第16話 ご対面
俺たちが馬場とかいう20代後半くらいのとんがり頭の男が率いるパーティを見下ろしていると、後方から右手に回りこむように迷彩服に黒の革鎧を身に付けた集団が現れた。
「馬場さん! 探しましたよ! 我々を撒いて一体こんな奥地でなに……を……ど、どうしたのですかその姿は! こ、これは一体!? 」
「軍曹! あたり一帯が焼け焦げてます! オークウィザードの集団……いや、亜種の可能性も!」
「あらあら、蘭はオークではありませんよ? 」
「き、君たちは? 」
「松田軍曹助けてくれ! いきなりコイツらに襲われたんだ。郷が殺され俺も腕が……」
「なっ!? これを!? 総員戦闘態勢! 」
「「「了解! 」」」
「おいおい、いきなり片方だけの言い分を聞いて決めつけるのはどうなんだ? 俺たちは魔物のなすり付け行為をしたコイツらにお仕置きをしただけだ」
「なすり付け!? 馬場さん! それは本当なのですか!? 」
「そんなことしてない! デタラメだ! 早く助けてくれないと米軍に後で責められることになるぞ! 」
「くっ……本人はしていないと言っている。我々は彼らの護衛である以上守らなければならない。潔白だと言うなら駐屯地まで同行して欲しい」
「まあトボけるよなふつー。俺たちは本来なら助け合うべき魔物のいるフィールドで、故意のなすり付け行為をする者を許すことはできない。コイツらにはこれから魔物の群れと戦ってもらう。因果応報ってやつだ」
「そんなことは我々がさせない! 総員抜剣せよ! 最後の警告だ、大人しく同行しなさい! 」
この軍曹はBランクのようだが他はCとDランクか……人数こそいるが自分たちより強いパーティを瀕死にした相手に任務のために戦いを挑むのか? まあ駐屯地まで行ってもいいけど、また門を潜ってコイツらを連れてここに来るのもめんどくさいんだよな。
こういう奴らは絶対この世界の俺と夏海かその家族に報復するだろうしな。この世界の俺じゃまだ対処できそうもないし、ここで後顧の憂いを絶っておかないと後悔しそうだ。
俺は遠くからこっちを心配そうに見ている光一たちをチラリと見て、コイツらをここで処分することに決めた。
俺のことだから絶対見にくると思ってたよ。
「ふ、ふざけるな! 軍曹なにやってんだよ抜剣より早く応援を呼べ! 10人じゃ足りねえんだよ! 俺が死んだら日本政府は大変なことになるんだぞ! 」
「そ、そうだ! 早く助けてくれ! 足が凍っていて動けないんだ! 」
「米軍に僕たち全員を守るように言われてるはずです! すぐに応援を呼んでください! この人たちには中隊規模じゃないと太刀打ちできません! 」
「痛いよ〜私の腕返してよ〜槍をもう握れないよ〜」
「足が感覚が無いの……早く助けて……」
おや? 米軍がなんでコイツらの為に怒るんだ? 管理者になった時に何か取り引きでもしたのか? まあ別に今となってはどうでもいいか。どうせ連合抜けるしな。
「待ってください! その人たちの言っていることは本当です! 」
「私たちがこの馬場たちに魔物の群れをなすり付けられたんです! 」
「え!? 旦那さま? に夏海? 」
「こ、コウ? 夏海も……」
「光希!? え? 私? え? ドッペルゲンガー? 」
「夏海落ち着け。ここは並行世界だ。俺たちがいてもおかしくないだろ? 」
馬場たちが必死に軍曹に訴えかけていると、遠くで様子を伺っていた光一たちがやってきて俺たちを助けようと証言をした。光一と夏美の声と姿を見たセルシアにシルフィ、そして夏海は驚愕した表情をしていた。あ〜俺もさっきこんな顔をしてたんだろうな。気持ちはわかるよ。でもドッペルゲンガーがここにいるわけないだろ夏海。
「へいこうせかい? なんだっけ? でもよく見ると旦那さまとはなんか違うな。似てるだけか! 」
「セルシア……ここに来る前に私があんなに時間を掛けて説明したのに……でもそうね、並行世界ならいてもおかしくは無いわね」
「ハッ!? そうでした……いてもおかしくはないですね……しかし私に出会うとは……」
セルシアは平常運転だな。
シルフィたちを落ち着かせている間に光一たちが色々と状況を説明してくれてるけど、軍曹は訝しげに聞いてるな。これは効果無いっぽいな。
「君たちの言ってることはわかった。しかし君たちは確か事あるごとに馬場さんたちと揉めていたね? これを機に報復しようというのじゃないんだろうな? 」
「違います! ここにいる佐藤さんに俺たちは助けられて、このままじゃ恩人が濡れ衣を着せられると思ったのでここへ来たんです! 」
「そうです! 私たちはそんな卑劣な真似はしません! 」
「嘘だ! 俺たちはそんな事していない! 倉木たちがここにいるなんて知らなかったんだ! 」
「もういい……駐屯地にて話を聞く。君たちも同行しなさい」
まあこの軍曹の立場じゃそう言うしか無いよな。さて、もうそろそろかな……
「とうちゃーく! ダーリン、大臣に連絡して状況を説明しといたわ! その管理者はできれば生かしておいてくれた方が手続きが楽だけど、いないならいないでどうとでもなるから好きにしてくれていいそうよ? 故意のなすり付け行為は大臣も怒ってたわ。軍にも連絡してくれるみたいだからもうす……え? ダーリンにお姉ちゃん? あれ? 」
「そうか、ありがとう。さっき助けたのは並行世界の俺と夏海だったんだ。俺もびっくりしたよ」
「そうだったの!? 一瞬ドッペルゲンガーかと思ったわ。でもこの世界のダーリンはボロボロね……」
「仲間を守って傷付いたんだ。俺は誇らしく思うよ」
「あら、この世界のダーリンもやるじゃない」
「き、君はいきなり! 一体どこから現れたんだ! 」
「軍曹! フィールド中継所経由でし、師団長より命令です! 護衛任務を解除する。佐藤氏に危害を加えることを厳に禁ずる。即時帰隊せよとのことです」
「なんだと!? 師団長より直接!? 一体どういうことだ! 重要人物の護衛任務を取り消す? 信じられん……それに佐藤氏とはこの人のことか? 」
「ま、そういう事だ。軍曹、軍人が上官の命令を疑うのは問題だぞ? 」
「し、しかしこの状態の馬場さんたちを見捨てていくなど……」
「なんだ? 軍の命令は絶対じゃないのか? 情に厚いのはいいが軍人としては失格だな。まあいい、蘭! 皆の幻術を解いてくれ」
この軍曹は駄目だな。俺は最後の警告をするために蘭に幻術を解かせて正体を現すことにした。
「はい、主様。うふふ、ご対面です」
「「「ええ!? 」」」
「お、俺? 」
「わ、私? 」
「え、エルフ!? 」
「竜……人? 」
「い、一体何が起こっているのだ……さっきまで普通の日本人だった者たちが……エルフにチャイナドレスを着た狐耳? それに鱗に翼……ハッ!? ま、まさか西新宿公園の!? 」
幻術が解けた俺たちを見た兵士たちは皆驚愕の表情で、目に映る存在が信じられないようだ。
光一と夏美は絶賛混乱中というところだ。そんな中、軍曹は新聞をちゃんと読んでいたのか俺たちの特徴から何者なのか気付いたようだった。
「そうだ。特警2000人に天罰を与えたLight mareだ。俺たちはこことは違う世界、並行世界の日本からアマテラス様の力によってこの世界を救うためにやって来た。日本政府とはもう接触済みだ。管理者の件も承知の上でさっきの命令がきている。軍人ならば命令に従え! それでもこの馬場たちを守るというならお前たちも共犯だ。ここで一緒に死ね」
「あ……あの特警の部隊を一撃で全滅させた……」
「確かドラゴンを操っていたはずだ……」
「軍曹! 命令違反は重罪です! 即時帰隊の命令が出ています! 戻りましょう! 」
「「「軍曹!! 」」」
「くっ……命令だ……悪く思わないでくれ。これより急ぎ帰隊する! 」
「「「了解! 」」」
「ちょ、なんだよ! 一体なにが起きてるんだよ! 並行世界ってなんだそりゃ! おいっ軍曹!行くな! 待てよ! 」
「え? エルフ? 特警を全滅させた? なんだよ、なんだよそれ知らねーぞ! 」
「待ってください! 僕たちは無実なんです! 助けてください! 」
「痛いよ〜早く助けてよ〜腕を返して……」
「な、なにが起きてるの? し、市民を守ってよ! 軍人でしょ! 行かないで! 」
軍曹は部下に突っつかれ、馬場たちに申し訳無さそうな顔をして逃げるように去っていった。護衛しているうちに情でも移ったか? というかコイツらに撒かれずにちゃんと張り付いていればこんな事にならなかったんだけどな。あの軍曹は軍人には向いてないな。
「さて、お前らの頼みの綱だった軍はもういないぞ? なぜこうなったか理解できないようだから教えておいてやる。さっきも言ったように俺たちはこの国を救うために並行世界の日本から来た。そしてドラゴンを操り腐りきった特警を処分して中世界の草原フィールドを攻略した。その後政府と接触して連合脱退を持ちかけたんだが、政府はそれを承諾したようだ。つまり管理者のお前はもう必要ないんだよ」
「そ、そんな事信じられるわけねーだろ! 並行世界? 頭おかしいんじゃねーのか! その倉木に似たさえない面もどうやったか知らねえがさっきみたいに姿を変えてるんだろ! いや、幻覚か? 幻魔茸を嗅がされてる? だから倉木が二人に? 」
「そ、そうか! 幻覚だ! 時間が経てば効果が……」
「信じようと信じまいとどうでもいい。もう護衛がいないのは確かだ。この世界の俺と夏美さんはどうする? 仲間の仇を討てるぞ? 」
さえない面だと? この野郎……
俺はブサイクな奴にさえない面とか言われイラッとしたが、幻覚だとか言って現実逃避する馬場たちは放っておき、さっきからずっと目を見開いて驚いている光一たちに仇を取るか聞いた。
「ほ、本当に俺なのですか? 並行世界? そんな世界が……」
「並行世界の私? 傷一つないあんなに綺麗な私……」
「そうだ。俺はお前でお前は俺だ」
「そうよ、私は多田 夏海。私は貴女で貴女は私」
「ほんとダーリンに声も顔もそっくりよね〜」
「うふふ。初めて出会った時の主様そっくりです」
この世界の夏美も顔の傷にコンプレックスを感じてるみたいだな。確かに大きな火傷だかわいそうに。
しかし蘭を拾った時の俺はこんな感じの顔だったのか……あの時は22歳だったしこんなもんか。
「並行世界の俺は神の使いか……今の俺とは大違いだ……」
「なんだ? こっちの世界の俺は随分と卑屈だな。それに神の使いなんてそんないいもんじゃないし、こっちは迷惑してるんだ。それで? 仇は取るのか取らないのか? 軍は護衛の任務がもうない。家族に迷惑が掛かることもないぞ」
「やります……木田に道雄に直美の仇を取る! 」
「やります! みんなの仇を! 」
そう言って光一と夏美は黒鉄混じりの片手剣を手に取り、足首から下を凍らせられ動けない馬場たちのところへ向かって行った。
「く、倉木! 待て! わ、悪かった! 殺そうとしたのは認める! 言い訳もしねえ! 2年前のことも謝る! 頼むこの通りだ! 助けてくれ! 」
「倉木!多田! もう二度と近付かない! 約束する! 婚約者が妊娠してるんだ。頼む! 助けてくれ! 」
「倉木君に多田さん。今までのこと申し訳無かった。僕たちはもうまともに歩けないし剣も振れない。引退してゴミ漁りでもして暮らすしかないんだ。それでも命だけはどうか助けて欲しい」
「え? こ、殺すの? 嘘……なんで? コイツが死ぬはずだったのになんで? やだ! 死にたくない! やめてよ! なんであんたが死なないのよ! 私の腕かえしてよ! 」
「馬鹿! なに言ってるのよ! 倉木さん多田さんごめんなさい。私は止めたのよ? でも逆らえなくて……本当にごめんなさい」
「なにを今更命乞いなんて! お前らのせいで仲間が! お前ら私欲のために! ついさっきも俺と夏美を笑いながら殺そうとした癖に! 死ね! 」
「そうだ! 私たちを殺そうとしたくせに虫が良すぎる! 仲間の仇! 」
「ぐがっ! かはっ! 」
「お、おい! よせ! ぎゃっ! 」
「や、やめ……くっ……『水刃』 」
「『風刃』 死ね! 」
「ぎゃああ! 」
「あがっ! な、なんで……わたしが……」
「た、多田さんや、やめて! 『火矢』 ああああ! 魔力が足らない……ぎゃっ!」
うん、さすが俺だ。命乞いする相手の首に無慈悲に剣を突き刺すとか……俺が21歳の時にはできなかったな。きっとこの末期世界で色々あったんだな。それに苦し紛れに魔法使いの男が放った魔法に風刃を当てて相殺した腕も発動速度もいい。きっと腕と目を失ってから必死に練習してきたんだろう。
そして夏美も槍使いと魔法使いの女二人の心臓になんの躊躇いもなく剣を突き刺していっていた。うちの夏海はまだ人を殺したことが無いけど、この世界の夏美は経験あるようだ。まあそんなもの経験しないに越したことはないけどな。
「お疲れさん。やるじゃないか、この世界の俺と夏美さん」
「……仇を討つ機会を作ってくれてありがとうございます。並行世界の俺」
「やっと仲間の仇を討てました……ありがとうございます並行世界の光一さん」
「ははは。紛らわしいからお互い名前で呼ぼう。それに自分と同じ声と姿をした相手に敬語で話されると、なんとも言えない気持ちになる。敬語もお互いやめようか」
「そっちがそれでいいならお言葉に甘えて……しかし本当に俺なんだな……」
「ふふっ、そうですね。夏海もいいかしら? 」
「ええ、いいわよ夏美。 ふふっ、不思議な気分だわ」
「まあ全く同じってわけじゃないさ、お互い生きてきた世界も環境も違うからな。ただ全くの他人てわけでもない。どうだ? これから俺たちの拠点に来ないか? 腹いっぱい飯を食わしてやるよ」
俺はお袋や親父に弟のことが知りたくて二人を拠点に誘った。まだ昼だし夜までに帰せば家族も心配しないだろう。
「え? 腹いっぱい!? いいのか!? 」
「光一! 助けてもらった上に図々しいわよ」
「いいんだよ。光一が生まれる前にあった料理を食わせてやる。並行世界の自分に甘えておけ」
「俺が生まれる前の……あの昔の雑誌にあったような料理を……」
「こ、光一……お言葉に甘えようかしら……」
「夏美、私が作った料理を食べてみて。二人とも痩せてるからもっと肉を付けないと」
「あはは! 歓迎するわ! 並行世界のダーリンとお姉ちゃん! 」
「なんだ? うちに来るのか? いいぞ! あたしの料理も食わしてやる! 」
「ふふっ。食べることに対して遠慮が無いのはコウそっくりね」
「うふふ。本当に主様に似てます」
「確かに食い物に目がないのは俺だよな。 よし! それじゃあ行こう! 『ゲート』」
俺はそう言ってゲートを発動して門の出口の近くに繋げた。光一と夏美はびっくりしていたけど、蘭と夏海が二人の背中を押してゲートを潜らせた。そしてゲートから出て、驚愕した表情で俺たちを見る周囲のハンターたちを無視して手続きを行い資源フィールドを出た。それから少し離れた場所でゲートを再び発動し、大島の拠点へと戻るのだった。
光一と夏美はもう何が何だかという感じで、最後は思考を放棄して半笑いで俺たちの後を付いてきていた。
拠点に戻るとリムが光一を見て俺が怪我をしたのかと勘違いして大騒ぎをし、以蔵たちは報復の準備を始め、ニーチェは毒薬を大量に取り出しイスラは装備を装着し始めていた。俺は慌てて本物はここにいると説明して、この世界の俺と夏美のことを皆に説明してなんとか落ち着いた。
普通に考えて俺が怪我をしたとしてもそのままにしておくわけ無いだろうに……リムは冷静さを欠いており皆を巻き込んだことを反省していたが、俺は心配されて悪い気はしなかったのでリムの頭を撫でて気にするなと伝えた。顔を真っ赤にしたリムは可愛かったよ。
光一たちはダークエルフや光魔の姿をしたサキュバスにドワーフやホビットと、ファンタジー世界の住人を初めて生で見てずっと目を見開いていた。俺も異世界で初めてエルフを見たときはびっくりしたな〜
でも光一が目を見開いて凝視していたのはリムとユリの胸だったけどな。
さすが俺だ……だけど何も知らない俺に忠告したい。
サキュバスには気を付けろよと。
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