第14話 出陣






「整列! 光魔王軍 5万5千! 出撃準備完了いたしました! 」


「わかった」


俺はリムの編成完了の報告を受け、魔王城下にある広場に整列する魔族とエルフ、獣人に竜人たちを2階のバルコニーから見下ろした。


俺たちがこの世界に戻ってきてから30日目の早朝。

いよいよアトラン大陸へ侵攻する準備が整った。


この間リム主導のもと元魔王軍は再編成を行い、種族ごとに兵科を与えた。

主に歩兵、重歩兵、魔法隊、弓隊、飛行部隊、遊撃隊などだ。

ゴブリンやオークにオーガなどは、それぞれの王種ごとに部隊を作り歩兵として最前線で戦ってもらう。

トロールはキングトロールを長として盾を持たせ歩兵の弾除けに。

デビル種やラミアなどの各種族魔法が使える者は魔法隊として。

サキュバスやアバドンにハーピーなど飛翔能力のある者は飛行部隊に。

吸血鬼など隠密行動に長け、遠近両方の攻撃ができ耐久力のある種族は遊撃隊として編成した。


装備も元魔王軍の上等な装備を持っている者には、まとめて時戻しで使える状態にまで戻してやった。

ガンゾやヨハンさんにこの世界にいたドワーフやホビットたちには、新規の武器防具を急ピッチで造ってもらい配布した。

そうして出来上がった装備は最低でも黒鉄混じりの武器とハーフプレイトメイル。それにCランク以上の魔物の革鎧となった。

トロールだけは図体がデカいので、鉄の盾を硬化の魔法で徹底的に強化したものを持たせてあとは裸だ。

盾以外に使うつもりがないからコイツらはこれでいい。


全体的には魔王がいた時よりも良い装備になったと思う。

まあ魔王軍はメスも駆り出してたし、戦闘員が100万とかいたからな。

今回は魔族と魔物の総人口15万のうちオスの戦闘員の5万だけだ。

畑仕事要員とメスは残してある。


そしてエルフと獣人や竜人たちは俺たちが持ってきた装備を身に付けている。

武器や防具は最低でも黒鉄だ。革鎧もBランクの竜種をどれも使用しており、物理にも魔法耐性にも優れている。そして能力の高い者には魔法を付与した武器を持たせている。


こちらの編成はエルフが魔法隊で獣人が歩兵。竜人が飛行部隊でダークエルフが遊撃隊となる。

それぞれの種族の長が指揮をするが、4種族全体の指揮はシルフィが執る。


魔族たちは光魔王軍副司令官のリムが、エルフや獣人たちは四天王の一人である風帝のシルフィが指揮をするそうだ。そして全体の指揮を俺がする。


蘭にセルシアに凛? 彼女たちには好きにさせるさ。

夏海を付けているし心話もあるしな。

凛と夏海には今回の人族との戦いではサポートに徹するように言ってあるが、エルフと獣人たちの受けてきた迫害の様子を聞くたびに絶句し怒っていたからな。恐らくジッとはしていられないなろう。これは後々2人のケアが必要になりそうだ。


ああ、シルフィは四天王妃で風帝らしい。んで夏海が雷帝で凛が氷炎帝。蘭が血炎狐だそうだ。

蘭はなぜ妖艶狐ではないのですかとふくれてたな。蘭の二つ名は魔族たちが決めたから仕方ない。

セルシアは十二魔将の大将軍らしく、竜妃セルシアという名らしい。

その他の十二魔将の将軍には小太郎やゼルムにエフィル。そしてバガスやアジムにサタールムなんかがいる。

リムが楽しそうに編成表を作ってたよ。可愛いだろ?


んで光魔王軍副司令官兼親衛隊長にリムと、副隊長にユリ。

親衛隊騎竜にヴリトラ。

光魔王騎竜にドーラって感じだ。


念のため魔王城には心話ができる者と、近くの海岸に水竜のシーを待機させてある。

食糧も俺が提供する肉とヴェール大陸で作った作物など潤沢にある。

これは地球の芋の生産に成功したことから、魔族も獣人も惜しみなく食糧を提供してくれたからだ。


この分なら地球の麦の育成も問題無いだろう。これでたとえ大地の魔力が尽きてもヴェール大陸だけは食糧には困らなくなるだろう。戦後のことは知らん。さすがに芋くらいは人族に提供してやるけどな。

そのあとはヴェール大陸と貿易でもなんでもすればいいさ。それは残った者たちに任せる。


これで侵攻準備は整った。リンデール王国の砦を落としてじわじわと侵攻する。

そうすればムーアン大陸のオルガス帝国も出てくるだろう。

リアラへの信仰をやめたこの国は徹底的にやらないとな。



俺は光魔王軍を見下ろし隣にいるシルフィに声を掛けた。


「シルフィ」


「ええ、シルフ。魔王様の声を魔王軍の皆に届けて」


シルフィもノリノリで楽しそうだな。魔王側なのにな。


「330年前、人族をあと一歩というところまで追い詰めた魔族の者たちよ! それほどの力があるお前たちがなぜここまで力を落としたのか! 俺によって魔王を討たれたからか? 違う。 魔神シーヴに見放されたからだ」


俺がそう言うと魔族の者たちがあっちこっちで違う、見放されてなどいないと叫んでいる。それを各部隊長やリムが黙るように言うが収まる気配はない。


「では問う! なぜ魔神シーヴが作ったダンジョンがこの世界から消えたのか! なぜお前たち魔族はダンジョンと共に別の世界に連れて行かれなかったのか! 俺のいた世界にはダンジョンが突然現れた! この世界とは別の世界から来たダンジョンだ! そこには魔族がいた。オークやオーガもだ! シーヴの加護を得られているならなぜお前たちはここにいる! なぜダンジョンと共に別の世界に行かずここに残っている! 」


俺が騒ぐ魔族たちにそう言うと皆が押し黙った。

わかっているんだコイツらは。ダンジョンが消え魔王が誕生しなくなり、大地の魔力も無くなり年々数を減らしていく自分たちは魔神に見捨てられたのではないかと。


実際そうだ。シーヴはそんな細かいことなんて考えてないだろう。創造神に言われるがまま、罰としてのダンジョンを作り続け設置し移転し撤去していく。

そこで生まれた魔物なんて気にも掛けていないと思う。


哀れな……このダンジョンのない世界では、魔族たちは己の存在意義を失っている。

知能が高いゆえにそれに気付いてしまう。

だから俺がコイツらに存在意義を与えてやる。


「いつまでお前らは神だ魔王だに依存していくつもりだ? お前たちは何のために生きている? 子を作り血を絶やさないためだけにか? そんなものそこらの虫でも同じことをしている。お前らは虫か? 違うだろ! 魔王がいなくなり、ダンジョンが消えてからお前たちは力を合わせて畑を耕し家畜の世話をし生き永らえてきた。そこに神は必要かだったのか? 魔王が必要だったか? そんなもの必要などない! お前たちは自分で考え、仲間と協力して生き残った! 神や魔王がいなくとも生きる術を考え実行してきた! 魔族の国を造れ! 自分たちが豊かになるためだけの国を! シーヴや魔王やダンジョンなどに頼らずとも強くなれる文明を築け! 人族を見ろ! あのひ弱な人族がここまで力を付けているのは文明を築いたからだ。ダンジョンなどなくとも強くなれる。それを証明したのが人族だ! 」


ダンジョンが消えて300年余。この世界の魔族は変わった。

魔王没後に魔族同士で殺し合い奪い合う過程を得て、大地の魔力が無くなってきたことで協力し合わなければお互いが滅ぶことに気付いた。

バガスとアジムとサタールムの力が拮抗していたことも功を奏したのだろう。

誰か1人でもいなかったら永遠に戦い続けていたかも知れない。


コイツらなら人族のように文明を築くことが可能だろう。


「人族はその数と知能をいかしアトランとムーアン大陸で覇を唱えた! しかし奴らはやり過ぎた。魔王ベルゼガルやその前の魔王グリムスと同じように、他種族を殺し過ぎ女神の怒りを買った。そして俺が再び召喚された。今後人族がどうなるかは、これから人族に訪れる暗黒の時代を目にすることでお前たちも理解するだろう。だが人族は必ずまた力を付ける! その時にお前たちはただ狩られるだけの存在となるのか? そんな未来を受け入れられるのか? 受け入れられるわけがないよな? お前たちは誇り高き魔族だ! 人族にただ狩られるだけの存在などではない! ならば! ならば魔王がいなくなり魔族の恐怖を忘れた人族にお前たちの力を見せてやれ! 今後ヴェール大陸に手を出すならば、ただでは済まないことを人族の歴史に刻み込んでやれ! そして魔族による独自の文明を築き人族よりも優秀であることを証明してみせろ! 」



《 魔族の国を! 》


《 我らの恐怖を人族に! 》


《 光魔神様と共に! 》



俺がそこまで言うと魔族たちは剣を掲げ地を踏み叩き、いくら訂正してもやめない魔神コールをし始めた。


そんな中、バガスがこの300年間の苦労を思い浮かべるような遠い目をし、アジムが俺に余計なことを言うなというような目で見ていた。しかし俺が睨み返したら速攻で目をそらした。

サタールムは文明が育ったら不死者てある自分の眷属が全て奪えばいいと思っているのが見え見えな不敵な笑みを浮かべ、その他の魔族は世界に覇を唱える魔族の国を思い浮かべているようだった。


そううまくはいかせないけどな。


とにかく人族と魔族と獣人の三つ巴の文明を築く。

いつか獣人たちがムーアン大陸に戻り大陸を制覇し、人族がアトラン大陸を、魔族がヴェール大陸を制覇してもいい。このバランスを保っていれば今回のようなことにはならないだろう。


争いを無くすのは不可能だ。ならばお互いに簡単には手を出せない冷戦構造にするのが望ましい。

こういうのを確か三国志の孔明がやった天下三分の計とか言うんだっけ?

2つの勢力では戦争が絶えないが、3つの拮抗した勢力があれば二国間でそうそう戦争はできない。

弱ったところを第三国に攻められるからだ。


だから俺は500年という時間を獣人と魔族に与えた。それだけあればお互いに侵略を思い留まらせるほどの文明を築けると思ったからだ。

人族は数が多いからそれくらいのハンデはすぐ追い付くだろう。


俺は魔族たちの騒ぎが落ち着くのを待ち、次に獣人とエルフたちへと声を掛けた。


「いよいよだ。お前たちの家族や同胞を殺しまくった人族に天の罰を与える時が来た! これまで多くの悲しみを乗り越えよく耐えた! 亡き家族の仇を! 亡き友の仇を討つ時が来た! 捕虜はいらない! 武器を一度でも手にした者は1人残らず殺せ! 獣人たちは同胞の救出を! エルフたちは同胞の精霊石を奪い返せ! そして人族の歴史にお前たちに手を出せばどうなるかということを刻み込め! 」


》》》


《 やっと仇を討てる! 》


《 息子の仇を! そして夫の仇を! 》


《 人族に死を! 慈悲亡き鉄槌を! 》


《 勇者様と共に! 》


《 300年前のように勇者様と共に! 》


》》》


さすがに恨み骨髄といった感じだな。


俺は怒りに燃える獣人や竜人、そしてエルフたちを手をあげることで落ち着かせた。

そして今回の侵攻に関しての禁止事項を伝えた。リアラの怒りを買わないためにな。


「聞け! この戦いで武器を手にしていない者への攻撃は禁ずる! お前たちが本当の強き戦士ならば、女子供に手を出すような弱き者の行動を取らないだろう! 光魔王軍に弱き者はいらない! 弱き者を見つけたならばその場で殺せ! それが真の強さを持つ者の証明と思え! 」


俺は吸血鬼とオークたちを睨みつけ、手を出せばこの世界からお前たちを1匹残らず駆逐してやると心話を送った。

吸血鬼たちとオークたちは首を縦に高速に振ってそれに答えた。


まあリムやダークエルフに蘭が見張ってるから大丈夫だろう。

俺は軍全体が理解したと思えたタイミングで転移で広場に移動をし、戦場へと繋がるゲートを出現させた。


「『ゲート』 ……リム。行こう」


「ハッ! 光魔王軍出陣! 歩兵を先頭にゲートを通り展開せよ! 進め! 」


》》》


俺は30mはある巨大なゲートを出現させ、その門を潜っていくオークやオーガたちを見送った。


まずはドラ娘の縄張りの前にある砦からだな。


リンデールにオルガスの人族どもよ。

15年もの間、アトラン大陸とムーアン大陸を駆けずり回り戦って来た勇者の恐ろしさを思い知らせてやろう。



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