第23話 光一の決意
ドンッ!
「なっ!? 」
「主様! 」
「ん? いや……消えたな」
「あら? 消え……ましたね。でも、もの凄い魔力でした……王都のある方向からでしたね」
「ああ……一瞬だが凄まじい魔力だった」
俺が蘭と一緒にドーラに餌を与えていると、突然北東の方から巨大な魔力反応が現れたと思ったらすぐに消えた。
なんだったんだ今のは……王国の新兵器か? いや、しかしあれほどの魔力がいきなり現れるのはおかしい。
あそこまでの魔力量になる前には、魔力を収束させたり充填したりとなんらかの前兆があるはず。
しかしさっきのはいきなり現れて消えた。このことから兵器の類ではないはずだ。
ならいったい……ん? 王都? 確か王都には大聖堂があるはずだ。
まさか……勇者召喚をしたってことはないだろうな?
でも神力は感じなかった。さっきのは完全に魔力だけの反応だったから違うな。
それにそもそもリアラが力を貸さなければ魔力も足らないし、地球の神の承諾も得られないから召喚は不可能だ。これは以前、リアラとアマテラス様本人が言っていたのだから間違いない。
もしも膨大な魔力をもってリアラ無しで召喚陣の起動に成功したとしても、日本から誰かが呼ばれそうになったらアマテラス様が阻止するはずだ。ほかの国の神々も人への干渉を控えているだけで、阻止ができないわけじゃないしな。
という事はさっきのは召喚失敗による魔力の暴発か? 俺をこの世界に寄越したリアラが協力するはずがないから、足らない魔力を大地から吸い上げた魔力で補填しようとした? そして地球の神に断られて失敗したってところか?
「決戦前に勇者召喚をしようとしたのかもな。リアラが手を貸すとは思えないから失敗したんじゃないか?
王国も必死だな」
「勇者召喚ですか!? ですがダンジョンの無いこの世界で召喚をして、どうするつもりだったのでしょう? 」
「ぶっ! 確かにそうだな。魔法書も得られずオークと海の魔物だけじゃあな。勇者らしくなるのに何年かかるかわかったもんじゃないな。アジム程度を倒せるようになるまでに一生かかるんじゃないか? 」
蘭の言うとおりこのダンジョンの無い世界で勇者召喚して、いったいどうするつもりだったんだろうな。
まあ王国のことだ。オークと海の魔物でそこそこランク上げをさせて、あとはこの光魔王軍に突っ込ませてうまくいけばランクを上げられるとかそんな程度しか考えてないんだろう。
アイツらには勇者はただの道具だからな。
「遠い道のりですね。その前に守るべき王国が無くなるので、海にも行けないと思いますが……」
「ああ、王国軍も続々と集まってきているな。やっと4万てとこか? まだまだ集まりそうだ」
俺が率いる光魔王軍は現在、王都の南西100kmほどの場所にある荒地に布陣している。
ここは10年ほど前、エフィル率いる勇光軍が王国との決戦を行い敗北した場所だ。
ここに来るまでに多くの街や村の獣人たちを解放していき、助けた獣人たちに報復をさせてまわった。
この200年以内にできた街や村は防壁が無いから、領兵や自警団を蹴散らしたら簡単に占拠できた。
獣人を解放した後は街や村の食料を半分献上させ、獣人たちの着替えなどの衣服を提供させたのちに占領を解いた。途中ついでに貴族の屋敷も襲撃した。ここからは根こそぎ食料や貴金属などを回収して最後は燃やした。
女子供は生かしてあるが、王国がなくなったあとは身一つしかないから平民として生きるしかないだろうな。
まあそうしてゆっくりと王国に時間を与えつつ、この場所にやってきたというわけだ。
あと2〜3日もここにいれば王国中の兵が集まるだろう。今も東の空に飛空戦艦が飛んでいるのが見える。
「あっ! 主様! また飛空戦艦が来ました! 鹵獲するのが楽しみです♪ 」
「そうだな。浮遊石を使った飛空戦艦の浮力は凄いからな。鹵獲して俺たちで魔改造して旅客業を始めるか。エフィルが言うには帝国のも合わせるとまだ20隻以上あるらしいぞ? 」
あのモブ王子が乗ってたのは怒りにまかせて堕としたけど、まだたくさんあるらしいから良かったよ。
浮遊島が落ちるくらい浮遊石を採掘したというから、まだまだあるとは思ってはいたけどな。
鹵獲して武装はそのままで魔石を魔結晶に変えれば、維持費もたいして掛からず運用できそうだ。
アンネットに魔銃や魔砲と一緒に渡せば、解析してもっと小型の物も作ってくれるかもしれないしな。
アンネットの夢も叶うし、きっとお礼にキスくらいさせてくれそうだ。
「うふふ、凛ちゃんがまた喜びそうです♪ 蘭は『すちゅわ〜です』というのをやってみたいです! ですからあの船は無傷で捕獲します! 」
「あははは。蘭のスチュワーデス姿は可愛いだろうな。なら手間は掛かるがアレは無傷で欲しいな。王国のが全隻揃ったらみんなで手分けして転移で手に入れよう」
蘭のスチュワーデス姿か……それは予想してなかったな。客として俺も乗って俺だけに特別サービスさせて……これは紫音や桜にリムたちにもやらせるか。快感……いや、快適な空の旅を送れそうだ。
飛空戦艦は操縦士だけ残して、あとは殺すか船から追い出せば楽に手に入るだろう。
「さて、そろそろ朝食ができる時間だ。シルフィが呼びに来る前に戻るか」
「はい! ドラちゃんまたあとで来ますね。今日は南の海に一緒に狩りに行きましょう」
《 ルオン! 》
俺は蘭の腰に手を回してみんなの待つ魔導テントへと歩いて行った。
しかし勇者召喚か……あの召喚陣を今度こそ徹底的に破壊しないとな。人族の手で二度と召喚できないようにしないと、枕を高くして寝れやしない。
ああ……でも並行世界の召喚陣もあるから意味ないのか。やっぱり肝はアマテラス様だな。召喚が発動されたら全て光一のとこに行くようにしてもらわないと。アイツはマジでもっと苦労した方がいいからな。
帰ったらアマテラス様にもっと光一の素晴らしさをアピールしておくか。
俺が平穏な生活を送れるためにも、光一には人身御供になってもらわないとな。
**********************
ーー リンデール王国 大聖堂 地下 禁書庫 ーー
「ったく、ロクな国じゃねえな……光希から聞いていた以上だ。しかし光希が魔王を倒してから300年以上経ってる世界だとはな。どうりで銃とかあるはずだわ。それに光希が言っていたダンジョンがもうこの大陸には無いなんて随分ハードモードだよな」
俺がこの世界に強制召喚されてから2日が経過した。
教皇を拷問してからすぐにこの禁書庫に案内させたあとは、国王に召喚に失敗したと報告するように言って俺は禁書庫にこもり本棚にある文献を読み漁っていた。
まあ素直に国王にそう報告するかは微妙だが……
そこはとりあえず禁書庫に入れたからよしとした。
でも教皇もさすがだよ。禁書庫にいるとさ、何度も明らかにお前シスターじゃないだろうっていう超グラマラスなお姉さんが訪ねてきたんだ。それを俺は歯を食いしばり毎回追い返してた。
どう考えてもハニートラップか暗殺以外考えられないからな。
俺は光希とは違い弱い。あの光希だってSSランクの時にハニートラップで命が危なかった事が何度もあったと言っていた。その話を聞いた時は、何度もそんな目にあってなんでまた引っ掛かるの? 馬鹿なの? と思っていたが、アレはやばい。
恐らく男を興奮させる特殊な香水とか付けているのだろう。近くにいるだけでクラクラしてしまう。それにあの巨乳とくびれ! 引っ掛からない男がいる方がおかしいと思う。
でも俺は唇を噛みきって口もとを血だらけにして耐えて断ったよ。美人たちは俺の顔を見てドン引きしてたけどな。
彼女たちといたした後にマジックポーチを遠くに置かれ、即効性の毒を盛られたらヤバイ。解毒薬を取り出せなかったら詰む。俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ。
でもいい女だった……追い返した後、彼女たちのお尻を見て血涙を流したほどだ。
そのあとは教皇のところに再度訪問して、二度とハニートラップを仕掛けるなと手足に雷矢を撃ち込んで忠告した。教皇は苦痛と屈辱にまみれた顔をしていたから、そろそろ暴発するかもな。まあそうなったら殺せばいいだけだ。アイツ本当に役に立たないからな。
この世界の人族は屑だ。守る価値なんて微塵もない。
だって光希と蘭さんが命懸けで倒した魔王を王国が倒したことにしてやがったうえに、光希は役立たずだと喧伝して光希の功績を記した書物は禁書庫に全て封印しやがった。
燃やして消去しないのは、教会の最期の良心なのか女神リアラが怖かったのかはわからないけどな。
少なくとももう何百年も女神リアラからの神託はないらしいから、とっくに見放されてるんじゃないかと思う。
そりゃそうだ。かつて共に戦った亜人たちを迫害してるんだからな。
俺がその辺の神官を捕まえて何気なくエルフや獣人のことを聞いたら、そいつが亜人を家畜だと言った時はぶち切れそうになったよ。かつて共に魔王軍と戦った者たちを家畜扱いする? なんの冗談かと思った。
この教会は王都内にあるらしいんだが、この王都にも多くの獣人が奴隷とされているらしい。
恐らく方舟でオージーたちが中華の奴らに受けてたような仕打ちをされているんだろう。
俺は帰る方法を確定させたら奴隷を解放してやることにした。そのために国王を人質に取る。
ダンジョンの無い世界なら魔法を使える奴もいない。あの銃より強力な奴があるらしいけど、恐らく転移でなんとかなるだろう。国王を捕らえて各兵器を沈黙させた後に、奴隷を解放させ逃がすくらいはできると思う。
ただそれをやるかどうか決める時間はあまりない。現在魔王軍は王国の南西100km地点に集結して陣を張っているらしいからだ。
教皇が言うには王国軍も現在国境と王都に1万を残し、それ以外は魔王軍と決戦すべくその場所に集結しているそうだ。
教皇にはその戦いに参加してくれと言われたが、俺としては王国軍には魔王軍と戦って兵を減らしてもらった方が今後はやりやすい。せいぜいお互いすり減らして欲しいものだ。
魔王軍を撃退したとしても王国は相当なダメージを負うだろうし、もしも負けたとしてもこの王都に来る魔王軍はそれなりに数を減らしているはずだ。魔王軍が来るにしても100kmも離れてるから数日は掛かるだろう。王国には魔導通信らしき通信手法があるみたいだから、先に戦況はこちらでわかると思う。
奴隷を解放するならこのタイミングだろう。魔王軍が王都に来る前に俺も腹を決めないといけない。
今はその魔王軍が来る前に俺を召喚する時に利用したらしい、大地から魔力を吸い上げる創魔装置の魔力を使って帰れないか調べてるところだ。サッパリわかんないけど。
ただ、女神リアラは今回の召喚には関与していないという事だけはわかった。教皇も女神の力を借りれなかったので魔力不足となり、創魔装置で大量の魔力を供給することになったと言っていた。
だから俺は加護を得られなかったわけだな。ダンジョンの無い世界でなんというハードモードをやらせようとしてたんだこの王国の奴らは……
それにしてもどの文献を見ても、送還にはSSSランクの魔石が必要と書かれているんだよな。
召喚陣はあくまでも召喚にしか使えないらしい。
やべえわ、魔王とかダンジョンの無いこの世界でどうやって力を付けて倒せばいいんだ? やっぱ魔王軍と戦うしかないのかね?
これはやっぱり最悪の事態を想定しておかないとな……
魔王を倒さないと帰れないなら、この国に攻めてくる魔王軍を迎え撃ってランクを上げて、魔王城のあるヴェール大陸に乗り込むしかないな……いったい何年掛かることやら。
聞けば魔王軍にはドラゴンまでいるらしい。中位ならギリ勝てそうだけど、上位ドラゴンだったら手も足も出なさそうだ。あのクオンにボコボコにされたしな……
あのクオンに……
仲間が必要だな。俺1人じゃ魔王討伐は無理だ。
エルフは大陸の西のはずれで獣人たちと避難しているそうだが、恐らく魔王軍にもう呑み込まれているだろう。
どこかで生き残りを探すしかなさそうだ。
できれば紫音さんやシルフィーナさんのような超美人エルフを仲間にしたい。
俺はエルフから見たらイケメンらしいから、うまくいけば光希のようになれるかもしれない。
獣人の仲間はうさ耳がいいな。かなりグラマラスらしいし。ドワーフもいるらしいから合法ロリ枠で1人確保しよう。
よしっ! もう少し調べて他の帰還方法があれば、国王を人質にして獣人を解放して帰還する。
ほかの帰還方法が見つからなくても国王を人質にして獣人を解放する。そして仲間を集めハーレムを作りながら魔王軍と戦い、後退しつつ魔王軍相手に戦いランク上げだな。
飛空戦艦なるものもあるらしいから、あわよくばそれを奪って避難民を乗せて移動すればいい。
そうなったら最悪でも3年。3年間以内に俺は帰る。夏美たちのもとへ新たなハーレムメンバーを連れて必ず帰るんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます