第14話 トレイン






ーー 永田町 内閣府 緊急対策本部 内閣総理大臣 東堂 勇 ーー







「それでは我が日本国はLight mareと呼称する集団を、陛下がお受けになった御宣託の人物と認め公賓こうひんとして迎えることとする」


「単独でしかも数時間で中世界フィールドを攻略されては認めざるを得ないですな」


「それにあの武器の製造技術。世界一技術が進んでいる我が国を遥かに圧倒してます。エルフもドワーフもそうですが、この世界の人間でないことは認めるしかありません」


「魔力を流すだけで初級魔法が撃てるあの短剣もだ。なんでも付与魔法というのがあり、それを覚えると黒鉄と魔石さえあれば作れるようになるらしい」


「それもそうだが一番の決め手はあの七日神麦と呼ばれる作物だ。この大地が死んだ地上で、3日目にもう麦踏みができるまでに成長している。まさに神の麦だ。天照大神様の使者としか思えん」


「野党もだいぶ検挙されて数を減らした。外国人として彼らを迎え入れてもうるさく言う者は少ないだろう。そこで、大臣の皆に今一度念を押しておく。Light mareは皇室と国民を救うのが目的だ。しかし同じ国民と言えどもそこに警察や軍、政府機関は入っていない。彼らに危害を加えようとすれば、あっさり先日の特警のようになる事を忘れるな。彼らは一切躊躇しないだろう」


これだけは念を押しておかないと内閣が吹っ飛ぶ。彼らは権力を持つ者を信用していない節がある。助けてもらって当たり前だと思う者が出ないように、ここにいる大臣だけではなく党の人間にも周知徹底させないとな。


「なんとも……肝に命じておきます」


「あれだけのずば抜けた力を持っていれば権力には屈しないでしょうな」


「皆さん、私は直に会って話をしましたがいたって普通の思考の持ち主です。ただ、過去に何度も権力者と争った事があるらしく、彼と彼の仲間を傷付ける者に対しては一切の慈悲なく強烈な反撃を行うようです。私たちも家族を傷付けようとする者には抵抗します。ですからそれほどかけ離れた思考の持ち主ではありませんよ」


「なるほどな。持っている力が大きいから結果的に反撃が強烈になるわけだな。怒る理由は俺たちと変わらないわけだ」


「それで総理。連合脱退の件は、ほぼ確定ということでよろしいのでしょうか? 」


「彼らがこの国を助ける際の最低条件だというからな。どうせこのままじゃ米国の属国になるしかなかったんだ。我々には彼らが用意してくれた四国ほどの広さの中世界草原フィールドと七日神麦がある。今まで散々追い込んでくれたんだ。脱退を前提に強気で交渉して取れるだけ資源を取るさ」


そう、彼らは真田大臣に神殿の鍵を預けてくれた。四国ほどの広さがあるフィールドの鍵をだ。既に佐藤氏が管理者になっているようだが、門を設置する場所さえ指定してくれれば一緒に神殿に行くと言ってくれたそうだ。しかし脱退前に方舟の特別エリアに設置するのは不味いから、とりあえずは東京ドーム内にでも設置してもらうか。連合にはドームの再利用を行うと言っておけば人の出入りをしばらくはごまかせるだろう。


「脱退した後に敵となるは残念ですが、我らを色付きなどと卑下する輩とは付き合えませんしな」


「くだらないですね。世界が困窮している時に人種だの思想だのと」


「頭がおかしいのは米国と欧州とイギリスのトップだけだ。各国の特に米国とフランスとドイツの国民は日本に同情的だ。長年一緒に戦ってきた仲間だったからな。とにかく、我々はLight mareの指導のもとに兵の能力と鍛治技術、そして錬金技術を向上させフィールドを攻略し国民を移住させる。国民に人間らしい生活をさせる事を第一に考え行動する。それと同時に脱退後攻めてくるであろう中露に対し防衛準備をする。これはLight mareがドラゴンを出してくれるそうだ」


「ドラゴンを!? それは心強い! 」


「ドラゴンだけで中露の船は全滅しそうですな」


「ミサイルも魔法も一切通用しませんでしたからね。敵となると恐ろしかったですが、味方となるとこれほど心強い存在はありませんね」


「あのドラゴンには魔法障壁なるものがあるそうだ。そのうえ鱗の強度も高く、あちらの世界では核ミサイルを受けても死ななかった個体もいるそうだ。間違いなくこの地上で最強の生物だろう」


戦ってみてわかった。あのドラゴンには現代の衰退した兵器、いや過去のどの兵器も通用しない。しかもあのドラゴンは火竜だという。日本に迫る軍艦などひとたまりもないだろう。しかしあの時反撃されていたら日本は滅んでいたな。危なかった……


「核ミサイルでも通用しないのですか!? 確かに最強の生物ですね……」


「あの時我が国は実は滅亡の危機だったのではないか? 」


「日本を救うという使命を持った者でなかったら滅んでましたね」


「魔法障壁……確かに結界か何かで防がれていたように見えましたな」


「結果オーライってやつだ。防衛省と外務省は脱退の準備に取り掛かってくれ。いいか? まだ中露に気取られるなよ? やる時は一気にやる。経済産業省はアラブ神国から石油を買えるだけ買い付けてくれ、備蓄していたポーションを放出して構わん。最悪、米欧英と喧嘩別れになる事も想定しておくようにな」


「承知しました。急ぎ手配します」


「我が国が喧嘩できるなど夢のようですな」


「第三次大戦時はいいように使われたあげくに核まで撃ち込まれましたからね」


「そこまでして助けた南朝鮮は恩を忘れるどころか裏切り、我が国に略奪に来たあげくに多くの国民を虐殺してくれましたからな。あの国だけは絶対に許せません」


「脱退すれば攻略フィールドで会えるさ。これまでは南朝鮮の奴らを前にした時の我が国の兵の士気が異常に高いからか前線に出てこなくなったが、我が国が連合を脱退すれば勝てると思って中露にいい顔をする為に前に出てくる。昔からそういう奴らだ」


そうだ。奴らは必ず前に出てくる。戦後の混乱期に日本海側からたびたび上陸して、我が国の国民に対し略奪に強姦、虐殺と好き放題してくれた恨みは決して忘れない。フィールドで出会えば根こそぎ殲滅してやる。


「奴らならありえますな」


「あの国を早々に切り捨てられなかった外務省の責任は大きいですからね。私も戦場に立ちますよ」


「おお〜風牙の真田がまた見れるのか! 俺も出るぞ! 」


「「「総理は駄目です! 」」」


「ちっ……」


俺はまだまだ現役だ。Cランクのまま未だ身体は衰えていないってのに、この役職のせいで狩りにいく事さえ止めようとしやがる。また昔みたいに真田とハンター稼業してえなぁ。














ーー 資源フィールド 草原エリア奥地 佐藤 光希 ーー







「お姉ちゃん! あっちに豚肉がいるわ! 」


「凛ちゃんオークって言ってよ……」


「だって倒したら豚肉落とすのよ? もう豚肉でいいじゃない」


「周りから私たちが飢えてるみたいに見られるから恥ずかしいわ」


「げっ! それはイヤね……」


「 でもさ〜倒しても1kgしか肉落とさないしなんか損した気分だよなー」


「ダンジョンのように異界から召喚してるわけじゃないみたいだし、実体が無いから仕方ないんじゃない?」


「リアラの塔のシステムに似てるからな。そういうものなんだろう。でも豚肉とか牛肉は地上にいた家畜を創造神が解体して加工してんのかな? それだったら笑えるよな」


「ぷっ!やだダーリン! 笑わせないでよ」


「ふふふ。それはとてもシュールですね」


「あははは。コウそれ面白いわね。神様が台所で包丁持って………ぷっ」


「ドロップする肉は歪な形なので蘭が包丁の使い方教えてあげたいです」


「あはは! 確かにあたしの方が切るのは上手いな! 」


「そうだな、この適当さから言ってエンジェルキッズ辺りにやらせてるんだろ」


天使も神にこき使われて大変だよな。


真田外務大臣が俺たちの拠点に訪問してから3日が経過した。

今日は昼から俺と恋人たちとセルシアは幻術で姿を変え、代々木公園の門から資源フィールドの草原地帯の奥地に徒歩で狩りにきていた。フィリピンの門からじゃないのは、一度フィリピンの門の近くに転移した時に人の反応があったからだ。恐らく他国のエージェントが張り込みをしているのだろう。もう他国に関わりたくなかったので、幻術を掛け堂々と代々木公園の門から入ることにした。


そう、大臣が来た翌日に関西方面から軍用ヘリが飛んできたんだ。俺は威力偵察か何かだと思いクオンに捕まえてくるように言ったら、てっきり足で掴んで持ってくると思ったのに口にくわえて持ってきてさ、パイロットとか泡吹いてて少し可哀想になった。

んで、乗ってた奴らを外に出して水をぶっ掛けて目覚めさせて、国旗があったからどこの国の者かはわかっていたけど一応何者か聞くと米国の使者だと名乗った。それを聞いてお前の国は武装した軍用ヘリで使者を寄越すのかって怒鳴りつけて、次来たら容赦なく落とすと警告してクオンに横浜の海岸に捨ててこいと言って捨てに行かせた。砲艦外交のつもりにしてはお粗末過ぎだから、きっとああいうヘリしか残って無かったのかもな。それにしたって最初は白旗の船を寄越すだろう普通。


そして翌日に真田大臣が置いていった衛星電話に大臣から電話があって、米国が日本政府が接触したのに気付き色々探ってきたけど、追い返されたと言っておきましたと伝えてきた。俺も昨日軍用ヘリで米国の使者が来たから追い返したと言ったら、大臣はやはりそうでしたかと言っていた。どうやら探りの電話だったようだ。大臣は米国を相変わらず誰が相手でも数段上の立場で外交する国ですねと笑っていた。俺はドラゴンがいるのにノーアポでいきなり軍用ヘリで来るとか馬鹿なだけだと思うんだけどね。


大臣はもう少しで受け入れ準備が整うので待っていてくださいと言って電話を切ったんだけど、俺は凛と蘭が三原山で放つ魔法の威力が日に日に大きくなってきたことに危機感を覚えて、皆で気晴らしに資源フィールドへ狩り行こうと誘いここに来たというわけだ。


「あ〜あのエンジェルキッズね〜納得したわ」


「お? オークが俺たちに気付いたようだぞ? 」


「相変わらず女を見ると猪突猛進ね。狩りやすくていいわ。蘭ちゃんやるわよ! 」


「はい凛ちゃん! 」


「豚肉置いてけー! 『炎槍』 」


「今夜はポークステーキです! 『豪炎』 」


俺たちに気付いた8匹ほどのオークは凛の8本の槍に次々に貫かれ、蘭の豪炎に焼かれ肉と魔石を残して消えていった。


「まだちょっと8本の槍の操作はキツイわね。なかなかダーリンのようにはいかないわ」


「一年前より本数も増えているし操作も上手くなってるよ。俺は15年の実戦経験があるからね。日々練習だよ」


「それもそうよね! 成長してるわ私! よしっ!どんどん撃とおっと♪ 」


「いーなーあたしも火魔法撃ってみたいなー! 」


「セルシア? あなたは竜人族だから魔法は適性無いでしょ? コウの紋章魔法で覚えても、魔力も魔攻も器用さもEなんだから凛のようにはなれないわよ。探知だって広範囲に使ったら魔力がキツいんでしょ? 諦めなさい」


「ぐっ……いいんだあたしには竜気があるし! 魔法は旦那さまからもらったこの探知の魔法だけでいいんだ! えへへへ『探知』 ……うっ……キツ…… 」


「言ったそばから魔力きつそうね……」


「せるちゃん……」


「セルシア、最初は狭い範囲で徐々にって言ったろ? 」


セルシアは魔法のセンスが壊滅的に無いな……竜気の扱いは上手いんだけどな。シルフィの言う通りもともと竜人族は魔法の適性が無いから仕方ないんだけどね。


「そうよセルシア。探知は意外と魔力使うのよ? ダーリンの言う通り狭い範囲から徐々に広げていかないとすぐ魔力切れになるわよ? 」


「私でも少しずつ広げてるのに……」


「ん〜なんか狭い範囲でってのが逆に難しいというかさ……ん? 何かが走ってきてる? 」


「どうした? ……ああ、ハンターの集団じゃないか? おいおい! トレインする気かよ! 」


「どれどれ……あっ! 6人組が魔物に追われて2人組のところに向ってる! 」


「シルフ! …………故意のようね。6人組が楽しげにしてるようよ? 」


「故意のなすり付けですか! 」


セルシアが探知で何か気付いたようだったので、俺も狭い範囲でしか発動していなかった探知の範囲を広げて確認してみた。すると西に300mほど行った辺りから15匹ほどのオークを引き連れて出口のある南ではなく、2人組の人間がいるらしき東に向かって走っている6人の人間の反応があった。

これは明らかにモンスタートレインだ! しかも楽しげにしてるだと!?

夏海は刀を握りしめて怒り心頭という感じだ。日々の糧を得るために資源フィールドで必死に戦っている人達に対し、遊びで魔物をなすり付けるような行為は決して許されることじゃない。


「 もう接触する! 2人組は全く気付いてない様子だ! 俺がオークをやる! 皆は6人組を! 『飛翔』 『転移』 」


「わかったわ! シルフ! 私を6人組のところへ! 」


「旦那さま! まかせてくれ! 夏海をこんなに怒らせるなんて! あたしがボコボコにしてやる! 」


「絶対許さないんだから! 私たちも飛翔のネックレスで飛んで行くわよ!『飛翔』」


「はい凛ちゃん!『飛翔』」


「なすり付けなど絶対に許さない! 『飛翔』 」





「ん? なっ!? 馬場! 」


「よう! 死に損ないカップル! 奥地に来るの待ってたぜ! また魔物に喰われろ! オラッ!」


「ぐっ……馬場!! 」


「ギャハハハハ! お前らウザいんだよ! ここで死ね! シッ!」


「光一! 貴様ら! なっ!? 痛っ! 」


「いつもその醜い顔で俺たちを睨みつけやがって! オークに犯され喰われろ! 」


「2人だけでここまで来るとかバーカ! ブサイクカップルにはオークがお似合いよ! じゃあね! 」


「うふっ♪ もう会うことが無いのね。寂しくなるわ。さよなら♪ 」


「ククク……悪く思わないでくださいね。2年前のことをいつまでも恨み続けるあなた達は目障りなんですよ。それではよい旅路を……『氷壁』 」


俺がハンターらしき2人組のところに辿り着くと、6人組がオークの集団を見て驚愕して固まっている2人組の足をすれ違いざまに剣とナイフで斬り付け、最後に魔法使いの男がオークが追ってこれないように氷の壁を作ったところだった。

俺はその光景にはらわたが煮えくり返ったが、倒れて防御態勢を取れない2人組を助けるのが先だとオークの殲滅を優先した。


「ちっ……屑どもが! 『プレッシャー』 『天雷』 」


「「「ブギャッ!? ブギーーー!! 」」」


「へ? 」


「なっ!? な、なにが……」


「よう、災難だったな。安心しろ、あの6人組は俺の仲間がいまご……ろ……」


「10匹以上いたオークを一撃で……」


「か、雷の魔法? なんて威力だ……」


「あ、助けていただいてありがとうございます。あの……どうかしましたか? 俺の顔になにか? あ、この目は魔物との戦闘で失ってしまって………俺は弱いので……」


「光一は弱くなんてない! その腕もその目も私を守ってついた傷だ! 私が弱いから光一が……あ、申し訳ありません御礼も言わず……この度は危ないところを助けていただいてありがとうございました」


俺はオークの動きを止め天雷でオークたちを消滅させた後に、倒れている二人に声を掛けて固まった。

20歳くらいの剣を持つ男性は左腕の肘から先が無く、右目が潰れているだった。

そして隣にいる同じく20歳くらいの女性は、左の頬に大きな火傷を負っているだった。




今日俺は、初めてパラレルワールドに来たのだという事を実感した。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る