第13話






 女性の叫び声がした方向に走りながら俺はそれらしき方向に魔力探知をした。


「ん〜女性が襲われてるとしたらこの5人位固まってるやつかな? ん? 少し離れたとこで2つの魔力が、もう2つの小さい魔力のとこから離れて5人のとこに向かっているな。おいおい……小さい方の魔力がどんどん弱っていってるけどなんだ? まさか子供か!?」


 俺はまさかまさかと思いながらその小さな魔力がある方へ走った。

 そこには男の子と女の子が腹部を真っ赤に染めて倒れていた。


「なんだこれは! なんでこんな小さな子供が! 蘭! 手当を! 上級ポーションなら間に合うはずだ! 俺は男の子を手当する!」


「酷い……は、はいっ!」


 あまりの酷い光景に一瞬固まっていた蘭がアイテムポーチから上級ポーションを取り出し、女の子の腹部に少し掛けてから飲ませるのを横目に俺も男の子に同じようにした。

 ポーションを飲ませながら俺は久々に腹の底から怒りが湧いた。誰だこれをやったのは! 誰がこんな酷い事を! さっきの2人か? こんな抵抗する力も無い子供に!

 俺が止めどなく溢れる怒りに我を忘れそうになった時、先程ここを離れた2人が合流して7人になった場所から女性の悲痛な叫びが聞こえた。


「蘭! ここは任せた! 上級ポーションは骨折も即治せるし造血効果もあるから大丈夫だと思うが、まだ子供だよく見ていてくれ」


「はい!」


 悲しそうに子供を撫でている蘭にここは任せ、ここから見える7つの魔力反応がある場所の建物の上に転移した。

 転移した場所から下を見るとやはりダンジョン入口で見た眼帯の女性とブロンドの女性が男2人にそれぞれ押さえつけられており、眼帯の女性は右手首から先が無く女性の横に切り離された手首が無残に転がっていた。


 そしてその2人を剣を持った男がニヤニヤした顔で見ていた。


 プツンッ!


 コイツらだ……コイツらがやったんだアレをコイツらが!


 俺は空間魔法の『遮音』をあたり一帯にかけてから押さえつけられているブロンドの女の子の後ろに転移し、使い勝手の良い初級闇魔法の闇刃を魔力を大目に注ぎ込み二枚放った。


『闇刃』


 俺が放った1枚目の闇の刃はまるで死神の鎌のようにブロンドの女性を押さえつけている男2人の首を刎ね、もう一枚はその横をカーブさせその先にいる眼帯の女性を抑えている男2人の首を横から刎ねた上に剣を持った男の両脚も切断した。


「ガアァァァ!」


「もう大丈夫だ。よく耐えたな」


 俺は女性二人にそう言い、両脚を切断され痛みに叫び転げ回っている男を無視して目の前のブロンドの子と眼帯の女性に覆い被さっている死体を次々と蹴飛ばした。そして眼帯の女性を抱えてブロンドの子の所へと運び、そっと横たわらせた。


『女神の守り』


 俺は魔法物理両方から絶対的な守りをする上級結界魔法を2人の周囲に掛けた。


「さて、子供達を刺したのはお前の指示だな?」


 俺は転がりながら両脚にポーションをかけている男に聞いた。


「……」


「「なっ!?」」


 後ろの女性2人が驚愕の声をあげたのが聞こえた。やはり子供を利用されてこんな窮地に立たされたのか、騙し不意打ちって所か。


「沈黙は肯定ってことだよなぁ! この屑野郎!」


「グボァッ……クソックソッ!」


「あの子を殺したのですか!!」


「ああ大丈夫、俺ともう一人女性がいるんだが俺達2人でポーションを飲ませたから死んではいない。今その女性がその子をみている」


 俺がそう言うと二人は安堵したようなまだ不安なような顔をしていた。

 優しい子達だな。自分達も酷い目にあっているというのに……その優しさを利用したコイツらは人間じゃねえな。


「さて、ゴブリン野郎! 覚悟はできてるんだろうな」


「グッ……クッ……貴様! よくも! 『土槍』」


 ゴブリンは中級の土魔法を放ち、2本の土の槍が勢いよく向かってきて俺の胸元に当たった。


「危ない!」


「ククク……ざまあ……み……!?」


 後ろから多分ブロンドの子の声だろう俺を心配する声が聞こえ、ゴブリンは自分の魔法が当たり勝ち誇っていたが途中で異変に気付いたようだ。


「なっ!? 無傷だと?」


「「え!?」」


「なんだ? 知らないのか? 自分の魔力と魔法攻撃ランクより相手の魔法防御が3ランク上だと魔法をレジストできるんだよ」


「そんな事知っている! 知っているからなぜ……だと……」


「だからそういう事なんだよゴブリン」


 俺は先程見たこの陰気臭いゴブリンのステータスを思い出しながら言う。


 狩谷 修二


 職業: 魔法剣士


 体力:C


 魔力:B


 物攻撃:C


 魔攻撃:B


 物防御:C


 魔防御:B


 素早さ:D


 器用さ:C


 運:E


 取得魔法:中級土魔法


 この世界じゃそこそこ良いステータスなんだろうが俺と比べれば3ランクどころか4ランク下だ、物理ならともかく魔法でダメージを食らうはずがない。

 まあ物理で来ても結界張るだけだけどな。


 さて、とっとと心折るか。


『闇刃』


 俺は闇刃を放ちゴブリンの右手首を切り飛ばした。


「ギャアア!! い、痛い、痛い……やめてくれ、もうやめてくれ」


「そうか……なら何故子供達と彼女を襲ったのか言え!さっき依頼だとか言ってたよな」


「……」


「なら次は左手だ『闇 刃』」


「ま、待ってくれ! 話す! 話す!」


「で?」


「そ、そうだ、そこの多田っていう眼帯女の腕を切り落として、隣の皇て女を攫ってくる依頼だったんだ」


「誰からだ?」


「……」


『闇刃』


「言う! 言います! 関根 那津男ってやつだ! ここら一帯のマフィアのボスだ!」


「その関根ってやつはなんでそんな依頼出したんだ? 腕を切り落とせなんていちいち言うって事は怨恨か?」


「昔そこの皇って女を犯そうとした時に、眼帯女に死ぬほど殴られたからだって他の奴から聞いた」


「「あっ! アイツだ!」」


 どうやら思い当たる事があるようだ。


「で? そいつはどこにいる?」


「ふ、埠頭の11号倉庫を丸ごと貸し切ってそこを根城にしている」


「いついるんだ?」


「今日ならいる。攫った女が来るのを待ってる。ほ、他の日は知らない」


「そうかご苦労さん」


 俺はそう言って無詠唱の闇刃で男の首を刎ねた。


「「うっ……」」


 あ、しまった!異世界じゃ当たり前だから忘れてたけどここ現代なんだよな、失敗した。


「あ〜ごめん女の子の前で残酷だったな。すまなかった」


 俺は後ろを振り向いて頭を下げて謝った。


「い、いえ、命と女の尊厳を守って頂いたので……こ、こちらこそ助けて頂いてありがとうございました!」


「あ、いいよいいよそのままの姿勢で。無理するな」


「う、グッ……すみません、助けて頂いてありがとうございました」


 皇さんがガバッと立ち上がって頭を下げ、多田さんも立ち上がろうとしたが腕が痛むらしく俺が言うとそのままの姿勢で頭を下げていた。


「言い訳になるけど子供2人が刺されていてね。頭に血が上っちゃったんだ」


「いえ、私も殺そうと思ってましたから。夏海さんだけでなく子供にもこんな酷い事を……」


「お嬢様……すみません私のせいで……役立たずでもう本当に……もう……目も、腕も失った私はもう……うっ……うっ……」


「バカッ! そんなこと言わないでよ! 夏海さんがいたから今の私があるの! お姉ちゃんみたいにいつも支えて助けてくれたから……だからそんなこと・…役立たずだなんてそんなこと……言わないでよ……ひっく……ひっく」


 2人ともお互いを思いやっていてほんと見た目だけじゃなく心も美しい人達だな……しかし2人とも泣いちゃってどうすんだよ俺。

 女性が泣いてる時に気の利いた言葉を掛けれるほど俺は経験豊富なはずもなく、それでもなんとか顔は優しく2人を見守ってる風を装っていたが内心どうしようどうしようとオロオロしていた。

 が、いつまでもそうしている訳にもいかないので治療をと話しかけた。


「多田さんだったかな? 手の治療をしよう」


 俺がゴブリンの相手をしている間に恐らくポーションを使ったのだろう。止血はされていたが早く手をくっつけないといけないからな。


「ありがとうございます。ですがもう止血はしましたので」


「はい、先程中級ポーションを掛けてから飲ませましたから」


「いや、だから切断された手をくっつけないと」


「「え?」」


「え?」


 あ、あれ? 俺なんか間違えた?


 いや、欠損部位は中級じゃくっつかないよな? 部位が残ってるなら普通は上級ポーションでくっつけるしか無いだろうそんなの常識だと思うんだけど?

 部位が燃やされて無いとかだったら俺の時魔法か最上級ポーションいわゆるエリクサーでしか生えてこないが今回は手首があるし……うん間違えてない。


「そ、それは上級ポーションをお持ちという事ですか?」


「ん? あるよ?」


 恐る恐る皇さんが聞いてきたから答えたらいきなり2人が土下座した。多田さんなんか土下座というかバランスとれないから地面に顔をつけていて、俺はあまりの事にビックリしていた。


「「売ってくださいお願いします」」


「え? え? や、やめてくれよ! そんな大した事じゃないだろ? ささ、頭上げて! 落ち着かないから頼むよ」


「大した事じゃ無いって……」


「上級ポーションは滅多に出回らない上に、市場に出ても500万以上値が付くくらい貴重で手に入らないのに……」


「ええ!? そうなの? まあ、あるんだから使ってよ。子供たちにも使ったしさ。2本が3本になったって同じだよ。ささ、遠慮せず腕を出して、ね? ほらほら」


 2人が子供たちにも……とか3本が大した事じゃないとか……などブツブツ言っているが無視して多田さんの腕を取り、腰のポーチから出した風にアイテムボックスから麻痺蛾の鱗粉を取り出し切断部分に掛け麻酔代わりにする。

 少し待って次にアイテムボックスに入れておいた多田さんの右手を取り出して多田さんの腕につける。


「皇さん、ここをこうして持っていてくれますか?」


「あ、はい!」


「じゃあ掛けますね〜少しずつ少しずつ……くっつけ〜くっつけ〜……よしっ! じゃあ多田さん残りを飲んで」


「は、はい」


 そうして多田さんに半分ほど飲んでもらって少しすると見事にくっついた。

 麻痺蛾の鱗粉は吸い続けなければすぐ効果が消えるのでもうそろそろ動くはずだ。


「どう? 動かしてみて」


「はい……あっ! 動く……動きます! あ、ああ、あああああ」


「ほ、ホントに!? 良かった……良かった……うわぁぁぁん」


 あ、いや……またどうしよう……取り敢えず子供たちを見に行こう……うんそうしよう


 しかし上級ポーションがそこまで出回っていないとは……確かにダンジョンの宝箱からのドロップだけだと上級ダンジョンの下層で稀に出る位だから、貴重は貴重だけど上級錬金魔法で作れるのにな。

 あ〜レシピを知らない可能性もあるか。こっちに来た異世界人は冒険者ばかりだと言ってたし、流石に上級のレシピまでは知らない可能性もあるな。

 よく考えたら上級錬金魔法書だって、ゴーレム系の上級ダンジョン最下層から稀に出る位だしな。40年で上級ダンジョンを2つしか攻略出来てないなら持って無い可能性もあるな。


 抱き合って泣きじゃくる2人からそっと逃げ……じゃなくて離れ、俺はそんな事をつらつらと考えながら蘭と子供たちがいる場所に行くのだった。



「蘭、どうだ?」


「はい、今は落ち着いてます」


「そうか良かった〜」


「発見があと少し遅いか、上級ポーションじゃなかったら間に合わない所でした」


「クソッ……あのゴブリン共は全員始末したよ」


「当然の報いですね。足りないくらいです」


「そうだな、奴等のボスにも責任取ってもらわないとな」


「蘭も行きます」


「ああ」


 蘭はかなり怒ってるな……子供好きだからな。これは俺の出番無さそうだな。


「よし! 蘭も幻術を周囲に掛けてくれたみたいだけど、人がいつ迷い込んで来るかわからないから取り敢えず場所を移すか」


「わかりました」


 俺はタオルケットに包まれた子供2人を両腕に抱え、蘭は子供達の荷物を持って皇さん達がいる場所に戻った。

 皇さん達2人は少し落ち着いたのかお互いの手を繋ぎながら立ってこちらを見ていた。


「子供たちは無事ですか?」


「ああ、大事は無いよ眠っているだけだ」


「良かった……」


「取り敢えず場所を移そうと思う。子供達が目を覚ましてこの惨状を見たらショックだろうからな」


「そうですねでは私の車を停めている場所に行きましょう」


「ああ、案内してくれ」


 俺達は多田さんの後を付いて駐車場まで歩いてきた。

 取り敢えず子供たちを後部座席に寝かせて子供達の荷物を置こうとした時に、名札?のようなものが付いてるのに気付いた。


「探索者協会 希望園?」


「あ、それは探索者協会が運営している亡くなった探索者の家族で身寄りの無い子供を支援している施設です」


「なるほどこの子達は孤児か」


「恐らくそうですね。それでしたら私がこのまま預りこの子達を送って行きます」


「ああ、そうしてくれると助かるよ」


 俺は子供達の荷物を車に積み多田さんに任せる事にした。


「あの! 今日は本当に助けて頂いてありがとうございました! このお礼は後日必ずします!」


「助けて頂いた上に、私の右手まで繋げていただき本当にありがとうございました。お金で買える物じゃないですがせめてお代は必ずお支払いします」


 皇さんと多田さんがそう言って頭を下げた。


「たまたま俺達が通りかかって気付いただけで貴女達は運が良かった。ただそれだけだ。大した事じゃないよお礼の言葉だけで十分さ」


「そんな……せ、せめてお名前を教えてください」


 あ〜そう言えば名乗ってなかったか。


「俺は倉木 光希、隣の子は恋人の蘭だ」


「蘭です」


「皇 凛です」


「多田 夏海です」


 俺達は遅い自己紹介をした後に引き留める彼女達に子供たちを早く返してあげないととなだめ、半ば強引に別れた。

 その後俺と蘭は現場に戻り死体をアイテムボックスに入れた後に、地面の血を洗い流す為に手っ取り早く上級水魔法を放った。


『水龍牙』


 かなり弱めに放った龍の姿をした水の塊は渦を巻きながら地面を洗浄して消えた。


「これでよしっと! さて、蘭さんや」


「はい主様」


「この街に闇ギルドみたいなのはいらないと思うんだけどどう思う?」


「はい、必要ありませんね」


「じゃあご退場してもらいましょうか」


「退場して頂きましょう」


 そう言って俺達は埠頭へと向かうのだった。





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