第3話 願い
《 ダーリン? 今大丈夫? 》
《 ん? この声は凛か。どうかしたのか? 》
《 ヤンさんから連絡あって、試験通過した面会希望者がいるから会って欲しいんだって。オーストラリアのパース市から来た市長の娘さんみたいよ? 》
《 へえ……あの試験を通過したのか。パース市長の娘ね、わかった。一階のラウンジに通しておいてくれ 》
俺が5階のリビングで方舟世界で撮り溜めした動画を編集していると、凛から心話が届いた。
まだ凛は心話に慣れてないからか、楽しそうな気持ちも一緒に伝わってきている。
パース市は確か魔誘香を悪用した奴らを監禁している街だったな。そこの市長の娘があの試験を通るような強い意志を持って俺のところに来たんだ。また面白いことが起こりそうだと期待しているのかもな。
俺は20人は乗れる大きなエレベーターに乗り込みながら、市長の娘が俺にどんな頼みがあるのかなと考えていた。そしてエレベーターが動き出し下へ降りていくと途中で止まった。
チンッ
ん? 4階から誰か乗るみたいだな。大浴場の清掃をしているベリーたちかな?
「お? 紫音か」
「……あ……光希様……らっきー」
「清掃か? さっそく頑張っているようだな。メイド服姿も可愛いぞ」
「……嬉しい……光希様の近くにいれるのでがんばる……」
「ははは、紫音こそ嬉しいことを言ってくれるな。それよりエレベーターに乗らないのか? 」
「……乗る ……光希様と密室で二人きり……すーぱーらっきー」
聞こえてるぞ。
紫音は無表情ながらも少し頬を緩ませてエレベーターに乗り込み、入口すぐ横で俺に背を向けエレベーターのコントロールパネルをいじっていた。
あれは……下に降りる速度を変えてるのか?
しかしマリーたちと同じ、黒に白いフリルの付いたオーソドックスなメイド服のスカートを短くした衣装なんだが、紫音のお尻はボリュームがあるから少し屈んだだけでパンツが見えそうだ。
おっと、紫音がこっちを振り向いてしまった。残念、もう少し見えそうで見えない感覚を堪能したかった。
「……これでよし……光希様。新しい忍法考えた……見て……」
「ここでか? まあいいけどエレベーター壊すなよ? 」
「……大丈夫」
紫音はそう言ってまた俺に背を向け、そして精霊に魔力を渡しながら何かを指示しているようだった。
「……ネル、お願い……忍法『百影手』 」
「なっ!? こ、これは……」
紫音が精霊魔法を発動すると紫音の足元からロープ状の黒い影が百本ほど現れ、紫音の太ももやメイド服にまとわりついた。
その影のロープは立っている紫音の両腕と両足を大の字になるように拘束し、スカートやブラウスの上からお尻と胸の部分が強調されるように縛り上げた。
セ、セルフ拘束プレイ!?
「……んんっ……」
「し、紫音……これは……とても素晴らしい忍法だな」
「……ん……まだ……これから……」
俺が紫音の精霊魔法に感動をしていると、彼女はまだまだこれからと言わんばかりに影のロープを操りスカートを捲り上げ、俺に少し食い込んだ白いショーツを見せてくれた。
そして影のロープはそのショーツの中に……
「うおっ! ここで触手か! 凄い発想力だ……」
一人触手プレイだと? 紫音は天才なんじゃないか?
「……んふっ……こ、光希様……も……エレベーター……速度落とし……てある」
「紫音! お前は最高だ! 」
紫音は自身の精霊魔法に拘束されながら頭だけ後ろに向け、目を潤ませ額に汗を浮かべながら俺を誘ってきた。
俺は紫音を褒め称えてから一気に距離を詰め、紫音を後ろから抱きしめて触手により強調された胸と突き出されたお尻を揉みしだいた。
既にショーツはびっしょりだったよ。
そんなエレベーターという密室でいつドアが開くかわからないというシチュエーションに燃えた俺は、触るだけだというのにとても興奮したのだった。
3分くらいの短い時間だったけど、なかなか濃い3分間だった。
これはいい……深夜に夏海とやってみるかな。
そして一階に着き、紫音は精霊魔法を解除して俺によって外に出された胸をしまい、ズラされたブラを元に戻してブラウスのボタンを締め直し、太ももまでズリ下げられたショーツを履き直していた。
俺はその姿を見てさらに悶々としながらも紫音から離れた。
「……辛そう……口……する? 」
「いや、人を待たせてるからまたな」
「……そう……大成功だった」
「いやははは、凄く色っぽかったよ。これはまたお願いするかもしれないな」
「……もっと練習しておく……光希様……ご褒美……んっ……」
俺は目を瞑って唇を突き出す紫音にキスをして、エレベーターから出たのだった。
これは紫音と桜を家に住まわせて正解だったな。また新しい楽しみができた。
しかし紫音もAランクになり、もうすぐ契約精霊が上位になるとか言っていただけあるな。あれだけの数の触手を操るとは、かなり精霊魔法の操作が上手くなった。
心話も仲間内で練習しているようで、短い会話ならもう使えるようになったと以蔵が言っていた。
まだたまに夜に無意識に俺を想ったのか、色んな子からの心話が聞こえてくるけどね。そこは聞かなかったことにしてスルーしている。妙に色っぽくて、くぐもった声とかはスルーしきれない時もあるけど。
俺が夜のオカズとか男冥利に尽きるよな。誰の声か判別が難しいのが残念だよ。
そんなことを考えながら、俺は紫音と別れてラウンジへと向かっていったのだった。
「ん? もう来てたのか? 」
「ハッ! 光魔王様お忙しいとそろ申し訳ありません」
「光魔王様? 」
俺がラウンジに入ると一番手前の椅子に金髪ショートヘアの女性が座っており、その横にヤンが立っていた。
俺を確認して慌てて立ち上がったその女性は、俺のことをヤンが光魔王と呼ぶことに首を傾げていた。
普段はリーダーと呼べと言ってあるんだけどな。俺の前だとすぐこれだよ。
俺はそんなヤンに肩をすくめ、この俺より少し低いくらいの背の細身の女性に挨拶をした。
「初めまして。俺がLight mareリーダーの佐藤 光希です。遠い所何度も足を運んでくれたようで申し訳ない」
「あっ、貴方があの!? は、初めまして! オーストラリア大陸西部にあるパース市より参りました、キャロル・テイラー と申します。市では対外交渉を担当しております。ほ、本日はお会いできて光栄ですミスターサトウ」
なかなか活発そうな子だな。とても愛嬌のある顔立ちで普通に可愛いな。
ポニーテールなんて久々に見た。剣士のDランクか……そこそこ鍛えてるみたいだな。
俺は緊張しつつも元気に挨拶するキャロルを見ながら鑑定をし、彼女の能力を確認していた。
「キャロルさんと呼んでも? 」
「は、はい! よ、呼び捨てにしていただいて結構です! 」
「ははは、ではキャロルさんと呼ばせてもらうよ。まずは、ここにくる前に試すようなことをして申し訳なかった。毎日多くの人がやってきていてね。ああいう方法でしか本当に困っている人を選別することができなかったんだ。気を悪くしないでくれ」
本当なら問答無用で全員追い返してもいいんだけどね。
中には本当に困っている人もいるかもしれないから、子供以外にはその本気度を試させてもらっている。
魅了は掛かってもすぐ解くことができるし、後遺症がないから丁度いい魔法なんだよね。
「い、いえ! ヤンさんから事情はお伺いしておりますので。強い力を持った方には色々な人間が近づいてくるものですし……私もその一人ですし、ミスターサトウは普通であればお会いできない存在ですので納得しています。ですから気になさらないでください」
「ありがとう。ただ、話は聞くけど力になれるかどうかはわからない。俺にもやらなきゃならないことがあるんでね」
自衛隊からのスクロール注文がとてつもない数になってるんだよ……
「それは承知しております。私は押しかけた身分ですので、お話を聞いて頂けるだけでも感謝いたします」
「そうか、まあ座ってよ。ヤンはアトラクションはいいのか? 」
「ハッ! 代わりの者に行かせましたので問題ありません」
んん? この真面目で責任感が強いヤンがアトラクションを代わりのやつに任せる? んん?
まあいっか。
俺はてっきりすぐに仕事に戻ると思っていたヤンが残ることに首を傾げながら、キャロルの対面に座った。
ヤンはキャロルの後ろに立っている。
それからすぐにピーチがアイスコーヒーを持ってきてくれた。
「だいぶ暑くなってきたな。この時期はオーストラリアは冬かな? 」
「は、はい。鉱山での作業がしやすい時期ですので、市民たちは皆忙しくしています」
「そうか、確か動ける男は鉱夫か港での荷役か、それと防衛隊に入るかの仕事しか無いんだったな」
「はい。飲食店などは年老いた者と若い女性の仕事ですので……」
確か正統オーストラリアとクイーンズランド都市連合に搾取されてるんだったな。
人口差が10倍な上に軍備の差もあるから仕方ないよな。
まあそれでも生活できてるんだからアフリカなんかよりはマシだろう。あそこは無法地帯で、大陸中に魔物がいるってのに常に民族間で戦争してるからな。ダンジョンが少ない大陸とはいえよくも今まで滅ばなかったと感心するよ。
冒険者連合も人間が減るのを待ってから攻略する土地として位置づけてるくらいだしな。
「それで俺にどんな要件でここへ? 」
「はい。実はパース市は独立を考えてまして、冒険者連合の支店を是非パース市に設置していただきたいのです。私たちは中級ダンジョン攻略の実績があります。独立しオーストラリア大陸を魔物から取り戻したいのです」
「なるほど……冒険者連合に断られたから俺に口添えをということか」
「はい。独立国家でないただの地方都市では難しいと……冒険者連合はミスターサトウの頼みは断れないと聞きました。是非ミスターサトウから口添えをお願いできないでしょうか?」
う〜ん……オーストラリア大陸を取り戻す云々は嘘というかできたらって感じだろうな。
恐らく正統オーストラリアやクイーンズランド都市連合から搾取されたくないだけだろ。
独立してもこの二勢力とは揉めるしあっという間に占領される。だが冒険者連合支店があれば攻められないってとこだろうな。
しかしなんでヤンがこの子を心配そうに見てるんだ?
試験の時になにかあったのかね?
まあそれでも……
「無理だな」
「あ……」
「たとえ氾濫時に防衛義務のない準加盟国という身分で加盟したとしても、冒険者連合の職員をこちらから送らないといけない。オーストラリア大陸は危険すぎるんだよ。魔物は氾濫し放題で街を壁で囲わないと生活できないような土地だ。その壁だってゴーレムに何度か壊され、飛竜によって街を何度も襲われていると聞いている。そんな所に職員や貴重な冒険者を派遣はできない。せめて正統オーストラリア程度の人口と軍備があればいいが、その10分の1な上に戦闘経験がある者が少ないパースには無理だ」
ダンジョンが少なく、そのダンジョンを壁で囲っているならまだ望みはあるがその逆じゃどうしようもない。俺が正統オーストラリア共和国にお仕置きをしに行ってくるから、その隙に上手くやってくれとしか言えないな。
「そう……ですか……確かにおっしゃる通り防衛隊は千人ほどしかおりませんし、市民も毎年多くの者が犠牲になっています。魔物だけではなく、正統オーストラリアとクイーンズランド都市連合との小競り合いに巻き込まれることもあります。そしてそのどちらかの勢力に定期的に占領されるような力のない私たちです。でも! なんとか街を救いたいんです! どうかお力をお貸しいただけませんでしょうか! 」
「そうは言っても冒険者連合にメリットが無い。それに冒険者連合に支店を置いて欲しいと願う国は多い。それらの国を説得するほどの材料もないのに、ここでパース市に支店を置けば他の国が黙っていないだろう。それではせっかく独立を果たしても、どの国も貿易をしてくれないかもしれないぞ? 冒険者連合は国同士の貿易には関与しないしな。そうなったら結局正統オーストラリアかクイーンズランド都市連合の属国だ」
「うっ……私たちには何も差し出せるものはありません……唯一市が所有していたパース市の沖合にあるロットネスト島も、正統オーストラリア軍に奪われてしまいました……もう何も……」
ロットネスト島? 俺は聞いたことの無い島の名前が出てきたので、気になってタブレットで地図を呼び出し調べてみた。
ああ、パース市から川を下って海に出てすぐのところにあるこの島か……船で20分くらいの距離かな。広さは大島くらいの広さかね? 20年前に旧大オーストラリア国から、クイーンズランド都市連合が独立した時にパース市に編入されたのか。
それと、昔は60ヶ所以上あるビーチに観光に来る人で賑わってたのか。港もあるし、近くにたくさんのクジラが回遊していると。
方舟の大世界海フィールドを攻略した後は、クジラがいて蘭が大興奮だったな。
飼いたいと言い出した時は困ったけどな。
この島いいいな……冒険者連合に言って使わせてもらえれば蘭も喜ぶだろうな。
でもなあ〜さすがに冒険者連合支店は置けないだろここ。
よしんば設置したとしても、正統オーストラリアには手を出すなとは言えるけど、クイーンズランド都市連合は反発するだろうな。
クイーンズランド都市連合にはなんの恨みもないし力ずくってのもな。
かといってLight mareが後ろ盾になってパース市を独立させるのもな。
できるけどクイーンズランド都市連合の反発は凄そうだし、他国からも余計な警戒をされるだろう。方舟と違ってこの世界は定住する世界だから無茶はできないしな。
よほど大義名分がなきゃ無理だな。
「キャロルさん。悪いが力になれそうも無い」
「そう……ですか……うっ……ううっ……す、すみません……無理を言って……お話を聞いて……いただいてありがとう……ございました……」
うわ〜泣かれちゃったよ。そりゃあの試験を耐えられるだけの強い想いがあったんだもんな。
まあこの子も無理を言ってるってのはわかってはいるんだろう。それでも一縷の望みにかけて俺のところに来たんだろうな。
でもこればっかりはな……勝手に動くとシルフィに迷惑掛かるしな。
「光魔王様……あ、あの……」
ん? どうしたんだヤンの奴……俺の決めたことに意見を言おうとするなんて初めてじゃないか?
「どうしたヤン」
「はっ!? い、いえ……なんでもありません。横から失礼致しました」
んんん?
おや? まさか……しかしあのインキュバスがか? マジで? 人族の女は子を産ませる道具程度しか思ってなかったんじゃないのか?
だとしたらこれは面白そうだな……
《 光魔王様、よろしいでしょうか? 》
《 ん? リムか、どうした? 》
俺がヤンを見て驚いていると、リムが心話で話し掛けてきた。
《 オーストラリア大陸のダーリントン鉱床に駐屯しております正統オーストラリア軍と米軍に、先ほど魔物の群れが襲い掛かりました》
《 おいおい……今度は正統オーストラリア軍にかよ 》
2ヶ月前はクイーンズランド都市連合の駐屯地に、魔物の群れが襲い掛かったんだよな。まあ、俺の魔誘香を正統オーストラリアが悪用したんだが。
《 はい。しかも魔誘香が使われた形跡があり、潜入させている者の情報ではクイーンズランド都市連合の犯行で間違いないとのことです。現在は魔誘香を使ったと思われる集団を全員で追跡させております 》
《はあ? クイーンズランド都市連合がなぜ魔誘香を持ってるんだ? 正統オーストラリアが敵国に回すはずもないだろうに……まあいい、追跡して捕らえられるようなら捕らえてくれ。決して無理はするなよ? お前たちの身の安全が第一だ。わかったな? 》
確かサキュバスのインキュバスを4人潜伏させていたな。追跡さえすれば後で捕まえにいけばいい。
深追いして万が一岩竜とエンカウントでもしたら、現地の者たちでは対応できないからな。
《 ハッ! 必ず生きて帰るよう言い聞かせます! 》
《 頼んだぞ 》
俺はそう言って心話を切った。
魔誘香がどこかから横流しされたとしか思えないな。
魔誘香は現在日本の冒険者連合と自衛隊に米軍。そして供給は止めたが正統オーストラリアしか所有していない。自衛隊からの横流しは考え難いし、冒険者連合にしても高ランクの冒険者にそんな馬鹿はいない。可能性としては正統オーストラリアか米軍からだな。
いずれにしてもクイーンズランド都市連合も俺の敵になったということか……
そうか……そうきたか……どいつもこいつも俺のアイテムを都市の防衛やダンジョン攻略ではなく、戦争に使ってくれるとはな。随分と舐めたことしてくれる。
俺はふつふつと湧き上がる怒りを抑え込み、未だに泣いているキャロルに向き直り笑顔で話しかけた。
「キャロルさん。状況が変わったよ」
「……え? 」
「俺たちとオーストラリア大陸を征服する気はないか? 」
「は? 」
「光魔王様!」
俺は口を開けてぽかーんとしているキャロルとは対象的に、目を輝かせて俺を見るヤンにニヤリと笑うのだった。
さて、敵しかいないなら簡単だ。蘭のために鯨が回遊している島を手に入れに行くかな。
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