第26話 ゴーレム






俺と恋人たちがゲートでパース市へ移動すると、街の東門の前に多くの市民と兵士たちが50台はあろうかというトラックの前におり、皆一様にゲートから出てくる俺たちを驚愕の表情で見ていた。

そして市民たちの先頭にいた市長とキャロルさんが、俺がゲートから出てくるのを見て慌てて駆け寄ってきた。


「ミ、ミスター・サトウ! お待ちしてました。こ、この門がキャロルの言っていた転移の門ですか……」


「二人ともおはよう。ああ、そうだ。俺はゲートと名付けている。それよりもう準備はいいのか? 」


「は、はい! こちらは準備ができております」


「サトウさん、街の周辺の魔物まで間引きしていただけるうえに、素材まで譲っていただけるなんて。もうなんとお礼を言っていいのか……」


「気にしなくていい。俺たちは訓練と称した狩猟祭りをしに来ただけだ。それとテレビ局を呼んで小遣い稼ぎだな。こっちにもメリットがあることだ。それにしてもこんなに早く集まってもらってもな……ちょっと予定が狂ったな」


「申し訳ありません。街の者たちが出迎えをしをしたいと……クイーンズランドと正統オーストラリアにいた者たちも無事帰ってこれたうえにこちらで仕事もすぐに見つかりましたし、夜にやむなく男のをしていた者たちも普通の仕事に就くことができました。街の皆が感謝の気持ちから門を出て出迎えをしようと集まってしまいまして……」


そうは言うけどみんな口を開けて門を見て驚いていて、とても出迎えるという雰囲気じゃなかったけどな。

まあ気持ちだけ受け取っておこう。


「ドラゴンに守られてる安心感と、ドラゴン便によって運ばれてくる資源の積み替えでみんな仕事が増えて喜んでるんです。船からの積み下ろしや採掘のお仕事も、今までとは比べものにならないほどの報酬を支払えるようになりました。食糧や嗜好品だってたくさん街に入ってくるようになりましたし、みんな生活がこれから良くなることを肌で実感しているんです。これもサトウさんたちのおかげです。本当にありがとうございました」


それはまあこの大陸の全ての輸入品をパース市が扱っているからな。俺たちは納税を免除されているとはいえ、あくまでもパース市の下請けの運送業者に過ぎない。

ロットネスト島の港の管理は、皇グループの海運会社が引き受けてくれてほぼ丸投げだしな。荷役の仕事は皇グループがパース市で募集して通常の日当を払っている。今まで搾取されていたから通常の日当が高給に思えるだけなんだろう。

食糧や嗜好品だって普通の量が市場に出回っているだけだ。今までがマイナスだったから、普通にするだけで喜べちゃうお得な市民だということだな。


「うちの会社がロットネスト島でビジネスをしようと動いたら、たまたまパース市がすぐ近くだったからその恩恵を授かれただけだ。それよりヤンとしっかり意思の疎通はできてるか? うちの会社とパース市の行政で連携しないと物流がうまく回らないからな。連絡は密に頼むよ? 」


「は、はい! 私がロットネスト島に連絡員として滞在してますので、ヤンとは意思の疎通はできてます」


おや? 呼び捨てかあ……ヤンの奴うまくやったな。しかもすぐ近くで二人は仕事してるのか。狙い通りだな。市長は微妙な顔をしているが、二人の邪魔したら適当な理由をつけて市長を長期で日本に呼ぶからな? お前は一度死んでるんだから口を出すなよ?


「ごほんっ! あ〜ミスター・サトウ。貿易の件はキャロルに任せてますので私は口を出しません。それよりもどういった形で我々は剥ぎ取りを行えばよいのでしょうか? 」


「ああ、今回は北と南の両方で狩りをすることにした。20kmずつ前進していくから、市長たちは俺たちが前進していなくなったところで剥ぎ取りを頼む。魔物は一ヶ所にまとまっているから楽にできるはずだ」


「み、南だけではなく北もですか!? しかも20kmも!? いや、20kmずつということはもっと先まで進むつもりですか? それに魔物を一ヶ所にとはいったいどうやって……」


「最終的には南に50kmいった場所にある森の先の川までだな。北も40kmほど先の川までだ。その先は荒野だしな。東のダーリントン鉱床の周りはこの間かなり狩ったから大丈夫だろう。まあ、あとは見てればわかる」


市長には間引きと言ってはいたが、実際はパース市の領土を広げるつもりだ。川までの魔物を一掃すれば防衛をしやすい。防御塔を建てて飛行系の魔物に注意しておけばいい。川の幅も広げるつもりだしな。


「き、北には初級と中級ダンジョンがあるので魔物の数はかなり多いと思うのですが……」


「そっちには十分な戦力を投入するから大丈夫だ。それよりお前たちの護衛を呼ぶからちょっと待ってろ」


「護衛ですか? こちらも防衛隊を動員してますので大丈夫だとは思うのですが……」


「奇襲でワームが襲ってくる可能性もある。飛行系の魔物もな。祭りで一般人の死者を出すわけにはいかないからな」


俺はそう言って恋人たちを連れ、200mほど街から離れた場所に移動した。


「ダーリン、いよいよ呼ぶのね? 」


「数が足りなくて冒険者連合に緊急依頼をすることになりましたが、やっと出番を与えられますね」


「一般人とか大丈夫かしら? パニックにならない? 」


「なあなあ、なにをするんだ? 」


「セルちゃん、この間主様が説明しましたよ? ロットネスト島で主様がやってたことですよ」


「あっ! リムが大興奮してたアレを呼ぶのか!? 」


「そういうことだ。んじゃ呼ぶぞ〜『ゲート』…… お前らこっちに来い! 」


俺は30m四方のゲートをロットネスト島に繋ぎ、ゲートに顔を突っ込んで待機していた者たちを呼び寄せた。


ズシーン ズシーン ズシーン


ズシーン ズシーン ズシーン



《 ひっ!? ゴ、ゴーレム! 》


《 た、ただのゴーレムじゃない! キ、キングゴーレムにアイアンゴーレムまでいるぞ! 》


《 第三隊 戦闘準備! 市民を門の中に! 》


「ミ、ミスター・サトウ? 」


「サトウさんこ、これは?」


「だから言ったろ? お前らの護衛だって。市長、コイツらは岩竜と同じ俺の支配下にある。人間には攻撃しないから兵士たちを落ち着かせろ」


俺は身を低くしながらも早足で恐る恐る近付いてきた市長とキャロルに、混乱する市民と防衛隊の人たちを落ち着かせるように言った。


「ハ、ハッ! 皆落ち着け! あのゴーレムはLight mareの支配下に置かれている! 岩竜やグリフォンと同じだ! 我々を守ってくれる存在だ! 」


まあ予想通り大騒ぎになったな。だから集まるのが早いって言ったんだよ。本当は市民がいないところで呼んで、市長に説明するつもりだったんだ。当日に説明すればいいかと今日まで市長に説明しておかなかった俺も悪いけどさ。


市長が市民に説明をしている間も、俺に呼ばれたゴーレムたちは次々とゲートから現れ、体長5mほどのアイアンゴーレムを先頭に10体ずつ100列縦隊でキングゴーレムが整列していった。体長5mのアイアンゴーレムの後ろに体長10mのキングゴーレムが並ぶとなかなか壮観だな。


アイアンゴーレムはBランクだ。魔法生物にしては賢いから、アイアンゴーレムを指揮官にして各10体のCランクのキングゴーレムを与えて運用させることにした。創造魔法で造ったから能力は1ランク下がるが、その質量と耐久性で戦闘にはそれほど支障は無いと判断した。通常のDランクゴーレムは一つの命令しか理解できないから造らなかった。俺の熟練度ではまだ無理なようだ。

それに比べてキングゴーレムは3つの命令を理解できるので、少しデカイがこの広大な大地なら問題ないだろうと運用することにした。


キングゴーレムにはゴーレムには人を襲わない。建物を壊さない。アイアンゴーレムの命令には従う。という命令をしてある。アイアンゴーレムにはこの他に、キングゴーレムをまとめて戦うことを細かく命令してある。それと俺の指定した者の命令を聞くようにとも。


《 む、む、婿殿! な、なんじゃそれは! キングゴーレムが1000体はおるぞ! アイアンゴーレムも100体はおる! どうやって手懐けたんじゃ! ワシに是非その方法を! 》


《 お、親父!落ち着け! 夏海が見てる! 今は近付くのはマズイって! 》


十兵衛さんたちが反応するのは俺も夏海も予想済みだ。騒ぐ十兵衛さんは、夏海が刀に手をかけてジッと見るだけでおとなしくなった。


《 カ、カメラ! カメラ回ってる? 》


《 あ……ああ……回している……》


《 こ、これが救世主様の力……転移にテイム……これが日本の守護神の力なのね…… 》


おお〜あの戦うレポーターとカメラマンはさすが元探索者だな。驚きはしているが、まったく腰が引けてない。


《 え、英作……やばい……アレに襲い掛かられたら俺たち死ぬ……》


《 な、なんだよあの軍団は……魔王軍かよ……》


《 そ、そうだね……僕たちじゃあのゴーレム一体でも厳しいね……》


《 だ、大丈夫よ、英作君……佐藤さんが支配下に置いているって……大丈夫よね? 》


《 はわわわわ……きゅ、救世主様は魔王だったよ……》


くっ……子供たちの言葉が痛い!

一応世間的には竜と同じようにテイムした的なことにしてある。竜にできてそれより下位の魔物にできないわけないよね? っていう感じだ。実際は知能の低い魔物には契約魔法は使えないからできないんだけどな。

まあそんなことは言わなきゃバレないし、世界は俺が魔物をテイムする能力があると思ってくれているからそれに乗っかればいい。


この世界では米国と日本が味方だ。ほかの国が俺たちを危険視しようが世界が俺たちを排除する動きにはもうならないだろう。大国はより自国に利益もたらしてくれる者を守るものだ。力で奪うことができないなら守るしかないからな。

あとは絶対に安全な土地を手に入れれば家族を作ることができる。


やはり指定した者のみ領域内に入ることのできる結界の塔の研究は必須だな。方舟の攻略済みフィールドに近いことができるのは魅力だ。


さて、コイツらを川の先に出すのがめんどくさかったからここで出したけど、このままでは北と南に行けないな。川を渡るための高速道路が遠いことを忘れてた。

めんどくさがったら余計にめんどくさいことになってしまった。


「ちょっと橋を造ってくるよ。蘭たちはエメラを呼んで来てくれ。あと凛は大月さんに魔法の手ほどきをしてやってくれ。彼女はもう魔力弾を撃てるからすぐに使い物になると思う」


「はい。エメラちゃんを呼んできます」


「わかったわ。あの子才能あるわよね。同じ火魔法使いとして教えてあげるわ」


「初心者だから初歩的なものを頼むよ」


俺は凛にそう言って街の南のなるべく川幅の狭いところまで転移した。そしてそこで地形操作と錬金魔法で幅20mの鉄の橋を作り、さらに硬化の魔法で強化した。

これならキングゴーレムが通っても大丈夫だろう。祭りが終わったら市長に残すか破棄するか聞いて、破棄するなら分解すればいいしな。

俺は簡易とはいえ自作の橋に満足し、続けて街の北にある川にも橋を架けていった。

そしてゴーレムのところへ戻り、川向こうで待機するように命令するのだった。


「アイアンゴーレム1号から100号! お前たちは250ずつに分かれて北と南の橋の向こうに展開しろ! 街の市民を最優先で守れ! 行けっ! 」


ズシーン ズシーン ズシーン ズシーン


アイアンゴーレムは俺の命令に頷き、それぞれが10体のキングゴーレムを引き連れ橋へと向かっていった。


《 ほ、本当に命令に従っている……》


《 な、なら、あのゴーレムたちが俺たちを守ってくれるってことか? 》


《 あれならどんな魔物が襲ってきても余裕じゃないか? いや、むしろ俺たちでこの辺りの魔物を掃討できるんじゃないか? 》


《 さすがに飛竜クラスが来たら無傷ってわけにはいかないだろう。スコーピオン系は毒を噴射してくるのもいるしな》


市民がなにやら話しているのが聞こえたが、まあそういうことだ。ワームとかDランク以下の魔物なら余裕だが、ヴェロキラプトルやら黒鬼馬に飛竜クラスなど中ボスクラスが来たら、せいぜいが時間稼ぎくらいしかできない。だがそれでいい。時間さえ稼げれば誰かが間に合うからな。


しかしアイアンゴーレムの魔石は足りたが、キングゴーレムの魔石が足りなくて冒険者連合で急ぎ集めるはめになってしまった。緊急依頼で相場の10倍で探索者たちに依頼して、日本中がゴーレム狩り祭りになったらしい。おかげで十分な数を集められた。


ゴーレムはいい。食事を必要としないから低コストで運用できる。魔力が切れそうになったらジッとしてれば回復するからな。回復には時間が掛かるがそこは数を揃えて運用すればいい。


うちの生体ゴーレムのオートマタたちは大喰らいだけどな。マリーたちは味覚が増えて色んな料理に挑戦したり、休みの日には中華街で食い倒れツアーをしている。交代で3人づつツアーをしているようで、中華街じゃよく髪の色を変える美人3姉妹として有名になっているらしい。12姉妹とは誰も気付いていないようだ。

顔が同じだからな。

それでも彼女たちはよく笑うようになった。とても幸せそうに……俺はそれが嬉しいんだ。

俺をこんなに幸せな気分にしてくれるマリーたちには感謝しないとな。


しかし最近は大浴場で背中を流してくれた後に、退出していいと言っても退出しなくなったのには悩む。

彼女たちさ、ずっと壁際で立って俺と恋人たちの大欲情を見てるんだよ。しかもたまにメモを取ってたりするんだ。浴場から出る時も蘭となにやら話しているし……なんだか嫌な予感がビンビンしている。



まあそれはそれとして、皆を配置につかせるかな。


第一回狩猟祭りの開幕だ。





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