第1話 冒険者学園





ーー 横浜市 私立 冒険者学園(旧探索者学園) 横浜校 中等部 3年2組 西条 英作 ーー





「それじゃあホームルームはここまで。西条君あとは頑張ってね。先生も後ろで聞いてるから」


「はあ……」


「え・い・さ・く! ほら早くしろよ! 他のクラスの奴も外で待ってるぞ! 」


「わかってるよ」


「お願いね? この学年でヒーロー オブ ザ ダンジョンのテストプレイヤーに当選したの西条君だけなのよ」


「父さんのお陰だよ。運営会社の佐藤さんが妹の奈々と僕を誘ってくれたんだ。抽選で選ばれた訳じゃないよ」


僕は旧横浜ダンジョンを利用して作られたアトラクションゲームのテストプレイに、土日の休みを利用して昨日まで参加していた。その事を土曜日に友達に話したらあれよあれよと話が広まり週明けの今日、放課後に教室でゲームの説明をする事になってしまった。


「運営の佐藤さんってあのLight mareのリーダーでSSSランクの人だろ? 救世主と顔見知りとかすげーな!」


「その佐藤さんにお父さんは英雄だって言わせたんでしょ? 西条君のお父さんって本当に凄い戦士だったのね」


「うん。仲間を守る為に命を懸けた父さんを誇りに思うよ。僕も自衛隊に入って父さんみたいな立派な戦士になるんだ」


この学校は未来の冒険者を育成する為の学校だ。Light mareというパーティを知らない生徒なんて一人もいない。その中でも佐藤さんと蘭さんはSSSランクとSSランク冒険者という事で、その実績も相まって僕達には神のような存在だ。


「俺達横浜に住む人間は英作の父ちゃんに救われたからな。その身を持って時間を稼いでくれたからLight mareが間に合ったんだ。感謝してるさ」


「私の家なんて中華街が近かったから本当に怖かったわ……」


「そのダンジョンも去年Light mareの所有物になったと思ったら、まさかアミューズメント施設になるなんてな」


「あははは。ほんと面白い事考えるわよね。西条君なんとかLight mareの皆さんと会えないかしら?」


「それは難しいよ。僕だって簡単に会えないし……それに父さんの戦った場所は閉鎖して誰も入れないようにしてくれたり、今回みたいにテストプレイヤーに誘ってくれたり色々良くしてくれてるだけでも有り難いのにお願いなんてできないよ」


佐藤さんは父さんが死んだあの日。父さんの仇を討ってくれただけではなく、自衛隊や多くの探索者やマスコミの前で父さんを称えてくれた。そして父さんの勇姿に心を打たれたと言って、ダンジョンで手に入れた貴重な上級ポーションを無償で自衛隊や探索者の重傷者に譲ってくれた。その時はショックで何も考えられなかったけど、佐藤さんのお陰で僕達家族は父さんの最期を知る事ができたんだ。そして周りの皆からも父さんは英雄だと感謝され、そして気に掛けてもらえて僕達は悲しみを乗り越える事ができた。死んでしまった事は悲しいけどそれはとても意味のある死で、僕は多くの人を救った父さんを誇りに思えた。その後も佐藤さんは父さんが命を落とした階層を僕達遺族の為に閉鎖して残してくれて、更に立派な慰霊碑まで建ててくれた。

不思議だな。父さんが生きている時は滅多に家に居ないし、寡黙で厳しくて怖いと思っていたのに今はとても誇らしく思えるし尊敬している。


「そっか〜残念。憧れの人達なのに滅多に外に出ないからサインも貰えないのよね」


「英作! みんな揃ったぞ! 黒板の前に行ってくれ!」


「はあ……わかったよ」


慰霊碑を建ててくれた時に佐藤さんに声を掛けられて、自衛隊に入って父さんのようになりたいと言ったら練習がてらHero of the Dungeonをやってみないかと誘ってくれた。僕も妹も飛び付いたんだけど、まさかこんな目に遭うとは……100人近くいない? きっと奈々も2年生のクラスで同じ目にあってるんだろうな。大勢の人の前とか苦手なんだけど……仕方ないアレを出すか。


「え〜それじゃあ昨日迄体験したHero of the Dungeonについて話します。このアトラクションゲームの目的は、最下層にいる魔王を倒す事です。魔王は一体だけでは無く、定期的に変わるそうです。オープン時は鬼の魔王なので、ダンジョンの魔獣も鬼系になります。他はみんなM-tubeとかでテストプレイヤーの体験談とか聞いたと思うけど、同じ内容かな。ただ、特別に運営会社の人から教えてもらった事があります。でもそれは後で話します」


「えー! 西条君勿体ぶらないでよ〜」


「そうだぞ英作! プレイ料金とか営業時間とかまだ公表されてないんだ!教えてくれよ!」


「そーだそーだー」


「「「「Booo! Booo!」」」」


「ははは、ごめんごめん。でも先に見て欲しい物があるんだ。実はプレイヤーのバイザーに映る映像は貸し出されたメモリースティックに録画されるんだ。まだシステムの修正があるらしくて他のテストプレイヤーの人達はそれを持って帰らせて貰えなかったんだけど、インターネットに流さないのを条件にLight mareの佐藤さんが僕のプレイ動画をコピーして渡してくれたんだ。それがこれだよ」


「「「ええー!? 」」」


「ま、マジか! あのPVみたいな動画が見れるか!? スゲー! 英作のクラスメイトで良かった〜」


「スゲー! 流石英雄の息子! Light mareの佐藤さんにそんなに良くしてもらえるなんて羨ましい!」


「あはは、みんな持ち上げ過ぎだって。全て父さんのお陰だよ。それじゃあプロジェクターに映し出すからカーテン閉めてくれるかな」


本当に佐藤さんの予想通りになったなあ……念の為学校にメモリースティック持ってきてよかった。

僕は各教室に設置されているプロジェクターにノートPCを繋いで準備をした。


「わかった! おいっ! 急げ! 」


「電気消したよー!」


「カーテンおっけー!」


「じゃあ映すよ? スタート 」


僕はそう言って動画を流した。最初に映ったのはインストラクターのミラさんという綺麗な女性だ。これはベストの肩にあるソケットにメモリースティックを差して、一通り注意事項の説明が終わった辺りからの映像かな。


「うわっ!スゲー綺麗な人だな! それに元気いっぱいだなこの人」


「あのウェーブボブの髪型いいなぁ。私も挑戦してみようかしら」


そして映像ではミラさんの後ろを歩きダンジョン内に入って8基あるエレベーターに乗り、1階層に降りて少し歩いた所でクラスの皆が無言になった。

そこには実物としか思えない程のリアルなゴブリンがいたからだ。探索者の人達の動画で何度か見たけど、見た目も動きもソックリで僕も目の前に現れて腰が抜けそうになった。佐藤さんが言うには小さい子用の階層と言うのがあって、そこには可愛くデフォルメしたスライムしかいないらしい。確かに小さい子がこのゴブリンを見たら泣き出すよね。


そして映像ではその醜悪なゴブリンがミラさんに襲い掛かったが、ミラさんは素早い動きで剣を三連続で振り僕のバイザーに映るゴブリンのHPはあっという間に0になりその後すぐに消えた。


「おお〜!スゲーこのお姉さん! 全然動きが見えなかった!」


「PVと同じで血しぶきとかは飛ばないのね。あ、プロジェクターで映し出された敵だから当たり前か」


「なんでプロジェクターで映し出されたゴブリンがあんなに立体的な動きをするのかサッパリだ」


そしてミラさんのお手本を見た後はそれぞれが自由に狩りをする事になって、僕は奈々と二人で歩いて奥に行く映像が流れた。


「あ、奈々ちゃんじゃない! 奈々ちゃんも一緒だったのね。兄妹パーティで狩りも楽しそうね」


「このゲームはソロでやるのは推奨されてなくて、ソロだと最下層に行くのは不可能な作りにしたらしいよ」


「そこは現実のダンジョン攻略と同じなのか。そりゃそうだよな。ゲームで自信つけて探索者になってソロでダンジョン入ったらすぐ死ぬわな」


「でも匿名掲示板とかでの募集パーティに入ったら、女の子なんて危ないわよね」


「佐藤さんもそこはちゃんと考えていたよ。今度開設するHPに国民証の写しをメールで送った人だけがアカウントを作れて入れる、パーティ募集掲示板を作るって言ってたよ。その掲示板に登録した人だけが貰えるお得情報とか割引とかアイテム配布があるらしいよ」


「マジ? それなら安心だな。このクラスには必要無いけど、アカウント取っておこうかな配布アイテム欲しいし」


「女の子だけの掲示板があったらいいな〜」


「佐藤さんも白砂漠ってゲームにハマってるらしいしその辺は考えてると思うよ。あ、エンカウントした! パーティ人数によって敵の数も違うんだ。僕の場合は妹と二人だから浅い階層のうちは最大でも3体までしか出てこないんだ」


僕が佐藤さんに聞いた話を小出しにしていると、画面にゴブリン二匹にエンカウントした場面が映し出された。皆の話し声がまたピタッと止まった。

映像では僕がゴブリンの攻撃を盾で受けながら斬りつけ、その後ろから奈々が剣で斬りつけ倒す所が映し出された。しかし倒した事に喜んで気を抜いた奈々が背後から忍び寄っていたもう一匹のゴブリンの棍棒で殴られ、HPの3割を失ったのがパーティ登録している僕のバイザーでも確認できた。


「奈々ちゃん! 」


「ああ! なんでもう一匹いたのを忘れるかなぁ」


「これはプロジェクターのゴブリンとはいえ、初めて倒した魔獣だったから僕も奈々も浮かれてたんだ。失敗したよ」


映像では奈々が攻撃を受けた瞬間に僕が前に出て、もう一度殴ろうと棍棒を振り上げたゴブリンに盾を構え手に持つ剣を連続で突き刺し倒した所が映し出された。


「あれ? お前の妹のHP元に戻ってるぞ? 」


「ああ、テストプレイという事で小ポーションを配布されてるんだ。アイテムボックスって発声するとバイザーにアイテムが映し出されるから、そこで小ポーションって言うとポーションを使用できてHPが回復する仕組みだよ」


「音声認識システムが入ってるのか! スゲーな! 発音の練習しとかしないといざって時使えなさそうだ」


「それは凄いわね。ちょっと恥ずかしいけど、魔法使い目指してるからそんな事言ってたら魔法撃てないわね」


「あははは!恥ずかしがってフレンドリーファイアとかされたらたまんねーもんな」


「これも佐藤さんが言ってたんだけど、宝箱にはスキルの巻物と言うのがあってそれを手に入れるとスキルを覚えられるらしいよ。そのスキルも発声をしないと発動しないってさ」


「「おお〜!!」」


「ええ!? スキルなんてあるの!? そんな事どのテスターも言ってなかったわよ? 凄い情報じゃない!」


「やべえ! 超楽しみになってきた! 」


「みんなには父さんが死んだ時に優しくしてもらったからね。知ってる事は全部話すよ。それで映像に出てるここだけど、ここは休憩所で一階層毎に3ヶ所設置されてるんだ。ここには50人は座れるベンチと喫煙所、それと魔道具のトイレに自動販売機とショップ端末が5台置かれてるんだ」


「結構広いのね。魔道具のトイレまであるなんて有り難いわ。一旦ダンジョンに入ったら外に出なさそうだし」


「ジュースがダンジョンで買えるのか! 運動するから水筒用意しようと思ってたよ」


「英作、ショップ端末って他のテスターも言ってたけどどうやって使うんだ?」


「そうだね。まずショップ端末は何かと言うと、魔獣、このゲームではモンスターって呼称になるんだけど、モンスターを倒すと経験値とゲーム内通貨が手に入る。この通貨は『ゴールド』と言って、ほらっ!今映像に出てるでしょ? バイザーにこのように1Gとか5Gと表示されるんだ。この通貨を使ってポーションとか武器の強化素材とかが買えるんだよ」


「なるほど。メモリースティックを端末に差すのか。よく出来てるな〜」


「うわーでもポーション高いわね。小ポーションで50Gかぁ」


「そうなんだ。ゴブリンだと一体で大体5~7G位かな。それをパーティで割るから結構倒さないと厳しいよ。早くレベルを上げてゴールドを稼げる下層階に行かないとね。それとこれは導入確定らしいんだけど、1日1回このショップ端末でガチャが無料で引けるんだ。そこでポーションとか、運が良ければ高ランク装備が出るみたいなんだよね」


「「「ガチャ!? 」」」


「そこはゲームっぽいのね……でも助かるわ」


「でもそれだと有料で引けたりもするんじゃないか? 廃課金俺Tueeeとかいると萎えるよな〜」


「僕もそれを言ったら、ガチャは無料の一回とダンジョン内にランダムで現れる宝箱に稀に入っているガチャチケットからしか引けないって。佐藤さんもゲームやってるだけあってそこは分かってたみたいだよ」


「おお〜それは燃えるな! 宝箱探しの探索もいいな! 」


「凄いわ! 宝箱まで設置されてるなんてワクワクしてきちゃう!」


「宝箱にはポーションとか装備が入ってるらしいから積極的に狙いたいよね。下層に行けば行くほどレアアイテムが入ってるらしいよ。上層は主に通貨とポーションだけみたいだけどね」


その後も僕の戦闘風景を皆で見ながら、ああでもないこうでもないと皆と話した。

一番質問が多かったのは先生だったな……先生は学科担当だから入れるし行く気満々だな。

このHero of the Dungeonは入場に制限があって、現役の探索者と冒険者はしばらく入れないらしい。いきなりプロが来て偉そうにされたら萎えるだろ? って佐藤さんが言ってた。プロはゲームのダンジョンより本物のダンジョンに入って仕事しろとも言ってたっけ。それ以外は特に年齢制限はないけど、中学校に入学前の子は保護者同伴が必要らしい。だから10歳迄は一人で入れない。

昔は成人年齢が20歳で小学校は7歳から6年制で高校も3年制だったって先生が言ってたけど、そんなに長く学生なんてやってたなんてビックリした。今の7歳から小学校4年制と中学校3年制に高校2年制で卒業したら一年で16歳の成人ってだけでも学生期間長いのに、昔の人は大変だったんだな。


「はい。途中飛ばしたりしたけどここで終わりかな。このメモリーは貸し出しをしてくれるけど、録画された映像はコピーはしてくれないみたい。映像を持ち帰ってPCに落としたかったらこのメモリースティックを買う必要があるんだって。一つ4千円くらいらしいよ」


「4千円かあ〜お年玉を使う時が来たようだな」


「動画もそうだけど毎回借りて登録カードとメモリースティックを端末に差して、暗証番号打ってから自分のステータス読み込ませるのも面倒かな〜」


「通うなら買った方が良さそうだよね〜」


「それもゲーム料金次第じゃない? これだけの設備揃えてるんだからデ○ズ○ーランド並みにするかもよ?」


「ゲッ!一回 一万とか無理だわ〜 」


「さて、それじゃあみんなが知りたいだろう営業時間とプレイ料金を言うね?」


「「「待ってました! 」」」


「ああ……なんか怖い……」


「高くありませんよーに!」


「まず月曜日がメンテナンスの為定休日で、営業時間は平日は朝8時から24時迄だって。でも僕ら学生は19時迄らしいよ」


「あちゃー! そりゃそうだよな。PTAがうるさいもんなー」


「それはそうよ。毎回遅く帰ったら親に行かせてもらえなくなるわ」


「そしてプレイ料金は10歳迄は980円で一般は3800円。学生は2000円! 」


「「「2000円!? 」」」


「マジか!? 8時から19時迄いても2000円?」


「うん。しかもドーム内なら装備を付けたままで出入り自由らしいよ。飲み物やお弁当の持ち込みもOKだし、ドーム内には今後飲食店ができるんだって。その飲食店も遊園地みたいに割高にはしないってさ」


「「「おお〜!! 」」」


「神か! Light mare GOD! 」


「ゲーム業界でも救世主だった!」


「ますますファンになっちゃう!」


確かに11時間も遊べて2000円は安すぎると思う。佐藤さん大丈夫なのかな? 経営失敗しないかな……

それでも僕らには嬉しい価格だ。これなら毎週末行ける。


「ただ、甘いだけじゃなくてルールを破るとかなり厳しい罰則があるから注意してね。まずダンジョン内は休憩所以外で物を食べたりはできません。飲み物はOKだよ。それとゴミのポイ捨てもダメ。ダンジョン内には至る所に隠しカメラがあるから見つかったら警告がすぐ来るみたい。警告を短期間に3回受けた人は3ヶ月このゲームができなくなるって言ってたよ」


「3ヶ月も!? それは厳しいな。3ヶ月もできなかったらパーティ仲間に置いてかれるな」


「ルールを破らなければいいだけでしょ。何も難しい事言って無いじゃない」


「それもそうか。西条、他には?禁止事項何があるんだ?」


「他には他のプレイヤーの邪魔をしないだとか、休憩所以外ではタバコを吸わないだとかだよ。暴力沙汰やタバコは特に厳しくて一発退場の上に永久に出入り禁止だって。暴力はともかく燃える物が無いダンジョンでも火には気をつけてるみたいだね」


「まあ暴力沙汰は当然だよな。火もそうだよな〜」


「そりゃそうだろうな。異次元空間は入った事無いからわからないけど、火事とか起こったら大変だろ」


「一応どの階層にも一番左端に避難口に繋がる扉が複数があって、そこから避難通路に出れるよ。休憩所がある方向だね。それに緊急時はベストの裏に赤いヒモがあるから、それを強く引っ張ると係員の人が飛んできてくれて離脱球ですぐに外に出してくれるって」


「「「離脱球!? 」」」


「り、離脱球って英作のお父さんの死に心を痛めて佐藤さんが開発したっていうあの?」


「一個百万はするって聞いたぞ? 」


「自衛隊しか使えない高級アイテムじゃない!」


「そんなのを使ってくれてまで助けに来てくれるのかよ」


「なんたってその離脱球を作っている佐藤さんの会社が運営してるからね」


「あ〜納得……」


「確かにそれならそうよね」


「でもそれならかなり安心よね。カメラで見てくれていていざという時の避難通路に離脱球まであるなら、本物のダンジョンに入る前のいい練習になると思うわ」


「そうだよな。高等部卒業したら女神の島へ優先的に行かせてくれるって聞いたけど、あそこは死んでも生き返るけど10日ペナルティあるからな。そんなに長く滞在できないみたいだし、今のうちからダンジョンの雰囲気に慣れておきたいよな」


「そうなんだよな〜、長く滞在できるほどルーキー探索者は金銭的に余裕無いしな。どうしても最初は国内のダンジョンに命がけで潜らないといけないのがな。先輩達は皆そうして来たんだけど、死亡率がな〜」


「元々このゲームのシステムを開発した会社は探索者の訓練用に作ったらしいんだ。でも女神の島のお陰で経営が厳しくなった所を佐藤さんが救いの手を差し伸べたみたいなんだよね。だからこのゲームはこれから探索者になる人の育成も兼ねているんだって」


「え? そうだったの!? 道理でモンスターが現実に忠実なわけだ……」


「確かに女神の島に行けば死なない上にランクも上がるから、このシステムは導入し難いかもね」


「でも自衛隊みたいに金も無い俺達のようなルーキーには有り難いよな」


「うん。パーティでの連携の練習にはなるわよね。本物のダンジョンだしその造りとかも勉強になるわ」


「そうなるとゲームでも死ねないよな」


「そう言えば死ぬとどうなるんだ? 」


「死ぬとレベルが一つ下がるよ。レベルが1ならそれまで得た経験値がリセットされる。最初はいいけど、高レベルになるとレベル上げるのキツイから痛いよね」


「確かに高レベルになるとキツイな」


「その方が慎重に動けていいわよ。デスペナの無いゲームなんてヌルゲーだわ」


「さて、みんなもう遅いからこれで終わりにしよう。また何か情報が入ったら教えるよ」


もう日も傾いてきたので僕はお開きにすると皆に伝えた。奈々からメールが来てやっぱりクラスメイトに捕まってたみたいだし。早く迎えに行かないと。


「うんそうね。ありがとう西条君。参考になったわ」


「おっし! ありがとな英作! あ〜早くオープンしないかな〜早ければ今月中なんだよな? 楽しみだ」


「「西条君ありがと〜」」


みんな満足してくれたみたいで良かった。僕達は教室の片付けをして、それぞれがHero of the Dungeonの話題で盛り上がりながら教室を出ようとして……あ、肝心な事言うの忘れてた。でもまだ日にちが確定してないって言ってたし……まあやるのは間違い無いって言ってたからいいかな。


「あーみんな! それとまだ日程が確定してないらしいんだけど、正式オープン前にこの横浜校の全生徒を招待するって言ってたよ」


「「「なんだってーー!? 」」」


「マジか! 正式オープン前に!? 全生徒を!? 」


「そ、それ本当なの西条君」


「最後に爆弾落としやがった! 」


「という事はもうすぐ招待の話が来るんじゃねーか? やべっ! 今日寝れるかな」


「招待するのは間違いないって言ってたけど、日程がまだ決まって無いんだってさ。じゃあそういう事で僕は帰るよまた明日ね」


そう言って教室を出たけど皆興奮して誰も僕を見ていなかった。

クラスメイトとダンジョンに入るのも楽しみだな。


僕は正式オープン前にまたHero of the Dungeonに入れる事がとても嬉しかった。





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