第27話 宝物庫





「あ、主様! こっちも魔道具でいっぱいです! 蘭は鑑定魔法を覚えられなかったのが初めて悔しいと感じています」


「ふふふ……そんな蘭にはこれだ! なんとこの如何にもジョークグッズに見えるこの眼鏡は、掛けるだけで中級程度の鑑定ができるその名も『鑑定のちょび髭付きぐるぐる眼鏡』なのだ!」


「ええ!? 本当ですか主様! 夏に最新のセクシー水着だと言って蘭に着せて、実は水に溶ける水着だった時のように蘭を騙してませんか?」


「そ、そんな事もあったな……これは本当だって。騙されたと思って掛けてみなって!」


「うう……この眼鏡は掛けるのに勇気がいります……蘭のセクシーで大人なイメージが一気に失墜しそうです」


「え」


「え?」


「い、いやそうだな。蘭のイメージには合わないよな。その眼鏡は多分きっと恐らく……」


「なんだか主様に誤解されている気がします。でも、本当だったら嬉しいので蘭は騙されてみます」


信用ねえな俺……いや、散々コスプレさせる時にからかったから身に覚えはあるんだけどさ。


今、俺達はリッチエンペラーを倒して宝物庫を物色中だ。正確には研究室兼倉庫と言う感じのもの凄く広い部屋なのだが、この際宝物庫って事でいいだろう。それにしても流石錬金術師の宝物庫。出るわ出るわ宝の山! 魔鉄に黒鉄、レア素材に古代ダンジョンにあるような魔道具まで。なんでこんなにあるのか不思議な位お宝がたくさんあった。しかしよく見ると王宮に置いてあるような絵画や彫像に王冠まであり、恐らく奈落に呑まれた国の王宮から持って来たんだろうと予想が付いた。あのリッチエンペラーは宮廷魔術師か何かだったのか? 滅びてからもずっと奈落の底で王城を守っていた? いや、何千年もはおかしいな。出れなかったのかもな。ダンジョンが出来て何らかの影響があって出て来れたって方がしっくりくるな。


そうして物色していると蘭が山ほど魔道具を抱えて持って来て鑑定をせがむんだけど、流石に数が数なので鑑定をするのが面倒に感じた時にこのちょび髭付きぐるぐる眼鏡を見付けた。鑑定してみたら、俺には付与できなかった鑑定の魔法が付与されてたって訳だ。そして今蘭がその眼鏡を掛けて……ぷっ……笑える。


「鑑定……あっ! 本当に見えます! 蘭にも鑑定が使えます! 主様! ありが……なんで笑ってるんですか!」


「ぷっ……くくく……いや、似合ってるよ。可愛い可愛い」


「絶対嘘です! いいです! 蘭は見た目より実を取ります! これで魔道具を鑑定しまくります!」


「悪かったよ。俺はあのデカイ本棚を見て来るから面白そうな魔道具があったら教えてくれ」


「はい! 空飛ぶブーツを見付けたら主様を呼びます!」


俺は楽しそうに魔道具を鑑定している蘭を置いて本棚の方へ向かい、そこに並んでいる本を見てみた。

いやぁ見事に古代語だわ、サッパリわからん。取り敢えず全部回収して家に帰ってシルフィに解読頼むか。

そう思い端から順に本をアイテムボックスに入れて行くと、表紙に見覚えのある錬金と薬草のマークがある分厚い本を見付けた。俺は期待を込めてその本を手に取った。


「金……大全? 調……大全。おお! 当たりだ! この絵や読めそうな文字から言ってこれは古代錬金術書と調合書だ! これを解読すれば失われた技法やレシピが分かるかもしれない! やっぱ来て良かったこのダンジョン!」


本を手に取って中を見て見ると技術書とレシピ書ぽかった。これが解読できれば失われた魔力回復薬のレシピも分かるかもしれない。状態異常を即回復させる薬も作れるかもしれないし、本当にあったらしい痩せ薬や胸を大きくする薬に惚れ薬も作れるかもしれない。これは夢が広がるな。

俺はウキウキしながらその他の本もアイテムボックスにしまっていった。そして本棚の隣の椅子に無造作に積み上げられていた本を手に取ったところで、その本に魔力があるのを感じた。手に取る前には魔力を感じ無かったのに、手に取ったら魔力を感じる。間違い無い、これは魔法書だ。

俺は無造作に積まれていた3冊の古代魔法書を手に取った。


「一つは錬金のマークがあるから錬金の魔法書なのは分かるが……あ、これはリッチエンペラーを鑑定した時にあった文字だったな。重圧……あれか! あの押し潰す魔法か! と言うか初級とか中級とか無くて魔法一つに一冊って感じなのか。体感だけどあの重圧の魔法は上級クラスだったな。それにしても、このやたら豪華な製本がされている錬金の魔法書は何が分かるんだろ? あともう一つの魔法書が分からん!全く読めないな。これは後だな」


取り敢えず俺はこの宝物庫にある物を片っ端からアイテムボックスに入れていき、武器と魔道具とポーション類だけ鑑定する事にした。


「主様!ありました! 飛翔のブーツではなくてネックレスでしたが3つもありました!」


「え? 本当にそんなの存在してたの? 凄いな……蘭と凛と夏海で使うといいよ。最初は浮遊のネックレスを付けながらやるんだぞ? 魔法制御失敗して落ちたら大変だからな」


「はい! 蘭は凛ちゃんと空飛ぶ魔女になります! なっちゃんは天空の騎士です!」


「あ〜うん、そうだね。ほどほどにね……」


空飛ぶ厄災としか思えないんだよな。あれ? 俺はまた与えてはいけない人に、与えてはいけない物を渡しちゃった? いや、でも蘭が我慢できるはずないし抵抗するだけ無駄だな。日本を追い出された時の準備もしておこうかな。


その後も俺と蘭は手分けして鑑定をしていったが、凛と夏海が心配して待っているだろうと宝探しをそこそに切り上げ宝物庫を空にして出た。

そのままコアルームに行き次元斬でコアを根元から切り離し、このダンジョンを潰した。コアに繋がっていた赤いコード類も回収し、リッチエンペラーのいた所まで戻り蘭の希望でオートマタを全部回収した。

ちなみにリッチエンペラーはコアとコードで繋がっていたからか分からないが、SSランク魔石だった。うん、ここは超ボーナスダンジョンだった。ありがとうリッチエンペラー!




「ダーリンお帰り! え? なにこのカッコイイ鎧」


「おっとと……外で待っててくれたのか。遅くなって悪かったな。ああ、これは勇者の鎧なんだ。そう言えば凛達の前では初めて身に付けるな。未知の敵だったから装備していったけど、必要ないくらいの相手だったな


俺と蘭が79階層に戻ると、凛と夏海と以蔵夫婦に紫音と桜がテントの前で待っていた。そして凛は俺を見つけるなり恒例のお帰りハグをしてきた。俺はそれにただいま尻揉みで応えた。


「お屋形様お帰りをお待ちしておりました。よもやこれ程早くお戻りになるとは思っておりませんでした」


「お屋形様お帰りなさいませ。これ程早くにガーディアンを倒して戻られるとは……そしてその凛々しいお姿。正に勇者様そのものです」


「……勇者様お帰りなさい」


「勇者様! 私達をあんな姿にしたリッチを倒して頂きありがとうございます」


「あんっ! ダーリンもっとゆっくり……勇者の鎧なのね。流石にいつものジャケットに革ズボンで未知の敵を倒しに行かないか。改めてダーリンは勇者だったんだなって思ったわ」


「光希お疲れ様でした。その鎧姿とても素敵です。蘭ちゃんも無事で良かったわ」


「凛ちゃんとなっちゃんただいま戻りました。お土産いっぱいありますよ!」


「夏海も以蔵達もただいま。リッチエンペラーはサクッと倒してきたんだけど、宝物庫が素材や魔道具で溢れていてね。鑑定に時間が掛かったんだ」


「蘭ちゃんもおかえり! 魔道具があったのね。でも鑑定に時間が掛かるほどそんなに?」


「まあ、その辺はテントの中で話すよ。とにかく今日は色々と疲れたから早く風呂に入りたいよ」


「あ、気が利かなくてごめんね。じゃあテントに入ろ! (今日はお風呂でもベッドでもたっぷりサービスしてあげるわ)ボソッ」


「今日の光希は勇者様してましたからね。お疲れ様でした。私も今日はたくさんその……御奉仕します」


「おお! それは楽しみだ。早く入ろう入ろう!以蔵達も今日は疲れただろう、早く休め」


「はっ! お気遣いありがとうございます。今回の大恩は我等暗黒の森のダークエルフ一同、生涯忘れませぬ」


「お屋形様。娘と里の者達とまた会えた上に、元の姿に戻して頂いた大恩を決して忘れは致しません。これ程最高の結末を迎えれる事など想像もしておりませんでした。今日よりこの命を懸けてご恩をお返し致します」


「……勇者様。このご恩はこの身をかけて返す」


「勇者様に私のこの身を生涯捧げ、お守りする事を誓います」


「相変わらず堅っ苦しい種族だな。過去にダークエルフを救った勇者と同じだ。助けられそうだと思ったから助けた。俺にはそれが可能な力がたまたまあった。お前達は運が良かった。それだけだ。早く休め」


俺は凛と夏海のサービス御奉仕発言に興奮し、ウキウキ気分でテントに入ろうとしていた所にダークエルフ達の相変わらずの発言にウンザリ気味に答え、とっととテントへと入った。

以蔵達は拍子抜けした顔で俺達を見送っていた。恩を感じるなら勝手に感じてればいい、返したければ勝手に返せばいい。そんな事より俺は恋人達とのいちゃいちゃが大事なんだ。


そしてテントに入るなり装備を外し風呂へ行き、凛と夏海がとても積極的に俺の身体を洗ってくれて更に踊るようなマッサージをしてくれ、疲れが一気に取れた。その間蘭は自らの口で、ずっと俺の口の中を洗ってくれていた。天国風呂だったよ。


そして遅い夕食を食べてリビングで少し皆と話をした。その際に蘭が飛翔のネックレスを見せて、疑う凛にちょび髭付きぐるぐる眼鏡を蘭が無理矢理掛けさせ確認させた。凛は鑑定の結果に大喜びをして、そのジョークグッズのような眼鏡を掛けている事を忘れ蘭と喜びのダンスを踊っていた。俺と夏海はその姿を見て大笑いしていた。



「もうっ!いつまで笑ってるのよダーリンにお姉ちゃん! 」


「くくく……いや、あまりにも可愛かったからついね。悪かったよ」


「凛ちゃんごめんね。可愛かったわよ……ふふふ」


「もうっ!なんで作った人はこんなデザインにしたのよ。センス無さ過ぎよ!」


「古代文明はアトラン大陸で繁栄し、魔道具で溢れていたと言われてる。平和な時代に作る物はこの世界と同じなんだろう。戦争で全てを失ったようだけどね」


「そこはどの世界の人間も同じなのね。私達の世界もダンジョンが現れる前は、核戦争が起こる寸前だったらしいわ。皮肉にもダンジョンのお陰で人類が滅ばなくて済んだと言われてるもの」


「そうね、お祖父様が言っていたわ。世界が放射能で汚染されるよりは今の方がマシだって。あれ程大氾濫で多くの国が滅び、多くの人が亡くなったのにね」


「そう聞くと破壊神がダンジョンを転移させたのでは無く、この世界の神がダンジョンを転移させてきたようにも思えるから不思議だな。俺の生まれた世界はそこまで末期的な状態じゃなかったから、ダンジョンが無かったのかと思えてしまうよ」


「それこそ神のみぞ知るよね。女神は本当はダーリンを助けようとしていたのかもしれないしね」


「どうだかな。アトランでの放置振りを見てるとそうは思えないけどな。まあ、いいとこ助けたいけど対応が15年遅くなったってところだろう。やっぱり駄女神だな……」


破壊神が勇者の出身世界を壊そうとしているなら、この世界だけにダンジョンを送るのはおかしい。きっと俺の元いた世界も遅かれ早かれダンジョンが現れるんだろう。そうでなかったら、ダンジョンは神が愚かな人間に下した罰のようになってしまう。まるでゲームみたいだな。

世界創造という名の一つのゲームを大勢でやり、それぞれが分岐で違う選択をして違うシナリオに進んで、それが並行世界になっているみたいだ。そうなると俺はプレイヤーの神に作られたキャラクターか。

どうせ作るならキャラメイク適当にすんなよな。


「確かに魔王を倒した後に能力アップさせられてもね〜。ねえねえ、他には? どな魔道具があったの?」


「ああそうだった。凛にお土産があるんだ。はい、リッチエンペラーが使っていた杖」


「うわぁ何の木かしらこれ? この先端に付いてる大きな赤い宝石は魔結晶よね? 何か魔法が付与されてるのかしら?」


「それは『破滅の杖』と言う名で、魔法攻撃力を増幅する杖みたいだ。俺の聖剣の増幅ほどじゃないけど、1ランク上の攻撃力にはなるよ」


「ええ!? Sランクの魔法攻撃力になるの!? 凄いじゃない! これを使ったらますます私の名が世界に轟くわ! ダーリンありがとう!」


「ほどほどにな? 後はこの吸収の魔剣の短剣版が5本もあったんだ。これは皆に渡すよ。俺の持っている物と吸収力が変わらないし、こっちの方が使いやすいしね」


「吸収の魔剣まであったの!? 私専用の吸収の短剣なんて凄いわ」


「光希ありがとうございます。短剣ならば使いやすいです。これで雷鳥を気兼ねなく撃てます」


「まだまだあるぞ〜」


俺は今日の戦利品で目玉になる物を次々と出して凛達にお披露目した。

上級聖魔法書1冊に中級聖魔法書3冊。最上級ポーション2本に上級ポーション35本、そして魔力回復ポーションの小から大まで取り出した。実は隷属の首輪も複数あったのだが、これは賛否両論ありそうなので皆には黙って置くことにした。紫音達が掛けられていた魔法と同じ物だしね。これは俺が責任を持って管理して、尋問用に使うつもりだ。装着させた者なら簡単に取り外せるしね。今後このアイテムは重宝するだろう。またサキュバス達に魔王とか言われそうだけどな。



「エリクサーまであったの!? 上級ダンジョンに!? それに魔力回復ポーション?」


「上級聖魔法書にエリクサーはとんでもない戦果ですね……」


「魔力回復ポーションは失われたレシピで作られた物なんだ。古代人が作った物だからダンジョンではドロップしないんだ。これは連続使用には制限があるけど、魔力が即回復するらしいんだよね」


「持続的に回復じゃなくて即回復するの!? こんな物が世に出回ったら冒険者達が狂喜乱舞するわよ」


「私達は結界と吸収の魔剣があるから魔力回復はすぐ出来ますが、普通の冒険者は中級魔力回復促進剤で時間を掛けて回復するしか手が無かったですからね。これが出回れば大変な事になりますね」


「そのレシピが恐らく書かれているであろう書物も手に入れた。後は古代文字を解読してみるよ。それよりもあのリッチエンペラーは王宮勤めだったっぽいんだよね。王宮の宝物庫にあるような物ばかりあったし、今回の戦利品の最大の目玉はコレだよ! 『魔導テント王族用』 この他にもいくつも魔導テントがあったんだ」


俺は鑑定した時に狂喜乱舞した魔導テントを取り出した。


「魔導テントってこのテントみたいなやつの王族用? ど、どれだけ凄いんだろ……」


「王族用……なんだか凄そうですね」


「蘭もわくわくしてます。キッチンはどれだけ凄いのでしょう」


「流石に魔導テントの中で魔導テントに入ると何が起こるか分からないから今は確認しないよ。もう寝たいしね」


「そうね、気になるけど明日帰ってからシルフィも一緒に、ゆっくりみんなで見た方が楽しそうよね」


「明日の楽しみができましたね」


「蘭もシル姉さんと見て回りたいです」


「そうそう、明日ダークエルフ達は取り敢えず女神の島の砦に住んでもらうようにして、家に帰ってからだな」


「そうね、人数が人数だものね。当分砦に住んで貰うわ。ついでにリアラの塔を攻略させればいいと思うし」


「確かに100人以上いますからね。塔の周りの土地と森の管理をさせた方が、きっと彼等も喜ぶと思います」


「そうだな、凛と夏海の言う通り、リアラの塔を攻略させつつ砦の管理と周辺の森の管理をさせよう」


まずは言葉とこの世界の人間に慣れてもらわないとな。それには女神の島が一番良いだろう。言語の先生にはリム達を抜擢しよう。最初は驚くかもしれないがまあ大丈夫だろう。


俺は死んだと思っていたダークエルフを大量に救う事ができ、この世界にエルフ種が増えた事がとても嬉しかった。エルフよりは寿命が少し短い分、子が出来やすいらしいからどんどん増やして貰わないとな。

そして俺はダークエルフ達にモテモテに……今度はお殿様ポジションで確定されないよう、もう少し近い存在だと今の内から思わせなければ……恐れ多いとか言われて距離を置かれたらダメだ。そして毎年夏にはダークエルフの美女達の水着姿に囲まれたい。青い海、白い砂浜、褐色の巨乳美女達。イケる! 俺はエルフから見たらイケメンだ。イケるぞ!


そんな俺の思考をまたもや読んだのか、恋人達は全員褐色のダークエルフ風に幻術を掛けてとてもエッチな下着姿で寝所に現れたのだった。俺は時戻しを行なってからモヤモヤしていた物を一気に吐き出した。



こうして中華広東共和国他周辺国を襲った上海ダンジョンは俺達により攻略された。


俺はダークエルフ118人と大量の魔鉄、古代魔道具や古代魔法書に各種素材など、過去最高の報酬を手に入れる事ができたのだった。





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