第75話 クオンの戦い







「そら来たぞ! ミノタウロスだ! ブレスを吐くだけの簡単なお仕事だぞ! 」


「クォォオン……」


「疲れたじゃねえよ! 飛竜相手に無駄撃ちするからだろうが! ほら! とっととブレスを吐け! 」


「グオォォォ! 」


「よしっ! 次はアイアンゴーレムと地竜を蘭が連れてくるからな。地竜はブレスで、アイアンゴーレムは物理で倒せよ? 」


「クォ……」


相変わらずの根性の無さだな。やる気に満ちてたのは最初の4戦までで、疲労が溜まるとすぐにへタレやがった。それから10戦ほどはクオンの尻を叩きながら無理矢理戦わせている状態だ。


それにしてもさっきのAランクの岩石竜とBランクの飛竜の群れはかなり大変だった。山岳フィールドはほかのフィールドより高く飛べるとはいえ、火竜と岩石竜の相性は悪いからな。かなり苦戦した。

クオンは最初に飛竜をブレスで片付けてからの岩石竜との肉弾戦でもう嫌になったようだ。


岩石竜との戦いは、途中何度も逃げようとするクオンの後方に天雷を撃って無理矢理戦わせ、やっと岩石竜を倒せた頃にはクオンはボロボロだった。それを時戻しで治して疲労も回復させたんだが、心がもう完全に後ろ向きになってしまいミノタウロス相手でも戦わせるのが大変な始末だ。


もっとだ、もっと経験値を積ませないと。クオンを上位竜にするには強くなりたいという想いと大量の経験値に上位種を倒すことが必要だ。

俺はクオンにまたがりながら、後方でクオンが取りこぼしたミノタウロスを処理している恋人たちに声を掛けた。


「シルフィたちはなるべく結界から出るなよ? アイアンゴーレムの取りこぼしが出たらそっちを頼む! 」


「まかせてちょうだい! 」


「アイアンゴーレムは私の炎で溶かしてやるわ! 」


「このミノタウロスはなかなか手応えがありますね」


「あたしも飛びたいんだけどな〜」


「飛ぶとさっきみたいにクオンのブレスに巻き込まれる可能性があるから我慢しろ」


クオンは追い詰められたら周りが見えなくなるからな。

どうしても図体がデカイから体長3m程度のミノタウロスやゴーレムなんかは狩り残しが出てしまう。そういったものは俺たちがキッチリ狩っていき、クオンには大物をメインに戦ってもらっている。


なんだかんだいってもう夜になるな……山岳地帯はほかのフィールドと違って魔物の数は少なめだ。その代わり強い個体が多い。ゴーレムなんかは魔誘香が効かないから蘭が囮となって連れてくる形になる。一度認識させれればしつこく追いかけてくるので、俺たちのいる方向にさえ向かって来させればそれほど大変じゃない。


「オラッ! クオン! 来たぞ! 戦え! 強くなるんだろ!? へタレたら丸焼きにするぞ! 」


「クォォオン……クォォオン……」


「泣き言なんか聞きたくない! ボスが出るまで戦い続けろ! 」


「クォン! クォォン! クオーーーーッ! 」


鬼っ! 悪魔っ! ちきしょー? なんとでも言え。お前を強くするためならどう思われたっていいさ。


「鬼でも悪魔でもいいさ、ライオンは我が子を谷に突き落とすという。これは親心だ。さあ行け! 地竜からやれ! 」


「グオォォォ! 」


「よしっ! いいぞ! 次はアイアンゴーレムだ! こんなのにブレスはもったいないからな。踏みつけろ! 尻尾で薙ぎ払え! 」


「クォォオン! 」


もう破れかぶれだな。まあいい。

クオンは10体いるアイアンゴーレムを次々となぎ払い踏み潰していったが、3体ほど後方に吹き飛ばしてしまった。


「来たわ! 燃え尽きなさい! 『豪炎』 」


「多田流抜刀術 『疾風』 」


「砕け散れ! 竜闘術『竜撃破』 」


「シルフ! 押し潰して! 『シルフの鉄槌』」


後方に吹き飛ばされたアイアンゴーレムの1体は凛の豪炎で溶かされ、もう1体は夏海によって胴を切断され、最後の1体はセルシアによって脚を打ち砕かれた。そしてトドメにシルフィの精霊魔法によって3体とも押し潰され、鉄と少量の黒鉄のインゴットを残し霧散していった。

すると後方に突然魔物の反応が現れた。


「やっと出たか。『蘭、ボスだ。もう戻ってきていいぞ』 」


『はい! 』


俺はボスが出たので蘭に念話を送り戻ってくるように伝えた。

それにしてもこの反応は……


「クオン! 上位竜だ! それと飛竜が20頭! 飛竜は俺たちが片付けてやるからお前は竜をやれ! 格上だが援護はしてやる! 行けっ! 男になってこい! 」


「クォォ……」


「そうだよな、お前はそういうやつだ。なら教えてやる。上位竜になったあとにさらに経験を積むと亜種になれる可能性がある。レア上位竜ってやつだ。いいか? これはな……頭が2つあるんだ」


「クオッ!? クオクオッ!? 」


「本当だ。古代に生息していた記録がある。ツインドラゴンって言うらしい。上位竜にならないと亜種にもなれないぞ? キング○ドラになりたいんだろ? 」


「クォォオン! クオッ! クオッ! 」


「よしっ! ならこれをやる! 覚えてるだろ? とっておきのやつだから俺がいいと言うまで使うなよ? さあ行け! 行って上位火竜を倒してこい! 『ヘイスト』 」


「クォォオン! 」


俺はクオンが首からぶら下げているのアイテムバッグに秘密兵器を入れてから降り、時魔法を掛けてやるとクオンは勢いよくボスがいる場所に飛んで行った。


フッ……チョロい。俺はリッチエンペラーが残した書物を読んでいた時にツインドラゴンの記述を見てこれだ! って思ったね。まあクオンがなりたい怪獣は頭が3つだが妥協の範囲だろう。


亜種になる方法なんてさっぱりわかってないんだけどね。上位竜の範囲であることと、聖属性とか書いてあったからクオンじゃ無理だと思うんだよね。恐らく白竜の亜種のような気がする。

でも俺は嘘は言ってない。うん。


「凛! 俺たちは飛竜をやるぞ! 俺が叩き落とすから片っ端から片付けてくれ! 」


「まかせてダーリン! 」


俺は凛たちにそう言って転移でクオンと火竜が戦っている場所に行き、クオンの周囲から火球を放とうとしている飛竜を叩き落とした。


『プレッシャー』


俺の魔法で叩き落とされた20頭の飛竜は地上でのたうち回り、凛たちによって次々と狩られていった。


「クオンはっと……ヘイスト掛けても厳しいか。魔法障壁の強度の差かな。仕方ねえな……『スロー』 」


俺は早々に魔法障壁を壊されて逃げ回るクオンの姿を見て脱力し、クオンよりひと回り小さい全長50mほどの上位火竜にスローを掛けた。


魔力が多いから上位なのは間違いないと思うんだが、とりあえずどの程度の強さか見てみるか。


『鑑定』



火竜


種族:竜種


体力:A


魔力:S


物攻撃:A


魔攻撃:A


物防御:A


魔防御:S


素早さ:A


器用さ:B


種族魔法:竜魔法(障壁・ブレス)


備考: 上位火竜


本物の肉体を持ってないからか? ダンジョンの最下層にいる上位竜よりは少し弱めだな。

クオンはどんなもんだったっけ? 最近見てなかったからちょっと見てみるか。




クオン


種族:竜種


体力:A


魔力:A


物攻撃:A


魔攻撃:A


物防御:A


魔防御:A


素早さ:B


器用さ:B


種族魔法:竜魔法(障壁・ブレス)


備考: 中位火竜


地力はクオンの方がありそうだな。渡したアイテムと俺の魔法の援護もあるし勝てなくもないだろう。



「クオン! まず弱らせろ! 一気に片付けようとするな! スピードはお前の方が今は上だ! 飛び回って翻弄しろ! ツインドラゴンになるんだろ! 頑張れ! 」


「クォォオン! 」


「クオーン!頑張ってー! 負けちゃ駄目よ! 」


「クオン! 男を見せなさい! コウの竜なら諦めちゃダメよ! 」


「そうですクオン! 貴方は勇者の乗る竜なんですから誇りを持ってください! 」


「クオン! あたしたち竜に連なる者の強さを見せてやれ! 」


「クオンちゃん! 勝ったらご馳走を作ってあげますよー! 」


俺がクオンに指示をすると飛竜を片付けた恋人たちがクオンを応援していた。蘭も戻ってきたようだ。

うん、クオンにしては頑張ってるな。よほどツインドラゴンになりたいらしい。いつもならとっくに逃げ出しているはずだ。

頑張れクオン! お前には俺たち仲間が付いてるぞ!





「クォォォ! 」


『グオォォォ! 』


あれから1時間ほどが経過し、クオンと火竜の戦いは体力の限界からか空中戦から地上戦へと移行していた。

体格の大きいクオンが尻尾で薙ぎ払うが魔法障壁にて防がれ、お返しにと火竜の爪の攻撃を喰らうが辛うじてクオンも魔法障壁で防いでいた。どちらも魔力が残り少なくブレスを安易に吐けない状態だ。


「いい勝負してるじゃないかクオン」


「これは意外だったわ。あのクオンがこんなに長く戦うなんてね」


「格上相手にクオンが戦うなんて信じられないわ。どういう心境の変化かしら? 」


「クオンの目がいつもみたいに死んでませんね。やっと光希の竜としての自覚が芽生えたのでしょうか? 」


「すげーなクオン! やれる! クオンなら勝てる! 」


「クオンちゃん……」


「蘭、心配するな。クオンは勝てるさ。おっ! クオンがいい位置についたぞ! 」


恋人たちがクオンを見直したり心配している時にクオンは火竜に突撃して吹き飛ばし、追撃をして体重を乗せた強烈な爪攻撃を火竜に見舞っていた。


「クォォオン! 」


『グオォォォ』


「よしっ! 魔法障壁を壊した! 今だクオン! 上級雷魔筒を使え! 」


俺は以前に天雷の魔法を見たクオンが、自分も雷を撃ちたいというから何度か遊びで使わせたことのある雷魔筒をさっき渡していた。

雷魔筒は俺がアトランで戦っていた頃、魔力切れを起こした時の保険で大量に作っていた魔法を込めた魔道具だ。紋章魔法を覚えてからまったく出番が無くなったが、スクロールを開くことができないクオンには持ちやすくてちょうどいいんだよね。


「クォォン! 」


『グオォォォン……』


俺の指示を聞いたクオンは首からぶら下げているアイテムバッグに爪を入れ、雷魔筒を取り出してすぐに発動した。雷魔筒には天雷が付与されており、火竜は天から降り注ぐ雷に打たれ身体を焼かれ、さらにその身体を硬直させていた。

さすが引きこもり竜……器用にアイテムバッグから取り出すな。あの流れるような動作は見事だった。


「今だクオン! 全力のブレスをお見舞いしてやれ! 」


「グオォォォ!! 」


俺の掛け声にクオンは少し溜めた後に硬直して動けない火竜にブレスを放った。

そしてクオンの全力のブレスをモロに受けた火竜は、断末魔の叫びをあげることなくその身を霧散させていった。


「よっし! やったなクオン! 今までで一番カッコ良かったぞ! 」


「クオン! 見直したわ! ダーリンのアイテムまで使えるなんて新種の竜よね! 」


「やるわねクオン。まさかあんな魔道具があるなんてね……コウが自信満々だった理由がわかったわ」


「私も見直しました。最後までよく戦いましたねクオン。さすが光希の竜です」


「すげー! クオンが天雷を撃ったぞ!? 竜なのに魔道具使えるとかすげーな! 」


「ヘタレないクオンちゃん……成長したんですね。蘭は少し寂しいです」


「クォォオン! クォォオン! クォォ……ン……」


恋人たちにべた褒めされたクオンは、よほど嬉しかったのか残り魔力が少ないというのに上空に向かってブレスを吐きまくり……魔力切れで倒れた。


「クオン……」


「やっぱりクオンはおバカだわ」


「自分の魔力の残量もわかってなかったとか……」


「クオン……勝って兜の緒を締めよですよ。気を抜いてどうするんですか! 」


「あちゃー! 調子に乗りすぎだよクオン」


「うふふ、やっぱりクオンちゃんはクオンちゃんです。蘭は安心しました」


「ははは、まあクオンだしな。とりあえずこれで条件は揃ったから一晩もすれば上位種に進化するはずだ。安全地帯に戻って今日はそこで野営して、明日神殿に行こう」


俺はせっかく漢を見せたのに最後に締まらないことをしたクオンに苦笑しつつ、倒れて動かないクオンに皆を乗せて転移で安全地帯まで移動した。


安全地帯でテントを張るとクオンの身体は赤く光り始め、俺は進化が始まったことを確信した。


さて、上位竜になればこのフィールドはもっと楽に攻略できるな。クオンのケツを叩いて一気に攻略させないとな。どうせなら光一とクオンで海と砂漠もやらせるか? クオンもツインドラゴンになるためなら頑張るだろう。どうしたらなれるのかは知らんけど。



こうしてクオンは無事上位竜となることに成功した。


この日からクオンは、史上初の魔道具を使いこなす竜として独特の地位を築いていくのだった。

世の中なにが役に立つかわからないよな。




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