第15話 光一と夏美
「あ、あの……どうかしましたか? 」
「あの……光一と私を見て驚いているようですけど、どこかでお会いしたことがあったのでしょうか? 」
「あ、いや……知っている人にそっくりだったから少しビックリしただけだ。ジロジロ見て悪かった」
俺が俺を見て固まっていると、光一と呼ばれていた俺がおっかなびっくり話しかけてきた。
あ〜びっくりした! ドッペルゲンガーで自分になりすましたのを見るのには慣れていたけど、やっぱ本物は違うわ。しかし俺って片目の方がなんかカッコイイな……
「ああ、そういう事でしたか」
「なるほど。気にしないでください。私たちは目立つ傷があるので見られる事には慣れてますから」
「別に傷を見ていた訳じゃないさ。本当によく知る人に瓜二つでね」
ドーン!
ぎゃあああああ!
キャーーー!
「な、なんだ今の音と叫び声は! 」
「光一、アイツらの声だったわ!」
「派手にやってるな。手加減を知らないのが約1名仲間にいるからもう死んでるかもな」
「え!? アイツらあれでもBランクが3人もいるパーティですよ!? 」
「光一、助けてくれたこの方が一瞬でオークの群れを倒したのだ。仲間の人たちもそれ相応の実力があると思う。それよりもこのままだと……」
「あっ! そうだった! すみません! 殺すのはマズイです! いや、殺したいほど憎いんですけど理由があるんです! お仲間の方を止めてもらえませんか? 」
「殺したいけど殺したらマズイ理由? なんだかよく分からないが……まあわかった」
なんだ?どういう事だ? お偉いさんの子供だとかか? そんなんだったら別に関係ないんだけど、俺たちのせいでこの二人に不利益があったら俺は俺に対して申し訳ないからな。
俺は焦る二人に急かされるように蘭に念話を繋いだ。
『蘭! そいつらを殺すとなんかマズイらしい。死なない程度に痛めつけておけ』
『ええ!? セルちゃんが盾を持った男の人を殺しちゃいました……』
『げっ! 遅かった! とりあえず他の奴を生かしておいてくれ! 』
『は、はい! シル姉さん! せるちゃん! 待って! 』
「あ〜すまんな、盾の男は手遅れだった。他のはまだ死んでないらしい」
「よかった……殺したらマズイのはリーダーで剣士の馬場って奴だけなので大丈夫です」
「あの郷が死んだんですか!? アイツがこんなに呆気なく死ぬなんて……」
「なんだか訳ありなようだな。おっと自己紹介がまだだったな。俺は佐藤 光希というんだ」
「あ、助けてもらったのに名前も名乗らずすみません。俺は倉木 光一といいます」
「私は多田 夏美と申します。改めて助けていただいてありがとうございました」
倉木か……お袋の旧姓だ。俺が以前偽名で使ってたのもお袋の旧姓なら忘れないからだ。それに光一というのも、昔お袋に俺の名前を付ける時に親父と揉めた名前だと聞いたことがある。親父は長男だから光一にしたかったらしい。その親父も俺が10歳の時に病気で他界したけどな。この世界でも死んだんだろうか?
「たまたま近くにいたからな。君たちは幸運だった。それだけの事だ。それより足の傷は酷そうだな、これを使っとけ」
「これはポーション!? そ、そんな貴重なもの使えません! 」
「ポーション!? 助けていただいた上にこんな高価なものいただけません! 」
「ならどうすんだ? その足で歩いて出口まで無事にたどり着けるのか? 帰り道で魔物に襲われて死にましたでいいのか? こんな奥地まできたのには何か目的や理由があるんじゃないのか? 」
「うっ……」
「そ、それは……」
「俺も助けた責任がある。せっかく助けたのに死なれたら寝覚めが悪い。受け取っておけ。対価なんか要求しないから安心しろ」
「……すみません……使わせていただきます。ありがとうございます」
「……有り難く使わせていただきます」
俺は遠慮する二人を説き伏せポーションを受け取らせた。昔の俺って遠慮深かったんだな。すっかり忘れてたよ。
俺は気になったのでこっそり二人を鑑定してみると、光一はBランクで夏海はCランクだった。さすが俺だけあって魔法剣士だが、初級風魔法しか覚えてないようだ。光と闇以外の全属性適性は勇者特典だからな。
しかしその初級風魔法を使えたとしても、片目片腕で中級ダンジョンの下層レベルの敵がいるこの奥地にたった二人できたのは無謀だよな。
光一は西暦で数えると21歳か。夏美は26のはずなんだけど、今の夏海と同じくらいに見えるんだよな。ショートヘアだから若く見えるだけかな? あの多田一族は健在なのかな? 並行世界にまで来て面倒みたくないからなるべくこの子には関わらないようにしよう。うん、そうしよう。
「大丈夫そうだな。で? なんでその馬場ってのを殺したらマズイんだ? 」
「ありがとうございます。実は……」
光一が言うにはその馬場って奴はハンター組合所属で、2年前の小世界の森フィールド攻略戦に参加をして管理者になったらしい。その攻略戦には光一のパーティも参加していたらしく、その他のハンターのパーティを含め5パーティがハンター協会から参加したようだ。攻略戦は頻繁にあるのでハンター組合からもある程度の高ランクのパーティを参加させないといけないらしい。
しかしその馬場が管理者になった経緯に問題があった。森フィールド攻略時、光一たちハンターは軍と連携して魔物を倒していた。そして幸運にも連合国側にボスの軍団が現れた。
光一たちは森の中で死角から襲い掛かってくる魔猿にCランクの火熊とトレント、そして空から奇襲してくるハーピーと激戦を繰り広げていたその時、連合軍側からボスのジャイアントトレントをもう少しで倒せるという声が聞こえたらしい。すると集団の側面を守っていた馬場のパーティが突然抜けてボスのいる場所に走っていってしまった。
そして光一たちのパーティは馬場たちの抜けた側面から奇襲に近い形で火熊とハーピーの攻撃を受けることになりパーティは壊滅した。光一の腕と目はその時恋人である夏美を守るために失ったらしい。しかしその夏美も無傷とはいかず、火熊の燃え盛る腕に殴られ左頬が抉れ、大きな火傷を負ったようだ。二人はその後救援にきてくれた軍に助けられ命は繋いだが、他のパーティメンバーは皆命を落としたそうだ。
そして持ち場を離れボスのいる場所に移動した馬場たちは、トンビが油揚げをさらうが如く鍵を手に入れた。だがその攻略戦では米国が管理者になる約束だったはずなのに、馬場たちはそれを無視して神殿に入ってしまった。米国と欧州諸国は怒り狂い日本政府に猛抗議をしたそうだ。
その後日本政府は連合諸国の抗議を受け、神殿の鍵と馬場たちの身柄を米国に引き渡した。それから米国と馬場たちがどのような話をしたかは定かではないが、2日後に馬場たちは何食わぬ顔で日本に戻ってきたそうだ。どうも管理者になると今後攻略戦の参加を免除され、国から護衛を付けてもらい食糧や酒なども支給され悠々自適な生活が送れるらしい。馬場たちはそれが目的で味方を犠牲にしてまで管理者になりたかったようだ。そして時折資源フィールドで暇潰しの狩りをしているらしく、光一とは顔を合わす度に激しい罵り合いをしていたらしい。
「なるほどな。殺したいけど殺せないか……それは辛いな」
「はい。確かに殺したいほど憎いです。あの時アイツらが突然抜けなければみんな死ぬことは無かったのに……でもそれ以上に俺がもっと強ければ……」
「光一……いつもはあいつらには護衛が付いているのに今日はいなかったみたいです。きっと私たちを殺すために振り切ったのでしょう。これまで顔を合わす度に揉めてましたから……」
「護衛ねぇ……それで光一君は自分がもっと強ければと、ランクを上げる為にこんな奥地にまでたった二人でやってきたというわけか」
「はい……」
シュルルルル……パァン!
「ん? 信号弾? 」
「あの方向は馬場たちのいる……もしかしたら護衛の兵士を呼んだのかもしれません」
「あの馬場が助けを求めるなんて……佐藤さん、仲間の人に馬場から離れるように言わないと軍と揉める事になるかもしれません」
「別にいいさ、君たちはもう戻れ。俺は仲間のところに行って屑どもにお仕置きをしてくる。じゃあな」
お袋や弟のこととか色々聞きたかったが時間切れだ。まあ政府に聞けば居場所はわかるだろうから改めて会いに行けばいいか。光一たちに報復をさせてやろうかとも考えたが、どうも軍と事を構えたくなさそうだから誘うのはやめた。俺のことだから自分はともかく家族に迷惑を掛けたくないんだろう。さすが俺だな。
「ええ!? ちょ、待ってください! 軍が来るんですよ!? 彼らもイヤイヤ護衛しているとはいえ任務なので馬場を守ると思います。そうなれば軍と揉めることになりますよ? 」
「そ、そうです! 恩人にそんな危険なことをさせられません! 馬場たちのことは悔しいですが放っておくしかないんです……」
「大丈夫だ。邪魔をするなら軍も一緒にお仕置きをしてやるだけさ……『飛翔』 」
「そんな! 軍とことを構えるなんてって、ええ!? 飛んだ!? 」
「あ、待ってくだ……飛んだ!? 」
俺は光一たちが止めるのを無視して蘭たちのもとへ向かった。しかしリアクションがいちいちギャグみたいだな、俺ってあんな感じなのか……
自分を客観的に見てしまい少し暗い気持ちになった俺は、300mほど離れた場所にいる蘭たちのもとに着地した。
「ぐっ……ま、また空から!? 」
「ちきしょう……なんなんだよコイツら」
「くっ……魔法弾かれますし悪魔か何かとしか………」
「痛いよ〜腕が……えみの腕返してよ〜」
「あ……足が……バケモノ……」
「あっ!ダーリン! 」
「旦那さま! 」
「みんなお疲れ。お〜いいザマだな。えーと、黒髪で馬鹿そうな顔の……お前が馬場か」
俺が蘭のところにたどり着くと、盾を持った巨漢の男が盾ごと上半身と下半身が切断された状態で倒れており、その他の五人も馬場とかいう男と槍を持つギャルっぽい女は片腕を切り落とされた上に足を凍らされ、その他の者も両足を凍らされて倒れていた。魔法使いの男女は魔力切れを起こしてるし、全員が身体の至る所を火傷している。これは凛と蘭が張り切ったっぽいな。
「ぐっ……なんなんだよテメーら! 俺にこんな事をしてタダで済むと思ってんのか! 」
「お前こそモンスタートレインなんかしやがってタダで済むと思ってんのか? 」
「お、お前らを狙ったわけじゃねえだろ! ぐっ……か、関係ねーくせに正義の味方ヅラして首突っ込むんじゃねー! ぜってー後悔させてやっろからよ! 」
「ぷっ! 後悔ですって」
「ばっかだな〜お前」
「うふふふ」
「クソッ! 足が……そこの女覚えてろよ! 軍がもう来る! 死ぬほど犯してころ……ぎゃあああ! 」
「おい、俺の恋人をどうするって? 」
「あがっ……ああ……うで……うでが……」
「「「ひっ! 」」」
「な、なんですか今のは……黒い刃……」
なんか金髪頭のチャラいやつがふざけたことを言い出したから、咄嗟に闇刃で右腕を切断してしまった。そこにすかさず蘭がポーションを振りかけて止血していた。蘭はわかってるな。
「ああ、お前が森の管理者で軍が護衛してるって話だろ? んで、さっきの信号弾はその護衛を呼ぶためのものだったと。で? だからどうしたんだ? 」
「え? そうだったの? こんなに弱いのに管理者だったのね〜」
「へえ〜 次は軍が相手か〜 いい運動になりそうだな! 」
「あら、そういうことだったのね」
「な、なぜそれを知ってる! まさかあの死に損ないに? クソッ! 生きてやがるのかよ! 」
「ああ、二人はピンピンしてる。今はお前の方が死に損ないだがな。凛! 外に出てこれで連絡しておいてくれ」
「わかったわ。邪魔が入らないようにしておく。 紋章『転移』 」
「「「き、消えた!? 」」」
俺はトレインが失敗した事を知り悔しがる馬場を横目に、衛星電話をアイテムボックスから出して凛に渡した。軍は嫌々護衛してるって光一たちが言ってたからな。敵対しないに越したことはない。
凛が転移でいなくなるとやっと10人の兵士らしき反応が近くにまで来た。途中何度も止まってたのは魔物を倒しながら向かって来ていたからか、ご苦労なことだ。
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