第22話 不遇勇者
ーー リンデール王国 大聖堂 佐藤 光一 ーー
最悪だ!
まさか俺が勇者召喚されるなんて!
光希の話を大変だったんだなぁとか、他人事のように聞いていた俺が同じ目にあうなんて!
まさか光希が召喚された時の話をやたら詳しく俺に説明してたのは、この可能性を予想してたからか?
おかしいと思ってたんだ。時の止まる大容量のアイテムバッグとポーチを俺にだけ気前良くくれて、どんな時も肌身離さず身に付けておけとか、作物の種や食糧を大量に入れておけとかさ。
昨日光希が突然やってきたのも前兆かなにかか?
いやいやいや、いくら光希でも神じゃないんだし……
俺と光希は同一人物だからもしかしたらって心配してくれてただけだろう。アイツは身内にはなんだかんだで激甘だからな。
でもまさか本当に召喚されることになるなんて……
俺は今朝から光希に押し付けられた光竜教とかいうわけのわからない新興宗教の教祖として、合衆国のフィールドに建てられた教会で信者のババアとむさいオージーたちに祝福を与えていた。
本当は教祖なんてやりたくなかったんだけど、信者に小さい子がたくさんいて断るに断れなかった。
なぜかLight mareの所有するフィールドにいる、孤児院の孤児たちも信者として登録していたし。
まあお袋のせいなんだけど。
お袋はシスターをやってみたかったとかノリノリで、勝手にマネージメントまで始めて夏美や玲やクララにまでシスター服を着せて布教活動に励んでいたからな。
シスター姿の3人と教会でえっちなことをするのは最高だったんだけど。うん、光希の言ってた通りとても背徳的で良かった。なにせクララは本物の天使だしな。
光希は夏美に敬虔な信者を選定しておくように言ってたけど、恐らく次に来た時に若返らせるためだろう。
俺ではなく夏美に言いつけたのが納得いかないけど。
勝手に教祖役を押し付けておいて俺はただの飾りかよ!
まあそれはいい。少数だけど若い女性にモテるし綺麗な女性ほど将来を不安視して寄ってくるし、ヒスリー大統領は俺の言うことなんでも聞くしな。マジ美人だよあの人。
そうしてなんだかんだと今日も教祖としての仕事が終わり、19歳の信者の金髪巨乳ターニャちゃんに個別の祝福を授けると言って教壇でお尻を撫でてたら急に足もとが光ったんだ。
そのあまりにも膨大な魔力に一瞬でこれはアカンやつだと判断した俺は、ターニャちゃんを突き飛ばしてダメ元で転移をしようとしたらやっぱりダメで……気付いたら石造りの壁に囲まれたこの部屋にいたんだよな。
んで気持ち悪さが治って周りを見ると、俺が座っている魔法陣みたいなものを囲むように神官服を着た男女が倒れていた。
魔力反応が無いことから死んでいるんだろう。
その死体の外側には20人ほどの白い鎧を着た騎士っぽいのが、剣を腰に差し銃らしき長筒を手に持っていて、中央には偉そうな神官服を着た白髪の老人と部屋の隅にも中年の神官が一人立っていた。
それからはその老人が口にしたことに俺はブチ切れたんだが、コイツら明らかにおかしい。
人を勝手に拉致しておいてまったく悪びれることもなく世界を救え?
そうですかそれは大変ですね、では私が救いましょうってなるわけねえだろ!
光希が言っていた通りだこれ。
どうせ次に出てくる言葉は、救ってくれなきゃ元の世界に帰さないぞに決まっている。
「勇者よ。元の世界に戻るには魔王を倒し、体内にある高ランクの魔石が必要なのだ。それを持ってきてもらえれば元の世界に帰すことができる。どうか協力して欲しい。王国は勇者への協力を惜しまない」
「あんた俺の話を聞いてたのか? 俺は勇者光希の弟だって言ったよな? アニキからお前らに召喚されてから魔王を倒すまでのことを聞いてんだよ。魔王の魔石を手にした時点で、この手に仕込まれた送還陣が起動すんだろ? しかも元の世界とは違う並行世界に送られるのを俺は知ってる。ハメようとしたって無駄だ」
「…………」
あ〜やっぱ知ってたのか。光希が聞いたらブチ切れるだろうな。
コイツらは勇者を召喚して魔王を倒したあとは、勇者の存在が邪魔になるからこのことを黙ってたんだな。
正直に拉致したことを詫びて助力を求めてきて、ちゃんと元の世界に帰れるなら有料で力を貸さないことも無かったが……
とりあえず帰る方法はこの神官たちしか知らなさそうだから殺すのはマズイか?
かと言ってこんな拉致犯罪者のもとにいてもロクな事にはならないだろうな……
でも俺の実力で逃げ切れるのか? ここにいる騎士はCランクと弱いけど、あの銃みたいなのが気になる。
あんな物があるなんて光希から聞いてない。もしもあれが銃なら、異世界に銃があったって光希が面白がって話すはずだ。つまり光希がいなくなってすぐに開発されたものか?
というか光希が魔王を倒したのにまた魔王を倒せっておかしくないか?
「ダンマリか。確実に帰る方法はないってことだな? 」
「その手に隠されている魔法陣を黙っていたことは詫びよう。しかしその送還陣は女神により与えられたもので、確実に召喚した世界の座標が刻印されている。それは召喚と同時に、言語理解能力とともに勇者の身体に刻印されるものだ。別の世界に飛ばされることは起こりえない。ゆえに魔王の魔石さえあれば確実に元の世界に戻れる。逆になぜ勇者光希が元の世界に戻れなかったのかを知りたいほどだ」
言語理解能力? あっ、そういえば普通に日本語が通じてるわ。すっかり忘れてた。
この召喚陣が言語理解能力と送還陣を、召喚と同時に俺の身体に刻み込んでいるという訳か……
しかし一応理屈は通っているけど、現実問題として光希は元の世界に戻れていないからな。
「俺は光希の弟と言ったが、正確には並行世界の同一人物だ。並行世界はわかるか? 鏡の中の世界みたいなもんだ。そこには自分と同じ人間がいるんだ。つまり俺は光希の別の世界の同一人物だ。俺はその並行世界で光希と出会い力をもらった。その時に光希は元の世界に戻れなかったと言っていた。それはどう説明するんだ? 」
「なんと!? 異世界の中にこの世界と似た世界があり、同じ人間がいることは文献に書かれておったがまさか勇者光希と同じ人物だとは……しかしそうだとして全く同じ世界でない以上は座標が異なる。神の力が介入しない限りは別の世界に飛ばされることなどあり得ないのだ」
う〜ん……理屈は通っている。
すると神の力が関与したの線が濃厚か? アマテラス様か? 俺たちの方舟世界を救うために、アマテラス様により光希は並行世界に引き込まれたとかか?
この手に刻まれた送還陣に元の世界の座標が刻印されていると仮定するなら、あり得る話ではある。
あの強大な力を持った光希が、ダンジョンが無いらしい元の世界に戻っても世界のバランスが崩れそうだしな。というか魔王になりかねないな光希なら。
しかしまだ不安だ。光希みたいに別の世界に飛ばされたら、夏美と二度と会えなくなるかもしれない。俺の目でしっかりこの召喚陣を調べないと納得ができない。
とりあえずこの教会で文献やら資料を漁り、確実に元の世界に帰れるのか調べよう。
光希はリンデール王国は糞だと言ってたから王城に行くのは無しだな。光希から暗殺やハニートラップの話を聞いたから怖くて行けない。
魔王討伐? んなもん後だ。俺が元の世界に帰れなきゃ意味が無い。俺は愛する恋人たちの元に確実に帰らなきゃいけないんだ。
「いずれにしろ元の世界に帰れるか確認できてからだ。勝手に俺を拉致したんだ。お前にも協力してもらう」
「王国は魔王軍の侵攻により危機に瀕している。悪いが勇者にそのような時間をあたえることはできない。すぐにでも王と会い訓練を受けてもらわねばならない」
「それはそっちの都合だろ。俺には関係ない。本当は俺を幸せな世界からいきなり拉致したお前らを、皆殺しにしたいのを我慢してんだ。テメーラの都合を押し付けるのもいい加減にしろよ? 」
「なっ!? 勇者よ……召喚されたばかりの身の上でいささか調子に乗りすぎではないか? 聖女ほか多くの者が犠牲になったうえに、この私が頭を下げて協力を頼んでおるのだ。魔力は高いようだが、ただそれだけよ。ダンジョンで力をつけた後ならいざ知らず、現時点でその態度はお互いのためにはならぬのではないか? 」
「ふざけんなよクソジジイ! 勝手に拉致っておいて頭を下げ頼んでる? 犠牲になった者がいる? 誰が召喚してくれって頼んだんだよ! テメーラの都合でどれだけ過去の勇者が苦しんだのかも知らないくせに! 家族と離れ離れにされ、今でも辛い思いをしているアニキの気持ちも知らないくせに勝手なこと言ってんじゃねえ! アニキの代わりに俺がこの国を滅ぼしてやりたいのを我慢してんだよ! 黙って召喚にまつわる資料を出せ! 加害者のお前に選ぶ権利はねえんだ勘違いすんなジジイ! 」
お袋に会ってあの光希が泣いていた。
ある日突然知らない世界に召喚されて家族と離れ離れにされ、何度も死にそうになりながらやっと魔王を倒したらまた別の世界に転移させられた。
お袋といる時の光希を見ていればわかる。光希は家族に会いかったんだ。
15年戦い続けてやっと会えると思ったら別の世界で……それがどれほど光希を傷付けたか、想像するだけで胸が苦しくなる。
勝手に召喚して死ぬ思いで契約を履行したのに、それを守らないこの王国もリアラとか言う女神も俺は絶対に許さない。
用が済んだらこの召喚陣ごとここを吹き飛ばしてやる。
「……どうやら勇者コウキに色々聞き、いくらか手解きを受けたことで増長しているようだ。しかし勇者がいた世界より、文明が発達していることを考慮に入れるべきであったな。神殿騎士たちよ。四肢を撃ち抜き力の差をみせてやるのだ」
「「「 ハッ! 」」」
「上等だ! かかってこいよ! 勇者の弟の力を見せてやる! 」
気に入らねえ……本当は騙されたフリして情報を収集すべきなんだろう。
未知の武器を持つ相手に対して挑発はすべきではないんだろう。
頭ではわかっているが、人を拉致しておいて偉そうにしている態度が気に入らねえ!
光希だって召喚された時に力があれば絶対に俺と同じことを言ったはずだ。
そう、俺には力がある。方舟で得た力が!
佐藤 光一
職業: 英雄
体力:S
魔力:S
物攻撃:S
魔攻撃:S
物防御:S
魔防御:S
素早さ:S
器用さ:A
運:C
魔法: 上級風魔法
備考:紋章魔法使用可能: 転移・天雷・天使の護り・探知・氷結世界、雷矢、鑑定、遮音
訂正……光希からもらった力がある!
ってか勇者じゃねえじゃねえか! なんだよクソ女神! 俺には加護なしかよ!
俺は召喚されたのに勇者として得られる特典がないことに愕然としつつも、騎士たちが構える銃に集まる魔力の流れを感じていた。
しかしそれは思ったよりも大したことがないと判断し、転移は使わず受けることにした。
「『天使の護り』 」
パシュッ パシュッ パシュッ
パシーン パシーン パシーン
「し、障壁だと!? 」
「ちげえよ結界だよボケ。とりあえずその銃は大したことがないのはわかった。実弾が飛び出ると思って結界を張ったけど、初級魔法程度の魔力の塊で拍子抜けしたわ。それなら結界がなくてもレジストできる。とりあえず武器がどんなのかはわかった。なら次は俺の番だな『風刃』」
「「「 ぎゃっ! 」」」
「なっ!? 」
俺は風の刃を20枚騎士たちの銃を持つ手に放ちその腕を切り落とした。
いや、腕をすこし切って銃を落とさせるつもりだったんだけど、あまりにも魔法に対する抵抗がステータスも装備も低すぎて切断してしまった。
「弱っ! 同じ初級魔法でこれかよ! 装備もただの鉄だしナメてんの? まあいいか、少しおとなしくしてろ『氷結世界』 」
俺は痛みに耐えつつも残された腕で剣を抜こうとする騎士を見て、氷結世界を発動し騎士たち全員の膝から下を凍らせた。
《 な、なんだこの氷は!? 》
《 あ、足が凍って…… 》
《 ヒッ! どんどん上に!? 》
「動けば氷は上にいく。死にたくなかったらじっとしとけ」
「じょ、上級水魔法だと!? 」
「なんでアニキから魔法書をもらってる可能性を考えなかったんだ? バカなの? 召喚された奴が全員最初は弱いって決めつけてたの? 鑑定できた? レジストされてなかった? そこで気付かなかった? 」
「ぐっ……魔力がBランクの者は稀にいるとは記録にあった。しかしその使い方を知らない者がほとんどで、まして魔法を覚えている者など過去に1人もいなかったのだ……まさか勇者コウキより魔法書を……しかも結界などという失われた魔法を……」
「結界は初級なら俺のいた世界でも稀に手に入る。俺のいた世界には魔物がいるんだ。残念だったな、魔物のいない平和な世界から召喚された奴じゃなくて。つーかあんたら弱すぎ。ダンジョン行って鍛え直してこい」
コイツEランクでよく神官としてやってるな……光希が教会は腐敗していてかなり大掃除をしたって言ってたけど、召喚に立ち会う神官でこれかよ。
「魔物がいる世界だと!? そ、そのような世界が異世界にもあるというのか……」
「逆になんで無いと思ってんのか不思議だけどな。こっちには生まれた時から魔物がいたからな。さてジジイ、お前を守るやつはいなくなったぞ? おとなしく召喚に関わる資料を俺に見せろ。それで本当に魔王の魔石があれば確実に帰れるというなら戦ってやる。俺で勝てるかはわかんねえけどな」
そうだよ、そういえば光希が魔王はSSSランクとか言ってたよな……無理だろ死ぬ。
なんとか魔王城に行くのは回避してその他の方法を探さないと。
光希みたいに魔王を倒す力を得るために10年以上もこの世界にいたら夏美たちが……まさか戻ったらほかの男が側にいないよな?
オイオイオイ! シャレになんねえぞ! 俺の夏美と玲に近づく男は皆殺しにしてやる!
早く帰らないと! 早く!
「なんということだ……これほどの力を持った者が現れるとは……やむを得まい。我らでは御しきれそうもない。部屋を用意し世話をする女も複数付けるゆえ、資料を用意する間は少し待て」
『雷矢』
「ぐああ! 」
俺は未だに何か企んでるジジイの肩に雷矢を突き刺した。
「まだ立場がわかってねえみたいだな? 今すぐ用意すんだよ! 呑気なこと言ってんじゃねえ! 夏美に男が近付いたらどうすんだよ! 早く帰る方法を! 魔王の魔石以外にもあるはずだろ! そもそも召喚する魔力があって送還する魔力がねえっておかしいだろ! 早くしろクソジジイ! 」
「うぐ……か、神の信徒に向かって……この悪魔め……」
「人様を強制的に拉致したやつに言われたくねえんだよ! つーかお前役に立たなそうだな。もういいや、殺してほかのやつにやらせるわ。その後ろで尻餅ついてる神官でいいか。うん、そうするか……『雷矢』 」
「ま、待て! 私は教皇だ! 教会のトップだ! 禁書庫は私しか入れない! 私を殺せば召喚にまつわる資料を見ることはできな……ぐああぁぁ! 」
俺は今度は自分の命を盾にマウントを取ろうとするジジイの両足に、頭上に待機させていた雷矢を突き刺した。
それよりコイツ教皇だったの? ビックリだわ。
「そんなの教会を破壊して回って探せばいいだけだろ。それに生きてさえいればいいならポーションは山ほどあるからな。四肢を切り落として治してで心が折れるのを待つか『風刃』 」
「ひっ! ひいぃぃい! ま、待て! 言うことをきく! や、やめてくれ! 」
「え? なんだって? 聞こえなかった 」
「ぎゃああぁぁ! 」
俺は鈍感主人公を演じつつ、中級ポーションを片手に教皇の両足を千切れる寸前まで切り刻んだ。
蘭さんに教わったこの方法で心が折れなかった奴はいない。
周りにいた騎士たちは教皇を助けようとしたのか、半分以上が物言わぬ氷像と化していた。
だから動くなって言ったのに馬鹿な奴らだ。
しかし教皇なら色々使えるだろう。勇者召喚は失敗したと報告させて、俺はここで帰る方法を探すか。
魔王軍がそれを邪魔するなら追い返すまでだ。
とにかく早く夏美のもとに帰らないと!
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