第28話 エピローグ





プレッシャー重圧



「マスター 500m先に設置した鉄の鎧の圧壊を確認しました」


「このくらいが無理なくイメージできて放ちやすい範囲と威力だな。マリーご苦労さん家に戻るぞ」


「ハイ、マスター」


上海上級ダンジョンを攻略してから2週間が経過し、救出したダークエルフ達の住処の用意や戦利品の整理や古代語の解読等を一通り終えた頃。

俺は時戻しで修理したオートマタ達のリーダーであるマリーを連れ、中華大陸の魔獣の巣窟エリアで新しく覚えた重力魔法の習熟訓練をしていた。マリー達をどうやって配下にしたかと言うと、戦利品の中にオートマタの設計図的な物があってそれをシルフィに頼み翻訳をしてもらった。シルフィも古い文字なので分からない所が多いとは言っていたが、俺はマスター登録の方法だけ分かれば良かったのでそれで十分だった。

その設計図によるとオートマタの背中には魔結晶が埋め込まれており、その魔結晶に登録用の魔道具を当て俺の魔力を流すと新しいマスター登録ができるとの事だった。但し、上書きでは無く以前のマスターがいる場合はそちらの命令を優先するらしかった。もうリッチエンペラーはいないからそこは問題無く、俺はその魔道具を回収した戦利品の中から見つけ出し無事マスター登録ができた。


オートマタ達は優秀だった。メイドとしての作法に言語記憶能力、料理に洗濯など戦闘以外の家事仕事も高いレベルで身に付けていた。恐らく王宮勤めをしても問題無いように作ったのだろう。半生体なので食事も排泄もするが、魔力があれば飲まず食わずでも動く事ができるらしい。その割にはこの世界の甘い物にハマり毎日何かしら食べているが……

そして当然と言うべきか、古代人に造られたマリー達は古代語が話せるし読み書きもできた。俺はマリー達(他の11体は蘭達がまだ名前を付けていない)に、宝物庫で仕入れた古代語で書かれた書物の翻訳を頼んだ。まずは表紙だけ翻訳してもらい、タイトルで気になる本を今も錬金室で翻訳してもらっている。


そこで真っ先に翻訳してもらったのが、古代魔法書と錬金術書と調合レシピ書だ。古代魔法書は重力魔法の『重圧』という対象の質量を操作できる魔法と、飛翔の魔法書に錬金の奥義という魔法書だった。

飛翔の魔法書は読んで字の如く空を自由自在に飛べる魔法だ。一応重力魔法系統になる。これは凛達に渡した飛翔のネックレスに付与されている魔法だった。俺も飛翔の魔道具を作れるか試したが、系統が違う為なのか付与できなかった。売れば儲かるのだが残念だ。


そして俺と蘭が抱き合って喜んだのが、この豪華な製本をされていた錬金の奥義という魔法書だった。蘭は調合と付与以外は錬金の魔法を使わないので、俺に覚えて欲しいと言って覚えようとしなかったので俺が覚えることにした。少し緊張しながら魔法書を開きその内容が頭に入って来ると、それは俺と蘭が苦労して最上級ダンジョンを周回しても手に入らなかった最上級錬金魔法書を超える内容の魔法だった。

最上級ポーション。つまりエリクサーが作れるだけでは無く、恐らくオートマタを作れる程の繊細な錬金ができるようになった。設計図とレシピさえあればもう何だって作れるだろう。あとは腕の良いドワーフはいるから、魔力の流れと魔石の研究をしている人間を捕まえれば、マリーレベルは無理だけど俺にもオートマタが作れるようになる。


続いて重力魔法だが、先ずは蘭に覚えさせようと思ったが適正が無かった。次に凛と夏海にも試してもらったが駄目で、結局勇者特典で聖と闇以外は全属性の適正がある俺しか覚えられなかった。

そう考えるとあのリッチエンペラーは闇、錬金、付与、土、重力と5属性の適正があったんだな。王宮の宝物庫の品があったからそうかなとは思っていたが、やはり宮廷魔術師だったんだろう。しかも女性だ。

何故女性かと断言したかと言うと、宝物庫にあった各種薬が痩せ薬に豊胸の妙薬に誘惑の香水に美肌の薬とそんな物ばっかりだったからだ。骸骨に美肌や豊胸って……まあ、リッチになっても女だったと言う事なんだろう。頭のイカれた研究をして紫音達を苦しめた事は許せないけどな。


その頭のイカれた錬金術師の被害者であるダークエルフ達は、ダンジョンを出て直ぐにゲートで女神の島の砦に移動させた。その際に聖水の泉を監視する為に砦にいたサキュバスを家に戻らせ、サキュバス総出で寝具一式と120人の一週間分の着替えを買い出しに行かせた。

サキュバスはいきなりダークエルフが100人以上来て、かなりビックリしていたよ。そしてそのサキュバスと入れ替わりでリム達三姉妹が設置型のゲートで砦に来たので、事情を説明して今後の世話と言語の教育を頼む事にした。

その際に精霊に幻術で化けたサキュバスだと聞かされたのか、ダークエルフ達が緊張したのが分かった。だが以蔵夫婦はシルフィから話を聞いていたのか、俺の代わりにサキュバス達は俺の支配下にいると皆に説明してくれてなんとか理解してもらえた。皆一様に俺を驚いた目で見ていたけどな。わかるよ、俺だって魔王の親衛隊が教会の司教達だったら驚……かないな。アイツらならありえる。


まあそんなこんなで今後女神の島の砦周辺の警備や、森での採取と聖水の泉の監視と聖水集めはダークエルフに任せる事にした。サキュバス達にはリアラの塔攻略と自宅警備と諜報活動に専念してもらう。オーストラリア大陸と中東辺りがどうもキナ臭いらしいからな。


ダークエルフ達は女神の島に住める事に大喜びだった。女神の加護の強いこの島の森は精霊で溢れているらしく、精霊を育てるのに良い環境みたいだ。俺は採取を頑張ってくれればちゃんと対価を渡すし、そうなれば東の港で買い物もできるようになるから頑張ってくれと言い残しその日は蘭達を連れて家に戻った。

ダークエルフ達は以蔵と静音を筆頭に跪きこうべを垂れ、はっ!お屋形様! とか言っていた。ダークエルフの水着美女に囲まれる未来はまだまだ遠そうだった。


そうそう、魔導テントだけど流石王族用で、なんと10LDKもあった。リビングが40帖あり王族用っぽい20帖の部屋が3つに、メイドや親衛隊用っぽい10帖の部屋が7室。キッチンなんてもう厨房って設備で蘭が大はしゃぎしてたよ。そしてお風呂は2つあって一つは豪華な大理石造りの20人は入れる大きな浴槽があり、もう一つは使用人用の5人が入れる簡素な風呂だった。その他の家具はソファからベッドからそれはもう豪華過ぎてみんな目を丸くしていた。恐らく王の寝室であろう部屋のベッドは超キングサイズで、ハーレム仕様ベッドだった。

このテントはオートマタ達に掃除と洗濯を頼んで、現代の魔石式発電機を持ち込み快適空間にするつもりだ。この他にも王妃か王女用っぽい4LDKのテントや来賓用のような5LDKのテントもあったから、これも調度品やらは良さそうな物だけ残してホビット達を総動員して内装も変えるつもりだ。



「マスター、シルフィーナ様の護衛担当のNo.02より伝言です。中華広東共和国が水竜討伐の支払いを拒否した上に、上海ダンジョンの攻略報酬を20年の分割払いにするよう求めているようですので脅してきて欲しいそうです」


「チッ……こうなると思ってたよ。もう駄目だなあの国は。分かった。水竜を香港沖に放つと伝えてくれ」


「了解しましたマスター」


はあ……俺達がダンジョンを攻略して地上に出ると中華広東共和国の祖国奪還党は、予想通り水竜は元々俺達の支配下にいたと喧伝していた。よって討伐料を支払う義務も無く、湖南侵攻での水竜による被害の損害賠償を請求すべきと主張していた。そこへ更に、マリーがシルフィに付けているオートマタから念話?通信魔法? どんなものか分からないが連絡を受けた内容が、今回のダンジョン攻略で一番助かった国なのに報酬を分割支払いにしろと言っているようだ。水竜での損害賠償と相殺にする気なのが透けて見える。

あの国はあんな目に遭っても、未だに祖国奪還党が幅をきかせているのだからもう終わりだな。


《 蘭。中華広東共和国が報酬を払いたくないそうだ。スーを香港沖で遊ばせろ。香港の港から船を出すな入れるなと言っておけ。攻撃されたら港を破壊してもいい》


《 あらあら、主様を甘く見ている相手にはお仕置きが必要ですね。 分かりました。スーちゃんを向かわせます》


《 ああ、頼んだ 》


俺は念話で蘭に指示をしてマリーの腰に手を回し家のリビングへと転移した。中華広東共和国が何か言ってきたら、水竜は魔法で支配下に置いていたが、金を払わないから支配を解いたと言っておけばいいだろう。

しかし蘭はスーと今日は遊ぶとか言っていたから悪い事したな。明日のクリスマスイブは蘭とシルフィとデートでクリスマスは凛と夏海とだから、その時にフォローしておくか。クリスマスがこんなに忙しいなんて、俺はなんてリア充なんだろ。


「マリーありがとう。後は古代書物の翻訳作業を頼む。錬金室の冷蔵庫にあるデザートとアイスクリームは好きなだけ食べていいからな」


「ハイ、了解しましたマスター」


そう言ってマリーは綺麗なお辞儀をしてエレベーターに乗って地下へと向かった。無表情だが歩く速度が速かったな。嬉しいんだろうな。

オートマタには魂が無い。しかし人工物らしき脳はあった。だからゴーレムや通常の自動人形とは違い感情があるっぽい。錬金魔法を極めたとしても、とても俺には作る事は不可能だ。あの錬金術師のリッチは紛れも無い頭のイカれた天才だったと言うのが、彼女達を見ればわかる。このオートマタ達はきっと多くの命を糧に造られたのだろう。

だがこの子達にはなんの罪もない。仮初めの命だろうが何だろうが、精一杯生きて楽しいオートマタ生を送って欲しいと思う。

俺は従順で有能なオートマタ達をかなり気に入って、地下と5階のプライベートルームの管理を任せている。それはオートマタの設計図を見てあらゆる精神魔法が通用しない事と、マスターの命令には背かず決して裏切る事が無いと確信したからだ。これには蘭も凛達も賛成してくれた。

今後このオートマタ達とは長い付き合いになるだろう。早く蘭達も名前を付けてあげてやって欲しいものだ。




「ダーリン帰ってたの? 魔法の練習はもういいの? 」


「ああ、もう使いこなせるよ。多人数相手に制圧するには使い勝手が良い魔法だよ」


「いきなり自分の体重が10倍とかになったら、どんな高ランクの人間でも動けなくなるわよね。ダーリンの魔力値で放たれたら抵抗なんて不可能だし、もしかして最強の魔法なんじゃない? 」


「まあ転移持ち以外は逃げられ無いだろうね。楽に無力化できるし今後重宝しそうな魔法だよ」


「あ〜私も覚えたかったわ。適性が無かったのは残念よ。そうそう。体重で思い出したんだけど例の一粒で1キロ痩せる痩せ薬と、あの7日間バストサイズ2カップが上がる豊胸の妙薬をダーリンは作れるの?」


「ああ作れるよ。レシピがあるから蘭も作れる筈だ。素材は上級フィールドダンジョンの上層程度で集まる物だしね」


「それ売り出しましょう! 痩せ薬なんて女性にとって狂喜物のアイテムよ。それにバストアップが7日間しか効果が無いって言うのがいいわ。間違い無くリピーターで儲かるわよ!会員制にして特定のセレブにだけ売れば安定収入を見込めるわ」


「う〜ん、スクロール作製や自衛隊装備への付与で俺と蘭は忙しいからなぁ。身内が使う分なら用意できるけど、商品にするのはな……そうだ! 中級錬金魔法を持っていればこれは作れるから、ホビットとダークエルフに適性ある者がいないか探してみようよ」


「それいいかも! 今まで種族魔法があったから確認してなかったけど、ホビット達なら適性ありそうね。ダークエルフも100人もいれば一人か二人は適性者いるでしょ。適性者がいたらリアラの塔にパワーレベリングさせに行かせて魔力を上げて……いけるわ! ダーリン初級錬金の魔法書いくつか頂戴! オートマタとサキュバス達に手伝って貰って調べて来てもらうわ!」


「適性者達には今の給与に上乗せで作った分を歩合であげてくれよ? 後は念の為契約魔法でレシピを漏らさないように縛りをかける事も了承を得てくれ」


「それは勿論そうするわ。じゃ行ってくるわね。んっ……」


凛は目にドルマークを浮かべながら俺から初級錬金の魔法書を受け取り、軽くキスをして去って行った。

流石皇グループの令嬢だ。従姉妹とか沢山いるとか言ってたけど、みんなあんな感じなのかな。アトラクションゲームの導入や、ピチピチュの実の件で権力者からの問い合わせやら自衛隊に卸す魔道具の受注や出荷で忙しいだろうに、まだ商品を増やそうとしてるんだもんな。そう言えば昨日見掛けた新堂さんの目に光が無かったな……

オートマタを何体か会社業務の補助に回すか。

俺は夏海の友人でもある新堂さんが心配になり、2階のオフィスフロアに寄る事にした。


「こんにちは〜」


「はい……はい……ですからピチピチュの実は弊社では取り扱っておりませんので分かりかねます……いえ佐藤にはお繋ぎできません。これ以上業務の邪魔をするのであれば今後取引はお断りしますよ? ……失礼します」


俺が2階のオフィスフロアに入り一番奥のパーティションで仕切られた区画に行くと、新堂さんと元家政婦で会社で働いてくれるようになった6人の女性達にサキュバスの2人が電話対応をしながらパソコンの操作をしていた。皆、目が怖い……


「あっ! 佐藤さん! 珍しいですね、このフロアにいらっしゃるなんて」


「新堂さんに社員の皆さんいつもありがとう。凛と夏海をダンジョンに連れて行って大丈夫だった? 今度人を増やすからあまり無理しないでくれよ? 」


「いえいえ、それだけの報酬を頂いておりますし、部屋まで用意して頂いているので問題ありません。それに私達は色々事情があって独身が多いですから」


「……そうか。でも富良野ダンジョンの件で関係ない電話が来ているようだけど?」


「それは……一般の方はダミーの番号に掛けて外注のコールセンターで対応しているのですが、政府関係者や自衛隊関係者に海外の冒険者連合理事や取引先の役員などはこちらに掛けて来るんです」


「まあ会社名がパーティ名と同じだからね。迷惑掛けて申し訳ない。今後そう言う話をして来た相手には一度だけ警告して、それでも言ってくるなら次から取引停止にしてくれ。こっちは圧倒的に立場が上だから気にせずバッサリ切ってくれ。凛には俺から言っておく」


「ありがとうございます。社長にもそう言われていたのですが、流石に取引停止は躊躇しておりました。ですが佐藤さんに背中を押して貰えるのなら今後はそのように致します。お気遣いありがとうございます」


俺はその小さい身体で一生懸命働いている新堂さんにこれ以上負担を掛ける訳にはいかないと思い、取引先をバッサリ切るように伝えた。すると新堂さんは疲れてはいるがその垂れ目の優しそうな顔の力を抜き、安心した表情になった。その他の女性達も皆安心してくれたようだ。

しかし新堂さんは小柄なのに胸は凄いな。ブラウスが窮屈そうだ。


「いや、いつも凛と夏海を支えてくれてるんだ。助かってるよ。これはお礼だから皆で一つずつ食べてくれ。それじゃ邪魔したら悪いから俺はこれで」


「この箱は差し入れですか? 丁度皆で休憩しようと思っていた所なんです。ありがとうございます」


俺は新堂さんに箱を渡してその場を後にした。


「光魔王様! これは! 」


「光魔王様ありがとうございます! 死ぬまで頑張ります!」


「え? え? 何? シーラさんにキロさんどうしたの? この木の実は何? 」


「新堂部長! これはピチピチュの実ですよ! 一つで5年若返るんです!」


「「「ええーーーー!? 」」」


俺は絶対遠慮するだろう新堂さんからさっさと離れ、エレベーターで自室に向かうのだった。

新堂さんを含めてあそこにいる元家政婦さんの女性社員は、皆ダンジョンで夫を亡くしてその傷が癒えないまま30歳近くまでなった人達なんだよね。女性の魅力は年齢じゃ無いけど、若返る事で本人が少しは自信がついて前向きに新しい幸せを見つけようとしてくれればいいな。

今騒いでいるサキュバス達はおまけだ。


「さて、しばらくはゆっくりできそうだな。先ずは明日からのクリスマスを楽しまなきゃな! 新堂さん達やドワーフにホビットの会社の社員は午後から帰らせよう。年末年始も20日くらい休ませてあげるかな」


俺は日本で一番のホワイト企業と呼ばれるように、社員の福利厚生を分厚くしようと思うのだった。


会社は儲かってるんだからいいよね。





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