第12話
シーフード料理を堪能した俺達は、蘭が一度行ってみたいという映画観に行くことにした。
アクション物で3D眼鏡を掛けて観るタイプのもだったが、リアルな画像に蘭がやたらとうわぁ〜とか驚いたり両拳を握りしめながらフンッフンッとか言ってたのが面白かった。
映画を観終わり次はゲームセンターへ行き、蘭でもできるようなコイン落としをするメダルゲームをして遊んだりした。
そうこうしてる内に日も暮れてきたので夕食をと中華街に行き、蘭が目を付けていた刀削麺を食べれるお店に入った。店員さんの勧めで料理人がガラス越しに大きな包丁で麺を削っているのが見える席に座り、2人で見て楽しみながら食べた。
このラーメンは蘭のお気に入りに追加されたそうだ。
店を出て軽くお酒でも飲みに行こうかと昨日ネットで探しておいたお店が裏路地にあるのだが、非常に分かりにくい場所で軽く迷子になってしまった。
もう行くのを諦めてスイートルームを予約したホテルに行こうかと表通りに出ようとした所、短い女性のうめき声と『夏海さん!』という叫び声が聞こえた。俺は蘭と顔を見合わせて急ぎ声のする方に向かう事にした。
ーー 横浜上級ダンジョン出口 皇 凛 ーー
「お疲れ様でした」
「お疲れ様」
「お疲れ様。凛ちゃんなっちゃん」
「おつ〜」
「また2日後にね」
私が挨拶をすると自衛隊の皆が挨拶を返してくれた。
今回は間引きがメインなので魔石だけを取り、とにかく数をこなしたからクタクタだわ。
盾職のパーティリーダーの西条さんが魔石を管理してるから後は任せて、私と夏海さんはお腹ペコペコなので何を食べるか話し合った。その結果去年行った中華街のお店に行くことにした。
他の女の子達は駐屯地に戻って報告があるようで、一緒に来れないのを残念がってた。
公務員て大変よね。
私達はさっさと協会の更衣室で着替え、夏海さんが運転する車に乗り中華街へ向かうのだった。
「あ〜疲れたお腹減った〜」
「今日はハードでしたね。相変わらず西条さんの盾は凄かったですよね、一体も後ろに通さなかったですし」
「ホントよね。流石にオーガ6体来た時はマズイ! と思ったけど全部受け止めて弾き返して時間稼いでくれたから助かったわ」
「あれで無口じゃなかったらもうちょっと空気が軽くなるんですけどね」
「あはは……そうね。自衛隊の女の子達が話し出すと『気を抜くな』って言うのがね。まあ、人の身体ジロジロ見る男よりは頼りになるし仕事しやすいけど」
「ふふふ、自衛隊も女の子ばかりのパーティに入れる男性ですから考えた末の人選なんでしょうね」
「私としてはありがたいかな。贅沢言ったらキリ無いし」
今日はなかなかハードで魔力ももう空っからよ。もうちょっと余裕持って間引きしたかったけど、あの真面目を絵に描いたようリーダーじゃ望むべくも無いわね。明後日の探索の時は少し言おうかしら。
そうやって今日の探索を振り返っていると目的地に着き、たまたま空いてた裏路地の駐車場からお店に向かい2人で美味しい中華料理を堪能した。
もう食べれないってフラフラしながら店を出て駐車場に向かって歩いていると、小さな男の子が走り寄って来た。
「お姉ちゃん達助けて! 妹が怪我しちゃって動けないんだ」
「ええ!? どこにいるの? 早く行かなきゃ! 案内して!」
これは大変だ! 救急車を呼んでたらもしかしたら間に合わないかも。中級ポーションを持ってるし、私が行った方が確実に間に合うわ。私は同じ考えに至ったであろう夏海さんとアイコンタクトし、駆け足で進む男の子の後を追いかけた。
男の子は裏路地の角を曲がった所で立ち止まっていた。私達は男の子の側に近いたけど、そこには怪我をしているでかろう妹さんの姿は無かった。男の子にどうしたのか聞こうと思った時、私は突然背後から何者かに両腕を取られ地面に組み伏せられた。
「きゃっ! 痛っ!」
「なっ!」
私より少し前にいた夏海さんが恐らく二人掛かりであろう男達に組み伏せられている私を振り返り、驚きつつも武器を出そうとアイテムポーチに手を掛けた。そして夏海さんが男の子に背を向けた瞬間、男の子の横の通路から剣を振りかぶった男がそのまま……
夏海さんの右手首を切り飛ばした
「グッ」
「夏海さん!!!」
完全なる不意打ちの出来事で私は何がなんだか混乱してただ叫ぶしかできなかった。
夏海さんを斬った男はニヤニヤして男の子に顎で後ろに行けと促しばかりに促した。
「妹はこの先にいるご苦労さん」
男はそうニヤついた顔で言っていた。
男の子は泣きそうな顔でこっちを見て
「ごめんなさい」
そう言って走って行った。
ああ、そうか……この子も妹を人質にとられて……この卑劣な奴等に……こんな、こんなやり方で夏海さんを!右目を失ってから血の滲むような努力をしてまた戦えるようになった夏海さんの利き手を!
こんな……こんな奴らが! 殺してやる……殺してやる!
きっと今の私は怒りに震え般若のような顔をしているのだろう。でもいい、これが人に対しての殺意……こんなもんか、ゴブリンと変わらないじゃないかこんな奴ら。きっと殺したってなんとも思わないわ。そうよ、ええ殺してあげる。
私はすぐさま魔法を発動させた
「炎槍!」
私の頭上には3本の炎の槍が出現し、私を抑えてる男達と夏海さんを斬って笑ってる憎い男に撃ち込もうとした。
「おっと! それを撃ったらこいつの命はないぜ?」
そいつは相変わらずニヤニヤした顔つきで、右手があったであろう場所を押さえうずくまっている夏海さんの首に剣をあてた。
それと同時に男の後ろから更に2人現れ夏海さんを押さえつけた。
「ひ、卑怯者!」
「クックックッ……だから? そんなんで俺がやめるとでも? 早く魔法を消せ!」
そう言い剣を引き夏海さんの首を薄く切った
「お嬢様!私に……構わずお嬢様を押さえ……うくっ……つけてる2人に……撃って逃げ……てください」
「そんなのできるわけないじゃない!」
「私……はボディ……ガード……です。私の職務はお嬢様を……お守り……する事です」
「嫌よ! 嫌! 夏海さんを置いて逃げるなんてできない!」
「お……お嬢様……にげ……て……お願いです……から」
「おーおー、お涙頂戴のドラマありがとう。俺も仕事なんでね悪く思うなよ? さあ早く消せっ! 次はコイツを殺す!」
私は悔しくて……悔しくて……でも夏海さんが大好きだから……コイツらの目的は私のはず。私さえ言う事を聞けば夏海さんは助かる。そう思って私は魔法を……消した。
「はいよくできました〜パチパチパチ」
「くっ……貴方達の目的は私でしょ! だったらその依頼人て奴のとこに早く連れて行きなさいよ! 抵抗はしないわ、だから彼女を離して」
「お〜怖っ! そんなに睨むなよ。大丈夫だ、お前が大人しくしてればこの女は殺したりしねーよ……ククク」
「おいっ! その女を縛り上げろ! また魔法撃つかもしれねーから一応人質としてこの夏海って女も連れて行くぞ」
「「へいっ!」」
そうして後ろ手に手を組まされ悔し涙で歪む私の顔が地面に押し付けられ、縛られようとしている時。
『闇刃』
そんな声がどこからか聞こえたと思ったら私の目の前に……赤いものが降り注いだ。
その瞬間私を拘束する力が急に弱まった事で、それが人の血で現在進行形で私の背中に降り注いでいると認識した。
「ガアァァ!」
私が呆然と今起こっている事を認識しようとしていると、剣を持った男の叫び声が聞こえた。私は一体何が起きたのかと地面から顔を上げ、前を見てみると夏海さんを押さえていた男達の首から上が無くなっていた。そしてその斜め後ろで剣を手放し、膝から下が無い両脚を押さえもんどりうっている男がいた。
「もう大丈夫だ よく耐えたな」
何がなんだか分からず混乱している私の後ろから聞こえたその声は、なぜか安心のできるとても優しい声だった。
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