第26話 聖魔人たちの幸せ
ーー 王都南西 平野部 光魔王軍左翼 光魔王軍副司令官 聖魔人 リム ーー
「相変わらず凄まじい魔法だな……」
ヴリトラにまたがる私たちの前では、巨大な炎の竜巻が人族の軍を蹂躙していた。
蘭お妃様と凛お妃様による禁断の合成魔法だ。
あの魔法の威力はよく知っている。上海の氾濫時に制御を失ったあの竜巻に、危うく巻き込まれそうになったからな。
あの時は死を覚悟したものだ。
しかも今回の炎の竜巻はあの時の数倍の規模だ。しかしそれにも関わらず制御が安定している。
凛お妃様は努力家だからな。会社がどんなに忙しくとも、毎夜地下の訓練室で魔法の練習をしていると総務を手伝っている配下の者から聞いている。
夏海お妃様と共に常に光魔王様に相応しい存在になろうと努力してらっしゃる。
そういった姿を見て私たちももっと強くならねばと思わせられるものだ。
「ひえええ! あんな大魔法喰らったらボクたちでも逃げ切れないよ! 」
「さすが蘭お妃様と凛お妃様ですわ。やはり光魔王様の側にいるためには、強くないといけないですわね」
「御二方には及ばないが私たちも十分強くなった。3人がかりで勝てなかったあのアジムを子供扱いできるほどにな」
そう、こことは違う私たちが生まれた世界のヴェール大陸で、里に攻め入ってきたアジムに我らは完敗し隷属させられた。そして多くの配下の者が奴の下半身の毒牙に掛かった。その魔手はミラやユリにさえ伸びようとしていた。
抵抗したが魂を縛られている私たちはギリギリだった。このままではあの男に初めてを奪われ、穢れた血の子を産まさせられると半ば諦めていた。
そう、あの時までは。
「えへへへ! 光魔王様と蘭お妃様のおかげだね! 」
「あの時に敵対した私たちを蘭お妃様が生かしておいて下さらなければ、光魔王様にこれほど可愛がってもらうことはできませんでしたわ」
「そうだな。あの時は光魔王様は私たちを殺すつもりでいたらしいからな。どうも過去にサキュバスに相当酷い目にあったらしい」
暗殺は私たちの得意分野だからな。
愛しの光魔王様を狙う者がこの世界にまだ生きていたのなら八つ裂きにしてやろうと思っていたが、まさか300年以上経過しているとは……
さすがに関係のないこの時代のサキュバスを粛清する訳にもいかない。
「それは昨日可愛がってくださった時に言ってましたわ。これだけ抱き心地がいいのだから俺はサキュバスにハマってしまうのは仕方ないって。うふふ、何度も何度も私を求めてくださって……全身にマーキングしてもらったんですの」
「ああー! ボ、ボクだって昨日初めてだったけど何回もしてもらったよ! ユリだけじゃないんだからね! ボクのお尻が堪らないってずっと後ろからしてくれてたんだ! 」
「ちょ、ミラ! ユリ! こんな所で何を言うのだ! 」
配下の者が私たちを羨ましそうに見ている。
こんな所でなんということを! 恥ずかしくないのか!?
しかし2日前に光魔王様に呼ばれて抱きたいと言われた時は、天にも昇るほど嬉しかった。
蘭お妃様と凛お妃様たちには許可を得ていたが、なかなか光魔王様は私たちに手を出そうとはなさらなかったからな。いつもあと少しというところで、私たちの口だけで満足されてしまう。
紫音も同じらしく、いつ抱いていただけるのかと2人でよく話し合ったものだ。
でもとうとう抱いていただけた。何度も何度も……ああ……思い出すだけで身体が熱くなる。
翌日にはミラとユリもそれぞれ抱いていただき、私たち姉妹はやっと夢が叶ったと喜んだ。
気に掛けてくださっていた夏海お妃様に報告したのちに、紫音にも心話で話したら『……先を越された……けどリムの方が早く出会っていたから仕方ない。私も抱いてもらえるように協力して』と言っていた。紫音も蘭お妃様たちの承諾を得ているからな。
私は喜んで紫音に協力すると約束した。
ミラも仲の良い桜やイスラやニーチェに嬉しそうに報告していた。ユリは蘭お妃様とセルシアお妃様に色々と服をもらっていたな。光魔王様がお好きなものらしい。私も見せてもらわないと。
これで小さな頃からの夢である魔王様と共に魔王軍を率い人族と戦う夢も、光魔王様と結ばれる夢も全て叶った。
更には聖魔人という伝説の種族にまでしていただいた。
あの時あの女神の島の砦で光魔王様に出会えたことで、私たちの運命が激変したのだ。
「うへへへ、光魔王様に出会えてボク凄く幸せだよ。光魔王様のためならもうなんだってできる! 」
「ミラお姉様、私もですわ。強くて優しくて、魔族である私たちを心から信頼してくださって。そして私に力と女の悦びを与えてくださった愛しい御方……」
「私たちで影となりお支えしていこう。これからは2階の私たちの部屋に頻繁に来ていただけるしな。それにその……お風呂での御奉仕もお求めになられている」
5階への引っ越しはお断りした。私たちは大恩ある蘭お妃様方のお邪魔をするつもりはない。今まで通りでいい。光魔王様は私たちに決して寂しい思いをさせないと言ってくださった。ならばそれを信じて待っていればいい。そうすればいずれ自然と子ができる。
「うへへへ! お風呂でいっぱい御奉仕するんだ! ボクが一番最初に妊娠するかもね! 」
「聖魔人と勇者の称号を持つ者との記録はない。しかし子ができにくいのは確かだ。こればかりは競争しても仕方ないだろう」
「そうですわね。サキュバスと勇者の称号を持つ者でもなかなかできなかったと聞きました。それゆえに子が聖魔人という強力な種族になったとも。でも、それならたくさん愛してもらえばいいのですわ。私たちは年を取らないのですから、いつか必ずできますわ」
た、たくさん愛してもらえば……そ、そうだな。たくさんこの身体を愛してもらえればいい。
つ、次は空でしたいとおっしゃってたな……恥ずかしいが愛す人が望むのなら……
《 リム! 》
「ひゃっ!? ひゃい! こ、光魔王様!? 」
《 どうしたんだ? 変な声を出して? 》
「い、いえなんでもございません! と、突撃命令でしょうか? 」
し、しまった! 光魔王様とのベッドでのことを考えてるタイミングで、当の光魔王様から突然心話が来たから変な声を出してしまった。
ああ……変な女と思われたかもしれない。
《 ああ、蘭と凛には魔力障壁を張る車両を重点的に潰させた。まあ当初よりだいぶ数は減ったがそれでもまだ6万はいるだろう。左翼から突撃してくれ 》
「ハッ! 左翼より突撃を開始します! 」
《 右翼のバガスは後方に回り込ませろ。1人も逃すなよ? 》
「ハッ! 」
《 それじゃあ凛の魔法が消えたらそれが合図だ。それと…… 》
「?? 光魔王様、どうかなさいましたか? 」
《 いや、 今夜は3人とするから風呂の用意をしておいてくれ 》
「ひゃっ!? あ、は、はい! お、お待ちしております! 」
私は光魔王様のお言葉にまた変な声を出してしまった。
でも今夜は3人とも可愛がってくださる……ああ……今夜もまた愛していただける……
「どうしたのさリム姉さん? 変な声出して光魔王様に何か言われたの? 」
「い、いや。突撃の指示だ。それと今夜私たち3人とも可愛がってくれるそうだ」
「え? ホントに!? ヒャッホーウ! いっぱい御奉仕しなきゃだね! 」
「3人同時ということは……凛お妃様と夏海お妃様が戦慄なさっていた、あの噂の超精力剤をきっと飲まれるはずですわ。これは濃厚な夜になりそうですわね。うふふふふ……」
「ちょ、超!? せ、精力剤…………ハッ!? 魔法が消えた! ミラ! ユリ! 突撃をするぞ! ヴリトラ! 上空へ! 」
《 ヴオオォオォォ! 》
私がユリの言葉に顔が熱くなっていると、蘭お妃様と凛お妃様の魔法が突如消えた。
急ぎ私はミラとユリに指示をし、ヴリトラを飛び立たせた。
「よーし! いっくよー! 」
「うふふ、蹂躙のお時間ですわね」
《 サタールム! 光魔王様のご指示だ! ここで人族の眷属を増やせ! 》
《 ククククク……わかった。我ら吸血鬼一族に任せるがよい……ククク…… 》
私が心話でサタールムに事前に光魔王様と打ち合わせていたことを告げると、奴は光魔王様公認で眷属を増やし自勢力の強化ができることを喜んでいた。
馬鹿め。お前の考えていることなどお見通しだ。数を増やし我々がいなくなった後の魔族間での発言力向上を狙っているのだろう。そんなことを私と愛しの光魔王様が気付かないとでも思っているのかこの男は……
ここで増やさせてこの後の帝国との戦いで全て吐き出させるに決まっているだろう。
帝国の動きは我が配下の者と以蔵殿の配下の者が既に偵察済みだ。
サタールムの眷属はムーアン大陸の入口に展開している帝国軍に突撃させる捨て駒に使う。
まあいい。この男の野心は強いがゆえに利用しやすいのは確かだ。
せいぜい私と光魔王様のために働いてもらおう。
やはり魔族は慎重で頭の回るバガスに任せるのが無難だな。
「よしっ!ヴリトラ! 前方の戦車へブレスを吐き魔物たちの花道を作れ! 」
《 ヴオオォオォォ! 》
「フハハハハ! 凄いぞヴリトラ! クオンよりも強い! さすが前魔王の騎竜だ! 」
《 ヴオッ! ヴオオッ! 》
私はヴリトラの吐く黒いブレスにより、戦車やその後方にいた兵士たちが広範囲で消滅したことに気を良くした。
ヴリトラも私に褒められて自慢げだ。
「すごーい! ヴリトラ強い! あ〜持って帰りたいなぁ〜、でもこの子はこの世界に置いていっちゃうのかぁ。ヴリトラがいればボクたち最強なのになぁ」
「うふふ、そうですねミラお姉様。この子はサキュバスや私たちと同じ闇属性ですから相性がいいですわ」
「ふむ……確かに相性がいいな。光魔王様に今夜3人でお願いしてみるか。ヴリトラはどうだ? 私たちの世界にドーラ様と共に来たいか? 」
《 ヴオッ!? ヴオオッ! ヴオオッ! 》
「わ、わかったわかった! そんなに喰いつくとは思わなかったぞ? そんなに私たちと離れるのが嫌だったとはな……ふふふ、かわいい奴だ」
ふふふ、そうか。ヴリトラも私たちと離れるのが嫌だったとはな。これは光魔王様に真剣にお願いしてみるか。この世界のヴェール大陸の門番には、ほかの竜を二頭創造していただけるようにお願いしてみよう。
使わせてしまった上位竜の魔石は私たちでダンジョンに入り、いずれなんとかご用意すると言えば前向きに考えてくださるはずだ。
足らない分はわたしのこの身体で……ハッ!? わ、私はなんてはしたない事を! どうも光魔王様に抱いていただいてからは、その事ばかりに思考がいってしまう。気を付けなければ……いくら本質的に性を求める種族とはいえ、愛する光魔王様に淫乱などと思われては恥ずかしくて生きていけない。
「やったー! なら今夜は3人で光魔王様をメロメロにしなきゃね! 」
「あらあら、ヴリトラも私たちと一緒にいたかったのですね? いつもドーラ様の方ばかり見てるから全然気付かなかったですわ。うふふ、それでは今夜3人で光魔王様にお願いしてみましょう」
「そうだな。だが戦功も必要だ。一気に突っ切って後方からヴリトラと共に挟み撃ちにするぞ! 」
「うん! 任せてよ! 」
「はい。承知しましたわ」
《 左翼軍よ! 総員突撃せよ! 右翼は敵後方に回り込め! 》
私は各指揮官に心話で指示をした後に、人族の軍に突撃を敢行した。
蘭お妃様と凛お妃様の魔法により半壊し混乱をしていた人族の軍は、この突撃に対応できず我々に蹂躙されていった。
配下の者たちから次々と指揮官を仕留めたという報告を受けながら、中央の本隊に出番を与える事なく魔族のみで人族の軍を壊滅させることに成功した。
《 リム、ご苦労さん。見事だった。やはり俺の恋人は優秀だな 》
「こ、恋……ハッ! も、もったいなきお言葉です! 」
《 王都近くにゲートを開く。兵器の鹵獲や残敵の掃討は本隊がやるから、リムは魔族軍全軍を率いて先に王都を包囲しておいてくれ。人族に魔族が侵攻してきたことをしっかりと見せつけろ 》
「ハッ! 光魔王軍の存在を見せつけます! 」
《 頼んだ。早く終わらせて愛し合おうな 》
「は、はひっ! こ、今夜お待ちしております」
は、早く王都を包囲しなければ! いっそ先に王都を落として皆殺しに……いや、それは光魔王様の意に反する。そんな勝手な事をしたら嫌われてしまう。
私は光魔王様の従順な下僕であり恋人。光魔王様の望むこと以外をしてはならない。
ミラとユリにもしっかり言い含めておかなければ。
そして全軍をまとめ終えた私たちは光魔王様が用意したゲートをくぐり、王都を包囲するべく向かうのだった。
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