2話




「ダーリン朝よいつまで寝てるのよ、いい加減起きてよ!」


「あと10分したら起きるから……」


「30分前にも聞いたわよそれ」


「身体が怠いんだ……超精力剤飲む間もなく凛と蘭に搾り取られたから……」


「そ、それはちょっと悪かったと思ってるわよ……ダーリンを好きにできるのってなんだか楽してつい……えへへ」


「遊ばれた……おもちゃにされた……もうお婿に行けない責任とってくれ」


「はいはい、責任取るから起きて! 朝食持ってきてもらってるから」


「ううー怠い……」


俺は怠い身体に鞭を打ちベッドから起き上がり、ハーフパンツにTシャツ姿の凛に腕を引っ張られリビングへと向かった。


昨夜枕投げ大会後に新しい自分を発見した俺は、凛と蘭に散々搾り取られ最後は夏海に優しく介抱されて眠りについた。しかし朝起きても回復しきれず布団から出れないでいた。

やむを得ないので後で時戻しの魔法を自分に使おうと思う。流石にこのままではキツイ……


正直時魔法はその取得難易度からもそうだがチートだと思う。戦闘でも日常でも余りに便利過ぎる。

初級時魔法でさえ魔力を持つ対象の時間を遅くする魔法があり、俺はこれを昔やってたゲームのイメージから《スロー》と呼び素早く動く敵によく使っていた。これに中級時魔法の自身の時を加速させるこれまたゲームから《ヘイスト》と名付けた魔法と併用すると格下相手にはほぼ無敵だ。


スローは上位龍や四天王や魔王クラスは魔法防御値が高いのでかなりの魔力を込めないといけなくなり費用対効果が悪いのであまり役には立たなかったが、速いだけの敵にはかなり有効だ。


他に中級時魔法には魔力を持つ、対象の一部の時間を巻き戻す物がある。上級時魔法の夏海の目を復活させた《時戻し》の下位互換みたいなもので、対象の欠損部位だけとかに使ったりして部位を復活させれる。これを覚えた時は再生と名付けていたが、人間の脳だけにこの魔法を掛けて記憶を巻き戻すイメージで発動するとそれまでの記憶が消える事から《忘却》という名に変えた。


これはゴブリンやオーク、変態貴族に攫われた女性達にとって大きな助けとなった。無かった事にできるんだ、身体の傷は治るが記憶は消せず助けても自ら命を絶つ女性が多い中、俺の心もこの魔法は助けてくれた。


上級になると夏海に使った魔力を持つ対象の広範囲の時を戻す《時戻し》と、反対に対象の時を早める《残酷な時間》という魔法がある。魔法名はこの魔法は拷問の時にしか使わないからこうなった、鏡を前に起き魔法を発動して若者が足腰立たない老人になっていく姿はとても残酷だったよ、あまり使いたい魔法じゃない。


最上級は今俺に掛けている《時間停止》と夏海に掛けた《蘇生》がある。これは魔力をかなり使うし時の女神を召喚して力を借りないといけないので戦闘中の使用は難しい、結界張ってできなくもないが集中できなさそうだし厳しいかな。


改めて時魔法のチートさを実感しながらシルフィーナのいたアトラン世界にあり俺のいたアトラン世界に無いレア魔法で、付与魔法の低コストバージョンぽい魔法のスクロールが作成できるという【紋章魔法】も欲しいなぁとどこぞのアイテムコレクターの気分で新たな魔法に思いを寄せて恋人達と朝食をとるのだった。


「光希体調が悪そうですね、やっぱり昨晩のその、アレですか?」


「ん?ああ、大丈夫後で魔法使うからすぐ治るよ」


「そうですかそれなら安心しました」


朝食を取りながら魔法の事を考えてボーっとしてたら夏海が心配してくれたので、目をスッと逸らす凛と蘭を見てから問題無いよと返したら夏海は本当に安心した表情で笑顔を見せてくれた。なにこの女神!?

そんな俺の心のオアシスとなりつつある夏海にサラダをあーんして食べさせて恥じらう姿を堪能し、朝食を食べ終わりリビングで休憩しながら今日は何をしようかと皆で話し合った。


スキューバダイビングやらクルーザーに乗って釣りなど色々案が出たが、来た時から気になっていた離れ小島に行き釣りをしてキャンプでもしようという事になった。

この離れ小島は離島近くにあり俺達の部屋からも見える1k㎡位の島だ。島の中央はキャンプ場になっておりここからでもその様相が見える。

早速フロントに電話をして移動用の船を用意してもらって釣り具はアトランで使っていたやつを使う事にし皆でワイワイと着替えをしていると俺の携帯が鳴った。


着信音がシルフィーナの物だったので何かトラブルでもあったかなと思いながら電話に出た。


「シルフィーナどうした?……いやいいよ気にしないで……そうか竜人ね……いや、いいよ気にするな慣れてる……はははそういう種族なんだよ……ああ、シルフィーナの友人だし殺しはしない……ただ命以外は……悪いな……こっちに?……大変だなシルフィーナも……ああ適当に対応しとくから…じゃあまた」


「ダーリン理事長から?どうしたの?」


「光希なにか問題事が?」


「主様、蘭の聞き間違いかと思いますが今竜人とおっしゃいましたか?」


俺がシルフィーナからの憂鬱な電話を切ってため息を吐くと、その様子を見た凛と夏海が心配して声を掛けてくれた。蘭だけはものすご〜く嫌そうな顔で聞き間違いですよね?と信じたくない関わりたくないという感じで聞いてきた。うん、わかるよ俺が蘭の立場なら同じ顔して同じセリフ言ってるもの。


「あ〜Sランク冒険者のセルシアって竜人がさ、俺が大した実力も無く運で上級ダンジョンを攻略してそれをネタに勇者っぽく振る舞ってシルフィーナを誑かしていると勘違いしたらしくて俺の実力を試してシルフィーナの目を覚まさせる為に今こっちに向かってるんだってさ」


「はあ?なにそれ?セルシアさんって噂では聞いていたけどそこまで馬鹿だったの!?テレビも動画も見てないの!?」


「セルシアさんが!?あれから2ヶ月以上経ってるのにその情報弱者振りはちょっと…」


「若い竜人…ですね、この世界に来てたんですね」


「ああ、女性の竜人が戦士なのは珍しいが恐らく成人前の修行でダンジョンアタックしていてこの世界に来たんだろうね、竜人がインターネットを見る事は無いだろうしテレビを見ても脳筋だから自分の目で見ないと信じないかも」


「超脳筋なのね、でもヘリ飛ばせないように手配したらここに来れないんじゃない?」


「凛ちゃん竜人は半竜化すると翼が生えるんです」


「え?飛べるの!?」


「ああそれ程スピードは出ないけど飛べるね、まあ話し合いには絶対ならないだろうし相手をしないとこの離島めちゃくちゃにされるから適当に相手をするよ」


俺はいつぞやの女魔法使いが最初に言っていた、自分が信じられないものは信じないタイプの脳筋がやって来るのに辟易としながら逃げてもどうせずっと追いかけて来るのは間違い無いので早めに対応する事にした。


「すっごい嫌そうな顔…確かセルシアさんって理事長より強いって聞いた事あるわ、まさかダーリンでも苦戦するとか?」


「それはないですよ凛ちゃん、私でも勝てます。ただしつこいんですよあの種族」


「あ〜勝つまで何度も襲撃してくる系?」


「そうだね、若い竜人はよく挑んで来たな生かして帰すとそりゃ何度も何度も」


「一応魔王討伐軍所属の部族だったので殺せないのが蘭は辛かったです」


「200歳以上になるとその好戦的な血を抑え制御できるようになって落ち着くんなんだけどね、竜人の大人達も自分が若い時に同じ事をやってたから若い者に強く言えなくて困っていたな」


「要はセルシアさんは血を制御できない未熟者だったって事?」


「種族魔法最強の竜化ができないからね。いや、正確にはできるけどしないか」


「竜化?できるけどしない?」


「竜人族は人間からは古代文明の負の遺産とも言われていてね、元は人間だったんだけど古代文明時に竜の因子を埋め込まれ生まれた種族と言われているんだ、それで強力な肉体と長い寿命と竜の力の一部を使えるようになったんだけど元はひ弱な人間だからね、竜の力を扱いきれず全身が竜の姿になってしまう者もいるんだ。大抵が200歳未満の若い竜人がそうなる。だから200歳になり部族に認められる迄は掟によって竜化は禁止されているんだ」


そう、竜人族の長老辺りは理解している、自分達が作られた存在であるという事を。

ただそれ以外の竜人の特に若い者は自分達は世界最強の神に選ばれた種族だ的な考えでいる者が多い、故に驕り敵を見くびり追い込まれ禁じられている竜化まで使う。

だがたとえ勝ってもその未熟な制御により身体が元に戻らなくなる。

そういった者はいずれ知能まで低下し部族の討伐対象となる。


「なるほどねー竜化使えないなら余裕で勝てるけどその後何度も挑まれても厄介なのね、うえっ!ホント厄介ね!」


「しつこいのは嫌ですね光希や蘭ちゃんの表情にも納得です」


「主様また倒すだけだと今後横浜の家にも来てしまいますので蘭が殺します」


「それがさ、シルフィーナの友人でシルフィーナの為に動いている部分もあるから殺したら彼女が悲しむと思うんだよね、だから今回は徹底的に心を折るよ」


「シル姉さんの…そうですか…」


「ダーリン…無理しないで」


「優しい光希が女性を傷付けるのは…光希の心が心配です」


「ありがとう、大丈夫だよ。慣れてるんだ竜人族の跳ねっ返りにはね」


そう、俺はあまりに竜人族の若者がウザくてある時キレて里を襲撃して徹底的に心を折った。それ以降俺に挑むには里で一番強い戦士を倒してからという事になり、俺に戦いを挑む者はいなくなった。


「さて、ちょっと騒がしくなるから皆は本島に行っててもらえるかな、終わったら迎えに行くから気にせず遊んでいていいよ。皆がいるとちょっとやり難い作業なんだ」


「…はい、今夜は蘭が主様を慰めます」


「…わかったわ、私も今夜たっぷり慰めてあげるから思いっきりやって!」


「わ、私も支えますから私達の事は気にせず光希のやりたいようにしてください。光希が何をしてもどんな結果になっても私は貴方を支え続けます」


「ははは、ありがとう蘭、凛、夏海」


俺はそう言ってゲートを開きマンスリーマンションの鍵を蘭に渡し3人を送り出した。

俺はホテルを出てホテルから遠く離れた本島方面の遊泳禁止となっている浜辺へ向かった。そこはゴツゴツとした岩や石がそこら中にある浜辺で、俺は海を見ながら探知を発動し寝転がりながら招かれざる客の到着を待った。



しばらくそうしていると俺の探知に珍しい魔力の反応があった。俺は過去に何度も感じた魔力なのでそれがどのようなものか知っており、寝ていた身を起こし砂浜に立ちその空からの来訪者が来るのを待ち構えた。

少しすると海側から翼をはためかせ俺の方へ向かってくるものが目視できそれはどんどんと俺に近付いて来てやがて俺の10メートルほど離れた所に着地した。

その存在は黒いビキニアーマーを身に纏い、俺より少し高い身長に赤い髪大きな2本の角、やや吊り上がった目で俺をニヤニヤ笑いながら観察していた。

顔立ちは海外の人気若手女優かと思える造りなのにその弑逆的で好戦的な表情が全てを台無しにしている。半竜化した時に現れる鋭い爪を持つ竜の手と肘の部分まで覆う鱗、背中側には身長と同じ大きさの2枚の翼と太く長い尻尾の存在がこの竜人が普通の存在ではないと威圧感を与えていた。


俺は無詠唱で鑑定魔法を発動した。



セルシア・ドラス


種族:竜人


職業: 拳王


体力:S


魔力:E


物攻撃:S


魔攻撃:E


物防御:S


魔防御:B


素早さ:S


器用さ:E


運:D


✳︎竜化時物攻撃・物防御・魔防御が1ランクアップ、素早さ1ランクダウン


取得魔法:


種族魔法:竜闘術、竜化


備考:竜化時侵食



若いな…見た目が10代後半ぽいし100歳ちょっと位かな、竜化の制御はまだまだできないだろうな。

でもこのステータスで竜闘術があればこの世界なら最強なんだろう、竜人お得意の驕りか。

そんな事を考えていると目の前の竜人、セルシアが話しかけてきた。


「あんたが佐藤か?あたしが来るのわかってたみたいだね、シルから連絡あったのか?」


「ああそう言う事だ、俺に何か用か?」


「はんっ!あんたみたいなパッとしない男にシルがお熱のようだからね、運良くできたての上級ダンジョンを攻略した位で勇者面してシルを騙すような奴には死んでもらってシルの目を覚まさせてやろうと思ってさ」


「友達思いなんだな」


「長い付き合いだからね、あの全く男に興味の無かったシルの弱点を突くなんて顔はイマイチだけどなかなか策士じゃないか、流石女を3人侍らせているだけあるね」


コイツ…顔顔言いやがって


「あっそ、それで?どうやってお前程度で俺を殺すんだ?」


「なっ!?あんた実力差もわからないのか!泣いて命乞いするなら腕一本切り飛ばす位で勘弁してやろうと思ってたけどやめた!殺してあげる」


「ククク…その言葉そっくりそのままお返ししてやるよトカゲのなり損ない」


「……殺す!シッ!」


「トカゲ脳が!」



竜人族と会えば必ず起こるテンプレを踏襲し無事戦闘開始となった。

セルシアは俺の言葉に逆上し砂上とは思えない程のスピードで俺に向かって来てその鋭い鉤爪を俺の左肩目掛けて振り下ろしてきた。

俺はその爪を右に移動するだけで躱しついでに目の前を通り過ぎる翼を掴みそのまま引き倒した。


「うわっぷぷっ!」


「なんだ砂トカゲか、次は砂に潜るのか?」


「クッ…か、躱された?あたしの速さに…この!もう手加減しない!『竜撃波』」


「手加減って、殺すんじゃなかったのかよ」


砂浜に顔をつけ砂だらけの顔で俺を睨んだセルシアはすぐさま後ろに飛び退き俺と距離を取り、全身に竜人族特有の魔力とは違う竜気と呼ばれる物をを漲らせてその竜の手から竜闘術の竜撃波を放った。


『天使の護り』


パシーン


『竜爪』


パリーン


「クソッ!…『竜撃』」


ガキンッ!


セルシアの右腕から放たれた衝撃波のような物を俺は結界を張り防ぎ、それと同時にセルシアが距離を詰めて腕を振り上げ竜気を纏った爪の斬撃を振り下ろした。

しかしこれも結界が防いだが結界を破られてしまった。

結界が無くなったのを好機と見たのかセルシアは立て続けに拳を握りそのゴツイ竜の拳に竜気を纏わせ打ち抜く竜撃を放った。しかしそれも俺がアイテムボックスから出した耐久性が高く更に魔力を込めた黒鉄の剣に受け止められた。


「クッソ!シッ!ハッ!ヤッ!」


「足癖の悪いトカゲだな」


キンッ!キンッ!ガッ!キキンッ!


俺に拳を受け止められたセルシアは右回し蹴りに前蹴り、距離を取ってからの足刈りなど連続技を繰り出してきたが、その全てを俺の剣と足で防がれていた。


「当たらない!当たらない!クッソ!クッソ!」


「そろそろお前の言う実力差というのが分かったんじゃないのか?」


「こんな!この程度で!上から見てんじゃねー!『竜気開放』」


「あ〜それね」


攻撃が全く当たらないセルシアはすっかり熱くなり最後の手段である竜気開放を行なった。これは体内の竜気を全て開放し攻撃力とスピードを上げるものだ。


「これで当たる!『竜撃波』『竜撃』『竜脚撃』『竜爪』」


「もうさ、昔から見飽きてんだよその技はよ」


俺は全身に魔力を込め身体能力を更に上げ黒鉄にも魔力を多く送りその全ての攻撃を迎撃していった。


「こんな!『竜爪』『竜爪』」


「はいはいワンパターンワンパターン『影縛り』『氷河期』」


「うわっとと…なんだ!足が!このっ!このっ!」


俺はあんまりウザいので離れてもらうために竜爪を躱したタイミングでセルシアの影から闇の手で足を掴みそのまま氷河期を発動した。

セルシアは陰から伸びる手に驚きながらも竜の脚の爪で闇の手を切り裂き、迫りくる氷を翼を使い空中に飛ぶ事で回避し俺から20メートル程距離を取った。空中で留まらないのは俺が魔法を使うからだろうな。


「ようトカゲのなり損ない、まだやるか?と言うかまだ実力差がわかんねーのか?」


「クッ…クソックソッ!殺す!殺す!絶対に殺してやる!あたしはまだ全てを出してない!全てを出せばお前なんか必ず殺せる!」


「そういうの聞き飽きてんだよ、竜化を制御できねーだろお前?お前の実力じゃあ身体の半分近くは竜化から戻れねーぞ?それで過去何匹の竜人が全身竜の姿になって知能も落ち仲間に討伐されたか知ってんだろ?」


「な、なぜあんたが竜化の秘密を知ってる!あんた一体何者なんだよ!」


「過去しつこい竜人を何匹も狩ってるからだよ、自滅した馬鹿も中にはいたって事だ」


「嘘だっ!この世界には竜人はあたし1人しかいない!嘘を付くな!誇りある竜人を貶めるな!『竜化!!』」


「警告はしたぞ?『スロー』『ヘイスト』……『次元斬』『転移』………『次元斬』」


「ギャーーーー!翼が、角が尾も…ぐっうううううぅぅぅ」


俺は竜化が完了するまで10秒程その場を動けないのを知っていたのでセルシアの時間の流れを遅くし、更に俺の時間の流れを早めてほぼ停止しているように見えるセルシアの頭から生えている2本の太い角を次元斬で根元付近から斬り飛ばした。

そしてセルシアの側面に転移しその大きな翼と尻尾も次元斬でまとめて切り離した。セルシアは何が起こったのか分からず突然襲って来た激痛に悲鳴をあげ、痛みの発生源を確認するものの竜化中で動けずそのまま耐えて竜化を終えた。

竜化を終えたセルシアは頬から下は胸と腹部を残し全てビッシリと赤い鱗に覆われた姿になり、一回り大きな体格となっていた。元々身に付けていたビキニアーマーは全て千切れ足元に転がっており、その巨大な胸と引き締まった腹部は黒い皮で覆われていた。

竜化した竜人はステータスが大幅に上がるが所詮ステータスはあくまでも目安。その差は経験による機転や魔法、職の相性によって簡単に覆る。その点俺は魔王軍相手に毎日死線を潜り抜けてきており、更に超レア魔法も手に入れ魔王まで倒して経験から何から圧倒的に上の存在だ、高が若い竜人の竜化程度ではちょっとマシになった程度にしか感じない。


「グッ…角や翼に尾まで…よくも…竜化中を狙うとは卑怯者!このクズが!死ね!『竜撃砲』」


「は?なんで俺が出来損ないのトカゲがトカゲになる為の脱皮を大人しく待ってなきゃいけねーんだ?対人素人が!『スロー』『天雷』」


竜族の象徴とも言えるの角と翼を切り落とされたのが相当ショックだったのか元々赤い目を更に充血させてパワーアップした竜撃波を撃ってきた。

俺はスローと豪雷だと死ぬかもしれないので魔力を少し大目に込めた天雷を発動しセルシアに放ち、聖剣を取り出しセルシアが放った竜撃砲を斬った。


「ぐぁぁぁぁぁ!…か、雷!?……なっ!?斬った!?なんだその剣はなん…」


「戦闘中に集中力切らすなよド素人が!」


俺が放った天雷はセルシアを直撃した。セルシアは痙攣しながらもなんとか耐えきったが天雷のダメージにより片膝をつき両腕も前について驚愕の表情で俺を見ていた。俺は対人素人丸出しのその様相に呆れつつセルシアの右腕を斬り飛ばした。


「ギャーーーー!腕が!あたしの腕が!…グッ…なんで……なんで竜化したら…ググッ…最強だって里のみんな…なんで!」


「元の能力と対人戦闘能力が低いからだよ、あとは戦う前に敵の能力を図る洞察力だな脳筋トカゲ」


「あ、あたしは今まで…この世界で最強だったんだ!誰にも…負け…無かった…こんな…」


「この世界のレベルが低いからだよ、竜人族の里じゃお前は下から数えた方が早い」


「そ、そんな…そんな…認められるか…あたしは強さしか…強くなきゃ…強く…ガァァァァア」


「井の中の蛙大海を知らずってな、毎回毎回お前等は憐れだよ。生まれた時から強く誰よりも成長が早くそして長寿だ、子供ができにくいのを補って余りある最強の種族だ。もう少し頭を使い驕って早死にしなきゃな」


「わ、わたしを…誇りある竜人族を…貶めるなーーーー!『火竜の咆哮!』」


「誇りを持ってる奴ってのはテメーが気に食わねえからと言って他人を傷つけようとはしねーんだよ!『転移』『スロー』『ヘイスト』」


俺に腕を斬られ今まであった自信を失い半ば自暴自棄になったセルシアは勢いよく俺から距離を取り口を大きく開けは大技を放った。

セルシアの口からは火竜のブレスと遜色ない程の豪炎が放たれ海を背にしていた俺へ目掛けその炎が襲いかかった。が、背後は海でもう力の差は十分見せつけたと判断した俺は結界で防ぐ事も聖剣で炎を斬る事もせずあっさりセルシアの背後に転移し、スローとヘイストを掛けセルシアの残る左腕を下から掬うように切り上げ切断し、そのまま剣を返し弧を描くようにセルシアの両脚の膝から下を側面から纏めて切り飛ばした。


「ぎ、ぐっ…ぎゃあああああああああぁぁぁぁ!!うで…いつの…間に…ああ…あああ…あじ…あじが…」


「まだ敗北を受けきれられないか?」


「あ…ああ…ぐっ…ぐぞ…よくも…よくも…殺す…必ず殺す!必ず…『火竜の咆哮』」


「おっと、ハイハイ当たらないよ倒れながらじゃ、まあお前等はそうだよな、絶対負けを認めないよな。うん、知ってた」


俺が両腕と両脚を切断され仰向けに倒れているセルシアに近付き、無駄だと思いつつも敗北を受け入れるか聞いてみたら案の定威力はずっと落ちているが火竜の咆哮を俺の顔に放ってきた。俺はそれを横にズレてあっさり躱した。

この闘争心だけは買うんだけどな、 俺は既に竜化が解けているにも関わらず身体の多くを鱗に侵食されたままのセルシアを見て流石にしぶといと感じていた。


「クソッ…必ず…いつか必ず…殺して……」


「今俺に殺されたら仕返しできねーじゃん」


「クッ…クソッ…こ、殺せ!殺せよ…クッ…」


なんだ?アトランで俺に挑んできた奴等と目が違う…ああ、死にたくはないのか。そうか魔王のいないアトランから来たんだったなコイツ、緩い世界で戦いに敗れたら死ぬ覚悟が無いのか…

魔王のいたアトランの竜人族はその辺覚悟はあったんだよな、だから殺さずにいた事に対して誇りを傷付けられたと何度も挑んで来たんだった。

でもあっちなら竜人族最強の戦士達を倒して俺が倒した奴を倒せないなら役不足って言えば良かったがこの世界はセルシアが最強なんだよな…やっぱやるしかないか。

俺は竜気で止血をしたとはいえ両腕と両脚が無いにも関わらず死の恐怖に青ざめつつも俺を睨みつけ続けるセルシアの心を折る作業に取り掛かった。


「お前竜化が解けてんの気付いてんだろ?もう首から下はは竜だな、あと1回竜化使ったら冒険者連合の討伐対象になる知能の落ちたただの竜だ。小さい分竜より厄介だけどな、見てみろ」


「あ……ああ…これが…あたし……クソッ!クソッ!」


俺はアイテムボックスから姿鏡を取り出し倒れているセルシアの前へ砂に突き刺して置いた。


「竜の因子を制御しきれない未熟者が陥る末路だお前は一生その姿のままだ、俺にたった一撃も当てられずただ砂を焼き海を少し蒸発させただけで払った代償がこの姿だ」


「ぐっ…うぅぅぅぅ…」


セルシアは自身の姿を鏡で見て胸と腹部、二の腕と太もも以外が鱗に覆われている事に一瞬絶望の顔をしたがすぐに俺を睨み続けた。これでも駄目か…もーやだこの女!


「負けを認めろ手足が無ければもう戦えないだろう」


「……あたしはお前には屈しない!誇りある竜人族の戦士は人族如きには屈しない!殺せ!」


俺がセルシアに負けを認めるよう言うとやっぱり誇りだとかなんとか返って来たホントめんどくせー


「お前俺が殺せないと思ってんだろ?シルフィーナの悲しむ顔を見たく無いし恨まれたくも無いからな、確かに殺そうとは思ってない」


「シルは関係ない!人族如きの情けなどいらない!殺せ!」


「じゃあ誇りを守る為に舌噛んで死ねば?」


「なっ………」


「お前さ、ヌルいんだよ。死ぬ覚悟もねーのに圧倒的強者に戦いを挑むとか馬鹿なの?」


「あたしは負けてない!必ず手足を元に戻してあんたを殺してやる!」


「あーシルフィーナがここに向かってるもんな、上級ポーション持ってくるだろうし期待しちゃうよなーシルフィーナ優しいしな」


「……そんな事期待していない」


「ふーん、あっそ『冥界の黒炎』」


「あっ!……ああ…」


俺はセルシアの側に転がっていた翼二枚を手に持ち離れた場所に放り投げてから燃やしチリにした。


「はいこれで翼はもう二度と元には戻らないエリクサーでもなきゃな」


「あ…ああ…あたしの…あたしの…」


「で?負けを認め二度と俺と俺の関係者には近付かないと誓うか?」


「よくも…よくもあたしの…竜人族の象徴を…許さない…絶対に必ず殺して…」


「お前俺を殺す気で来たろ?んで返り討ちにあった、なんで次のチャンスがあると思ってんの?『冥界の黒炎』」


「あ…ああ……つの…くそッ……くそッ!やめろ!」


俺は続いて竜人族の最大の特徴である角を放り投げ燃やした…が、流石に竜の角でチリにはならなかったが焼け焦げボロボロになっておりこれももう元には戻らないだろう。

もう毎回聞くのも無駄なので俺は次々と尻尾と両手足を拾っていき一つずつゆっくり焼く事にした。


「尻尾『冥界の黒炎』」


「やめろ!く…うっ…ああ……」




「右腕『冥界の黒炎』」


「やめっ……うっ…くっ……あたしのうで…」





『右足『冥界の黒炎』」


「や、やめっ…あ…ああ…も、う…やめ…て…」




『左腕『冥界の「やめて!あたしの腕をもう焼かないで!認めるから…負けを認めるから…もう…」黒…」


「馬鹿が!上級ポーションなんかあてにして意地張りやがって!」


「うっ…うう…やめて…もう…ゆるして…おねがい…あたしがわるかったから…もう…」


うわーキツかった〜やっと折れたか、身体の半分近くを鱗に覆われ翼・角・尻尾・右腕と右足を焼かれ二度と元に戻らないようにしてやっとだよ。殺した方が全然楽だった、シルフィーナの友人じゃなきゃなぁ。

もう左腕と左足しか無いこの姿じゃ襲って来る事もできないだろうと思い俺は契約魔法はやらないことにした。

丁度セルシアが折れて泣き出した所で俺の探知に反応がありその方向を見てみると一機のヘリがこちらに向かって来ていた。シルフィーナがセルシアを追って来たようだ。


俺はやっと終わったと胸を撫で下ろしこの後どうなるかなとシルフィーナを待つのだった。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る