第23話 島流し





パース市周辺の魔物狩り祭りを明日に控えたお昼時。

ロットネスト島の元軍司令部のビルを改装し、うちの会社の支店にした応接室で俺は蘭と凛と夏海とで昼食を食べていた。

この島の港ではさっそく各国の船がやってきており、貨物船からクレーンで鉄の箱にコンテナを積み替えていた。この鉄の箱はメルボルンとシドニーで見つけた大型の廃船だ。この船の艦橋や甲板を取り除き、大きな鉄の箱にした。


この鉄の箱には至る所にフックと太いワイヤーが付いていて、このワイヤーを岩竜が掴み大陸の各都市へと

輸送している。そして運んだ先であらかじめ鉱物が積み込んである同じ鉄の箱を持ち帰り、この港で日本や米国の船に積み込む。岩竜の背には100人ほど乗れるシートも取り付けてあり、飛行系魔物の少ない空域を確認してから今後は人も輸送しようと思っている。


ドラゴン便は各都市に中型船も運航しているのでそれほど頻繁に飛んでいるわけではないが、スピードが圧倒的に早いことから、日本や台湾へ直接運んでくれないかと企業からの問い合わせが来ている。

これは人員が育ったらやろうかと思う。


うちの会社の別荘地の開発も始まった。今は業者がビーチにコテージを建てるための資材を運び込んでいる。なんとかオーストラリア大陸の夏には間に合いそうだ。ここは日本とは季節が逆なので、クリスマスを社員たちとロットネスト島でパーティをして過ごすのもいいかもな。


そして俺の夢のプライベートビーチも確保した。60はあるビーチから厳選したビーチを、ところどころ地形操作の魔法を駆使してヌーディストビーチにするのに完璧な地形にした。これなら覗かれる心配は無いだろう。夏が待ち遠しいよ。


そうそう、早く来すぎたリチャードたちは以蔵に預け、新しい魔法と装備に馴染むまで女神の島のリアラの塔に挑ませている。うちの2階が女神の島に繋がっていることに顎が外れるんじゃないかってくらい驚いてたみたいだが、そのあとはもの凄いはしゃぎっぷりだったらしく、島の砦からリアラの塔まで走っていったらしい。

そう言えばあいつらはずっと女神の島には出禁だったから初めて挑むんだったな。




俺がそんなここ一週間の出来事を回想していると、かぼちゃのスープを口にしていた夏海がスプーンを置き、元気のない声で俺に話しかけてきた。


「光希……本当に呼ぶんですか? 」


「ん? ああ、あのことか。俺さ……あの人たちには日本は狭いと思うんだ。富士のダンジョンでの間引きは間に合ってるしな。この際うちの会社で雇ってロットネスト島の警備員とドラゴン事業部で働いてもらおうと思うんだよ。そうすればあの広いオーストラリア大陸で好きなだけ暴れられるだろ? もうシルフィに静岡のダンジョンの各支店からクレームもいかなくなるだろうしさ。セルシアも鎮圧に呼び出されることも無くなる。一石二鳥だと思うんだ」


「確かにそうですが……私はなんだかお祖父様たちを姥捨山うばすてやまに捨てるようで少し罪悪感が……」


「ぷっ! 姥捨山とか言い得て妙ね! 」


「十兵衛さんたちは捨てられてしまうのですか? 」


「蘭、そんなことはないさ。夏海……そんな風に考えたらいけないよ? 籠の鳥を大空に解き放つような感じだよ。この狭い日本に閉じ込めていたら可哀想だろ? だから広いオーストラリア大陸に解き放ってあげるんだ。そのまま二度と戻ってこないかもしれないけど、鳥は自由だからね。それも運命ってことだよ」


そう、俺は夏海の一族にロットネスト島での警備の仕事とドラゴン事業部で働いてもらうように頼んだんだ。南の大陸で綺麗な海を見ながら美味しいものに囲まれて、休みの日は竜に乗っていつでも好きなだけ広い大陸で狩りができるって誘ったらイチコロだったよ。

今回の魔物狩り祭りにも誘った。俺とシルフィはもう限界なんだ。早くあの一族を日本から追放しないといけないって本気で思うほどに……


「で、ですが……」


「地竜連れ出し事件」


「うっ……」


「飛竜の卵持ち出し事件」


「うぐっ……」


「多田道場強制捜査」


「あうっ!……わ、わかりました。もうそれ以上は……」


「夏海、道場は警察の管理下に置かれているにも関わらず、門下生が倍近く増えている。このままあの狂人集団を日本に置いておくのは危険なんだ。いつか大変なことをしでかすのは間違いない。民間人に死者が出てからでは遅いんだよ。そんなことになったら冒険者連合で討伐対象になる可能性もある。そう思わせるだけのことをあの馬鹿たちはやらかしたんだ。わかってくれ」


あの狂人たちは俺たちの真似をしようと思ったのか知らないが、ダンジョンから生きた地竜を連れ出そうとした。支店から連絡がきてそれを知ったシルフィがセルシアを急いで派遣して十兵衛さんたちの愚行を止めたからよかったものの、下手をしたら地上で地竜が暴れる可能性もあった。


さらには俺たちが方舟から帰ってきたタイミングで、今度は飛竜の卵をダンジョンから持ち帰り、千葉の道場で卵からかえさせようとした。これは多田一族が以前から公安にマークされていたこともあり、公安によって阻止された。その際に道場に強制捜査が入り営業停止に追い込まれた。

公安て国内の反社会組織やテロ組織を監視する部署なのにな。アイツらはそんなとこにマークされてるんだぜ?


それなのにだ。クオンとの模擬戦時のテレビ出演と、上海の氾濫時の活躍。それに富士のダンジョンで地竜と飛竜を狩りまくったことからメディアに『ドラゴンを狩る者たち』として紹介された影響からか、門下生は増加した。もうすぐ十兵衛さんと千鶴さんの門下生を合わせて500人になるらしい。元は300人に満たなかったくらいなのに倍近くになっている。そんな彼らは現在は道場が使えないから、新宿のダンジョンで泊まり込みで稽古をして新たな狂人を増産している。


夏海は毎回恥ずかしさのあまり悶死しそうになり、俺とシルフィはメディアに警察にと事件のもみ消しに奔走していた。

もう無理なんだ。俺はあの一族に振り回されるのが嫌なんだ。できることならどこかのダンジョンに監禁したい。もう方舟世界に連れて行って置いてこうと思っていたその矢先に今回のオーストラリアの件だ。俺はこれを利用しない手はないと思ったね!


ここは外国だ。ここで何をしようが日本ではないから俺たちに迷惑はかからない。ほかの冒険者連合支店の職員や公安から白い目で見られることもなくなる。

それどころか暴れれば暴れるほどオーストラリア大陸に住む人のためになる。この大陸での仕事は彼らの天職になるんじゃないかと思う。


「飛竜の卵を持ち出したのはびっくりしたわ。本来なら冒険者連合追放の上に懲役刑ものよね? 」


「凛ちゃん言わないで……全員に稽古を付けてしっかりお仕置きはしておいたからもうしないと思う……多分」


「あの時のなっちゃんはまさに怒れる般若でした」


「ダンジョンから魔物を連れ出すことは御法度だからな。俺たちは契約の魔法の件を冒険者連合と政府に説明してあるから例外なんだと説明したはずなんだけどな」


「卵からなら飼い慣らせると思っただなんて……九州の方たちが過去に飛竜によってどれだけ犠牲になったのかも考えずに……ほんとにもう、うちの家族は……恥ずかしいです」


「だから夏海。日本から追放すれば俺たちはあの狂人集団に頭を悩ませなくて済むんだ。これは二人の幸せのためなんだ。あの人たちを本来あるべき場所に還そうよ」


「……はい。そうですね。生きてさえいてくれればこの際もうどこにいてもいいです。これ以上日本に迷惑は掛けれないです。私たちのためにもお祖父様とお祖母様にお父さんとお母さんたちには、この島で生活してもらいます」


姥捨山というか島流しに近いな。まあどっちでもいいんだけど。


「あははは、本人たちは喜んでるんだしいいんじゃない? お姉ちゃんが気に病むことはないわよ。この島なら生活に困ることもないし、良い場所だと思うわ」


「そうです! この島は自然いっぱいですし海も綺麗です! 蘭は早くクジラさんたちの群れを見たいです! 」


「なかなか現れないよな。季節が関係してるのかな? 蘭がスーに乗って探すからスーに怯えてる可能性もあるな。今度船で沖に行ってみようか」


「むぅ……確かにその可能性はありそうです。主様と船で探しに行きます」


「コテージだけじゃなくて私たちの別荘も建てないとね。しばらくこの島は建築ラッシュね」


「来月は飛空艇に女神の島の別荘と完成ラッシュだしな。年内には女神の島のホテルや皇ショッピングモールも完成するし道路もほぼできている。あの島も今まで以上に賑やかになるな」


欧州各国や中東の国の軍も女神の島の入場を許可したからな。かなりの人口密度になりそうだ。

俺たちの土地に侵入しようとする馬鹿も後を絶たないみたいだし、今後は侵入者は生かして返さないようにするしかないな。甘く見られたらあそこに里を作ったダークエルフたちが危険にさらされるからな。

仕方ない。狼と猿系の魔物を創造して森に放つか……


俺は変わりゆく女神の島を楽しみにしながらも、来島者が増えることによって起こる面倒ごとにも対応していかなければなわないことに頭を悩ますのだった。


これは本気で古代錬金書に書いてあった結界の塔を造ってみるか? 俺の頭じゃ無理だから飛空艇の増幅器を作ったアンネットの婆さんを引き抜くしかないな。シルフィ曰く、そろそろ体力的にキツイから政府の仕事を引退したいと言ってたらしいからな。確か人族の魔導師とはいえもう130歳になるんだったか?

90歳の時に自分の作った魔道具を試すために上級ダンジョンに潜って、そのままこの世界に来たとか言ってたな。元気すぎだろ。


あの婆さんなら魔法回路研究の第一人者だからな。俺の持っている古代錬金書と若返りを餌にすれば来てくれそうだ。まだ一度しか会ったことがないが、アレは間違いなく研究馬鹿だ。そういう目をしていた。死んだら研究への未練が強くてどっかのダンジョンに召喚されてエルダーリッチになりそうだ。


結界の塔が作れれば広範囲を結界で守れる。コストがハンパないからそうそう政府には売れないが、ロットネスト島と女神の島の俺たちの土地の防衛にこれがあれば便利だ。


飛空艇を受け取る時にちょっと誘ってみるか。











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