第15話 砦攻め




俺が率いる光魔王軍は、魔王城からゲートでリンデール王国の西の砦2km手前に移動した。

そしてところどころ朝霧のかかるこの広い平原に、リムの指揮のもと各部隊が展開を始めた。


中央には俺が率いる獣人・エルフ・竜人の4000。

左翼にはにはヴリトラにまたがるリム率いる魔族部隊のおよそ3万。

右翼にはバガス率いる魔族部隊およそ2万。

そして遊撃隊として最左翼に吸血鬼部隊1000。

最右翼にダークエルフ部隊 500を配置した。


この陣形で砦の攻略、いや蹂躙を行う。


しばらくしてリムからの配置完了の報告を受け、俺は全軍に進軍の号令をかけた。


『 全軍前進! 』


「全軍前進! 軍旗を掲げよ!」


俺がシルフの力を借りて全軍に号令を掛けると、リムが復唱したのちに軍旗を掲げるよう指示をした。

すると左右に展開している魔族の先頭にいるトロールが、丸太のように太く黒い棒の先に馬鹿デカイ旗がついている物を掲げた。


中央の軍でもトロールが手にしているものほどではないが、それでも十分大きな旗を獣人たちが複数掲げていた。

その旗は黒い布地に銀糸で2本の曲がりくねった悪魔の角と、その中央に地面に刺さる剣。そして剣が突き刺さった場所から左右に広がる月桂樹の葉が刺繍されていた。


これは俺がLight mareのギルド紋章として考えたものだ。

リムから光魔王軍旗をホビットたちに頼んで作っているとは聞いていたが、まさかギルドの紋章を使うとは思っていなかった。


リムたちは角のデザインがサキュバスの角だということに感激してたからな。

元の世界に戻ったらギルドは魔王軍じゃないぞとちゃんと言い聞かせないとな。


俺は左翼でヴリトラにまたがりながら恍惚とした目で軍旗を見つめるリムと、その背後で嬉しそうにハイタッチをしているミラとユリを見てそう心配していた。




それから俺たちが進軍して少しして、霧が晴れてきたせいかやっと砦の守備隊が動き出した。

守備隊はこの大きな砦の屋上に設置されている砲台に向かって走ってるようだ。

その様子は非常に慌ただしく、そしてその表情は絶望に満ちていた。


恐らく既に本国には魔導通信機で連絡がいっているだろう。

魔導通信機とはいってもまだまた通話はできず、魔力信号を送るだけの物みたいだけどな。

それでもモールス信号のように使えば、情報の伝達がこれまでの比ではないほどに早くなる。


さて、魔物と獣人とエルフたちが一緒にいる姿は見せた。少し大きめな砦だがサクッと攻略するか。


俺は高さが50mはありそうな塔が中央にあり、その周囲を30mほどの高さの城壁で囲んでいる砦を見てからドーラに声を掛けた。


「ドーラ。砦の目の前に行け」


「ルオン! 」


俺はドーラを上空に飛び立たせ、軍に先行して単騎で砦の目の前まで移動させた。

恋人たちもみんな一緒だ。シルフィやセルシアは、ドーラに乗りながら心話でエフィルやトータスに指示をするそうだ。



ドンッ! ドンッ! ドンッ!


パシーン! パシーン! パシーン!


砦の目の前に滞空すると、砦に設置されている魔導砲から一斉攻撃がドーラへと行われた。

その一発一発は中級魔法かそれに満たない程度の威力で、しかも属性の無いただの魔力の塊ということもありドーラの魔法障壁に全てを防がれていた。


このまま攻撃を受け続けていればそのうち障壁を破られるだろうが、その時はミスリルの竜鎧に付与した女神の護りを繋ぎで発動してその間に魔法障壁を張り直せばいいだけだ。


なによりもドーラも俺たちもジッとしているはずもなく……


「夏海! 砦の門、いけるな? 」


「はい! この白雷刀と天津青雷刀で! 紋章『転移』 」


俺が背後にいる夏海に声を掛けると、夏海は左手にミスリルの刀の白雷を、右手に魔鉄の刀である天津青雷刀を手にし砦の門の前に転移した。

そして夏海らしく口上を述べ始めた。


「数多くのエルフや獣人、そして竜人を排斥してきたこの世界の人族よ! 犯し殺し妊婦の腹を割き笑っているその姿はまさに鬼畜の所業! 人道に反するその行いの数々! この光魔王軍四天王妃が一人、雷帝の夏海が天誅を下す! 天津青雷刀『天雷』! 白雷よ……『雷鳥乱舞』! 」


ドンッ!


夏海が口上を述べている間、夏海を狙おうと砲口を向ける魔導砲の射手を俺と凛は魔法で狙撃していた。

そしてやっと門を攻撃したことで俺は凛と顔を合わせて笑い合うのだった。


夏海が放った天雷は魔導砲を直撃し、射手もろとも黒焦げにして沈黙させた。

そして連続して放った5羽の雷鳥が次々と門へと突撃していき、2羽目で門は凹み3羽目で蝶番が溶け、4羽目で中央に穴が空き燃え上がり、5羽目で門が吹っ飛び門を支えていたであろう守備隊の兵士たちを次々と焼き殺した。


『 蹂躙せよ!』


「全軍突撃! 一人も生きて帰すな! 」


》》》


俺は転移で戻ってきた震える夏海を抱き寄せキスをしたのちに、全軍へ号令をかけた。

そしてリムの号令で両翼のトロールを先頭に、砦の門へ魔族たちが殺到した。

空からは竜人と馬面のアバドンとサキュバスにハーピーも、砦の中へと我先にと突入していった。


砦の守備隊は空から確認できる範囲では2000人ほどであろう。

守備隊は砦の中に侵入してきた魔物に魔銃で応戦するが、トロールの持つ大盾に防がれその隙にアバドンやハーピーから空襲を受けその身体を引き千切られ、そして切り裂かれて沈黙した。

砦の裏口から脱出しようとしている魔導車両も複数あったが、その全てが竜人たちによる空襲で破壊され炎上していった。


そしてわずか30分後、砦内にはただの一人も人族の反応が無くなっていた。


俺はドーラを砦の王国側の出口に着陸させ砦内へと入り、死体の処理を迅速に行うように指示をして塔の上部にある司令官室へと向かった。


それからゼルムに心話で、砦に隣接する頑丈な塀に囲まれた施設を制圧するように指示をした。

これはオーク繁殖施設だ。恐らく悲惨な状態になっているであろうその施設は、事前にゼルムたちに行かせることになっていた。



そして2時間ほどして、返り血だらけのゼルムが塔の司令室へと怒り冷めやらぬ顔でやってきた。


「勇者様! 人族の奴ら! 人族の奴ら! 同胞を繁殖の苗床に……それだけじゃねえ! 女子供まで餌にしてやがった! すまねえ……オークキングに渡す約束だったが、皆殺しにしちまった」


「な……なんですって! それが人のやることなの! オークの餌に獣人の子たちを……許せない! 」


「苗床に餌……酷すぎる……いくらなんでもこれは……」


まさか獣人を苗床に使うとはな……しかも餌にまで……相当食糧に困窮しているようだ。

これはちょっと予定を変更しないといけなくなったな。


凛と夏海にはショッキングだったか。セルシアも驚いているな。

蘭とシルフィは眉をひそめているが、俺たちはさんざんこういうのを見てきたからな。


「そうか。ゼルムは気にするな。俺でも同じことをする。凛と夏海もこの世界じゃこういう事はよくあるんだ。魔王がいた頃はそれはもう頻繁にな」


「それでもやったのは魔族でも魔物でもなく人族よ!? 」


「そ、そうです! 話には聞いてはいましたが、まさかオークの餌に……しかも子供までするなんて正気の沙汰じゃありません! 」


「国が狂えば俺たちの世界でも起こり得ることだよ。敵は人じゃないと、人モドキだと。下等種なんだと教育すればこれくらい平気でできるのが人間だ。俺たちの世界でも第二次世界大戦でよく使われた手だ」


米国が日本を攻める時に、自国民に対して政府放送で日本人は人になりきれなかった猿だと言ってた映像を見た。

ドイツの民族浄化だってそうだ。その昔オーストラリアでも白人が入植する時に先住民を犯し、銃でハンティングする遊びが流行っていた。

人はいくらでも残酷になれる生き物なんだよ。


「そ、そんな……同じ人なのになんでこれほどまで残酷に……」


「だから俺たちが助けるんだ。今もオークの苗床になっている獣人の女の子たちを最優先で助ける。この砦を起点として、まず最初にアトラン大陸にあるオーク繁殖施設を先に潰す」


本当はじわじわと各砦を攻略して、その周辺の村や街にいる獣人たちを解放して王都前で決戦をやる予定だったが、予定を少し遅らせて先にオーク繁殖施設だな。できればオルガス帝国にあるであろう施設も潰したいが、そっちの情報はないからな。これはダークエルフとサキュバスたちを送り込んで探らせるか。


「ゼルム、施設にいた生き残りは? 心が壊れていてもいい。何人いる? 」


「各種族の女が220名ほどだ。今は施設の外でうちの部隊とエルフとダークエルフの女たちが手当てをしている」


「ダーリン!私も行ってくるわ! 」


「私も凛ちゃんと行ってきます! 」


「主様、蘭も行きます! 」


「ああ、自殺しないように温かくて美味しい食べ物でも与えて落ち着かせてやってくれ。俺が時戻しで記憶も身体も全て元通りに戻すから。無かったことにするから」


「ダーリン……大好き! 行ってくるわ! 紋章『転移』 」


俺が凛たちにそういうと、凛は一緒に行くという夏海と蘭とセルシアにシルフィを連れて転移していった。


「勇者様、記憶までいけるのか? 」


「ああ、全て無かったことにできる。だから心も身体も全員バージンのままだ。ゼルムも彼女たちの再出発のためにも獣人の男どもによく説明しておけ。彼女たちを差別することのないようにな」


「マジかよ……本当に神みたいだな……ああ、仲間はよく説明しておく。これからこういう女たちはもっと増えるだろうからな。勇者様の能力も皆一度見てるから理解できるだろう。その……すまねえ、勇者様。本当に感謝する」


「嫌なことにこういうことに慣れてんだよ。獣人や人族問わず、魔王軍に拉致されてオークの苗床になった女の子たちは多かったからな。俺が元に戻すから、そのあとは獣人部隊の補給バッグから衣服を支給してテントで綺麗にしてやれ」


「わかった! すぐ用意させる! 」


ゼルムはそう言って司令室を出ていった。


さて、もう少し待って被害にあった女の子たちが男を見ても錯乱しなくなってから行くかな。


嫌な慣れだよまったく。







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