第41話 急報







オージー兵たちの訓練を始めて六日目。

初日からまともに睡眠を取らせていなかったが、オージーたちの目は未だに光を失っていなかった。正直ここまで心が強いとは思わず、過酷な訓練を課しておきながらちょっとドン引きしてる。

3000人と数が多いので3軍団に分けそれぞれに陣地を設営させ、間引きなしで魔物を誘導し絶え間なくぶつけているが全て耐え切っている。盾職がいないのにたいしたもんだ。装備が同じなら間違いなく日本軍より強いだろう。



「貴様ら休憩は終わりだ! 北からオーガキング率いるオーガ800に東から黒死鳥率いる風切鳥1200が第一軍団へ! 西からオークキング率いるオーク1500が第二軍団へ! 南から白狼率いる黒狼1000とバイコーン率いる黒鬼馬800が第三軍団へ向かっているぞ! 急ぎ戦闘配置に付け! 」


「「「「Avenger! 」」」」」


「次に四肢を欠損した奴はしばらくそのままで戦わせる! 光魔王様のご厚意にいつまでも甘えるな! 」


「「「「「Avenger! 」」」」」


「リム! アフリカ連合と南アメリカの軍がまた近づいて来ている。追い返してくるからコイツらを頼むぞ」


「ハッ! お任せください! 」


条約を無視して3000人をフィールドに一気に入れているからな。バレるわけにはいかない。中露や米欧英あたりはグリフォンを見て察したのか近付いて来ようとはしないが、アフリカと南アメリカは結構しつこい。三日前からボスが出るんじゃないかと近づいてくる。魔物の出現を増やすための貴重な人員なので殺しはしないが、毎回俺と蘭が追い返しにいっており正直めんどい。


俺がアフリカと南アメリカの軍にそれぞれ天雷を打ち込んで追い返していると、オージーたちのいるところから歓声が湧き上がった。もうほとんどの者たちがBランクになっているからか魔物の処理が早くなったな。

三日目に日本軍の時と同じように優秀な者に黒鉄の武器と中級魔法書を与えると言ったときは凄まじかったな。良い武器を得るために味方同士で魔物の取り合いをして、余計な怪我をしていたからリムが激怒してたっけ。強さを求めるその姿勢が俺は好ましくて結構奮発して装備を渡しちゃったんだよな。ゾルたちにまた作らせなきゃ。


「うむ。なかなか良い連携だった。特に300スリーハンドレッドAvengers部隊はよくやった!光魔王様より下賜された武器を大切にし以後も励め! 」


「「「「「Avenger! 」」」」」


「300Avengersねえ……ダーリン奮発し過ぎじゃない? ジェフリーさんたち日本軍よりも強いわよ? 大丈夫かしら? 」


「あはは。日本軍と違って文句も泣き言も言わず、歯を食いしばってギラついた目で必死に耐えてるのを見るとね。アトランで魔族に国を奪われ復讐に燃える者たちを思い出してさ、手を貸したくなったんだ」


さすがに中級魔法書はともかく黒鉄の剣と槍を200本以上渡したのは痛いが、またゾルたちに打たせればいいだけだしな。コイツらがどこまでやれるか見てみたくなったんだから仕方ない。


「コイツらのガッツはあたしも認めてる。コイツらはもっと強くなるよ! 」


「確かに今回はコウやリムに魔物の群れに投げ込まれた者が一人もいなかったわね。ほとんど休んでないのに心も折れずたいしたもんだわ」


「私は彼らを見て復讐と国の再興を成し遂げさせてあげたいと思いました。彼らは紛れもなく本物の戦士です」


「うふふ、主様が好きなタイプの人たちですから仕方ないです」


「確かに凄い意思の強さよね。奴隷扱いされている時に相当我慢してたのね。倒れた人に周りの人がまた奴隷になっていいのかとか、恋人を取り返さなくていいのかとか声をかけたら立ち上がってたわ。だからこそこの人たちが日本の敵になったら大丈夫かなと思っちゃうのよね」


「大丈夫だ、日本の敵にはならないよ。オーストラリア人は朝鮮半島の奴らとは違う。恩を仇では返さないさ。それに日本には光一がいる。光一が日本軍と協力すればオージーたちに勝ち目はないよ」


光一は俺たちがこの世界からいなくなった時のあらゆる面での保険だ。俺の影武者として他国を牽制するだけではなく、万が一日本軍が暴走した時の保険でありオージーたちに野心が芽生えた時の保険でもある。

そのためにも大世界が開放されたら光一をもう一度鍛えてSランクにさせなきゃな。


「そう言えば光一さんがいたわね。それなら安心かな。転移と天雷のコンボは対軍戦闘では最強よね。私も早く転移を完全にモノにして、魔物の群れのど真ん中で氷河期を撃ちたいわ。絶対気持ちいいと思うの! 」


「はい! 蘭も神狐の状態で転移しながら大狐嵐動を撃ちまくりたいです! 」


「え……ら、蘭ちゃんそれは私たちがいないところでお願いね? 」


「蘭ちゃん私たちから1km以上離れたところでやってね? 」


「むうぅ〜 蘭は凛ちゃんとなっちゃんを乗せてやりたいです」


「「無理だから! 燃えちゃうから! 」」


「ふふっ、蘭ちゃんのその魔法は見たことないから私が見てあげるわ。一緒に転移の練習頑張りましょうね」


「おっ? あたしもそれ見たことないな! 蘭の大技なら見ておかないとな! いつか蘭に勝つためにもな! 」


「はい! 転移を練習してシル姉さんとセルちゃんに初お披露目します! 」


「シルフィ……セルシア……」


「知らないって怖いわ……」


「そう言えば二人は見たこと無かったな。富良野に行った時は火系の魔法は禁止してたしな。一度くらい見てみるといいかもな」


俺たちのいないところでな。


俺は蘭が嬉しそうにしているのを見て否定的な言葉を言うことができなかった。すまんなシルフィとセルシア。アレは一度くらい経験した方がいいと思うんだ。


「さて、以蔵たちがまた魔物を引き連れて来たぞ。予定より早く終われそうだ。みんなサポートを頼む」


俺は皆にそう言ってからリムのところへ行き、戦闘中俺とシルフィと蘭と凛が鑑定して回りインカムで伝えるので、能力の伸びが悪い者を前に出すように指示をした。


どうしても能力の上がり方には個人差があるからな。毎日この人数を鑑定するのも骨だがやらないわけにもいかない。70名いる魔法隊は300Avenger入りした20名も含め、魔力回復促進剤を飲ませてひたすら魔法を撃たせれば、魔力と魔法攻撃力に魔法防御は上がる。器用さだけは練習が必要だし時間が掛かるから魔法を放つ際にコントロールするよう意識させているが、センスのある20名以外はDまで上がれば御の字だな。

光一や日本軍と違い下地が無いからこればかりは仕方ない。


しかし中露連合と米欧英連合の安全地帯にいるのは2000や3000人どころじゃないな。完全に攻略を諦めて嫌がらせに徹してるな。だからお前らは攻略できないんだよ。ウザくてしつこいが、近付いてボスを横取りしようとしているアフリカや南アメリカの連中の方がまだ攻略する気があるよな。

さすがにこんだけフィールドに人がいて、戦ってるのが俺たちと他の二勢力だけじゃボスは出ないだろうけどさ。


「さあお前ら! 前回と今回の訓練で手に入れたドロップ品は全てお前らが再興する国の物だ! それがお前たちが養う国民の食糧に! そして資源になる! オーガは牙と角と薬となる肝に睾丸! オークは極上の肉! 黒狼は上質な毛皮! 風切鳥に夜魔切鳥は鳥肉だ! 黒鬼馬の馬肉も美味いぞ! さあ戦え! 肉を手に入れ子供たちに腹一杯食わせてやれ! 」


「「「「「うおおおおおおおおお!! 」」」」」


《 前方から肉が来たぞ! 殺せ! オークの肉を子供たちに! 》


《 黒狼だ! 暖かい毛布を娘に! 》


《 腹一杯食わせてやるんだ! もう食べれないって言わせてやるんだ! 》


《 オーガの睾丸で二人目の子を! 》


ん? なんか欲に目を輝かせてるおっさんがいるがまあいいか。


それから夜遅くまで連戦を続け、もうすぐ夜が明けるという時間に全員の主要な能力がBランクに上がったので撤収することになった。予定より一日近くも早く終わるとはな……仮眠なんて2~3時間しかやらなかったしご褒美睡眠も無かったのにたいした奴らだよ。復讐と国の再興という目的を持った人間は凄いわ。



そして俺たちは各国から放たれる無人ヘリや偵察部隊を蹴散らしつつ攻略フィールドから撤収し、フィリピンに繋がる資源フィールドへと出た。


「お前ら……いやオーストラリア軍の精鋭たちよ! よく辛い訓練に耐えたな。全員の主要な能力がBランクになった。さすがに全員分の鑑定の羊皮紙は無いから無作為に選んだ者にあとで渡すので確認してみろ」


「Avenger! ありがとうございました教官殿! 」


「「「「「ありがとうございました教官殿! 」」」」」


《 お、俺がBランクに…… 》


《 教官が言うんだ間違いないだろう。この力があれば中華兵なんて圧倒できる 》


《 訓練中は無我夢中だったが、俺は中級魔法を撃ってたんだよな…… 》


《 ところどころ記憶が飛んでてよく覚えてないがBランクになっていたなんて…… 》


《 中華国の精鋭部隊が確かBランクだったと聞いた。何者かにフィールドで襲われ全滅したらしいが俺がそのBランクに…… 》


《 これでやっと……奴らを皆殺しに…… 》


「約束通り俺はお前たちに力を与えた! だがその力は正しきことに使うために与えた力だ! 約束しろ! その力を弱き者を虐げることに使わないと! か弱き女子供を殺めることはしないと!たとえ憎き中華国の民でもだ! 」


「Avenger! 約束します! 正義のためにこの力を振るうと! 」


「「「「「 Avenger! 約束します! 」」」」」


《 俺たちは中華国の奴らとは違う! 無抵抗な人間を傷付けたりしない! 》


《 そうだ! 俺たちは平和を愛するオーストラリア人だ! 女子供に手を出したりなどしない! 》


《 誇りあるオーストラリア人はそんなことはしない! 》


《 そんな奴がいたら例え同胞でも俺が叩っ斬ってやる! 》


「そうか、なら信じよう。だが月日が経ったとしても忘れるなよ? そして驕るなよ? 俺を裏切れば地の果てでも追い掛けて必ず殺してやるからな? 」


「「「「「ヒッ! a、Avenger…… 」」」」」


「よしっ! それじゃあ訓練はこれで終わる。お前たちは今日と明日は大島で休むといい。風呂も用意してやるし酒もタバコも振舞ってやろう。これはご褒美だ。飲みすぎるなよ? 」


《 さ、酒だと? 》


《 お、俺飲んだことないんだ 》


《 20年ぶりの酒…… 》


《 この世界にまだ酒があったのか…… 》



「ん? なんだ? 酒は余計だったか? 」


「い、いえ! あ、ありがたくいただきます! 」


「飲みます! 飲みたいです! 」


「ください! お酒くださいお願いします! 」


「そうか、ならビールとウィスキーを用意しておく」


「「「「「イヤッホーーーー! 」」」」」


「ククク……元気だな。お前らのタフさには驚かされるよ。それじゃあ外に出てからゲートを繋ぐ。出口まで駆け足で行け! 」


「「「「「Avenger! 」」」」」


あれだけ大量の魔物とまる六日戦ったんだ、今は感覚が麻痺してハイになってるだけだろう。今日明日は疲れがどっと出るはずだ。まずは急激に上がったステータスと肉体を馴染ませてからだな。本当は三日は休ませたいがオージーたちの仲間が中華国で待ってるからな。


俺がそんな事を考えグリ子に乗ってオージーたちの後をゆっくり付いていってると、資源フィールドの出口の門に静音が現れたのが見えた。

俺はなにかあったのだと思い、すぐさま静音のところまで転移をした。


「静音、緊急事態か? 」


「はっ! 武田防衛大臣より一昨日の夜遅くに保護地区が何者かの襲撃にあい、土田夫妻に深井夫妻とお孫さんが攫われたとの連絡がありました。その件でお屋形様の力を貸して欲しいと懇願されました」


「土田のオヤジと深井のおっさんがか!? なにやってんだ特警と軍は! まさか米欧英連合がいなくなったからって警備を怠ってたんじゃないだろうな! 」


くそっ! 土田のオヤジはゾルと仲が良くてしょっちゅう酒をせびってたのでよく覚えてる。深井のおっさんは俺が直に中級ポーションの製作を教えた教え子だ。孫馬鹿でいつも5歳になる孫の自慢ばかりしてたウザいおっさんだったが……特警と軍はなにやってんだよ使えねえ奴らだ! 全てが終わったらフィールドで地獄の特訓をしてやる!


「特警は人手が足らず連合が撤退したと同時に警備人数を減らしたそうです。そこを突かれたそうで、30名の隊員のうち追跡に出た者も含め25名が命を落とし、残り5名も生死の境を彷徨っている状態のようです」


「あ〜身に覚えがあるわ〜くそっ! 軍と連携して人員を補充……って無理だよな。特警の上層部は軍と仲悪いらしいからな。それでも警察庁長官の責任は重いな。あとでキツイ罰を与えるか。とにかく一緒に拠点に戻ろう」


「はっ! 」


特警の人手不足には盛大に身に覚えがあるが、だからといって国の最重要人物の警備を疎かにしていいわけがない。人員を減らすことを決めた奴らは全員軍と一緒に地獄の訓練に参加させてやる。


俺はこの世界に来てからやたらと俺の足を引っ張る特警に怒りを覚えつつ、オージーたちのケツを叩き全力で走らせた。そして門を出たところでゲートを発動し急ぎ拠点へと戻った。そしてオージーたちの風呂の用意を恋人たちに頼み、俺は格納庫に向かいマリーから衛星電話を受け取った。

俺は詳しい情報を得るために、就任したばかりらしい武田防衛大臣に電話を掛けた。


空を見上げるともう夜が明けようとしていた。








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