第9話 Hero of the Dungeonの夏



 ミーンミンミンミン


 ミーンミンミンミン


『Hero of the Dungeonにお越しくださり誠にありがとうございます。現在入場制限を行なっております。場外のモニターにて整理券番号を表示致しますので、屋根と氷柱のある特設休憩所にてお待ち下さい』


『氷結世界』


「よしっ! 天幕を張れ! 」


「「「はっ! 」」」


 俺はHero of the Dungeon前に臨時休憩所用の氷を周囲に張った。そして新人のインキュバスたちに屋根を作るように指示をしてその場を離れた。


 氷を張るだけなら中級魔法の『氷壁』でできるが、広範囲となると厳しい。それに込める魔力量が少ないとすぐに溶けてしまう。


 そういう訳で俺が駆り出されたわけなんだが……


「暑い……紫音、あと何ヶ所だ? 」


 とにかく暑い。まだ12時前だといいのに37度もある。氷魔法と風魔法を付与したジャケットはあるが、この猛暑に羽織る勇気が俺にはない。絶対変な目で見られる。あれはダンジョン以外で着るもんじゃない。


 俺は早く室内に入ってかき氷食べて寝転がりたいので、隣にいる紫音にあとどれくらいで終わるか確認した。



「ん……あと壁内は2ヶ所。外の入場待機場所に5ヶ所」


「そんなにあんのかよ……凛でも呼ぶか。桜、凛はもうグリ子のとこに氷を張るの終わったんじゃないか? 」


「いえ、光希様。凛奥様はメイとグリ子たちに氷を張ったあと、クオンがうるさいのでそちらにも氷を張りに行っていると連絡がありました」


「あ〜、そういえばさっき鳴いてたな。ドーラはスーとエメラを連れて沖のほうに水浴びしに行ってるって聞いたぞ? なんでアイツは行かなかったんだ? 」


「めんどくさいそうです」


「……平常運転だな」


「ええ、いつものことですね」


 俺と桜はお互いに呆れた顔をして肩をすくめた。


 クオンのやつめ……ドーラもクオンには諦めムードだしな。まあドーラもエメラとスーと遊ぶのに忙しいから、クオンなんかかまってる時間が惜しくなったんだろうな。最近はバースにいるガン子ともお茶してるみたいだし。


あのお転婆竜だったドーラが、完全にこの世界の竜たちの姉御になってるよな。まあヴリトラのいる女神の島には近付かないが……


しかし暑い……それに予想していたとはいえとんでもない数の来場者だ。子供も多いし氷作らなきゃな……




 8月に入り学生たちが夏休みを満喫している頃。


 Light mareが運営するHero of the Dungeonでは、新ボスのアップデートを行った。


 去年の夏は初のボス設置ということで鬼王を魔王として配置し、今まで30階層が最下層だったのを40階層まで増やした。そしてさらに弓士の職も追加した。当時の盛り上がりは相当なもので、女神の島の住人たち総出で対応せざるを得なかったくらいだ。


 そして冬前には英作のパーティが鬼王を攻略し、上級ポーションに黒鉄の剣など豪華景品を手に入れていた。それからクリスマス前に魔法職を実装した。これも大反響を呼び、英作のパーティの優子が転職したがったが師匠の凛にあっけなく却下されていた。まあリアルで魔法が使えるやつは、事故を起こさないよう駄目ってことにしてあるからな。


 相変わらず英作たちのパーティはHero of the Dungeonのトップに君臨している。次に大学生パーティで、その次に老人パーティなのは変わらない。老人パーティは一時は低迷したが、2人が魔法職に転向してガチャで中級魔法書を当ててからかなり調子がいいみたいだ。


 ちなみにHero of the Dungeonのシステムを作った、グループ会社のデビルバスター株式会社の業績は絶好調だ。自衛隊どころか米国のほか多くの国の軍にこの訓練システムが採用され、社長の藤井さんは夢が叶ったって号泣してたよ。


 そうそう、米国といえば春にリチャードのパーティ『アヴァロン』が、レイドを組んでとうとう上級ダンジョンを攻略したそうだ。リチャードとブリアンナから俺のおかげだと、俺のやった上級聖魔法のおかげで瀕死の仲間を救えることができたとお礼の電話が来たよ。俺もなんだか嬉しくてお祝いの品を送ってやった。


 攻略したダンジョンは米政府によって管理されるらしいんだけど、米政府から凛を通して藤井さんのとこにHero of the Dungeonを作りたいって話が来てるみたいなんだよね。俺はまた次元斬で床抜きをやってくれって、大金を積まれた凛に言われないか戦々恐々としてるよ。アレはキツいからもうやりたくないんだよな……


 まあ色々あったけど、今回の上級ダンジョン攻略でリチャードたちの名誉が回復されたようで良かったと思ってる。若ければ何度でもやり直しがきくもんなんだよ。


 いやいや、なに年寄りみたいなこと言ってんだ俺……俺もまだ若い。見た目は20代のままだ。40年生きてるけど……



 閑話休題



 そんなわけでこれまで鬼系ダンジョンだったこのHero of the Dungeonを超大型アップデートして、死霊系ダンジョンにしたうえに、ボスにエルダーリッチを実装したってわけだ。


もちろん宝箱や1日1回無料でできるガチャや、魔物を倒して手に入れる通貨などで買えるアイテムも増やした。死霊系に特攻がある剣や槍に弓などに加えて聖水などだ。


 4月に告知してから世界中のSNSやメディアがこの話題で持ちきりだった。

 死霊系には魔法が有効だから魔法職へ転職する者も増え、これまで運動が苦手でHero of the Dungeonを始めれなかった人たちもこぞって新規登録を始めた。


 登録者が増えれば来場者も当然増える。連日万単位の来場者がいることから、拡張に拡張を重ね壁内の敷地の6割はHero of the Dungeon用の敷地になっている状態だ。そうなるともう警備が大変なので、俺が去年高い壁でHero of the Dungeonの敷地を隔離したんだ。


 そしてHero of the Dungeon施設用の出入口も新たに作って、壁沿いに店舗も用意した。そこでは軽食屋やお土産物屋がズラリと並んでる。半分以上はホビットたちと獣人たちが経営している店だけどね。


 んで、今日がその新装オープン初日というわけなんだけど、ギルド業務で忙しいシルフィとセルシアとその手伝いに行ってる蘭以外の恋人たちと、大量に雇った探索者たちで押し寄せる人たちを対応しているわけだ。みんな大変そうだけど、オープンしたての去年とは違いお客のお行儀も良くなったからスタッフもやりやすそうだ。


 うちは沖田たちの警備会社を使ってタチの悪い客には対応してきたからな。証拠は残さずトラウマを残す戦術で、噂が噂を呼び態度の悪い客はいなくなった。ああ、外国人は別だ。彼らには事前に説明会を念入りにしているが、まあそれでもお国柄で何人も制裁を受けて追い出されてる。別に海外で評判が悪くなろうがどうでもいいから、厳しく対応しているよ。うちに文句言ってくる度胸のある国も無いしな。



「よしっ! それじゃあ次行くぞ。早く終わらせて早く室内に入りたい。紫音、次の場所は? 」


「……次はあっち」


 俺はインキュバスたちが天幕を設置し終えたのを確認し、次の休憩所設置場所に連れて行くように紫音に言った。すると紫音は俺の腕に抱きつき、黒い忍装束の大きく開いた胸もとに俺の腕を挟んで歩き出した。


「わ、私も光希様の腕を……」


「おいおい、みんな見てるって。それに暑いじゃないか。ははは」


 俺は恥ずかしがりながらも紫音とは反対側の腕を取り、同じく胸もとに抱き寄せる桜に笑いながらそう言った。2人にくっつかれて暑いが当然俺が腕を振り払うわけもなく、歩きながら進む先々に氷壁を設置して行くのだった。




 ♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢♢




 日中の来客の熱中症対策が終わり夕方になり、あとは現場の人間に任せて俺は紫音と桜を連れ家へ戻った。


 紫音と桜はそのままメイドの仕事に戻るらしく、着替えるために二階の自室に向かおうとしていた。そこで俺が一緒にシャワーを浴びて汗を流そうと誘ったら、紫音は嬉しそうに桜は恥ずかしそうに頷いてくれた。


 そして3人で3階のジムのシャワールームでお互いの身体を洗いっこした。その後は紫音と桜の大きな乳で両サイドから俺の魔王棒を挟んでもらい、2人の舌によるご奉仕でスッキリさせてもらった。


それから2人と長いキスをしてから別れ、5階のプライベートフロアに着くと凛と夏海がリビングで休憩をしていた。


「ん? 夏海は館内警備はもういいのか? 」


「あ、おかえりなさい光希。館内はリムがあとは見てくれるって交代してくれました」


「そうか。お疲れ様だったな」


 俺は夏海の側に行って軽くキスをして夏海の頭を撫でた。すると隣で白いワンピースがめくれ、パンツが丸見え状態でソファに寝転がっていた凛がムクリと起き上がった。


「おかえり〜ダーリン」


「ただいま凛。ずいぶんバテてるな? 」


 凛はどうも疲れ切ってる様子だ。


俺は凛と夏海の間に座り2人の肩を抱き寄せた。


「もう疲れたわ。クオンに何度も呼ばれてクオンサイズの氷を作って大変だったわよ。あの子氷に抱きついて食べちゃうんだもの。すぐ無くなるのよ」


凛が俺の胸に顔を埋めながら疲れたように言った。


「凛ちゃん、クオンの泣き言なんてほっとけばよかったのよ」


「でもクォォオン、クォォオンってうるさいのよあの子。それを聞いた子供たちがなんとかしてあげてって言うんだもん。無視できないわ」


「子供を使うことを覚えたのねあの子……」


「凛、明日は俺がゲートでヴリトラのとこに連れて行くよ。ヴリトラはドーラの近くにいるクオンにイラついてるからな。力関係的にクオンじゃまだ敵わないだろうし、ロシア辺りで少し鍛えさせるさ」


 ドーラには使わなかったスクロールとポーションを使って、やっと互角ってとこだろ。いや、負けるな。なりたての上位竜と、魔王の騎竜にまでなった上位竜はそれほどの差がある。根性もないしな。


「あははは、それはいいわね。ヴリトラの嫉妬にクオンは耐えられるかしら? 」


「もうなにしても無駄な気がしないでもないですが……ドーラですら匙を投げましたし」


「更生なんて期待してないさ。横浜にいられても邪魔なだけだから、面倒を見てくれる奴に預けるだけだ。ヴリトラも女神の島の周囲から出れなくて退屈してるみたいだしな。遊び相手だよ」


 ヴリトラはリムたちがかわいがってはいるが、そのリムたちが忙しいから狩りに行けないでいる。女神の島からは勝手に出ることを禁じてるからな。蘭がドーラのためにそれを許さないから、俺も許可を出せないでいる。蘭だけは怒らせたくないからこれは仕方ない。


「遊び相手というよりおもちゃになりそうね。クオンも退屈しなくていいんじゃない? 」


「あの子は退屈が好きだから、帰ってきたらまたエメラに泣きつくわよ? 」


「泣かせておけばいいさ。エメラは甘えられて嬉しそうだしな。それより館内はどうだった? みんな楽しんでたか? 」


俺はクオンなんてどうしようもないニートのことよりも、死霊系ダンジョンで子供たちが楽しんでいたかが気になり夏海に聞いた。


「初日なので下層は混雑してましたが、英作君たちトッププレイヤーはサクサク進んでましたね。ほかのプレイヤーもゴーストやゾンビを怖がりながらも恐る恐る進んでました。まるでお化け屋敷のようにあちこちから悲鳴が聞こえてきてました」


「ははは、夏にピッタリだな。これは今夜のニュースが楽しみだな。凛、KTSテレビには案内をつけてるんだよな? 」


「ええ、高い取材料もらってるからちゃんと案内をつけたわ。でも天城さんお化け苦手みたいでかなり大変だったみたいよ? 」


「あ〜そういえばそうだったな。忘れてた。プロデューサーもレイにやらせるなんて酷だよな」


 前に話した時にそんなこと言ってたっけ。


 KTSテレビの看板娘である、戦うレポーターのレイとはちょくちょく食事をしたりしている。その時にお化けだけは苦手だとか言ってたように気がする。


「ふふふ、それはもう絶叫してましたよ。それでも取材をやりきってましたから、やっぱりあの子は度胸がありますね。あっ! そういえば英作君に館内であった時に、Light mareギルドに入りたいと言われました。自衛隊には行かないそうです」


「英作が!? お父さんのように自衛隊に入るんじゃ無かったのか? 」


「なんでも今のパーティ仲間が全員探索者になるので心配なんだそうです。それでLight mareギルドに入れば世界を救えると、そうすればお父さんの意思を継ぐだけではなく超えることもできると言ってましたね」


「そうか……そっちを選んだか。優子たちはスカウトするつもりだったしな。いいだろう」


 てっきり自衛隊に入ると思ってたから、師団長に英作のこと頼んじゃったんだよな。優子は魔法の才能があるから凛が欲しいって言ってたので、ギルドに勧誘するつもりだった。けどまさか英作までギルドに入りたいと言うとはな。


 そうか、仲間を選んだか。師団長には謝っておくかな。


「あ〜それきっと優子が心配なのよ。春から2人とも付き合ってるみたいだし」


「ふふふ、英作君は大月さんの顔をチラチラ見てましたね」


「え? そうだったのか!? それならまあ……納得だな」


 俺でもそうするしな。そうか、あの堅物に恋人が……オイオイ、面白くなってきたじゃないか。


「ふふっ、光希。あんまりからかっては駄目ですよ? プラトニックな関係らしいですから」


「プラトニック? ああ、純愛か……そんな言葉があったな。俺はプラトニックよりスキンシップ派だけど」


 一瞬プラトニックの意味が理解できなかった。俺も汚れちまったもんだな。もう40だしな。


「あははは、そうね。確かにダーリンはスキンシップ派ね。あっちこっち手を出してるしね」


「ふふふ、確かにそうですね。でも私たちに必ず最後は許可を取りにきますよね」


「それは当然だ。凛と夏海たちが一人でも嫌だと言ったら俺は最後までしない。スケベにもポリシーってのがあるんだ」


 これだけは守らないと修羅場になる。全員に認められた子じゃないと家には入れられない。特に蘭は絶対だ。


 それに恋人たちの間ではなんとなく順位みたいなのができてるみたいだしな。


 確かセルシアが、蘭>シルフィ>凛>夏海>セルシア>リム>ユリ>ミラ>マリーたち。みたいなことを言ってたな。俺は無言で返したけど。むしろ聞かなかったことにしたくらいだ。


 ちなみに夜以外は蘭とシルフィの順位は逆になるらしい。なんとなくわかる。蘭は自由人だしな。


 俺としては順位なんてつけてないけど、彼女たちの心の中まではわからないからな。全員に許可を得るのが無難だ。


「ぷっ! スケベのポリシーとかダーリン開き直り過ぎよ。ダーリンは寂しい時に必ず気付いてくれるから、別に増えても文句言わないわよ。10人は増えると思ってたし」


「私は光希が幸せならそれで……私も幸せですし」


「ありがとう」


 なんて理解力のある恋人たちなんだ。絶対元の世界じゃ得られない理解だよな。魔物がいて男が少ないこの世界だから、凛たちが生まれる前に一夫多妻制が認められたからこそ受け入れてくれてるんだもんな。蘭やシルフィたち異世界組は、もともと強い男が多くの妻を持つことに抵抗ないしな。


 やっぱこの世界サイコーだわ。


「今夜は私とお姉ちゃんの日よね? みんなが帰ってくる前にお風呂だけ入っちゃう? 」


「そうだな。2人とお風呂で楽しみたいかな」


「ほんとにえっちなんだから。ならマリーに心話を送って準備してもらうわ。どうせあの子たちも入ってくるだろうし」


「ふふふ、マリーたちも光希にアプローチが凄いものね」


「さすがにあのメイド服はどうかと思うけどな」


 マリーたちはユリに何かを吹き込まれたらしく、メイド服のスカートを超ミニにし始めた。そしてショーツをはいてない。おかげで俺はキッチンで料理を用意しているマリーや、浴室を掃除しているベリーたちの後ろ姿に毎日ムラムラして後ろから襲ってしまうようになってしまった。


「あれはユリが悪いのよ。それでうまくいっちゃったからもうずっとあのままよ」


「でも来客の時は着替えさせないとまずいと思います」


「そうだな……一階のラウンジをノーパン喫茶にするつもりはないからな」


 マリーたちのお尻をほかの男に見せるのも嫌だしな。なんとかしないとな。


「あの子たちには羞恥心を教えないとね。それよりもう行きましょ。早く汗を流したいわ」


「ああ、行こうか」


 俺は凛に手を取られ、夏海を連れて浴室へと向かうのだった。


 しかし最近は平和だ。こんなに幸せでいいのだろうか?


 それもこれも光一のおかげだな。


 ありがとう2代目勇者。


 俺はお前の夢を先に叶え見本となるからな。だから頑張ってくれ。その先には今の俺がある。


 俺は凛と夏海のお風呂で楽しみながら、この下半身が充実した幸せな毎日を満喫していた。


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