第30話 後継者
「ん? 客? 俺にか? 」
《 はい。とても珍しい客が光魔王様にお会いしたいとこちらで待機しています 》
「なんだ? リムにしては珍しくもったいぶるな。相当珍しい客のようだ。わかった。こっちも使えそうなものはあらかた鹵獲したからもうすぐそっちに行く」
《 フフフ、申し訳ございません。光魔王様を驚かせたくて…… 》
「いいさ、俺もそっちに行くのが楽しみになってきた。でもそんなに驚かなかったら悪いな」
《 フフフ……大丈夫です。自信があります 》
「おお? 余計楽しみになってきた。それじゃあ後でな」
俺はリムの楽しそうな声と感情を心話で感じ、これは早く行かないとと思いリムとの心話を切った。
「主様お客様と聞こえましたが、この世界にギルセリオさん以外に主様を知る人がいるのでしょうか? 」
「さあな、味方とは限らないだろう。帝国皇帝でも訪ねてきたのかもな。それは無いか。いずれにしろあのリムが俺が驚くと自信を持って言うんだ。相当な珍客だろう」
さて、エルフやダークエルフで顔見知りは全員と言っていいほど会った。俺の知るドワーフはさすがにもう生きてはいないだろう。その息子か孫か? でもそれくらいじゃ驚きはするが、あの俺に一切の隠し事をしないリムが秘密にするほどの衝撃はないな。
「あのリムちゃんが主様に秘密にするほどの……うふふ、蘭も楽しみになってきました! 」
「そうだな。もう飛空戦艦も魔石も魔銃もあらかた回収したし切り上げるか」
「はい! 飛空戦艦は無傷で手に入りましたし、帰ってからが楽しみです! 蘭専用の飛空戦艦には蘭丸と名付けることにします! 」
「そうか、どっかで聞いた名だがいい名前だな……」
俺は相変わらずの蘭のネーミングセンスに、笑顔でそう応えた。
スーやシーのような生き物じゃないし、俺の飛空戦艦にノブナガとか名前付けなければ別にいいしな。
《 シルフィ! 回収作業は終わりにしてくれ。王都へ行くぞ 》
《 わかったわ。皆を整列させるわね 》
俺はシルフィに心話でエルフと獣人からなる勇光軍をまとめるように言い、空を飛んで散歩していたドーラを呼んだ。
それから30分ほどで各部隊が集まり、俺はゲートを元大聖堂のあった土地へと繋いだ。
************
「ん? なんだ? この魔力……」
「どうかしましたか主様……あら? 」
「ダーリン何かあったの? 」
「どうしたの2人とも? 」
「なんだ? あたしは何にも感じないぞ? 」
ゲートを元大聖堂のあった土地に繋ぎ勇光軍にゲートを潜らせ、ゆっくり飛ぶドーラの背に乗りながら王都へと5kmほど進軍した頃。
王都の方向から見覚えのある魔力を感じた。
俺は蘭と目を見合わせまさかなと半笑いで首を傾げていると、王都の方向からその魔力の持ち主が高速で近付いてきた。
そのあまりの速さにドーラが反応し、ほとんど条件反射ともいうべき速度で天雷を放ち、さらに翼をはためかせて進路上に竜巻刃を複数発生させた。
俺は慌てて止めようとしたが、時すでに遅し。
「ぎゃああああ! 」
天雷が直撃したにも関わらず高速で移動していたその魔力の持ち主は、俺たちの目の前に突然現れそしてドーラの竜巻刃によって切り刻まれた。
その姿は俺とそっくりで……
「おいおいおいおい! 光一じゃねえか! 」
「ええ!? なぜ方舟の光一さんが!? 」
「コウ! 今のは光一さん!? 」
「ええ!? 光一さんなの!? 」
「確かにあの声と魔力は光一さんですね」
「はああ? 光一がなんでいるんだ!? 」
俺は黒竜の革鎧に付与された結界で辛うじて耐えながらも、手足や顔面を血だらけにして地上へと落ちていく光一に、ドーラがトドメのブレスを吐こうとするのを頭を叩いて止めた。
「ドーラ! やめろ! アレは別世界の俺だ! ん? あ〜弟みたいなもんだ。そう認識しておけ! 拾ってこい! 」
《 ルオッ!? ルオオッ! ルオォォン! 》
俺はドーラに並行世界の事を説明しようとして、理解できるわけないかと思いやめた。
俺の弟と聞いたドーラは、え? ヤバイっ! 知らなかったの! と言って慌てて墜落していく光一を拾いにいった。
「ごうぎーーー!! あいだがっだーーー! おれ! 俺! もうがえれないかと思っだんだーー! 」
「だあぁぁ! 泣くな! 鼻水をくっ付けるな! だいたいなんでお前がこの世界にいるんだよ! 」
ドーラがその背で光一を受け止め、俺が光一にミドルヒールを掛け傷を治した途端に光一が泣きながら俺にしがみ付いてきた。
俺は本当に本物の光一がいたことに改めて驚きつつも、革鎧に光一の鼻水が付くのを必死に避けていた。
しかし驚いた。リムの言っていた客は光一のことか! 確かにこれはかなり驚いた。
「本当に光一さんですね。蘭は今日ほど驚いたことはありません」
「信じられないわ。方舟からどうやってここに……」
「ほんと光一さんですね。光一さんがこの世界にいるということは、夏美も来ているのでしょうか? 」
「こ、光竜教の教会にいたら突然召喚されて大聖堂に……俺ひどりで……うえっ……夏美ともう会えないかと……教皇に命を狙われて返り討ちにして……うえっ……」
「召喚された!? まさかこの間の王都からの膨大な魔力反応は召喚の魔力だったのか! 」
「ええ!? あの魔力反応は勇者召喚をした時の魔力だったんですか! 」
まさかとは思っていたけど、王国が本当に勇者召喚をしてそれを成功させてたとは。
「あ〜納得したわ。ダーリンと同一人物だもんね。選ばれても不思議じゃないわ」
「私も凛ちゃんと同意見ですけど、でも女神リアラがよく許可を出しましたね……」
「夏海、でも光一さんの称号は英雄のままよ? リアラ様に召喚された人は称号が勇者になるはずなのよね」
「え? そうなの? シルフィが言うならそうなんでしょうけど、召喚されたのに女神の加護を得られなかった? 剣も黒魔剣のようですし、聖剣も無いのでしょうか? 」
「ぢがうんだよ……リアラの力を借りれなくて……創魔装置と召喚に関わった者の命を使って召喚を成功させたみたいなんだ。だから俺は加護なしハードモードスタートだって、魔王軍にSランクがウヨウヨいるし、黒竜ヤバイし王都の獣人たちを救うことも諦めるしかなくて……」
「マジか……大地の魔力を使ったのか……でもアマテラス様がよく許可を……ん? 」
まさかちょこちょこ光一をお勧めしていた効果か!?
「主様! 」
「ああ、うまくいったようだな」
「ああ……蘭は、蘭は心が軽くなりました! 」
「わはははは! そうか! 光一が選ばれたのか! アマテラス様に! そうか! 」
「はい! 光一さんが新たな勇者様としてアマテラス様に選ばれました! 」
「蘭! 」
「主様! 」
俺は蘭と抱き合い喜びを分かち合った。
「蘭……思えば元の世界に帰るのを阻止され、方舟に行かされたりこの世界にまた来させられたりでさんざんだったな」
「はい。蘭は主様がいればどこまでも付いていきますが、さすがにそろそろ子作りに専念したかったです」
「ああもう大丈夫だ。後継者が認められたからな。蘭、俺はこれを機に引退しようと思うんだ。神話勇者とかいうふざけた称号もリアラに返上しようと思うんだ」
「はい! もういっそ魔王でいいと思います。魔王なら召喚されませんから」
「おお! 確かにそうだな! 魔王が召喚されたなんて聞いたことないもんな。蘭は賢いなぁ」
蘭は天才か!? 確かに魔王なら召喚されない。リアラやアマテラス様がちょっとこの世界壊してきてくんない? とか言うはずないからな。
「はい! 蘭はお利口だって主様に育てられましたから」
「そうだったな。蘭はお利口さんだ。お〜ヨシヨシヨシ」
「うふふふ、主様に頭を撫でられたのは久しぶりです」
俺は蘭の頭をこれでもかってほど撫でた。
蘭は幼い頃のように嬉しそうに目を細めて俺に撫でられていた。
「え? どういうことだ? 俺が選ばれた? まあ召喚されたんだからそうなんだろうけど、なんで光希と蘭さんはそんなに嬉しいんだ? 」
「ん?ああ……光一……俺と蘭は光一がアマテラス様に認められて嬉しいんだよ。お前が強くなったから勇者として認められたんだ。それが嬉しくてな」
俺は光一にそう言ったあと、心話を凛やシルフィたちに繋ぎ、俺と蘭がかねてよりアマテラス様に次に並行世界で何かあった時は、光一を召喚してもらえるよう勧めていたことを説明した。それは俺たちの幸せのために必要なことだとも。
「そうです光一さん。蘭は方舟世界の主様もアマテラス様に認められたのが嬉しいのです。さすが蘭の主様です」
「す、凄いわ光一さん! 神様に認められるなんて方舟での努力が認められたのね! 」
「そ、そうよ光一さん。勇者の称号は今回は得られなかったけど、この世界の人たちは光一さんを勇者だって思うわ。この世界のエルフである私が言うんだから間違いないわ。もう明日からモテモテね」
「さ、さすが光希の弟ですね。夏美も光一さんが勇者としての働きができると、そう神様に認められたことを知ったら惚れ直すと思いますよ」
「あ〜旦那さまはあたしと子作りするからな。うん! 光一が後継者だな! 頑張れよ! 2代目神話勇者の卵! 」
「え? そ、そうかな? やっぱ俺が強くなったから目立ったのかな? え? モテモテなの? エルフとかにも? そうか、後継者か……俺もいずれ光希のような力を……そうすればハーレム王に……へへへへ」
よしっ! うまくいった! 俺が大勢の女の子たちに褒められて浮かれないはずが無いからな。
あとはこの世界で活躍させて、リアラにもアピールすれば完璧だろ。
この世界の獣人あたりをハーレムに入れれば繋がりも深くなる。さすが俺だ。着々と外堀を埋められていくな。
俺たちはその後も光一を褒めまくった。そして勇光軍が王都に到着する頃には、光一は勇者として世界を救うことにやる気になっていた。
その姿はまるで15年前に王宮の侍女たちに毎日勇者様は凄いと褒められ続け、魔王を倒すことにやる気になっていた俺を見ているようだった。
フッ……さすが若い時の俺だ。ちょろいもんだ。
************
作者より
カクヨムコンテスト用作品投稿しました。
初めてのファンタジー作品です。かなり自信作です。
面白いと感じたらファンタジー部門で成り上がる為、皆様の☆評価でブーストお願いします。
作品名: 神奏歌魔法世界ミローディア ~音痴の俺が音楽が魔法になる世界で無双する~
https://kakuyomu.jp/works/1177354054892748852
あらすじ
【歌って踊って敵を打ち砕く魔法を放て!】【楽器を奏でて補助魔法で援護しろ!】【才なき者はガーディアンとなり強化した身体で仲間を守れ!】
そこは音楽が魔法となる世界。その名もミローディア。エルフ・ダークエルフ・魔族・人族・獣人族がそれぞれの音楽魔法を駆使して戦う世界。
ハープを奏で歌う正統派エルフ。R&BやPOPを魅惑的なダンスを駆使して歌うダークエルフ。全てを破壊するヘヴィメタルの魔族に、あらゆるジャンルに精通しPOP・アニソン・ヒップホップなんでもござれの人族。そしてケモ耳ユニットで可愛い歌とダンスを繰り広げる獣人族。彼らの強力な攻撃魔法が今発動する!
楽器を扱う者はドラムとギターで鼓舞の魔法を! オーケストラで防御魔法を! フルートの優しい音色で回復を!
そんな世界に高校2年の秋。友人とともにキャンプ場に向かっていた主人公の宇田野 奏多(かなた)は、突然深い霧に包まれ迷い込んでしまった。音痴なうえに楽器の演奏もできない主人公は、ある美しいエルフと出会い彼女と共に戦うことを決意する。
※作中に登場する歌詞は作者が適当に作ったものです。似たものがあっても関係ありません。
※音楽を題材にしながら作者は楽器の経験はありません。音楽の知識もほとんどありません。ノリと勢いと読者さんの脳内補完が頼りです。あ、マイケルさんとかは好きです。ガガさんもケモ耳ユニットも。
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