第14話
ーー 埠頭11号倉庫前 蘭 ーー
「俺はマフィアのアジトの様子を見てくるから蘭はここで待っていてくれ」
「はい、わかりました主様」
そう言い私を軽く抱きしめてくれてから主様は倉庫へと向かって行きました。
待っている間に私は先程の子供達の事を思い浮かべました。あの子達は無事お家に帰れたでしょうか……
小さな子が傷付いている姿は本当に悲しかったです。
今回の経緯をここに来る途中色々と聞きましたが、皇さんと多田さんは助かって本当に良かったと思いました。逆恨みであんな卑劣で酷い事をするとは……本当に許せません。
色々理由付けしてここに来たのもきっと皇さんと多田さんを助ける為なのでしょうね。
主様は優しいですから。
私も主様に助けてもらえなかったらこの世には存在していなかったので、そんな主様がやろうとする事には喜んで付いて行きます。だってその先には私のように助けを求めている人が必ずいるのですから。
私が初めて主様と出会ったのは13年前、私がまだ5歳の火狐だった頃です。
魔王軍に群れが襲われ命からがら逃げた先でも別の魔獣に襲われ、もうダメだと思った時に助けてくれたのが主様です。
助けてくれただけではなく、私のようなどこにでもいる大して強くない火狐のしかも子供と従魔契約をして私に帰る場所を与えてくれました。私はこの方に恩を返したい、そして役に立ちたい一心で必死に強くなる努力をしました。
途中、主様にとっても私にとっても一生忘れられないとても辛い出来事もありました。そうして私が挫ける度に主様は『別に強くならなくていい、この世界に急に呼ばれ独りぼっちだった俺にとって蘭はただそこにいるだけで心の支えになってくれているんだ。蘭は既にもの凄く役に立っているんだよ? だから無理しなくていい』そう言ってくれるのです。
その言葉が嬉しくて嬉しくて、でもそんな主様が大好きだから私は余計頑張りました。
大好きな人に守られるだけでは無く隣に立ち共に戦いたかったのです。
火狐の女は普段は大人しいですが、一度火が付くと炎のようにとても激しいんですよ?
勇者様の従魔という事で補正があったのか、その後3度の進化を果たし13歳となった頃には好きが愛に変わりました。私は主様に愛されたくて主様の群れに入りたくて、夜に人化し主様のベッドに忍びこみました。
ところが主様は子供が無理するなと鼻で笑ったのです! は・な・で!
確かにまだ成長途中でしたが私は怒りました!
火狐に火を付けた事を後悔させてあげますと心に誓い、それから時間さえあればギルドの受付嬢や市場のお母様方や娼館のお姉様達に教えを乞い、主様を私に夢中にさせるべく勉強をしました。
そして3年後、とうとう主様と交わうことに成功し群れに加わることができたのです。
それからは今まで以上に主様を愛するようになり、主様も私を愛してくれました。
ところが私は主様を愛せば愛するほどに、離れたくないと思えば思うほどに途方も無い絶望感が増していったのです。
神狐になり寿命が何千年と延びてしまったから……
あれだけ主様の役に立ちたい強くなりたいと努力して、進化した事が私を苦しめたのです。
主様は人族。魔力が高くとも例え勇者様でもそんなに長く生きれません。
200年生きたとしてもその後ずっと私は独りぼっち……
耐えられない……主様が死ぬときは私も一緒に死のう。
そんな私の覚悟に主様が気付いたのでしょうか?
突然あちらの世界の、私は王国のあったアトラン大陸しか知りませんが、その大陸で最も難易度の高い古代ダンジョンを踏破すると言いだしたのです。
古代ダンジョンは別名神の試練ダンジョンとも言われ、通常の最上級ダンジョンより遥かに難易度が高いのです。
それだけに古代ダンジョンからはその難易度に見合う程の素材やアイテム、そして古代魔法書を手に入れることができます。
そうです古代魔法です。
主様は古代ダンジョンにあると言われている時の魔法書を手に入れる為、ダンジョンを踏破しました。
私の為に、私が寂しい想いをしないように不老になれるその魔法を手に入れてくれました。
私はその時私の全てを、そう血の一滴まで主様に捧げようと心に誓いました。
そして古代ダンジョンに比べれば楽に魔王を倒し、2人で主様のいた元の世界に来たのです。
「ニホンという国は主様が言ってた内容と若干違いますが、とても楽しい国ですね」
魔獣がいないと聞いていましたがいましたしね。主様はここじゃないと怒っていましたがここはニホンですし、馬がいないのに進むくるま? でしたかそれも主様が言った通りありました。
蘭には何が違うのかわかりません。
あっ! 主様から念話が来ました!
私は急ぎ主様が待つ場所へ駆けていくのでした。
ーー 埠頭11号倉庫前 倉木(佐藤) 光希 ーー
俺は倉庫前から300メートル程離れた場所に蘭に待っていてもらい、マフィアのボスがいるか偵察に来た。
『探知』
俺は倉庫に向かいながら空間魔法の探知を使い倉庫内の魔力反応を窺う。
「一階は二階への階段前に3人、二階は12人か」
「階段前の3人は警備要員か、武器を持ってないところを見ると拳銃かな?」
階段前には手ぶらで固まって話をしている作業着姿の3人の男が見える。
『遮音』
俺はアイテムボックスからナイフを取り出し、二階の事務所に気付かれないよう男達の周囲に遮音魔法を放ち男達の後ろの階段に転移した。
『雷弾』
「「ギャッ!」」
俺は弱めに魔法を放ち2人の男に当て意識を奪った後に、もう1人の男の後ろからナイフを首に回しあてた。
「なっ!?」
「黙れ! 質問に答えろ余計な事を言えば殺す」
男は仲間2人がいきなり倒れたと思ったら自身の首にナイフをあてられ動揺していたが、俺の言葉に両手を挙げて答えた。
「ここのボスの関根という男は二階にいるな?」
「い、いる」
「二階にいるのは全員仲間か?」
「そ、そうだ」
「ありがとう」
「ガッ!」
俺はナイフの柄で後頭部殴り気絶させた。
『蘭来てくれ』
俺は念話で蘭を呼ぶと一瞬で蘭が駆けてきた。
蘭を見ると戦闘用に魔力で作った服に着替えていたが……
「おお〜チャイナドレス」
「お店で着てた人を主様が見ていたので」
蘭は髪をアップにまとめ、胸の下辺りから足元にかけて銀色の龍の刺繍がされている紫のチャイナドレスを着ていた。左肩の下に銀色の薔薇の花のブローチを付け、深いスリットの入ったところから白く艶かしい太ももを出しながら少し恥ずかしそうに俺を見てそう言った。
た、確かに蘭に似合いそうだなと中華料理店でチャイナドレスの店員さん見てたけど……うん、いいな。
花魁姿も良かったがこっちの方が好みだな。
「そ、そうかありがとう。とてもよく似合うよ今度買ってあげよう」
「はい! 嬉しいです」
多分俺は今かなりエロい顔して言ってるんだろうな…
「さあ、二階に12人いる。俺は奥のボスっぽい奴をやるから蘭はその他の奴をなるべく殺さずに頼む」
「はい、わかりました」
殺さないのは完全に潰してしまうとまた他の組織が現れるからだ。
その都度潰して回るより生かしてコントロールした方がいい。
俺はミスリルの剣を取り出し蘭は扇を二つ両手に持った。 この扇は『魔鉄扇』といい近接職の蘭が人化した状態で扱う武器として俺と蘭で作ったものだ。
魔鉄は重量はミスリルより少し重いがオリハルコン並に硬く魔力を良く通す。貴重な魔鉄をふんだんに使って作ったこの扇は、全体的に黒に近い色だが魔力を通すと蒼く発光しとても美しいので蘭も特に気に入って使っている武器だ。素材集めは本当に大変だったけど。
「じゃあ蘭、ドアを吹っ飛ばしてくれ」
「はい!『狐月炎弾』」
ドガァン!!
俺は蘭に二階のドアを吹っ飛ばしてもらい突入した。
事務所内に入るとドアの前に2人倒れており、他の者達は一様に惚けた面で入ってきた俺を見ていた。
「だ、誰だてめえはここをどこだと思っ……グボァッ!」
「しゅ、襲撃だ……ギャッ!」
俺は一番奥にいる大柄で短髪のいかにも悪そうな顔をしたそいつ向かってゆっくり歩いていく。
蘭は俺の背後を守るように魔鉄扇を三下達に振るっていた。
バンバン!
カン!キン!
誰かが銃を発砲したようだが蘭の扇に弾かれる。当たっても別にダメージ無いだろうけど、痛いは痛そうだな。ゆっくり歩きながら奥に座っている男を鑑定する。
関根 那津男
職業: 剣士
体力:B
魔力:E
物攻撃:B
魔攻撃:E
物防御:B
魔防御:D
素早さ:C
器用さ:D
運:E
取得魔法:
ボスやってるだけあってBランクか、探索者やってたんだっけか。
三下は蘭に任せ俺は剣を構えて立っているコイツと対峙する。
「お前が関根か? 随分ふざけたマネしてくれたな」
「誰だテメー! ふざけたマネしてんのは今のお前らだろ!」
「子供を使い捨てに女攫うとか今どきオークでもやらねーぞ」
「なっ!? なぜそれを! お前ら皇の仲間か!」
「いんや違うよ?」
「だったらなんの為に襲撃なんかしてきやがった!」
「コイツらが色々教えてくれたんだよ」
俺は裏路地で倒した奴らの死体を出した。
「か、狩谷!」
「そいつが女攫う為に利用した子供を刺した、それにムカついて俺がお前らを潰しにきたOK?」
「クソッ! 失敗したのか!」
「そういう事、じゃあ理由が分かったところで右腕からもらうよ」
奴から見たら消えたと思える速度で一瞬で間合いを詰め、俺が持つミスリルの剣を奴が構えている剣に下からすくい上げるように当て、その勢いで腕が上がった所で剣を切り返し真下へと叩きつけ奴の右腕を切り飛ばした。
「グァァァァァ!腕が……腕がぁぁぁ……」
「お前が腕を切り落とすよう指示した多田って子も、同じ痛みを感じてたんだよ」
関根は左手で肘から下が無くなった場所を押さえ、両膝を地につけてうずくまっていた。
「グッ……な、なんで俺がこんな……お前はカンケーねーだろ! クソが!」
「だからさっき言ったろ?」
「なにがだよ!!」
「ムカついたから潰しに来たってさ」
そう言って俺は顔を上げてこちらを睨みつける関根の心臓に剣を突き刺した
「ガァッ!」
「次生まれ変わる時はせめてオーク程度にはなるんだな」
「さて、蘭お疲れさん」
「主様、殺さずに無力化しました」
「ああ、手間掛けさせたな」
「いえ」
関根にトドメを刺した俺は後ろを振り返り、三下達が全員倒れうめいているのを確認して蘭を労った。
俺は一番手前で腹を押さえてうめいてる眼鏡を掛けた優男を蹴飛ばし、この組織のナンバーツーは誰かと聞いたらこの眼鏡優男だという。チッ……イケメンかよ。
「オイッ! お前のボスは死んだ、仇をとってみるか?」
「……いえ」
「だったら今後お前がボスになってコイツらをまとめろ」
「ハッ!」
「名は?」
「沖田です」
「今後探索者と一般人には手を出すな、ここにいない奴らにも徹底させろ」
「わかりました。徹底させます」
「オイッ! 寝ているお前ら文句あるか?」
俺はそう言って雷矢を30本頭上に出した。
「「「「「ありませんボスッ!!!! 」」」」
「俺はボスじゃねえ!」
「「「「す、すいません!!!」」」」
「ったく……沖田、そこに転がっている関根と狩谷を人通りのありそうな場所に捨ててけ」
「ハッ!」
「蘭行くぞ」
「はいっ!」
俺達は背後から聞こえるお疲れ様でした! という声を聞かなかった事にして事務所を出て、近くの公園の茂みに転移しホテルへと向かって歩いた。
「はあ〜日本に戻って来てもアトランでやってた事とあんま変わらないな」
「ふふふ、主様はいつだって誰かの為に動きその力を振るわれています。私も多田さんも皇さんもそれで救われました。蘭はそんな主様が大好きです」
「んんっ……まあ、蘭に好かれるならこのままでいいか」
「うふふ……照れた主様も大好きです」
「ほっとけ!」
なんだかのんびり悠々自適に過ごそうとしていたのに結局アトランでやっていた事と変わらず色々と首を突っ込んでしまい地味に凹んでいたが、蘭がそんな俺が好きだと言ってくれるならまあいいかと思い鬱な気分がすっかり霧散した単純な俺だった。
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