第27話 狩猟祭り開幕
「誘導組は準備はいいな? それじゃあ出発しろ!」
「「「「「はっ! 」」」」
狩猟祭り開始まであと1時間となり、俺は魔誘香を使って魔物を誘導する役のダークエルフたちに出発するように指示をした。
魔物の誘導は創造魔法で創った岩竜10体で行う。ガンにはヤンが乗り北で、ガン子には静音が乗って南で狩りのサポートをする。テレビ局のカメラマンもこの二頭に同乗することになっている。
グリフォンにはシルフィを除いた恋人たちとリムがそれぞれ乗っている。夏海とセルシアとリムには北の狩りのサポートを頼んである。蘭と凛は南の狩りのサポートをする。
今回の配置は北にサキュバスたちと多田一族、南にダークエルフと英作たちに振り分けた。これはワームなどの厄介な魔物が北に多くいるからだ。
空を飛べるサキュバスと、奇襲を受けてもなんとかするであろう多田一族を配置しておけばまず大丈夫だろう。十兵衛さんと千歳さんに六郎さんはいつのまにかAランクになってたしな。いったい今までどんだけ竜狩りしたんだよって思ったよ。
そして俺の乗るエメラには、シルフィと戦うレポーターの天城さんにカメラマンの男性を乗せている。二人には座席と繋いだ命綱をしっかりと付けてある。ふたりとも元探索者だけあって体力もあるし身のこなしも軽い。戦うのではなく、ただ乗ってるだけなら落ちるようなことはないだろう。
「ド、ドラゴンの上に乗ってる……私はいまドラゴンの上に乗っています! 」
「ははは、うちのドラゴン遊覧飛行は子供連れ専用だからな。独身の人はなかなか乗る機会が無いよな。うちも大人だけでも乗せろと問い合わせが凄いから、今度夜の遊覧飛行を始めようと思ってるんだ」
Hero of the Dungeonのスタッフから獣人のスタッフを回してもらって、彼ら彼女らもだいぶドラゴンの扱いに慣れてきたしな。遊覧飛行を平日の夜に行うことも可能になった。
クオンは子供なら僕を称えてくれるからいいけど、リア充カップル乗せるの? ってブツブツ言ってたけどな。
あいつ色んな怪獣映画観たのとミラからの知識流入で、妙に人間臭いことを言うようになったんだよな。
「夜間飛行を? 本当ですか!? か、必ず乗りに行きます! スーちゃんに引っ張られる遊覧船も良かったのですが、やっぱり横浜の空を飛んでみたいですし」
「週末ならカップルだらけになりそうだけどな。彼氏を連れて一緒に乗るといいよ。これも何かの縁だしサービスを開始する前に貸切で乗せてやるよ」
「ええ!? か、彼氏はいないです……わ、わたし結構男勝りでパーティでも一番強かったので……」
ほほう……
「そうか。天城さんはとても魅力的だからすぐできるさ」
「み、魅力的ですか!? だ、黙ってじっとしていれば癒し系の美人とはよく言われますが……」
「魅力的な女性というのは顔だけじゃなくて、やりたい事をめいっぱい楽しんでやってる子なんだと思う。うちの凛なんて凄い美人だろ? 」
「は、はい! 身体中からオーラというか、満たされてるんだなって思います。きっと佐藤さんと恋人になれて幸せなんだろうなって」
「俺は彼女のやりたいことをさせてあげようと思っているだけさ。天城さんもその現場レポートの仕事を楽しんでるんだろ? そういう雰囲気が伝わってくるよ。だから魅力的だと言ったんだ」
ついでにその胸とお尻もだけど。ああ〜、ハーフってなんでこんなにボンキュッボンなんだろ。おとなしそうな見た目でムッチムチのボディとかたまんないな。いい匂いもするし……この子実はサキュバスなんじゃないか?
「は、はい! ダンジョンを攻略をする自衛隊や、冒険者の仕事を現場でレポートするのはとてもやり甲斐があります。最前線で日本のために戦う人たちを、国民の皆さんに紹介できるこの仕事を誇りに思っています」
「そうか。だから君は魅力的なんだな。大丈夫さ、君を狙っている男はたくさんいる。ただ、今は君の輝きに腰が引けてるだけだ。君に魅力が無いんじゃない。まわりの男が君以上に輝いていないだけだ」
「……い……います……輝いている男性がここに……」
「ん? なにか言ったか? 」
「い、いえ! な、なんでもないです! 」
「そうか、ならそろそろ出発しようか」
いや、聞こえてたけどね! ヤバイな……この世界に来てからずっとモテ期が終わらない。なんてサイコーな世界に送ってくれたんだ。今なら心から言える。リアラありがとう! 愛してる!
「まったく……コウはイケメンだからしかたないわね」
「え? イケメン……ですか? 」
おいっ! カメラマンのお前! お前みたいな髭もじゃよりはイケメンだよ! 失礼なやつだな!
「……そろそろ移動させるか。シルフィ声を」
「ええ、任せてちょうだい。シルフ、お願いね……って!だから頭を下げないでいいって言ってるでしょもう! ハイエルフになってからシルフがまるで私を女王のように扱うから調子が狂っちゃうわ! 」
「ははは、もう諦めて主従関係になったんだと受け入れろよ」
ハイエルフは世界樹の巫女だからな。世界樹を通して精霊神と交信できるらしい存在だから、特位精霊よりも上の存在なんだと思う。シルフが特位の上にいるらしい精霊王になったらわからんけど。
というか俺も半神になってからシルフィほどではないらしいが、薄っすらとシルフが見えるようになったんだよな。蘭も見えるらしいし、神力の影響なのかね? シルフはスッポンポンだからあまりジッとは見れないがとても美しい精霊だ。半透明だけど。
初めて見えた時は幽霊だと思ってビビったのはナイショだ。
「はぁ〜……ずっと対等な関係だったのに調子が狂うわ。もういいわよコウ」
「ありがとう……『聞け! Light mareの社員及びこの地に集う戦士たちよ! これより第一回狩猟祭りを開催する! もちろん狩りの対象は羊でもバッファローでもない! このオーストラリア大陸を我が物顔で闊歩する魔物どもだ! 教えてやれ! お前らは狩られる存在だと! 奪い取れ! その身に宿す経験値を! 戦士たちよ戦え! そして刈り取れ! この世界に必要のない魔物の命を! 』 」
《《《 おおおおおお! 》》》
『それぞれの狩場に移動する! 進め! 』
《《《 はっ! 》》》
俺の合図で皆が一斉に橋を渡り2kmほど先にある狩場へと駆け足で向かった。
恋人たちはグリフォンを羽ばたかせ各持ち場へと向かっていき、俺もエメラを上昇させて北と南の狩場の両方が見えるところまで高度を上げた。
「まだ時間があるな。このまま待機しておくか。そうだシルフィ! 戦闘中の皆の声を俺とシルフィに聞こえるようにしてくれ」
「ふふっ、それは面白そうね。特に夏海の家族はうちの狩りは初めてだものね。シルフ、お願いね」
「ほわぁ〜こんなに上昇したのに一切風を感じないなんて不思議……あっ! 野中さん、カメラの望遠でどこまで拾えます? 」
「う〜ん、細かい表情は無理だが誰が戦っているくらいはわかる。あとは岩竜に乗ってる新見と瀬田に任せておけば大丈夫だろう」
「わかりました。予定通り戦闘前に生放送開始できそうですね。それにしてもあんなに一ヶ所に固まってどうするのかしら? パーティに分かれて魔物を探しに行かなくていいのかな」
「見ていればわかるさ」
魔物の方からやってくると教えたいところだが、生放送でこの子が驚く姿を見てみたいから黙っておくか。
「はあ……そうですか……」
俺が意味深に言うと天城さんは首を傾げながらも頷いた。
それから少しして9時になり、エメラの上で生放送が始まった。彼女はそれはもうテンション高めでレポートを始めていた。
俺とシルフィも彼女に紹介をされいくつかの質問に答えていると、北と南に多数の魔物の群れの反応が俺の広範囲の探知に現れた。
「来たな……《 以蔵! 子供たちを頼むぞ! 》 」
《 はっ! 絶対に死なせはしません! 》
死ぬ経験はリアラの塔でできるからな。
今思えば多田一族はリアラの塔で天使たちにエグい殺され方をしてから、より一層頭がおかしくなったように思える。一度これでもかってくらい残忍な死に方をしたから、もう怖いものが無くなったのだろうか? それとも蘇生するときになにか大切なものが復元されなかったのだろうか?
いや、賢者の塔に行っていない門下生もあんなんだし関係ないか。特にあの明美って子は危ないよな。なんというか現実と2次元の区別がついてないように思える。さすがの俺もあの子にはドン引きだよ。
お? そろそろ地上にいる者たちの探知にも引っ掛かったか? ダークエルフとサキュバスたちが一斉に戦闘態勢に入ったな。多田一族はそれを見て驚いているな。いや、あの明美って子は地面に耳をつけている。
まあ正解なんだがいちいち漫画ネタっぽいんだよな。
「あ……ああ……な……なんですかアレ……」
「だ、大氾濫……いや……それ以上の規模の……」
「これが俺たちの狩りだ。魔誘香を使い魔物を誘き寄せまとめて討伐する。分散して探して討伐するより早いだろ? 」
「む、無茶です! 横浜ダンジョンの氾濫で現れた3000体を優に超えてます! 恐らく北と南を合わせれば万にも及ぶ魔物がいますよ!? それをたった700人かそこらで対応するなんて! は、早くドラゴンを呼び戻してブレスで! 」
「そんなことしたらオーバーキルで素材が駄目になるだろ? 大丈夫だ。上海の氾濫の時は10万を相手にした奴らだ。ほら、北の集団を見てみろ。シルフィ、ここにいる天城さんたちにも聞かせてやってくれ」
俺はさっきからうるさいほどに聞こえる多田一族の声を、天城さんとカメラマンにも聞こえるようにシルフィに頼んだ。
《 ……じゃ! 祭りじゃ祭りじゃ! カカカカカッ! こういうことか! ワシらにはくれなかった魔誘香を使ったのじゃな! やっぱり婿殿といると楽しいのう! 明美! 数はどれほどじゃ! 》
《 うーん、四、五千くらいですかね? ワーム系とスコーピオン系に牛人の音も聞こえます 》
《 マジかよ! 10倍の数のうえにワームまでいんのかよ! めんどくせえな〜 》
《 これは斬り甲斐があるわね。あなた! しっかり私を守りなさいよ!? 》
《 秋子さん、地上にいる魔物などたいしたことはありませんよ。十兵衛は車懸かりの陣を、私は鶴翼の陣で一匹も逃さず処理します 》
《 よっしゃやるか! 上海以来じゃのう! あの時よりは少ない数の魔物じゃが婿殿のことじゃ! こんなもんではなかろう。皆の者! 車懸かりの陣じゃ! 轢き殺してくれようぞ! カカカカカッ! 》
《 影心流は鶴翼の陣を! 明美! 突出してはいけませんよ? 》
《 はい師範! 》
「どうだ? ドラゴンが必要だと思うか? 」
「い、いえ! 必要なさそうですね……」
「南の子供たちは最後尾に配置をし、魔物がそれほどいかないようにしている。それにダークエルフ最強の男を側に置けているし、グリフォンに乗る蘭と凛も常に気に掛けている。ああ、ダークエルフたちは心配する必要はない。ここにいる者全てがBランク以上だ。強いぞ? 」
「全員が……ハッ!? み、みなさん! お聞きいただけましたでしょうか! 見てくださいあの魔物の群れを! なんとあの群れをたった…………」
「ははは、驚いたりレポートしたり大変だな」
「ふふっ、コウはこれが見たかったんじゃないの? 」
「バレてたか」
「ふふっ、意地悪ね」
俺は遠くに見える魔物の集団を指差し、カメラに向かって必死にレポートしている彼女をシルフィと見て笑いあった。
「接敵まであと二、三分か……シルフィ」
「ええ、シルフお願い」
「聞け! 魔物の数は北と南それぞれ5千ほどだ! これは戦闘ではない! ただの狩猟祭りだ! お前たちは一方的に狩る側の人間だ! 苦戦なんかするなよ? 2時間以内に一匹残らず殲滅しろ! 』
《《《 おおおおお! 》》》
《《《 うおおおおお! 》》》
魔物の集団はおよそ千体ずつ波状攻撃っぽく到着しそうだ。南の先頭は足の速いヴェロキラプトルだな。北は100体以上のサンドワームか……北は最初からそこそこのハードモードだな。まあアイツらなら喰われても中から飛び出してくるだろう。夏海にセルシアにリムたちもいるし放っておこう。
さて、2時間後には次の20km地点に移動しないとその先の魔物が来てしまう。方舟に比べればこんなもん遊びのようなもんだ。祭り気分でさっさと殲滅してもらうとするか。
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