探索者となり、結果的に食糧難の日本で一族から一人も餓死者を出すことなく皆を救った。私はそんな勇者のような父に憧れ、祖父に刀術を教わって幼少期を過ごしたんだった。


あまり道場以外で男性と接する機会も無く、女の子ばかりから告白されたっけ。門下生にいいなと思う人がいても、私より弱く女に負けて悔しいのかいつも睨まれていて小さい男なんだなと冷めてしまった。


  探索者になっても低ランクは下心丸出しの男ばかりで、決まったパーティに入らず臨時でばかり入ってた。でもBランクになった時に初心者の時に色々教えてくれた人が所属するAランクパーティに入ることになった。

  それからすぐ私もAランクとなりパーティも順調だった。そうあの時までは……


  探索者になって5年目21歳になろうかという時に、協会からの指名依頼で私たちパーティは他のBランクパーティと共同で静岡にある上級ダンジョンの間引きを行なっていた。その時、私たちより少し離れていた所で間引きをしていたBランクパーティが、壊滅的打撃を受けて私たちの所へ魔獣を連れて逃げてきてしまった。そう、いわゆるモンスタートレインと言われる禁止された行為だ。


  その時私たちは別の魔獣を相手にしており、こちらも数が多く苦戦していたところでの背後からの急襲。

  私たちのパーティは壊滅した……


  私は右目を失いながらも生き残った仲間と2人で必死に逃げ地上へと向かったが、一緒にいた仲間も途中で力尽きた。とうとう私1人になり、それでも命からがら逃げきることに成功した。

  結果、Bランクパーティは全滅。私たちAランクパーティも私を残し全滅した。


  それからは抜け殻だった。それでも様々な人に支えられて叱咤激励され、昔お世話になった皇社長のお誘いもあり復帰を決意した。失った右目をカバーできる動きを身につけるために訓練をし、私は凛お嬢様のボディーガードとして探索者に復帰した。


  凛お嬢様はとても明るく優しくて、でもちょっと抜けてるところがあり、こんな醜い顔になってしまった私にも本当に懐いてくれていた。妹ができたらきっとこんな感じなのかなと、私もお嬢様を妹のように思っていた。

 

  当時16歳のお嬢様は初めてダンジョンに挑戦する時に、関根というクズに襲われた。私がパーティの男たちに懇願され、斥候として離れた隙にだ。他のメンバーもグルだったのだろう。関根に覆いかぶされ服を脱がされようとしているお嬢様を見て、私は怒り狂った。そこにいた全員を徹底的に叩きのめし、地上へと上がり協会に報告した。


  お嬢様の心は大変傷付いていた。私もソロでやっていた時に襲われそうになったこともあるというのに、男たちのその欲望に満ちた目に気づけなかったことを悔やんだ。それからは女性とばかりパーティを組むようになり、お嬢様はその才能もあり順調にランクを上げていった。早いランクアップだったと思う。


  そして自衛隊と専属契約を結び、女性の多いパーティを組めたのは運が良かったのだろう。私たちは月に一度、大体10日から2週間ほど自衛隊と共にダンジョンの間引きを順調に行なっていた。


  そんなある日、あの事件は起きた。横浜ダンジョンの間引きの帰りのことだった。中華街の駐車場付近で子供に助けを請われ、付いて行った時にお嬢様が背後で組み伏せられた。私はその者達に対処しようとした時に死角から現れた男に右手を切断されてしまった。私はどこか油断していたのだろう。ダンジョン以外で対処できない危険など無いと。その隙を突かれ右手を失い私も組み伏せられ、私を人質にお嬢様の抵抗を奪ってしまった。


  私のせいで抵抗できないお嬢様を見て、お嬢様は本当に優しく私を慕ってくれていたのだろうと思うと同時に無力な自分が許せなかった。このままお嬢様の負担になるくらいならと、私は自害しようと覚悟を決めた。


  いよいよ縛られて連れていかれようとした時に、私は舌を噛み切るために顎に力を入れようとしたその時。お嬢様を組み伏せていた男たちの首が飛び血が噴き出し、その直後私を押さえていた男たちの力が抜け私の前にも血の雨が降った。


  お嬢様の背後からこの現象を引き起こしたであろう中肉中背の、でもかなり引き締まった身体つきの男性が現れた。その男性は私の右手を斬った男を殺し利用者された子供たちも救ったうえに、貴重な上級ポーションまで使い私の右手を繋げてくれた。ああ、白馬の王子様は実在したんだ……私は生まれて初めて胸が熱くなり、また会えるようにお礼を口実に連絡先をお嬢様と聞き出そうとした。


  けれども彼は、倉木様は名前だけ名乗り、大したことないしてない貴女たちは運が良かっただけだと言って逃げるように去ってしまった。私は落ち込んだ。こんな醜く怖い顔をした女にしつこくされてもきっと嫌だったのだろうと。


  その後子供たちを施設に戻すため、探索者協会に行く途中に目覚めた男の子は泣きながらごめんなさいごめんなさいと謝っていたけど、悪いのは子供を利用したあの男たち。私たちは笑顔で何も無かったのよと言いなだめて別れた。


  ホテルに戻った私たちは安心したのかすぐに眠ってしまった。お互いの存在を確認するように抱き合いながら……


  翌朝目が覚めお嬢様を起こしシャワー浴びて出てみれば、お嬢様が必死にテレビを見るように言ってきた。いったい何事かと見れば昨日の出来事の黒幕の関根が殺されていた。私と同じように右手を切断されて……


  ああ、私たちが今後怯えないよう心まで救ってくれたのでしょうね倉木様は。私はお嬢様と必ず彼を見つける決意をし、彼がくれた平和な日常をまた送るのだった。

  その後何度か私とお嬢様は横浜ダンジョンの間引きが終わった翌日のオフに、中華街に行き彼を探した。しかし彼や蘭さんには会えず。私たちは彼はたまたま横浜にいただけの海外の高ランク探索者なのではないかと思うようになった。


  探索者協会ではBランク以上の探索者名は公開されている。しかしそこに彼の名は無く、協会の人も知らないとのことだった。あれだけ強い人が無名なわけもなく、やはり海外で探索者協会と提携していない組織の人なのだろうと考えるようになった。


  そして最後の横浜ダンジョンでの間引きを行う日が来た。倉木様を見つけることができず最後の手段で皇社長の力を借りようとお嬢様と話しながら35階まで泊まりがけで間引きを行い、地上に戻ろうとした時に魔獣の氾濫にあった。ありえない……最初はそんな動揺の言葉が脳裏をよぎったが、私は必死にお嬢様を守るべく戦った。そしてお嬢様が一瞬の隙を突かれ吹き飛ばされてしまい、私たちはパーティと別行動を取るようになった。


  気力も体力もギリギリだった。それでもあと少し、あと少しで安全地帯に着くとお嬢様を守りながら進んだ。しかしとうとう私の命運も尽きたようで、肩と脇腹を負傷してし大量に出血してしまう。もう中級ポーションは無い……私は既に生を諦めていた。


  ここにいれば大丈夫。オークウィザードが来てもお嬢様なら楽に対応できる。もう魔力も回復しているはず。もう私がいなくても大丈夫。助けが来るまで……待っていればいい。


  ああ、お嬢様が何か叫んでいる……駄目ですよ……魔獣がきて……しまう……お嬢様……私は本当に……妹のように貴女を思って……ました。倉木様……もう一度だけ会いたかった。ああ……寒い……お嬢様……私の分もお礼を……倉木様に……お嬢様……私の分まで幸せに……お嬢様……りん……おじょう……さま……


「夏海さん! 夏海さん! いや! 起きて! 夏海さん! イヤーーーーッ!」


  私は深い闇に誘われるように意識を手放した。









 ――横浜上級ダンジョン 18階 倉木(佐藤) 光希――



「ブギーーーー!」


  俺は探知を掛けながらタブレットでマップを見つつ、最短距離で下層まで走っていた。途中出会うオークはすれ違いざまに剣で斬りつけ瞬殺していく。そして20層に降りた時に探知に今までと違う反応が2つ出た。

  タブレットを見て緊急避難場所としてある安全地帯にある反応だと確認した。


「人間ぽいな。悪いが後だ」


  恐らく自衛隊の人たちだろうが、今は知らない他人より知っている人が先だ。帰りに拾うから大人しくしててくれと心の中で思い24層を目指す。22層の階段が見えた時、階段を塞ぐように倒れている盾と散乱した鎧があった。遺体はもうそこら中に散らばり原型を留めていなかった。さすがに俺は足を止め装備を回収しアイテムボックスへ入れた。


「この盾は確か自衛隊の……20層の2人を逃がすためにこの階段で身体を張って氾濫の大群を引き留めたんだろうな……立派だよあんた。20層の2人は必ず回収する。だから安心して眠ってくれ」


  俺は恐らく彼が絶命したであろう、何も残ってない場所に手を合わせ下層へと降りた。


  24層に降りタブレットで緊急避難場所の位置を確認し、探知にかかる反応と照らし合わせた。


「ん? 反応が一つ? いや、まさか……間に合わなかったか?」


  俺は急いで走り出し避難場所へと向かった。避難場所の入口にはオークウィザードの死体と魔除けのお香が置いてあった。


「あそこだ! おーい誰かいるかー? おーい」


  誰かいるのはわかっていたが、安心させるために声を掛けながら近づいた。しかし避難場所の中からは女性のすすり泣く声しか聞こえてこない。


  俺はある程度覚悟を決め避難場所の中に入った。


「こんばんは。入りますよ倉木です」


「……え? 倉木さん? なぜ? え?」


  寝ている女性……いや遺体に顔を埋めていた皇さんが俺の名前に反応してこちらを向き、驚きの声をあげていた。


「いや、皇さんたちがダンジョンに取り残されてるって聞いたから迎えに来たんだよ」


「え? え? でも氾濫で大群が外にえ? 1人で? え? 夢?」


「ああ、1人だよ。夢じゃないよ。氾濫はもう収まる。自衛隊と探索者が頑張ってくれた。俺は隙を見てダンジョンに入っただけだよ」


「そ、そうだったんですか……で、でも、たった1人でここまで来られるなんて……ありがとうございます……ですが夏海さんは……うっうっ……」


「ああ、やはり多田さんだったか……すまない。もっと早く来れれば……」


「いえ……助からない傷でしたから……でも最後に夏海さんが裏路地で助けてくれたお礼を言いたかったと、私から伝えてくれと……うっ……ふ、2人であれから倉木さんのこと探して……でも見つからなくて……また会いたいって2人でまた……」


  ああ、あの時連絡先教えておけばよかったな。あの時は証拠隠滅するために急いでたからな。こんな俺を探してくれてたのか……ほんと義理堅くていい子たちだよな……なんだかな〜

  はぁ〜俺なんかにまた会いたいとか言ってくれる美人なんている? アトランにいたか? いやいなかった! 悪意に満ちた変な噂を国中に流され、女の子からは避けられてた。

  蘭は特殊だろ。神狐だし美的感覚が違うんだよあの子はきっと。そう思うと多田さんや皇さんは貴重な人種だよな。それにこのままだとなんだか寝覚めが悪いよな。俺はハッピーエンドが好きなんだ。これはリスク冒す価値あるだろ。うんあるある。


  俺はそうやって色々自分に言い訳しながら皇さんに声を掛ける。


「お礼か……だったら本人から直接聞きたいな」


「え? でも夏海さんはもう……だから私が夏海さんの分もお礼を……します。2人分ですからなんだって……します……」


「今なんでもするって言ったよね?」


「え?……は、はい……私にできることなら……」


「じゃあ今からすること絶対他言しないって約束できる?」


  俺は彼女の言葉尻を捉え真剣な顔で見つめて言った。


「え? え?……ハッ! で、でもここで? で、でも命を2度も助けてもらったし……倉木さんなら……で、でも夏海さんいるし……ここでは……ちょっと」


「ち、違うよ! そういうことじゃなく今から魔法を使うけど、絶対国とかに知られたくない魔法なんだよ。だから秘密にできる?」


  なんだか俺の言い方が悪かったのか、彼女は自分の大きな胸を両腕で抱き抱え顔を真っ赤にして変な勘違いをしていた。それを見て俺は慌てて言い直した。


「え?あ……いや、やだわたし……あ、はい秘密にできます霊を呼び寄せるとかですか?」


「ん? 違うけど約束だよ? 絶対秘密ね?」


「はい……分かりました」


  俺は彼女の言葉を信じることにして、多田さんの遺体の側に近寄り魔法を発動する準備をした。

  ふと多田さんの顔を見て、やっぱり美人だよな〜髪伸ばしたら大和撫子って感じだよな〜やっぱり死なすのはもったいないよな〜あと眼帯か……これももったいないよな〜と、改めて多田さんの純日本風な美しさに見惚れるのだった。


「皇さん……多田さんの目の怪我っていつ頃負ったの?」


「え? えーと4年前みたいです」


「やっぱり本人は気にしてる怪我だよね? こんなに顔立ちが綺麗な人だし」


「はい……いつも自分は醜いって……でも綺麗なのは確かです! 心も外見も!」


「そっか、わかった」


  まあ、ついでと言ったら言い方悪いけど俺も見たいしな。

  そう思いながら俺は最上級時魔法を発動した。


『蘇生』


  俺が魔法を発動すると周囲は闇に包まれ、多田さんの頭上に魔法陣が現れた。

  その魔法陣からは青白い肌に黒のキャットスーツを身につけて、胸元は縦におへその所まで裂け、そこから大きな胸の谷間をのぞかせたSM女王様みたいな格好をしている妙齢の女性が降り立った。


  彼女こそ時を司る女神である。


  時の女神が多田さんの身体に手をかざすと、その瞬間多田さんの身体が白く光り輝きしばらくするとその光は徐々に収まっていった。時の女神は薄っすらと笑みを浮かべ俺の方を見て身をくねらせ、胸を突き出したポーズを取った。俺は苦笑しつつ親指を立てて似合ってるといるよと伝えた。


  時の女神は嬉しそうに笑みを浮かべて魔法陣の中に戻っていった。

  俺はそのキャットスーツ蘭に着せようと思って専門店で買ったやつなんだけどな。見てたのかよと溜息を吐きつつも多田さんの身体を確認する。


  多田さんは浅く静かに呼吸をしており、肩と腹部の傷も綺麗に無くなっていた。


「え? な、なにがいったい……」


『時戻し』


  俺は皇さんが魔法の現象に驚いているのを横目に多田さんに手をかざし、すかさず次の魔法を放つ。


  俺の手から数十個の歪な形をした時計が現れ、次々と多田さんの身体全体を時計が覆う。そしてその後一斉に時計の針が逆行する。

  1年、2年……俺はイメージを絶やさぬようカウントしていく。3年……4年……多田さんの髪が伸びていき額にあった傷が消えていく。そこで俺は魔法の発動を止めた。


「ふう……」


  俺は蘇生と時戻しでの大量の魔力消費で疲れ、アイテムボックスから上級魔力回復促進剤を取り出し飲んだ。人がいなければ吸魔の魔剣で魔石を斬って魔力を回復させるんだけどね。


  改めて多田さんを見ると長い黒髪は濡れ烏のようにしっとりとしつつも光沢があり、額の傷が無くなった顔は少し目元がキツ目だが鼻筋もスッと通っており、薄い唇は柔らかい雰囲気を与えてくれる。顔のパーツの配置も整っていて眼帯を取りたい衝動に駆られ少し外してみた。


  大和撫子だ……凄い美人だ! 弓道とか薙刀似合いそうだな。昔のゾンビパニックアニメのヒロインみたいに、魔獣を斬った後に『火照る!』とか言ってほしいな。これは蘭に並ぶんじゃないか? 皇さんも凄い美人だが、ハーフっぽい美人だからジャンルが違う感じだな。


  ふと皇さんを見ると目を見開き両手を口元にあてて、信じられないという顔で多田さんを見ていた。


「皇さん? 皇さん?」


「……あ、はい」


「これが俺の秘密の魔法。誰にも言わないでね?」


「え? は、はい……あ、あの夏海さんは、い、いったいどうなって……何が起きたのでしょうか?」


「蘇生した。んで4年前の状態に肉体を戻した」


「……うそ」


「嘘じゃないよ呼吸してるだろ? 起こしてみなよ」


「あ、あ……あ……ほんとだ……本当に呼吸してる……あ…ああ……な、なつみさん……なづみざーーん! うわぁぁぁ」


  俺の言葉に呼吸をしてるのを確認できたのか、皇さんは夏海さんの名前を呼び彼女に抱きついた。


  ほんとこの2人の関係って仲の良い姉妹みたいだよな。お互いを思いやる姿は見ていて自分の醜い心が洗われていくわ。うん! やっぱりこの子たちは離れ離れになっちゃいけなかった。俺は間違ったことはしてない。万が一国にバレたら蘭の幻惑魔法と俺のステータス隠蔽で他人になればいいしな。大したことじゃない大丈夫問題ない。

 

「う……んん……おじょう……さま……なぜ泣いて……え? わ、私は死んだ……はず……」


「こんばんは多田さん」


「く、倉木様! 何故ここに!?」


「ええ!? 様付けなんてやめてくれよ」


「あ、いえ……恩人ですので……」


  気が付いた多田さんが皇さんが泣いているのを見て、自分の状態に驚いていたところに俺が話しかけたらいきなり様付けでびっくりした! なんだか蘭と同じ匂いがしてきたぞ?


「まいったな……まあそれより瀕死だったので上級ポーションでも間に合いそうも無かったから、最後の一本の最上級ポーションを飲ませたのさ。いやホントあと10分遅れてたら危なかったよ。さすがエリクサーと呼ばれるだけあるね。凄い効き目だ」


「なっ!? え、エリクサーを私に!」


「ああそうさ。眼帯外してみなよ。目が見えるはずだ」


「そ、そんなことがあるはず……」


  俺はできるだけリスクを減らすために恩着せがましい言い方になってしまったが、地上に上がった時に多田さんの額の傷や目が治っている時の言い訳として、どんな末期病も治し欠損部分が生えてくるエリクサーを使ったことにした。皇さんを見ると察してくれたのか小さく頷いてくれた。賢い子だなぁ。


  多田さんは半信半疑という感じで後ろを向き眼帯を外して上を見たり横を見たりした後、鏡を取り出し自分の顔を見ている。


「み、見える……目が……見える……額の傷も無くなってる……え? 髪?」


「あーエリクサーって髪も伸びるんだね。知らなかったびっくり!」


「クスクスクス……」


  髪が伸びたことは言い訳考えてなかったわ……取り敢えず勢いで適当な理由付けて押し切ろうとしたら皇さんが笑っていた。ちょっと! 笑うなちゃんと合わせろよ!


「こんなことが……倉木様! 先日のことのお礼も未だできていないうちに、貴重なそれもとても貴重なエリクサーまで使っていただき、このご恩この身を差し出してでも一生をかけてお返しさせていただきます! お嬢様! 申し訳ございません! お暇を頂きたくお願いいたします」


「ええ!? な、夏海さんどういうこと?」


  急に多田さんが正座して三つ指ついて、そりゃもう綺麗な仕草で頭を下げとんでもないこと言うものだから皇さんも俺もびっくりしてしまって狼狽えた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! 逆に困る! いや、多田さんがいらないとかそういう意味ではなくむしろ欲しいけど……って違う! これは俺のわがままなんだよ。俺が死なせたくないと思った。仲が良くお互いを本当に思い遣っている2人の姿をまた見たいと思った。そしたら助ける術がたまたま俺にあった。だから助けた。多田さんの意思とか聞かず勝手に俺がやったこと。それがたまたま多田さんにとって良い結果になっただけ。だからそんな恩に着る必要はないんだ」


「そ、そんな倉木様は勝手にやったのではありません。そんなはずありません! エリクサーがどれだけ貴重なのか、誰も見たことも無く異世界人があるという話をしているだけの、しかもその異世界人も見たことが無い幻の秘薬を私なんかのために……こんな醜い私なんかの……」


「ストーーーップ! 鏡見たよね? 醜い? 冗談だろ! 凄い美人だよ! 大和撫子! 外でそんなこと言ったら他の女性たちに恨み買うよ! 多田さんは醜くなんか無い! 美人! 自覚しなよ」


「ふぇっ?……わ、私が美人?」


「いーなー夏海さん」


  まずい……勢いで随分恥ずかしいこと言ってしまった……ああもう! 取り敢えず押し切るしかない早く外出よう! やることたくさんあるし!


「さあさあもう出よう! 20層に2人隠れている人の反応あるから、帰りに救出してあげないとね」


「「え? 20層に? みんな……」」


「ああ、1人地上に脱出できた小ちゃいお団子髪の子に俺は皇さんの居場所を聞いたんだ。もしかしたら20層の子はパーティ仲間かもしれないだろ? 早く行ってあげなきゃ」


「戸田さん無事だったんだ良かった……はいっ! 分かりました行きます」


「倉木様……」


「さ、さ、出よう出よう!」


  まだ何か言いたそうな多田さんをスルーし、そう言って俺は先に出た。そして2人が出てきた所で先に進もうとしたら背中に柔らかい感触を覚えた。


「お? え? ど、どうした?」


「倉木さん助けてくれてありがとうございます」


「倉木様……このご恩は一生掛けてお返しします」


  背後から2人に抱きしめられ、4つの弾力ある胸を押し付けられながらお礼の言葉を言われた……うん、こういうお礼の仕方はいいよね。来て良かったと思えるわ。もうずっとこのままでいいかな。なんて思っていたらスッと4つの柔らかい果実が離れた。


「さあ行きましょう倉木さん!」


「倉木様行きましょう」


「あ、うん行こうか」


  満面の笑みで今にもスキップしそうな2人を見て、果実が離れて残念な気持ちを感じていた自分が途端に恥ずかしくなるのだった。





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