第51話 米欧英会議








ーー 方舟特別エリア 米欧英連合会議場 合衆国大統領 ヒスリー・クリキント ーー








「クリキント大統領。ニホン軍はまたあのグリフォンを操るLight mare軍団と訓練を行っているようだ」


「ええ、ルイ首相。私も聞いています。あれを訓練と呼ぶかどうかは別として、ニホン軍と私たち連合軍はその実力に大きな差をつけられてしまったということは認識してます」


そう、ニホン軍は連合にいた時からは想像もできないほどの実力を身につけていた。

連合にいた時は私たち合衆国と欧州連盟の軍が前衛となり、ニホンとイギリスは後方から魔法を放つのが役割だった。それが今では強力な前衛部隊を持ち、その動きから恐らくほとんどの兵士がBランクなのではないかと分析されている。合衆国でさえ500人ほどしかいないBランクが3000人もいるなんてとてもじゃないけど信じられない。

全てはニホンの神の使いと称するLight mareという軍団が現れてから変わった。


「近付いた者は撃退されてしまうので安全地帯に塔を建て、遠距離より訓練内容を確認したがあれは異常だ。グリフォンで誘導された魔物の群れと絶え間なく戦い、四肢を失おうが倒れようが後方にいるダークエルフや角の生えた天使のような者たちが即座に回収し、数分後には五体満足の状態で戦線復帰していた」


「ニホンのポーション技術がそこまで発展したという情報は我々の諜報機関からもありません。恐らくLight mare軍団によるものでしょう。失った腕や足を元に戻せるとは魔法なのかLight mareのみが持つポーションなのか……ポーションであるならば私たち欧州連盟にも是非欲しいものです」


「それは私たち合衆国も同じです。ですがもう二度とあのLight mare軍団と敵対できません。そして長きに渡るニホンへの制裁と、ローランド前大統領が行った愚行によりニホン政府首脳との対話も交渉も難しい状態です」


ローランドは本当にロクなことをしなかったわね。ニホンへの正義なき制裁に反対した私のことを遠ざけ、党に相談もなしに好き放題やってくれた結果がニホンの連合離脱にグアム基地の消失。そして貴重な原子力潜水艦を失い、首都を守る戦車部隊を壊滅させた。党内で絶対に敵に回すことはせず取り込む方針でいたドラゴンを操る集団を怒らせて……


国民の私たち自由民衆党に対しての支持率も激減した。私はローランドの残り三ヶ月の任期の間だけの臨時大統領だけど、ここでなにかしら成果を上げなければ次の選挙で党も私も負け、最大野党の国民救済党に政権を奪われる。ローランドの死因を考えると私もミスをするわけにはいかない。軍財閥の者たちを怒らせたら私も……


「ドラゴンに乗り米国に乗り込んだLight mareのリーダーを名乗るミスターサトウの映像は見た。我が英国も敵対はしたくないな。なにより奴隷扱いをされていたオーストラリア人を使い、あの中華国を崩壊させた事が恐ろしい…… 」


「私もあの映像は確認しました。アメリカを愛してるとTシャツにプリントしながら、米軍に対し虐殺の限りを尽くしたあのサイコパスのような男は決して敵にしてはならないと連盟内でも話題になっています」


「そうですね。現代兵器によるあらゆる攻撃が通用しなかったのです。合衆国の上空で核をという意見もありましたが恐らく通用しないだろうという事と、第三次大戦で核を使用したことによって神の怒りを買ったことから、使用した際に次になにが起こるか予想ができなかったからです」


ローランドは錯乱して核をドラゴンに撃つように言っていたようだけど、周りが必死に止めたことでそれは実行されなかった。もし核でさえ仕留められなかった場合、その報復は想像を絶したものだったかもしれない。私もここにはいられなかったでしょう。

与党も野党もプライドを捨て全会一致でLight mareの要求を全て呑むことを決めたのは、決して弱腰な対応ではないと思う。それほどあのドラゴンとミスターサトウの実力は圧倒的だった。

二度と彼らと敵対してはいけない。私たちの謝罪は受け入れらたけど、ミスターサトウは私たちに会うことを拒絶した。つまり許されてはいないということ。


「神の怒りもそうだが、核を使っても倒せなかった時の国民に与える影響を考えると使わなかったのは正解だった。それにしてもミスターサトウの力は強大過ぎる。その彼の協力を得ることに成功したニホンを脱退させてしまったことは連合最大の失敗だったな」


「まさかニホンのポリスを2000人も虐殺した相手と手を組むとは思いませんでした。しかしローランド大統領だけを悪くは言えません。私たち欧州連盟もニホンへの制裁に賛成したのですから。今思えば愚かなことをしたと後悔しかありませんけど……」


「私たち合衆国が主導でニホンの技術を得るためにしたことです。お互い済んだことを後悔しても前に進めません。今はわずか10日で10個ものフィールドを攻略したニホンに対しての対応を考えましょう」


通常一つのフィールドを攻略するのに年単位で掛かるところを、ニホン軍はたった10日で10フィールドも攻略してしまった。これはいくらなんでも早すぎる。危機感を持っているのは他国も同じのはず。


「そうだな。このままでは我々の実力で唯一攻略が可能なスモールワールドのフィールドが、全てニホンに取られてしまう。そうなればミドルワールドしかなくなる。我々の戦力では到底攻略などできなくなるだろう」


「一方でニホンは今現在もミドルワールドで訓練をしています。それどころか既に草原を二つ攻略済みと聞きました。ミドルワールドもニホンに全て奪われるのも時間の問題です」


「各国にニホンの危険性を訴え十分に根回しをした後に国際会議を臨時開催しましょう。ロシアは連合を組んでいた中華国が崩壊して相当焦っているはずです。私たちの提案に飛びつくでしょう。そしてなんとか攻略を停止させなければなりません」


「あの国と手を組むのは業腹だが今はそうも言ってられないな。数日前から何やら慌ただしくしているが、いったいあの国で何があったというのか……」


「ロシアがですか? 恐らく中華国が奴隷扱いしていた者たちの反乱により崩壊したので、その対策を行っているのではないですか? 」


「その件はニホンの外務省官僚から聞き出した情報ですが、ミスターサトウがロシアに東南アジアの人々を解放しなければ中華国と同じ道を辿ることになると脅したそうです。そのうえ定期的にドラゴンで首都に遊びに行くとも言ったようです。オーストラリア人を救い東南アジアの人々も救うつもりのようですね」


「ミスターサトウが? ではオーストラリア人を助けたのは中華への報復のためではなく、義侠心からだったということか……」


「ドラゴンでアメリカに乗り込み虐殺した彼がニホン人以外を助けようと? 」


「合衆国ではミスターサトウが名乗るLight mareという軍団名から、彼を光の悪魔と呼んでいます。ローランドは悪魔の周囲にいる者に手を出しました。その結果、もう少しで合衆国を滅ぼされるところでした。悪魔に関わってはいけません。そして彼を味方につけたニホンを露骨に追い込んでもいけません。あくまでも国際社会のルールで追い詰める必要があります」


恐らくミスターサトウは自分の周囲にいる者に危害が加えられると強烈な報復を行うタイプだ。それは当然のことだけど、強大な力を持つ彼がそれを実行するとトンでもない規模の報復となる。前回のような食糧を人質に取った露骨な制裁はもうできない。各国を味方につけ、ニホン政府に圧力を掛ける形でなければミスターサトウが出てくる可能性がある。ニホンにミスターサトウというジョーカーを切らせないよう上手く追い詰めていかなければならない。


「……肝に銘じよう。各国の説得と根回しは念入りに行うことにする」


「わ、私も慎重に行います。ニホンにこれ以上の攻略をやめさせるか、国際貢献をさせる方向で進めます。情報部にはミスターサトウ周辺の人間には一切手を出さないよう厳命しておきます」


「それが賢明ね。次は見せしめとして民間人がいようと構わず一国を滅ぼしに来る可能性もあります。くれぐれも諜報機関に勝手な行動を取らせないようお願いします」


私はそう言って英国と欧州連盟と今後の細かい打ち合わせを行った後に連合首脳会議を終了した。


ミスターサトウの琴線に触れないようニホンに攻略を控えさせる。

難易度が高いけど、なんとかニホンの攻略を止めて時間を稼がなければならない理由が連合にはあるのよ。



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