第80話 支配の門






《 世界中から命を狙われる教祖になるとかそんなの嫌だ! 俺は平和に幸せに生きたいんだ! 》


《 光一、今更よ。光希さんと出会って命を救われた時から私たちの運命は決まってたのよ。受け入れなさい 》


《 光一さん、私は顔が知られてませんから外国人の対応は私がやります。光一さんは神様になりすますことだけに集中してください 》


《 神様になりすますってハードル高すぎだろ! 俺は光希みたいに時魔法使えないんだぞ? 偽物だとバレたら火あぶりにされる未来しか見えない! 》


《 その時は私が信者を皆殺しにしてでも光一を守るわ 》


《 わ、私も守ります! 》


《 ちょ、皆殺しは駄目だろ! 俺を偽神から邪神にクラスチェンジさせる気かよ! 》



「うるさい男だなぁ。石板の情報に集中できないじゃないか」


俺は後ろで騒いでいる光一に騒いでも運命からは逃れられないのになと呆れながら、新しく現れた門の横にある台座の上にある石板に手を当てていた。

この台座は神殿内にあるのと同じ物のようで、石板に手を当てると情報が脳内に直接入ってきた。


石板からはまず一番最初にこの門は支配の門であるという情報が入ってきて、それからこの門の説明みたいなものが次々と入ってきた。


・この門は支配の門である

・この門を潜れるのは一人だけである

・試練を乗り越えた者は方舟内の攻略された全てのフィールドを支配することができる

・支配者の死亡・攻略されたフィールドが無くなった時・星となった時に支配は終わる

・試練を乗り越えた者が望めば神の権能の一部を手に入れることができる


ん? 星? ……え? 星!? つまりこの方舟は宇宙に旅立つのか!? そこで一つの星となる?

おいおい……それは予想外だったわ。てっきり異世界に行って無人の地に移住するのかと思ったけど、太陽との距離とか自転や公転とか大丈夫なんだろうな? 地球があった場所に星となって現れるならいいけど……

いや待てよ? 星になるその時に未攻略フィールドがあったら魔物もいるってことだよな? それはちょっとやばくないか?

う〜ん……でも何年先のことかわからないしな。取りあえず光一や総理にこの事は伝えて、あとは頑張ってねとしか言えないな。俺には関係ないし。


それと支配に試練か……支配はまあ全攻略済みフィールドの上位管理者になるってことだろう。これは別にいらないな。それより一人しか入れない試練となると浮遊島や時の古代ダンジョンや雷神島なんかと同じか……これも最上級魔法を手に入れる時は一人だけしか挑戦できなかったしな。

つまりは天使か聖獣が出てくるということだな。それなら挑戦者はSSランクと相当な装備が無いと厳しいだろうな。

最後の神の権能の一部とはなんだ? 紋章魔法のようなものか? ここは創造神が作った方舟らしいからもっと強力なものなのかもしれないな。という事はそれなりの難易度の可能性もあるな……


「ダーリンなにかわかった? 」


「ずいぶん驚いてたわよね? 」


「ん? ああ、石板に手を置いたらこの門の情報が入ってきたよ。この門は支配の門というらしい。中には一人しか入れなくて……」


俺はが石板の前で考えごとをしていると、後ろで光一たちのやり取りを笑って見ていた恋人たちが集まってきたので簡単に得た情報を説明した。


「SSランクのボスまたはそれ以上がいるってこと? それを一人で倒すの? ダーリンと蘭ちゃん以外無理じゃない? 」


「そうね、私も一人じゃ無理ね」


「SSかぁ〜道理で強い力を感じると思った。一人じゃあたしにも無理だな」


「そうですね。光希か蘭ちゃんくらいしか勝つことはできないでしょうね」


「はい! 蘭が行きたいです! 蘭は勝てると思います! 」


「駄目だ。これは賢者の塔じゃないから死んだら生き返らない。それにどんな敵が出るのか情報不足だ。そういう時は俺が先に行く約束だろ? 」


「むぅぅ……残念です」


「蘭を一人で行かせて万が一死なせたら悔やんでも悔やみきれないからな。蘭が大切なんだ、わかってくれ」


死んだら即方舟に吸収される可能性もある。そうなったら蘇生ができない。そんなリスクを負うわけにはいかない。


「蘭も主様が心配です。でも浮遊島や時の古代ダンジョンの時に、主様はちゃんと蘭の元に戻って来てくれたので信じて待ちます」


「ははは、もし魔王がいたとしても倒せるさ」


俺は魔王と戦った時よりもさらに強くなった。魔力が切れたって即回復できるし大量のスクロールもある。

SSSのボスだろうが俺一人で倒せる。まあ上級ダンジョンレベルの魔物しかいない方舟のラスボスだ、いくらなんでもSSSのボスは無いと思うけどな。SSSなんて魔王クラスだしな。


「ダーリンなら余裕よね! でも念のため勇者の鎧を装備していってね? 」


「久しぶりにコウの勇者様モードが見れるのね! さあ! 早く装備して! 」


え? シルフィにはこの前富良野ダンジョンで勇者装備の俺としたいって言うから装備してみせたよな?

あの時のシルフィは過去最高に興奮していてそのまま失神したから覚えてないのか?


「あたしまだ見たことないんだよな〜旦那さまの勇者装備。こ、恋人として見ておかないとな! 」


「光希があの装備を身に付けるなら安心できますね」


「うふふ、勇者の鎧を装備した主様は最強ですから」


「そうだな。念のため装備していくか」


俺はそう言ってその場でアイテムボックスから青白く光る勇者の鎧一式を取り出し、いま着ている古代火竜の赤いジャケットを脱ぎ蘭に渡し、勇者の額当てを付けてからデーモンスパイダーの糸で作った黒いシャツの上に胸当て、小手、膝当てと装備していった。そして最後に聖剣を取り出し腰の剣帯へと収めた。


「きゃー♪ ダーリン素敵よ! 」


「勇者様……ハァハァ……私の勇者様……」


怖い……シルフィの目が怖いって! 富良野で勇者の鎧を見た瞬間襲い掛かってきた時と同じ目をしてるよ。


「カッコイイ……あたしの旦那さまは勇者……強くてあたしを支配している勇者……」


「光希のその姿はいつ見ても素敵ですね」


「うふふふ」


「光って目立つからあんまり好きじゃないんだけどな。能力は折り紙つきだからやむを得ずだな」



「こ、光希! なんだそれなんだそれ! すげー! 光ってる! 蘭さんの武器よりも白に近い光だがそれも魔鉄で作られてるのか? 」


俺が危ない目のシルフィをスルーし、光り輝く鎧にウンザリしていると夏美になだめられていた光一が駆け寄ってきてまた騒ぎ始めた。


「これは魔鉄に女神の力が宿った聖剣と勇者の鎧ってやつだ。欲しいなら神様にお前をどっかの魔王のいる世界へ召喚するように推薦しておくぞ? 」


「げっ! 冗談じゃない! 夏美と玲と離れるなんてゴメンだって! 」


「一度くらいあの地獄を経験するのもいいんだけどな。じゃあ俺はこの門に挑戦するから光一たちは帰ってろ。長いこと会えなかったんだ、積もる話もあるだろうしな 」


「こ、この門の中に入るのか!? ヤバイ雰囲気しか感じないぞ? 」


「まあ大丈夫だろ。俺は勇者だからな」


「ったく、その余裕がカッコイイよな。俺にはこの門に入るには実力が足らないとヒシヒシと感じてるのによ。気を付けてな、兄貴」


「……ククク。ああ、行ってくるよ弟」


「へへへ……」


兄貴か……悦司えつじは元気にしてるかな。もう高校に入学している頃か……お袋の面倒をちゃんと見ているのだろうか? 光一と悦司は見た目も性格も似てないが、まあこの世界での双子の弟って感じだな。

色々と手はかかるが可愛い奴だよ。

ん? 俺は俺に可愛いとか思ってんのか? それって鏡を見て俺って可愛いって言ってるようなもんか?

げっ! ナルシスト飛び越えて気持ち悪いじゃねーか!


「ダーリンどうしたの? そんなしかめっ面して? 嫌な予感でもするの? 」


「コウ、別に攻略しなくてもいいのよ? この門をスルーしてもなんの問題も無いのだし」


「いやいや、別にこの門のことじゃないよ。この支配の門は攻略する。恐らく世界中の資源フィールドにも現れてるはずだしな。欲にまみれた馬鹿な奴が入ろうとするかもしれない。無駄な犠牲者が出る前に潰しておくさ」


「確かにそれはあり得そうね……わかったわ! じゃあ私たちはここで待ってるからさっさと攻略しちゃてね♪ 」


「ロシアとか旧中華国の残党とか入りそうね……仕方ないわね。コウ、気を付けて」


「誰でも入れるのが難点ですね。光希、待ってますから必ず戻って来てください」


「ゆ、勇者の旦那さま……待ってるから……」


「うふふ、セルちゃんは主様に惚れ直しましたね。主様、蘭はいつも通り待ってます」


「ああ、行ってくる。サクッと攻略してくるよ」


俺は勇者の鎧を見てからずっと顔を真っ赤にしているセルシアを面白く思いながら、支配の門の扉を押し開け中へと入っていった。


さて、どんなタイプの試練かな。

いきなりボスなら楽でいいんだけどな。





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