第25話 狂人+竜
「おお! 婿殿! 先日は世話になったのう! まったく公安のやつらは大袈裟なんじゃよ! 飛竜の卵くらいでガタガタと! 」
「十兵衛? 私は止めましたよね? 冒険者連合規約にダンジョン内の魔物の卵の持ち出しは禁止と書かれてあると。それを私に隠れていつのまに持ち出して……おかげで私の道場まで閉鎖されてしまったではないですか」
「それは何度も悪かったと言っておろうに……バレないと思ったんじゃ。飛竜の素材に紛れさせてうまく持ち出せたんじゃがのう……どうしてバレたんじゃ? きっと六郎が飲み屋のねーちゃんにペラペラ喋ったんじゃ」
「はああ!? 俺は喋ってねえぞ? 前から警察にマークされてるって忠告しただろ! 人の気配はないがずっと視線を感じてたんだ。きっと衛星やら隠しカメラで見られてたんだよ」
「んなわけあるか! たかだか千葉にある道場如きを監視してどうすると言うんじゃ! 警察はそんな暇じゃないわ! このたわけ! 」
「確かにお義父さんの言うことにも一理あるわ。私たちのような善良な市民を監視する理由がないもの。きっとダンジョンを出る時に気付かれたのよ。あーあ、飛竜に乗ってみたかったな」
コイツら……まったく自覚がねえ……
「十兵衛さん。次やったらまた武器と装備を没収しますよ? さすがにこれ以上、俺の大切な夏海を泣かせるのでしたら俺が敵になりますからね? 」
俺は恥ずかしさのあまり泣いてる子を初めてみたよ。
「ひっ! わ、わかっておる。わかっておるって! もうダンジョンから魔物や卵を持ち出さぬ。じゃからその魔力を抑えてくれ! ワシにだけ殺気をこめた魔力を当てるのやめてくれ! というか足が凍ってる! 」
「お願いしますね。オーストラリアでは岩竜を専属で一頭使わせてあげますから」
「な、なんと! 婿殿それは本当か!? 岩竜と言えば飛竜など足元にも及ばんほどのドラゴンじゃ! とうとうワシもドラゴン乗りになれるんじゃな! 」
「あらあら、婿殿。気をつかわせてしまって申し訳ないわ。そう……竜を私たちにですか」
「さ、佐藤君。本当にいいのか? 親父にドラゴンだなんて赤ん坊に核爆弾のスイッチ持たせるようなものだぞ? 」
「大丈夫ですよ。俺の命令に最優先で従いますから。人と建物は攻撃しないように言っておきますので」
十兵衛さんの命令に無条件で従う竜を渡すわけないよな。そんなことしたら、いくら外国でも大変なことになるのはわかってるからな。どうせドラゴン便を見たら乗りたいって言い出すに決まってる。だったら最初から俺がしっかりと言い含めておいた岩竜を一頭あげた方がいい。渡す岩竜は新たに創造魔法で念入りに造ってしっかりと命令しておくさ。
「きゃー! ドラゴンを貰えるなんて夢のようだわ! あなた! ドラゴンに乗ってデートするわよ! 冬のオーストラリアの夜空をバックに遊覧飛行だなんてロマンチックだわ〜」
《 あ、明美! ドラゴンを一頭もらえるみたいよ!? 》
《 凄いわ……さすが救世主様ね。薙刀を持って竜に乗るなんて新しいキャラよね? これはもっと目立って有名になれば、きっと私たちをモデルにした漫画が描かれるに違いないわ 》
《 そ、そうかな? 》
《 おいっ! 聞いたか? ドラゴンを訓練用に貸してくれるらしいぞ? これで対ドラゴン戦の訓練ができるな》
《 富士のダンジョンの最下層のドラゴン対策だな。しかし岩竜か……どれほどの強さなのか 》
《 質量攻撃が多いと聞いたがどうなんだろうな。なんにせよ楽しみだな 》
《 戦うのもいいが竜に乗っての戦闘も考えなくてはな。刀から魔力を撃ち出す技を磨かねばなるまい 》
もうやだコイツら……
もうコイツらだけは襲っていいと岩竜に言っておこう。
しかし随分と人数を連れて来たな。男が300人超に女性が150人くらいか? 初めて見る顔も多いな。 ん? アイツは上海の時にいた冒険者じゃないか? あっ! あの女性は虎獣人じゃないか! くっ……虎獣人は男も女も脳筋とはいえ出会ってしまったというのか……やはりこれ以上日本には置いておけないな。
大丈夫だ。うちの島の警備員兼傭兵として高給で雇ってやる。ドラゴン事業部の護衛としても使うし、管理されていないダンジョンだって潜り放題だ。無人の広大なフロンティアで好きなだけ暴れさせてやる。中華大陸に解き放つよりは世界のためになる。あそこは魔物が減るとまた中華広東共和国が領土を広げようとするからな。
この狂人たちを日本から出せるなら、凛が算出した年間10億の人件費なんて安いもんだ。
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「よし、これで揃ったかな? 凛たちも準備はいいな? 」
7時となり皆がドラゴンポートに集まってきたので俺は恋人たちに最終確認をした。
「ダーリン、インタビューされちゃった♪ インタビューはメイキング版として後日全世界に放送されるんだって! これで美しき氷炎の魔女としての知名度もアップするわ! 」
既に狂炎の魔女として有名だから大丈夫だ。
「蘭も凛ちゃんと一緒にインタビューされました! 炎を操る姉妹として紹介されるみたいです」
たぶん放映される時のテロップにはクレイジーシスターズって出るから安心していい。
「コウ、いよいよ私たちの夢が叶うのね……もうあの人たちに関わらなくていいのね」
一番苦労したのはシルフィだからな。各支店に借りを作ってまでもみ消して、公安にもお願いに出向いて……
「シルフィーナ、うちの家族がごめんね。私もインタビューでお祖父様の孫だと紹介されて覚悟を決めたわ。家族とは決別しないと、光希と幸せになれないことが改めてわかったわ」
確かにあの狂人の孫だとテレビで紹介されたら、どんなにまともな人間でも同じ狂人だと思われるよな。それでも夏海と幸せになる障害にはならないけどな。最悪は方舟に連れていけばいい。光一がなんとかするだろうよ。夏美も失った家族に再会できて幸せなんじゃないかと思う。あれ? これが一番良くね?
「アイツら頭がおかしいからな! 飛竜の卵を持ち出して竜騎士団を作ろうとして滅んだ国の話をしたのにダンジョンに取りに行ったからな! テロでもするつもりかと思ったよ」
セルシアにも狂人認定されたか……セルシアは俺たちと一緒に生活するようになって常識が身に付いてきたからな。
それにしても今日もメイクはバッチリだな。めちゃくちゃ大人っぽいメイクで、蘭とお揃いのチャイナドレスを着てる。蘭は白でセルシアは赤のチャイナドレスだ。本当に仲が良いよな蘭とセルシアは。
みんな蘭を妹のように可愛がってくれている。確かに凛より一つ年下だしな。蘭がこんなにリラックスして天然全開でいられるのはみんなのおかげだ。
今思うとアトランでの蘭は、気持ちがずっと張り詰めていたんだなとわかるよ。蘭は俺を守るためにあんなに攻撃的だったんだとね。
でもこの世界に蘭ほどではないけど強い仲間が複数人できた。もう自分一人で俺のことを守らなくてもいいということが、気持ちに余裕を持たせたんだろう。
おっと、感慨にふけってる場合じゃないな。そろそろ移動しないと。
「以蔵とリムも準備はいいか? 」
「はっ! 光魔忍軍110名揃っております! 」
「ハッ! 光魔王軍親衛隊 総勢20名ここに! 」
ダークエルフは子供とそのお守り以外ほとんど連れて来たな。サキュバスたちもこっちに5名を残し、あっちにいるヤンたちと合流したらほぼ全員参加だ。
俺は満面の笑みでこっちを見ている十兵衛さんたちはスルーして、英作のパーティとテレビ局の人たちを確認し移動を開始することにした。
「それじゃあ今から移動する。5列に並ぶように」
「婿殿? 飛空艇かなにかがこのドラゴンポートに来るんじゃないのかの? どうやって移動するつもりなんじゃ? 」
「ん? あれ? 言ってなかったでしたっけ? 転移ゲートで移動するんですよ。一瞬でオーストラリアのパース市の門の外に行けますよ」
「て、転移じゃと!? 婿殿はそんな魔法も使えるのか!? 」
「まあ!? おとぎ話の世界みたいですね」
「佐藤君とんでもないな……」
「転移だけなら夏海も使えますよ。まあ見ていてください。『ゲート』 」
俺は驚く多田一族の相手もほどほどに、ドラゴンポートに集まる全員の前でゲートの魔法を発動した。
すると金色に輝く大きな門が目の前に現れ、それを見た英作たちや多田一族にその門下生、そしてテレビ局の人たちは驚愕の表情を浮かべていた。
ゲートは前は白い光を放っていたんだけどな。神力を身に付けたせいか金色になり輝きも増した。もうこんだけ目立ったら隠し通すのは無理だ。
「なっ!? なっ、なっ……なんじゃこりゃー! 」
「じゅ、十兵衛……これは天界の門では? お迎えが来たのかもしれません……」
「お袋それは無い。親父にお迎えがくるなら地獄の門のはずだからな。しかしこれはとんでもないな……」
「神々しいわね……光希君は神様なんじゃないかと思ってしまうわ」
秋子さん半分正解だ。
「さあ、リムを先頭にどんどん進んでくれ! あっちに着いたらグリフォンと岩竜を集めておいてくれ! 」
「ハッ! では行くぞ! 前進! 」
俺はリムと以蔵たちが次々と門を潜っていくのと、続いて英作たちが恐る恐る潜っていくのを見送った。
多田一族は十兵衛さんが門の裏側に回り込み、ぎゃーぎゃー言っているところを夏海に掴まれて門の中に放り込まれていた。それを見た他の者たちはおとなしく門を潜っていった。
飛竜の卵の件の時に夏海が激怒して相当打ちのめしたらしいからな。まだその時の効果が継続しているようだ。上級ポーションを20個使ったと聞いて、どんなお仕置きをしたか詳しく聞くのをやめたよ。普段めったに怒らない子を怒らすと本当に怖いよな。
それから大型トラック並みの大きさの中継車が門を通るのを見送り、俺と恋人たちは最後に門を潜ったのだった。
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